無能勇者の黙示録~勝手に召喚されて勝手に追放されたので勝手に旅に出ます~

枯井戸

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第2章 丹梅国グルメ戦記・黄龍降臨

第169話 自制と臨戦

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「――真緒!」

 気が付くと、紅月に腕を掴まれていた。

「貴女、何をするつもりだったの」
「なにって……頭に血が上って……気が付いたら……」

 拳なんかを握り固めて、黄龍に突撃しようとしていた。

 少し頭が冷えた今ならわかる。
 これは私が感じたフラストレーションをぶつけて、ただスッキリしようとしていただけ。
 その結果、どうなるのかをまったく考えていなかった。
 それに、そんなことをしたところで――

「あら、ご不快にさせてしまいましたか」

 黄龍が少し驚いたように言った。

 そう。そんなことをしたところで無駄なのだ。
 私は紅月に小さく礼を言うと、改めて黄龍に向き合った。

「……い、いえ、すみません。急に走りたくなったもので……」

 これで誤魔化せているつもりはないが、素直に白状するのもさすがに変だろう。
 なら、本心かどうかわからないよう、けむに巻けばいい。
 要するに、私がいつも使っているような手段だ。

「そうなのですか?」
「はい。空の上なんて、なかなか来ることはないですから。駆けずり回りたくなっちゃって……それで、ずっとムズムズしてて……」
「なるほど。わたくしにはわかりませんが、東雲さんは感性がお若いのでしょうね」
「ははは……」

 暗にガキっぽいってなじってるんだろうな。

 ……でも、あれ。
 紅月のことは〝赤髪〟とかって言ってたけど、私のことは名前で呼ぶんだ。

 ずっと私たちの行動を見ていたような言動はしていたので、名前を知っていたことに驚きはなかったが、私としてはそこが少し気になった。

「……まったく」

 紅月がため息をつきながら、私に冷ややかな視線を浴びせてくる。

「ご、ごめんて。でも――」
「ええ、わかっているわ」

 紅月が私にだけ聞こえるような声で囁く。

「貴女がこのことで、怒りを露わにするのはわかってる。私としても、貴女がそうあってくれるから、冷静でいられることが出来るの」
「そ、そっか……」

 褒めて……は、いないのだろうが、彼女なりにフォローはしてくれているのだろう。

「ただ……そうね。準備はしておいたほうがいいのかも」
「準備……? なんの?」
「ステータス・オープンによる強化よ。いつでも私にかけられるよう、準備しておきなさい」
「それって……」

 紅月としても、黄龍とを構えることを想定している。……ということだろうか。

「ええ、私の考えだと黄龍は――」
「いかがなさいました?」

 黄龍が怪訝そうに尋ねてくる。

「失礼しました。東雲がどうしても聞き分けがないようで……」
「いやあ、お恥ずかしい」
「ふふ。おふたりは仲がよろしいのですね」

「そんなんじゃないです!」
「心外です」

 私たちがそうやって同時に否定すると、黄龍はことさらに笑い始めた。

 そして、ここへきて、ようやく気付いた。
 黄龍がフェニ子に抱く感情の正体。
理屈や嫌悪感では説明がつかない。もっと、粘ついた感情。

 それは憎悪だ。
 よく〝好きの反対は嫌いではなく無関心〟なんて言われているが、憎悪これはそれ以上の感情だろう。
 けど、果たして理由は本当に〝気持ち悪い〟だけなのだろうか。
 その理由だけで、ここまで嫌悪感を露わにできるのだろうか。

 それになにより、追い出されたフェニ子が黄龍を憎むならともかく、丹梅国から追い出した張本にん・・である黄龍が、いつまでも追い出したほうフェニ子を憎んでいるというのもおかしな話だ。

「……これにも、なんか理由があるのかな……」

 私はそう呟くと、小さく手をかざし紅月の言うとおりステータス・オープンを出現させた。
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