転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店

文字の大きさ
100 / 124
第7章

10話 チート娘の負けられない戦い~完勝

しおりを挟む


 間一髪駆け込んだ小部屋の壁際、デカい木箱の中にガッツリ詰め込まれた精霊の花。
 その側に近付き、てんこ盛りになった精霊の花を観察する。
 カンテラの光を反射して神秘的な輝きを放っている、子供の握り拳程度の大きさの精霊の花は、どれもきちんと形状が整っており、素人目にも価値を感じさせた。

 しかし、希少なはずの精霊の花を、よくもまあここまで大量に搔き集めたな。
 これぞまさしく、間違った権力の使い方、その典型と言えそうだ。
 どっちかというと、驚きよりも呆れの感情の方が勝る思いで佇んでいると、ようやっと追っ手の皆さんが追い付いて、小部屋の中に駆け込んで来た。

 問答無用で取り押さえられるのを避ける為、身体を横にずらし、精霊の花が見えるようにしてやると、追っ手の皆さんは精霊の花を目にした途端、驚き動揺して動きを止め、口々に騒ぎ始める。

 そりゃあ大騒ぎにもなるだろうよ。
 精霊の花は、その美しさと希少性から宝飾品としての価値が高いが、細かく粉砕して幾つかの薬草と混ぜ合わせる事で、多種多様な麻薬に化けるという、大変危険な側面を持つ代物でもある。
 しかも、精霊の花を元に作られた薬物はどれも非常に依存性が高く、中にはたった一度の服用で廃人になるブツさえあるとなれば、禁制品に指定されるのも当然の事だろう。

「こっ……これは……! 精霊の花だと!?」

「精霊の花!? ちょっと待って下さい! それ、禁制品じゃないですか!」

「バカな……なぜこのようなものがこんな所に!」

「見て下さい、この木箱のラベル! レカニス王室の玉璽印が……!」

「はっ!? 玉璽!? どうして禁制品を詰めた木箱のラベルにそんなものが!」

 案の定、狭い小部屋は蜂の巣をつついたような大騒ぎになった。
 え、玉璽印? 玉璽ってあれでしょ? 王様だけしか使用できないゴツい印鑑みたいなブツで、重要な書類の決裁をする時や、王命を書類に記載する形で出す時とかに、書類の目立つ所にポンと捺すやつの事……だよね?

 ……あ、よく見たら木箱の端っこにくっついてるラベルに、赤いインクでなんか捺してあるわ。
 一辺が5センチはありそうな真四角の中に、簡略化された花と古代文字を混ぜて作ったようなクッソ細かい文様が、詰め込むような形で収まっている。極めて精緻で複雑な印章だ。

 へーえ、これが玉璽印か。初めて見た。こんな細かい文様をハンコにして、よく捺印時に潰れないな。これがいわゆる『匠の技』ってものなんだろうか。
 ていうか、今さっき兵士さんの1人も言ってたけど、なんでそんなもんが禁制品のラベルに捺してあるんだよ。意味が分からん。

 あと、さっきから私、蚊帳の外にされる勢いで放置喰らってるんですけど、どうしたらいいですかね。
 もう用がないなら、帰ってもいいですか?



 その後、やっぱり帰してもらえなかった私は、身元の確認を兼ねて簡単な聴取を受ける事になった。
 別に後ろ暗い事もやましい事もなかったので、ザルツ村の出身であり、精霊が見えて話ができる事含め、素直に聴取に応じて色々な事を話しましたよ。

 行方不明になった村人を探しに王都へ来て、訳も分からないまま捕まった事や、捕まった先に、探していた村人だけでなく、へリング筆頭公爵夫人がいた事。

 閉じ込められた牢屋に、ちっさいおっさ……もとい、ウーデン公爵が来た事。そのウーデン公爵に連れ出されて、綺麗で大きな部屋の中に放り込まれた事。

 そして、放り込まれた部屋の中、身の危険を感じて逃げようとした時、小さな精霊から精霊の花の話を聞いた事……などなど。

 上記のような私の証言が認められ、即時捜査が開始された事で、地下の牢屋に捕まっていたシエラ達や、別の収監施設に囚われていたシエルも、無事五体満足で救出されたそうだ。よかったよかった。

