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第7章
11話 王家の落日 前編
しおりを挟む時が経つのは早いもので、モアナ達を探しに王都へやって来てから、1週間が経過した。
私は相変わらず、王城の中に留め置かれている。
どうやら、あのヤリチンクズに付き従って、楽して甘い汁を吸いたいと考えた、しょうもない貴族は相当数いるらしく、城の兵士と騎士団の皆さんは、毎日毎日、捕縛やら取り調べやらでてんてこ舞いになっているようだ。
お疲れ様です。
とはいえ、あれから私も貴賓室に単身放り込まれたまま、放置プレイかまされていた訳ではない。
ちゃんとモアナ達やリトス達とも会わせてもらえたし、城の警備兵さんや侍女さんなどが、日に1回は様子を見に来てくれる。
みんなと再会した時には、いきなり駆け寄ってきたリトスに、ベアハッグみたいな勢いで思い切り抱き締められるわ、モアナ達からなんか妙に生温い目で見られるわ、警備兵さん達からも微笑ましそうな眼差しを向けられるわと、なんか色々と落ち着かない思いをする羽目になったけどな。
そのモアナ達も、しばしの事情聴取ののち、私のボディーガードをすると言い張ったリトス以外は、護衛付けてもらった上で一足早く村に帰っていった。
まあ、仕方がないっちゃ仕方がない事ではある。
モアナ達はもう10日近く村に帰ってなくて、家族に心配かけまくってるし、デュオさんとカトルさんは店の仕事があるから。
最近は、トリアとゼクスも店の仕事を積極的に手伝っていて、頼り甲斐が出てきたらしいけど、店を任せるのはまだ先の話だと、デュオさんもカトルさんも苦笑しながら言っていた。
トリアもゼクスも、見習い店員の地位から昇格するのには、まだまだ時間がかかりそうだ。
そんなこんなで、リトスと一緒に未だ城に残されている私だが、お陰様で特に困った事も起こらず、日々快適に過ごしている。
ただ、平民への応対としては上げ膳据え膳が過ぎる感じがして、ちょっと落ち着かない。
なので1度やんわりと、なんか申し訳ないし、平民相手にそこまでしてくれなくてもいいですよ、とお茶を入れに来てくれた侍女さんに言ってみた。
なんせ、王城勤めの侍女というのは、王族や国家の要職に就く上位貴族のお世話だけでなく、時として他国からの来賓などのおもてなしも担う、ある意味重要な役割を担う人達である。無論、平民の身分じゃ就けない職だ。
つまり、私のお世話をしてくれている侍女さんも、元を糺せば貴族令嬢で、私よりずっと身分的に偉い人のはずなのです。
そんな人に、常に要人相手の敬語を使われ、物腰低い姿勢で接されていると、なんか落ち着かない気分になるから。
しかし、その侍女さんは微笑みながら、滅相もございません、と仰った。
彼女曰く、今の王都の住人の多くは、ザルツ村を精霊に愛された特別な聖地だと思っているそうで、ある種の信仰の対象になり始めているんだとか。
だから、そのザルツ村の住人であり、精霊と言葉を交わせる資質を持った私を丁重に扱うのは当然の事なのだと、侍女さんはとてもいい笑顔で言っていた。
しばらく前にも、クローディア様からザルツ村が王都でどう思われているのか聞いていたので、さほど驚きはしなかったけど、まさか村ごと信仰の対象になりかけてるとは……。
不可侵の存在だと思われるのは、そう悪い事じゃないと思う。
でも、それが行き過ぎて信仰対象になるってのは、どうなんだろうか。
個人的には、あんまりいい事じゃない気がする。
降って湧いた権威や権力ってのは、厄介事の呼び水にしかならないし。
そんな風に思うのって、私だけかな。
まあ何にしても、侍女さんからそこまで言われてしまうと、こっちとしてもあまり強く出られない。
やむなく私も笑顔を浮かべ、それではもうしばらくの間、よろしくお願いします、とだけ言って、丁寧に頭を下げておいた。
そしてその翌日。
侍女さんにお願いして差し入れてもらった本を読みながら、大人しく室内で過ごしていた私の所に、予想外の来客を連れてリトスがやって来た。
どことなくリトスと似た面立ちをした、白銀色の髪とサファイアブルーの目を持つ、かなりのイケメンさんだ。
もしかしてリトスの親戚か? なんて思いつつ、座っていた椅子から立ち上がり、頭を下げて挨拶すると、イケメンさんが「どうかお気遣いなく。頭をお上げ下さい」と、穏やかな声色で言う。
「精霊の巫女よ、突然の来訪、お許し下さい。私はへリング筆頭公爵家当主、フィリウス・へリングと申します」
「ええっ!? へっ、へリング筆頭公爵!? どうしてそんな方が、リトスと一緒にこんな所まで!? ねえリトス、これどういう事なの!? 私なんかやらかした!?」
「ああうん、ちょっと落ち着こうか、プリム」
想定外のビッグネームの登場に驚き、慌てふためく私をリトスが苦笑しながらなだめる。
「実はね、今日の昼から、ウルグス王の裁判があるらしいんだよ」
「……! ウルグス王の裁判が……。でもそれ、私に何の関係があるの? 平民は、王侯貴族の裁判沙汰には関われないでしょ?」
「うん、普通はそうだね。でも、今回の一件では、君も僕達も事件の当事者になってるし……なによりホラ、僕らはザルツ村の出身だろう? その関係からへリング筆頭公爵の計らいで、特別に裁判の傍聴をさせてもらえる事になったんだよ。
君が今回の事件や、ウルグス王の今後の処遇について興味があるか分からなかったけど、僕は今回の件を最後まで見届けるつもりだし、君にも裁判を傍聴するか聞いておくべきだと思って。……どうかな? 僕達と一緒に裁判所に行ってみる?」
「……。うん、そうね。傍聴出来るんなら行ってみようかな。幾つか気になる事もあるし。へリング筆頭公爵様、私も同行させて頂いてよろしいですか?」
「ええ、勿論ですよ。私は元々、その為にここへ来たのですから。それと、私の事はへリングとお呼び下さい。いちいち王家から拝命した称号や爵位をつけて呼ぶのも、面倒でしょうから」
私の問いかけに対し、へリング様は懐深い事を仰りながら、にっこりと微笑んだ。
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