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第2章 丹梅国グルメ戦記・四象の蛇亀
第144話 沼地のヌシ その2
しおりを挟む振り返ると、そこには紅月がいた。
どうやら私たちは仲良く、三人同時に沼の中へと引きずり込まれたようだ。
状況は依然最悪。けど、これで使える駒は増えた。
私は作戦を立てるべく、もう一度それをよく観察して――
「んん?」
口元に何かがくっついているのを発見した。
あれは――釣竿だ。
私たち三人分の釣竿が、まだ口元からぶら下がっていた。
あれを上手く利用すれば、この窮地を脱することが出来るのではないか。
私はそう考えると、紅月にジェスチャーを送った。
「んんんんんんんんんんん、んんんんんんんんんんん」
いまいち伝わらなかったのか、紅月が首を傾げていると、フェニ子がすかさず通訳をしてくれた。
この子、こういうときにすごく便利だな。
やがてフェニ子が伝え終えると、紅月はこれ以上ないくらい嫌そうに顔をゆがめた。
私は有無を言わさず、ビシッとそれを指さすと、紅月は観念したようにため息っぽい泡を吐き、そのまま向かっていった。
それは、まさか向かってくるとは思っていなかったのか、すこし動揺したのち、紅月を丸呑みにしようとして口を開けた。
私はすかさず〝ステータス・オープン〟を開き、彼女の速度を上げる。
彼女はほんの紙一重の差で身を翻し、その死線を回避して、口にぶら下がっている釣竿をしっかり掴んだ。
あとは彼女の筋力を上げ、そのまま陸へ押し上げれば完璧なんだけど――
「……親愛的? なにを……」
「んんんんん、んんんんんん……」
「あ」
それは紅月を振り落とそうと、ものすごい速度で泳ぎ始めた。
彼女はその水圧をもろに顔面に受け、鬼の形相になりながらも、なんとか釣竿にしがみついている。
私は彼女に悪いとは思いつつも、彼女のステータス――〝筋力〟の項目に指をかけた。
……3、2、1――
クールタイムが終了し、私は一気に彼女の筋力を最大まで上げる。
その瞬間、それはあれほど激しかった動きをピタリと止めた。
紅月の身体が一瞬ぶれ、次の瞬間――
グンッ!
まるで私が水中に引きずり込まれた時のように、それは一瞬にして水中から姿を消した。
紅月、渾身の一本釣りであった。
私は酸素を求めて必死に水面へ浮かび上がり、陸へ這い出る。
湿地だとか、泥とか、そういうのは最早気にならない。
私は恥も外聞もなく大の字に寝っ転がると、口を大きく開けて、胸を大きく上下させ、空気を肺いっぱいに取り込んだ。
「はぁ……! はぁ……! ……はぁ……ふぅ……死ぬかと思った……」
「や、やったのう、親愛的」
私の胸に覆いかぶさるようにして倒れているフェニ子が言う。
「そ、そういえば……紅月は――」
私がそう言うと、紅月がザバァッと陸へ上がってきた。
その手には釣竿が三本握られている。
どうやら、釣りあげたところで糸が切れてしまったようだ。
「お、お疲れ……紅月……」
私がそう言うと、紅月は濡れた髪をかき上げ、釣竿を地面に放り投げ、私を見下ろしながら睨みつけてきた。
「死ぬかと思ったわ」
「そ、そりゃどうも……でも、頑張ったね……」
「真緒、貴女――」
そこまで言って、紅月は口を噤む。
視線を私から逸らし、目を大きく開けている。
まるで見てはいけないものを見てしまったような――
「まさか」
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