 ただ、私は事件に関する聴取が終わっていない事と、今回の犯罪に関わった、国王派の貴族の捕縛が完了してない事を理由に、未だに貴賓室の一角を流用した部屋で待機させられてるから、まだシエラ達にもシエルにも、リトス達にも全然会えてなかったりする。寂しい。

 でもそれも仕方がない事だ。
 国王の犯罪に加担した連中がまだ捕まり切っていない中、ノコノコ外を出歩いたりした日には、どこぞで逆恨みによる被害を被る危険性も十分考えられるから。

 ちなみに、ウーデン公爵に連れ出された際、不安と緊張のあまり公爵の話をほとんど聞いておらず、状況をよく理解していなかった事にして、放り込まれた部屋の主が誰だったのかは、知らなかった事にしました。

 だってほら、なんにも知らなかった事にしておけば、ヤリチンクズをクロロホルムで昏倒させた件に関して、情状酌量の余地を見出してもらえるんじゃないかな、と思って。
 不敬罪に問われる可能性は少しでも減らしたいじゃん?

 でも、その辺の心配は要らなかったみたいだ。
 現国王ウルグスは、国家禁制品所持、王侯貴族拉致監禁罪、臣民に対する不当拘束罪、などなどの罪状により、裁判開始前から有罪がほぼ確定、バスルームにフルチンで倒れていた所を引っ立てられ、そのまま貴族牢へぶち込まれたそうな。

 臣民への不当拘束罪はうやむやにされる危険性が残るが、筆頭公爵夫人という証人がいる王侯貴族拉致監禁罪と、精霊の花を詰め込んだ木箱に玉璽印が捺してあった、という、どっからどう見ても言い逃れできない状況証拠がある、国家禁制品所持での有罪は、ほぼ確定したも同然と見ていいだろう。

 特に、精霊の花の件に関してウルグス王は、「誤解だ」とか「嵌められた」とか言って騒いでるらしいが、寝言もいい所だ。
 聴取の時、騎士さんから教えてもらった話によると、玉璽の保管場所を知ってるのは国王と、玉座を継ぐ事が確定した、王位継承間近の王太子だけなんだってさ。

 玉璽と玉璽専用のインクも、到底偽装できるようなブツじゃないらしい。
 玉璽は建国時から使用されている、超絶技巧を持った職人による芸術作品でもあるし、玉璽専用のインクも、とある特殊な効果があるものを使ってるんだそうだ。それじゃあ偽装なんてできる訳ないよね。

 そんなオンリーワンなハンコが、禁制品のラベルにポンと捺されてる時点で誤解もクソもないってのを、あのヤリチンクズは理解できないんだろうか。
 まあ、できないんだろうな。

 それから、今回の事件のせいで玉座がガラ空きになった事を理由に、へリング筆頭公爵が臨時の国主代理として立ったので、近いうちに筆頭公爵夫人誘拐・監禁のかども併せて立件されるだろう。
 完璧に終わったな。ヤリチンクズ乙。

 ああ、早く残りのバカが全部捕まらないかな。
 そうじゃないと、いつまで経っても村に帰れないよ。私達。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

異世界成り上がり物語~転生したけど男?!どう言う事!?~

ファンタジー
 高梨洋子(25)は帰り道で車に撥ねられた瞬間、意識は一瞬で別の場所へ…。 見覚えの無い部屋で目が覚め「アレク?!気付いたのか!?」との声に え?ちょっと待て…さっきまで日本に居たのに…。 確か「死んだ」筈・・・アレクって誰!? ズキン・・・と頭に痛みが走ると現在と過去の記憶が一気に流れ込み・・・ 気付けば異世界のイケメンに転生した彼女。 誰も知らない・・・いや彼の母しか知らない秘密が有った!? 女性の記憶に翻弄されながらも成り上がって行く男性の話 保険でR15 タイトル変更の可能性あり

