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狂犬、加入
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「うん、一筋縄だったわね。余裕だった。あー、余裕だわー、つらいわー、余裕過ぎてつらいわー」
母さんはヤケクソ気味にそう吐き捨てると、『ははは……』と笑ってみせた。
確かに、母さんが最初に言った通り、襲撃してきた魔物はどれも、一筋縄ではいかない魔物だった。
『エンド級』の魔物ではなかったにせよ、そのほとんどが、ジャバンナ付近で見られる屈強な魔物たちだった。
俺とアーニャの助力もさることながら、なにより目を見張るほどの活躍ぶりを見せたのが、ユウだった。
敵の攻撃を全て紙一重で躱し、囮になってくれているのかと思ったら、鋭い一撃で魔物を屠っていく、まさに自己完結した戦闘スタイルで、俺たちの度肝を抜いた。
ただ、ユウの攻撃には決定力が欠けていたため、そこは俺の付与魔法でサポートしなければならないのだが……、それ抜きにしてもそこらの有象無象の冒険者は、ユウの足元にすら及ばないだろう。
さらにユウはオーラをまだ、どこにも振っていなかったのだ。
あいつはこれから、なんにでもなれるし、どうとでも強くなれる。
正直、エンチャンターとしてクるものがあったが、あいつは俺に囚われずに、あいつの道を生きてほしい。
オブラートを砕いてゴミ箱に投げ捨てたような表現をすると、正直、関わり合いになりたくない。
我が妹とはいえ、あいつは狂犬すぎる。
だから、パーティに加えるようなことはしたくない。
「……て、あれ? そういえば、ヴィクトーリアの姿が見えないんだけど……」
そういえば、戦闘中にもいなかったような……。
アーニャとユウは付与魔法使ってたから、いたのはわかってたけど、ヴィクトーリアの姿は見当たらなかった。
ということは、単独でモンスターの撃退にあたっていたのか……?
さすがにキツくないか? しかもヴィクトーリア、すぐ泣くし。
いや、でも、アーニャを超えるほどの怪力を持っているんだ。
それも可能なのだろう。
まったく、アーニャといい、俺はなんて仲間に恵まれているんだろう。
「あ、えと……ですね。ヴィッキーは……」
「おーい、みんなー!」
遠くのほうから、ヴィクトーリアが手を振りながら走ってきた。
傷はひとつも無いように見受けられる。あれを、俺の付与魔法無しで一蹴か。
さすがだ。
……それにしても、心なしかヴィクトーリアがの顔からはなにか、申し訳なさそうな感じが伝わってきた。
なんなんだろ。ま、いっか。
「よかった、無事だったね。ひとりで大変じゃなかった?」
「え? あー……、いや、そんなことはなかったぞ! それと、周辺の住民の避難誘導はやっておいたからな!」
「そっか、そんなことまで……。どこまで役に立つんだ、ありがとな、ヴィクトーリア」
「う……ううん。幸い、住民の人はケガしなかったけど、ジマハリ付きの冒険者の何人かと、義勇兵の人たちはケガをしてしまったみたいだ」
「そう……なんだ。それは……ちょっとまずったかもしれないな……」
「ん? どういうことだ?」
「じつはさ、パーティを募集するためにここに来たって言ったよね?」
「そうだな」
「それは、ここの人たちに勧誘をかけようとしたってことなんだけど……じつはさ、ここに所属している冒険者の人たちって、かなり腕が立つ人たちでね」
「それはもしかして……度々、ここが襲われるから、ですか?」
「そうそう。俺やユウがいるからかもしれないけど、昔からそういうのが多くってさ。だから、粒ぞろいのここで募集かけようっておもったわけ」
