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第2章 丹梅国グルメ戦記・黄龍降臨
第168話 振り上げた拳
しおりを挟む「ふふ……」
黄龍の体が揺れ、空気が震える。
また笑っているのだろうか。
「すみません。つい、おかしくて」
「黄龍様、お聞きになられていた通りです」
紅月は構わず続ける。
「あなたはたしかに残響種になっていた。しかし、適切な処置により――」
「もう、結構ですよ。赤髪の方」
「は……?」
「付き合っていただいて恐縮ですが、そのように仰っていただかなくても、わたくしは包み隠さずお話しするつもりでした」
黄龍のそれはまるで、紅月の一連の推理は最初から必要のない手順だったと揶揄するような口ぶりだった。
「はい。ご推察のとおり、わたくしは神魔大戦の余波をこの身に受けて、体の一部が変異しておりました。しかし、迅速な処置を施したので、完全な残響種化は免れた……ということです」
「そんなことが……」
私の呟きに黄龍が反応する。
「勿論、それが出来たのは、わたくしが鳳凰であったことが大きかったでしょう」
「……というと?」
「先ほどあなたがたが仰っていたではありませんか。切り離した、と」
「まさか、物理的に……!?」
いや、たしかに切り離したとは言ったけど、まさかそんな、工作みたいに自分の体を切ったり貼ったりするとか思わないじゃん。
「ええ。鳳凰は頭を潰されようが、羽根をもがれようが、決して死にません」
「な、なるほど……」
要するに自身の不死性を活かした、自己手術というわけか。
それでもフェニ子を見ている限り、痛覚も恐怖心もあるだろうに、よく即断したな。
やはり私たちとは精神構造が違うのだろうか。
「ということは、その時に切り離したのは、やはり――」
「その子です。よもや、永き年月を経て自己を忘却し、鳳凰を称するとは……」
フェニ子は相変わらず一言も発する様子はない。
だが、これでだいたいの経緯はわかったが――
「それでも……なぜ、フェニ子の追放を? もしかして、切り離されたばかりのフェニ子は、狂暴だったり手に負えなかったりしたんですか?」
「いえ」
「じゃあなぜ……」
「気持ちが悪いから」
「……は?」
「気持ちが悪い。気色が悪い。気味が悪い。それ以外に何か理由が必要ですか?」
黄龍が淡々と言う。口調も変化させずに、ただ淡々と。
気持ちが悪いとは言っているが、そこにはなんの感情も感じられない。
まだ先ほどまでの、フェニ子に対する態度のほうが感情は乗っていた。
しかし今は――
「い、いや、でも……」
「そうですね……人間にもわかりやすく例えるなら、怪我をして出来たカサブタを、あなたは後生大事に、手元に置いておきますか?」
「い、いえ……」
「そうでしょう。捨てますよね。それと同じです」
「はい……?」
理解が追い付かない。
私に理解できる言葉を聞いているハズなのに、私の脳は理解することを拒んでいる。
つまり……なんだ?
黄龍は、フェニ子をカサブタだと思っている……ということなのだろうか?
「で、でも……フェニ子はカサブタじゃありませんよね……?」
「そうですね。カサブタなんかよりもずっと醜い」
私はその言葉を聞いた瞬間、黄龍に向かって駆け出していた。
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