無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸

文字の大きさ
187 / 203
第2章 丹梅国グルメ戦記・黄龍降臨

第168話 振り上げた拳

しおりを挟む

「ふふ……」

 黄龍の体が揺れ、空気が震える。
 また笑っているのだろうか。

「すみません。つい、おかしくて」
「黄龍様、お聞きになられていた通りです」

 紅月は構わず続ける。

「あなたはたしかに残響種になっていた。しかし、適切な処置により――」
「もう、結構ですよ。赤髪の方」
「は……?」
「付き合っていただいて恐縮ですが、そのように仰っていただかなくても、わたくしは包み隠さずお話しするつもりでした」

 黄龍のそれはまるで、紅月の一連の推理は最初から必要のない手順だったと揶揄するような口ぶりだった。

「はい。ご推察のとおり、わたくしは神魔大戦の余波をこの身に受けて、体の一部が変異しておりました。しかし、迅速な処置を施したので、完全な残響種化は免れた……ということです」
「そんなことが……」

 私の呟きに黄龍が反応する。

「勿論、それが出来たのは、わたくしが鳳凰であったことが大きかったでしょう」
「……というと?」
「先ほどあなたがたが仰っていたではありませんか。切り離した、と」
「まさか、物理的に……!?」

 いや、たしかに切り離したとは言ったけど、まさかそんな、工作みたいに自分の体を切ったり貼ったりするとか思わないじゃん。

「ええ。鳳凰は頭を潰されようが、羽根をもがれようが、決して死にません」
「な、なるほど……」

 要するに自身の不死性を活かした、自己手術というわけか。
 それでもフェニ子を見ている限り、痛覚も恐怖心もあるだろうに、よく即断したな。
 やはり私たちとは精神構造が違うのだろうか。

「ということは、その時に切り離したのは、やはり――」
「その子です。よもや、永き年月を経て自己を忘却し、鳳凰を称するとは……」

 フェニ子は相変わらず一言も発する様子はない。

 だが、これでだいたいの経緯はわかったが――

「それでも……なぜ、フェニ子の追放を? もしかして、切り離されたばかりのフェニ子は、狂暴だったり手に負えなかったりしたんですか?」
「いえ」
「じゃあなぜ……」
「気持ちが悪いから」
「……は?」
「気持ちが悪い。気色が悪い。気味が悪い。それ以外に何か理由が必要ですか?」

 黄龍が淡々と言う。口調も変化させずに、ただ淡々と。
 気持ちが悪いとは言っているが、そこにはなんの感情も感じられない。
 まだ先ほどまでの、フェニ子に対する態度のほうが感情は乗っていた。
 しかし今は――

「い、いや、でも……」
「そうですね……人間にもわかりやすく例えるなら、怪我をして出来たカサブタを、あなたは後生大事に、手元に置いておきますか?」
「い、いえ……」
「そうでしょう。捨てますよね。それと同じです」
「はい……?」

 理解が追い付かない。
 私に理解できる言葉を聞いているハズなのに、私の脳は理解することを拒んでいる。

 つまり……なんだ?
 黄龍は、フェニ子をカサブタだと思っている……ということなのだろうか?

「で、でも……フェニ子はカサブタじゃありませんよね……?」
「そうですね。カサブタなんかよりもずっと醜い」

 私はその言葉を聞いた瞬間、黄龍に向かって駆け出していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

狙って追放された創聖魔法使いは異世界を謳歌する

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーから追放される~異世界転生前の記憶が戻ったのにこのままいいように使われてたまるか!  【第15回ファンタジー小説大賞の爽快バトル賞を受賞しました】 ここは異世界エールドラド。その中の国家の1つ⋯⋯グランドダイン帝国の首都シュバルツバイン。  主人公リックはグランドダイン帝国子爵家の次男であり、回復、支援を主とする補助魔法の使い手で勇者パーティーの一員だった。  そんな中グランドダイン帝国の第二皇子で勇者のハインツに公衆の面前で宣言される。 「リック⋯⋯お前は勇者パーティーから追放する」  その言葉にリックは絶望し地面に膝を着く。 「もう2度と俺達の前に現れるな」  そう言って勇者パーティーはリックの前から去っていった。  それを見ていた周囲の人達もリックに声をかけるわけでもなく、1人2人と消えていく。  そしてこの場に誰もいなくなった時リックは⋯⋯笑っていた。 「記憶が戻った今、あんなワガママ皇子には従っていられない。俺はこれからこの異世界を謳歌するぞ」  そう⋯⋯リックは以前生きていた前世の記憶があり、女神の力で異世界転生した者だった。  これは狙って勇者パーティーから追放され、前世の記憶と女神から貰った力を使って無双するリックのドタバタハーレム物語である。 *他サイトにも掲載しています。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

異世界へ誤召喚されちゃいました 女神の加護でほのぼのスローライフ送ります

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

才がないと伯爵家を追放された僕は、神様からのお詫びチートで、異世界のんびりスローライフ!!

にのまえ
ファンタジー
剣や魔法に才能がないカストール伯爵家の次男、ノエール・カストールは家族から追放され、辺境の別荘へ送られることになる。しかしノエールは追放を喜ぶ、それは彼に異世界の神様から、お詫びにとして貰ったチートスキルがあるから。 そう、ノエールは転生者だったのだ。 そのスキルを駆使して、彼の異世界のんびりスローライフが始まる。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

処理中です...