「でも、最近はそうでもなかったけどね?」
「あれ? そうなの? 母さん」
「うん。べつにユウトを責めてる意味じゃないんだけど、ユウトがジマハリを出ていった頃くらいからかな? 襲撃回数が減ったのは」
「まじかよ……それって完全に俺のせいじゃん……」
「うん。だから早いとこ仲間見つけて、ジマハリから出てって」
「うおーい! 息子にかける言葉じゃねえよな!?」
「冗談冗談。……けど、ほんとにそう思う人も多くなってるよ。今回のことでさらに、ね。前まではそんなことなかったけど、いまではほら、勇者多いし。ユウトだけが希望ってわけじゃなくなったんだよね。それに……、あんたからはいい噂も聞かないしね?」
「ぐ……! たしかに……」
「よくよく考えてみたんだが、ユウトは世間からの評判はどん底なんだろ?」
「そ、そうだけどさ……」
面と向かって他人に堂々と言われるとへこむ。
「なら、どうやって仲間を集める気だったんだ? もしわたしだったら、そうそう付いていかないと思うぞ」
「ヴィッキー!」
「いや、ちがうよアーニャ。これは仮の話だ。べつにわたしがユウトに不満を持っているわけじゃないさ。現にいま、わたしはユウとのパーティに所属してるわけだし。それになにより、ユウトは恩人なんだからな。……けど、全員が全員、そうだってわけじゃないだろ?」
「ヴィクトーリアの疑問ももっともだ。けど、俺の評判とパーティを集めることは関係ないかな。……まあ、完全にってわけじゃないけど」
「どういうことだ?」
「冒険者ってのは、たいてい勇者の酒場に登録してるんだけど、誰しもがパーティを満足に組めるわけじゃない。報酬の取り分でもめたり、仲間と冒険性の方向の違いから解散したり、コミュ障だったり……みたいな感じでな。そんなとき、冒険者は勇者の酒場で『傭兵登録』をするんだ」
「傭兵登録?」
「そう。自分をそこに登録しておいたら、あとは勝手に勇者の酒場がその冒険者の能力を査定して、『傭兵カタログ』にその情報を記載する。それで傭兵を雇いたい人たちが、そのカタログを手に傭兵を選択して、勇者の酒場に仲介手数料を払って、傭兵を雇うんだ。傭兵とは、その時の冒険や、仕事内容によって、給料を支払うだけ。まさに、さっぱりとした関係ってやつだね。ま、もちろん傭兵側も選ぶ権利はあるから、俺と分かった途端、契約したがらない人もいるかもしれないけど、基本的に傭兵登録している人は、冒険好きな人が多いからね。そんなに困るもんじゃないよ」
「ちなみに、個人的に支払われる給料というのは、どうなっているんだ? もしかしたら、法外な値段を請求されることだってあるんだろ?」
「ううん。それはない。予めその冒険者の能力値や、冒険の日数などによって、給料の上限と下限が決められているんだ」
「ふむ……だったら、問題はない……な」
「そういうこと。……なんだけど、これもまた厄介なところでね。例えば、弱い冒険者なんかが傭兵登録すると、比較的安全な場所へ、強い冒険者はジマハリみたいな魔物激戦区に振り分けられるんだ。だから、有事の際……、今回は魔物襲撃だね。そのときになると、いの一番に駆り出されるってわけ」
「ということは、ユウトの目的だった……」
「そう。もう強い傭兵のひとが、負傷しちゃってるかもしれないってこと。……まったく、魔物も空気読まないよね……。でも、どのみちあとで勇者の酒場には行くけどさ……ほとんど負傷しちゃってるんだよね?」
「ああ、わたしが見たときはそうだったな」
「はぁ……どうしようかな……」
このまま、ジマハリに残って冒険者が回復するのを待つか?
