無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸

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第2章 丹梅国グルメ戦記・四象の蛇亀

第132話 やる気のない試練

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『あの、玄冥くずさん』
「ひどい……初対面なのに……」

 ここは一度きちんと訂正しておこう。
 たしかに玄冥はクズだけど、私たちと玄冥の思惑はきちんと噛み合っているのだと。

『じつは私たち、べつに試練がやりたくてここに来たわけじゃなくて――』
『ほら、てめぇのやる気がねえから、遠慮しちまってるじゃねえか』
『へ!? いえ、そういうわけじゃ――』
「でもあたし……戦えない……」
『〝戦えない〟……じゃあねえだろ。蛇媧を一蹴するようなやつらとは戦いたくねえ、だろうが』

 老人がそう訂正すると、玄冥は反論せず、フードを深くかぶりなおした。

『……とはいえ、だ。俺としても、ここでこいつが殺されるのを、黙って見てるってのは忍びねえ』
『いや、殺すって……どんな集団だと思ってるんですか』
『ここは俺に免じて、べつの方法で玄冥と戦っちゃくれねえか』
『戦うって……それに〝俺に免じて〟なんて言われても……そもそも貴方は一体……?』
『おっと悪い。俺としたことが、自己紹介がまだだったな。俺の名は呂尚りょしょう。玄冥とは腐れ縁でな。たまにこうして釣りがてら、話をしに来てんだよ』
『呂……』

 その名前を聞いた紅月は口元に手を当てて、なにか考え込むような仕草をとった。
 この老人の名前に心当たりがあるのだろうか。
 たしかに立ち居振る舞いといい、年齢を感じさせない矍鑠かくしゃくとした雰囲気といい、ただ者ではないとは思うが――

『それで、勝負というのは?』

 紅月が二人を訝しむような視線を向けたまま尋ねる。

『ここはいっちょ、釣り勝負としゃれこまねえか』
『つ、釣りですか?』

 呂さんにそんなことを言われ、改めて周囲を見回してみる。
 ただでさえジメジメしているのに、いつの間にか辺りの靄は霧となり、すでに遠くの景色は何も見えない。

『こんなところで釣りを?』
『おうさ。時間内に釣った魚の総量の、多いほうの陣営が勝利。もちろん、俺は手を貸さねえ。見てるだけだ』

 麻雀に続いて、釣り。
 ここへきて、普通に戦っただけの螭龍ちりゅうさんが浮いてしまっている。

 とはいえ、百爪に続いて、怪我をするリスクが少ないのは助かる。
 もう試練をやめたいと言える雰囲気でもなさそうだし、ここは普通に釣り勝負に付き合おう。

「……釣り……なら……」

 こうして、いつの間にかぐでーっと寝そべる玄冥の横で、釣りの試練が始まった。
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