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

異世界の片隅で、穏やかに笑って暮らしたい

木の葉
ファンタジー
『異世界で幸せに』を新たに加筆、修正をしました。 下界に魔力を充満させるために500年ごとに送られる転生者たち。 キャロルはマッド、リオに守られながらも一生懸命に生きていきます。 家族の温かさ、仲間の素晴らしさ、転生者としての苦悩を描いた物語。 隠された謎、迫りくる試練、そして出会う人々との交流が、異世界生活を鮮やかに彩っていきます。 一部、残酷な表現もありますのでR15にしてあります。 ハッピーエンドです。 最終話まで書きあげましたので、順次更新していきます。

異世界リナトリオン〜平凡な田舎娘だと思った私、実は転生者でした?!〜

青山喜太
ファンタジー
ある日、母が死んだ 孤独に暮らす少女、エイダは今日も1人分の食器を片付ける、1人で食べる朝食も慣れたものだ。 そしてそれは母が死んでからいつもと変わらない日常だった、ドアがノックされるその時までは。 これは1人の少女が世界を巻き込む巨大な秘密に立ち向かうお話。 小説家になろう様からの転載です!

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

【本編完結】転生隠者の転生記録———怠惰?冒険?魔法?全ては、その心の赴くままに……

ひらえす
ファンタジー
後にリッカと名乗る者は、それなりに生きて、たぶん一度死んだ。そして、その人生の苦難の8割程度が、神の不手際による物だと告げられる。  そんな前世の反動なのか、本人的には怠惰でマイペースな異世界ライフを満喫するはず……が、しかし。自分に素直になって暮らしていこうとする主人公のズレっぷり故に引き起こされたり掘り起こされたり巻き込まれていったり、時には外から眺めてみたり…の物語になりつつあります。 ※小説家になろう様、アルファポリス様、カクヨム様でほぼ同時投稿しています。 ※残酷描写は保険です。 ※誤字脱字多いと思います。教えてくださると助かります。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

天才魔導医の弟子~転生ナースの戦場カルテ~

けろ
ファンタジー
【完結済み】 仕事に生きたベテランナース、異世界で10歳の少女に!? 過労で倒れた先に待っていたのは、魔法と剣、そして規格外の医療が交差する世界だった――。 救急救命の現場で十数年。ベテラン看護師の天木弓束(あまき ゆづか)は、人手不足と激務に心身をすり減らす毎日を送っていた。仕事に全てを捧げるあまり、プライベートは二の次。周囲からの期待もプレッシャーに感じながら、それでも人の命を救うことだけを使命としていた。 しかし、ある日、謎の少女を救えなかったショックで意識を失い、目覚めた場所は……中世ヨーロッパのような異世界の路地裏!? しかも、姿は10歳の少女に若返っていた。 記憶も曖昧なまま、絶望の淵に立たされた弓束。しかし、彼女が唯一失っていなかったもの――それは、現代日本で培った高度な医療知識と技術だった。 偶然出会った獣人冒険者の重度の骨折を、その知識で的確に応急処置したことで、弓束の運命は大きく動き出す。 彼女の異質な才能を見抜いたのは、誰もがその実力を認めながらも距離を置く、孤高の天才魔導医ギルベルトだった。 「お前、弟子になれ。俺の研究の、良い材料になりそうだ」 強引な天才に拾われた弓束は、魔法が存在するこの世界の「医療」が、自分の知るものとは全く違うことに驚愕する。 「菌?感染症?何の話だ?」 滅菌の概念すらない遅れた世界で、弓束の現代知識はまさにチート級! しかし、そんな彼女の常識をさらに覆すのが、師ギルベルトの存在だった。彼が操る、生命の根幹『魔力回路』に干渉する神業のような治療魔法。その理論は、弓束が知る医学の歴史を遥かに超越していた。 規格外の弟子と、人外の師匠。 二人の出会いは、やがて異世界の医療を根底から覆し、多くの命を救う奇跡の始まりとなる。 これは、神のいない手術室で命と向き合い続けた一人の看護師が、新たな世界で自らの知識と魔法を武器に、再び「救う」ことの意味を見つけていく物語。

処理中です...