無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸

文字の大きさ
175 / 203
第2章 丹梅国グルメ戦記・四象の蛇亀

第156話 翠の記憶

しおりを挟む

 フェニ子の助言により〝ステータス・オープン〟で貝の貝柱きんりょくを下げると、あっけないほどあっさりと殻は開いた。
 そして案の定、中にはみどり色の宝玉がまるで真珠のように鎮座していた。

「いちおう訊くけど、これだよね、宝玉?」
「うむ。今まで閉じていたからわからんかったが、この状態だとすごく感じるぞ」

 そう気丈に振る舞っているフェニ子だが、その声は若干上ずっているように私は感じた。
 ここまでの記憶で決定的なものを見ていないからだろう。
 本当に今回ですべての記憶を取り戻せるのか、それとも――

 〝バチャン!〟
 少し遠くのほうで、私たちの杞憂を吹き飛ばすように、大きな魚が尾を打つ。
 やがてフェニ子は小さく泡を吐くと、宝玉へ近づき、手を伸ばした。

 そのか細い指先が宝玉に触れた瞬間、ほんの一瞬だけ、フェニ子の瞳が焦点を失う。
 続いて、彼女の体が重力を失ったように、その場でぷかりと浮かぶ。

 まるで、そのまま泡となって消えてしまいそうな、そんなフェニ子を私はすかさず抱き寄せる。

「……黒い」

 フェニ子が小さな口をわずかに開き、言葉を絞り出していく。

「翼。炎。そして鳳凰はまず翠を呑み込んだ……次に藍……最後に白を……」
「ど、どういうこと?」
「三つが、呑まれて……呑まれて、溶けて、混ざっていく。やがて鳳凰の輪郭が、膨れ上がる。次の瞬間、鳳凰は――」

 フェニ子はそこまで言うと、辛そうに目を伏せた。

「妾は……妾が……これは、本当に……?」
「フェニ子……大丈夫?」

 私がそう問いかけると、フェニ子はゆっくりと目を開けた。
 その瞳は若干、涙によって滲んでいる。

「も、問題ない……心配をかけたのう、親愛的ますたあ……」
「それより、さっきの〝呑まれた〟って……?」
「う、うむ。これでなぜ、妾たちはこれまでに一度も、四神たちと会わなかったのかがわかった」
「それは……?」
「白虎祠で思い出した記憶を、覚えておるかの?」
「うん、たしか鳳凰が魔王ビアーゼボを敵視してたって……」
「うむ。鳳凰は呑み込んでおったのじゃ。他の四神を……青竜、白虎、玄武の三柱を」
「それは――」

 動機についてはもはや聞くまでもないだろう。
 鳳凰はビアーゼボを敵視していた。
 なら、他の三柱を取り込んだ狙いは――

「鳳凰は、黄龍こうりゅうに成ろうとしておったのじゃ」
「黄……龍……?」
「うむ。妾は……いや、四神は、もとは一柱の神だったのじゃ」
「それが黄龍?」
「うむ。鳳凰も青竜も白虎も玄武も……元は黄龍という神から分かたれたものじゃった。黄龍はやがてその体を、瑞饗を四方から守護するため、四つに分けた」
「それがまた、ひとつになった……つまりフェニ子、貴女は――」

 私が言い終えるよりも先に、フェニ子が悲しそうにかぶりを振る。

「否。妾は……黄龍……ではない……」
「え? でも、鳳凰は……フェニ子は、他の三柱を取り込んだんだよね……? その結果、黄龍になったって……」
「う、うむ。間違いなく取り込んでおった。他の三柱は皆、鳳凰が下した。それは間違いない。……じゃが、結局鳳凰は、黄龍には至らなかったのじゃ」
「どういうこと?」
「なにかが……決定的ななにかが、足らなかったのじゃ……」
「――ちょっと、確認させなさい」

 今まで静かに話を聞いていた紅月が、鋭い視線をフェニ子に向ける。

「貴女、さっき自分は黄龍ではないと言ったわね?」

 その問いにフェニ子は答えない。しかし紅月は続ける。

「それは、黄龍に至っていないから黄龍ではないということ? それとも――」
「その……後者じゃ……」
「……そう。やっぱり、そういうこと」

 紅月はなにかに気が付いたようだが、私にはまだいまいちピンときていない。

 大昔、鳳凰は……つまりフェニ子は丹梅国へやってきたビアーゼボを目の敵にしていた。
 けど、そこで自身の力が及ばないと悟ったフェニ子は、他の三柱を取り込み、また黄龍に戻ろうとした。
 結果、そこでフェニ子はビアーゼボとの戦いに負けて、燦花へと逃げ延びた。

 てっきり、一連の話の流れはこうだと思っていた。
 でも、フェニ子の反応を見るにそれは……違う……のだろうか……?

 それに、思い返してみれば、燦花で戦ったフェニ子は間違いなく火の鳥だった。
 あれは――あの時の彼女は、とても龍には見えなかった。

 そして――
 そしてなにより、先ほど紅月が言いかけた〝後者〟とは一体、何を指すのだろう。

 私がひとり、そんなことを逡巡していると紅月が畳みかけるようにフェニ子に詰め寄り、口を開く。

「――フェニ子、それじゃあ貴女は一体、何者なのかしら?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...