いや、それだと時間がかかりすぎる上に、また魔物の襲撃があるかもしれない。
それほどのデメリットを覚悟するだけのうまみが、ここにはもうない。
俺がここで採るべき行動、それはさっさと違う街に行く事……、だよな。
……それにしても、ジマハリにまで俺の噂が届いてるってことは、もう俺の悪名もほぼほぼ全国区だな。
これからは迂闊に顔を晒すこともできない。
覆面とか、布とか、何か顔を隠すもので対策しないとヤバいかもな。
「うん。わかった。アーニャ、ヴィクトーリア。とりあえずもう、ジマハリからは出よう。ここにいても、ジマハリの人に迷惑でしかないからな。仲間はまた別の町で探すよ」
「そうですね。名残惜しいですが、わたし、ユウトさんの故郷が見れて、すこし感動しました」
「だな。ホントはもう少し、勇者の生まれ故郷とやらを観光したかったが、こればかりは仕方があるまい」
「ああ。ごめんな、ふたりとも。――だから、そろそろ、俺から離れてくれるか? ユウ?」
俺の左腕、ユウはそこに静かに抱きついてきていた。
さきほどから、なんとかして振りほどこうと試みていたが、ガッチリホールドされている。
なんてことだ。
『金魚の糞』どころじゃないな、これは。『金魚のヒレまで移動した糞』だな。
「あのな、ユウ。兄ちゃんはこれから魔王とユウキに一泡吹かせに行くんだ。ユウはここで……」
「やだ。ついていくから。もう、離れないから」
「でもな、おまえ……」
「いいんじゃない? 連れてってあげなさいよ」
「いや、でも母さん……」
「足手まといにならないのは、さっき証明したばっかりでしょ? なんなら、ここらの傭兵の中でも、一番強いまであるんじゃない?」
「それは……そうかもだけどさ……」
未だに腕に抱きついて離れないユウを見る。
泣いているのかどうかわからないけど、すこし震えているのを感じる。
俺はアーニャとヴィクトーリアのほう見てみた。
ふたりは俺の視線に気がつくと、すこしだけはにかんでみせた。
「……はぁ、しょうがないか。ただ、足手まといに感じたら、すぐにジマハリに帰すからな?」
「ふぇ」
なぜかヴィクトーリアが、情けない声をあげる。
……なんで、あんたが反応してんだよ。
まあ、ユウなら足手まといにはならないだろうけど、俺が言いたかったのは、とにかく気を引き締めろ。という意味だ。
「やった。ありがとうおにいちゃん、だいすき」
ユウはそう言って、俺のほっぺたに唇を押し付けてきた。
「なにやってんだおまえ……」
「わーお」
「わあっ! ふふ……素敵です」
「………………」
母さんはわざとらしく驚き、アーニャに満面の笑みで祝福され、ヴィクトーリアは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
なんだこれは、公開処刑か?
母さんにいたっては、娘の奇行を止めろよ!
「みなさん、不束者ではありますが、よろしくお願いします」
やれやれだ。まあ、けど戦力的には大きな増強だな。――なんて思っていると、ユウが低い声で付け足してきた。
「それと、おにいちゃんを誘惑しないでくださいね。許しませんから」
先が思いやられるばかりである。
――――――――――――
読んでいただきありがとうございました!
母さんはヤケクソ気味にそう吐き捨てると、『ははは……』と笑ってみせた。
確かに、母さんが最初に言った通り、襲撃してきた魔物はどれも、一筋縄ではいかない魔物だった。
『エンド級』の魔物ではなかったにせよ、そのほとんどが、ジャバンナ付近で見られる屈強な魔物たちだった。
俺とアーニャの助力もさることながら、なにより目を見張るほどの活躍ぶりを見せたのが、ユウだった。
敵の攻撃を全て紙一重で躱し、囮になってくれているのかと思ったら、鋭い一撃で魔物を屠っていく、まさに自己完結した戦闘スタイルで、俺たちの度肝を抜いた。
ただ、ユウの攻撃には決定力が欠けていたため、そこは俺の付与魔法でサポートしなければならないのだが……、それ抜きにしてもそこらの有象無象の冒険者は、ユウの足元にすら及ばないだろう。
さらにユウはオーラをまだ、どこにも振っていなかったのだ。
あいつはこれから、なんにでもなれるし、どうとでも強くなれる。
正直、エンチャンターとしてクるものがあったが、あいつは俺に囚われずに、あいつの道を生きてほしい。
オブラートを砕いてゴミ箱に投げ捨てたような表現をすると、正直、関わり合いになりたくない。
我が妹とはいえ、あいつは狂犬すぎる。
だから、パーティに加えるようなことはしたくない。
「……て、あれ? そういえば、ヴィクトーリアの姿が見えないんだけど……」
そういえば、戦闘中にもいなかったような……。
アーニャとユウは付与魔法使ってたから、いたのはわかってたけど、ヴィクトーリアの姿は見当たらなかった。
ということは、単独でモンスターの撃退にあたっていたのか……?
さすがにキツくないか? しかもヴィクトーリア、すぐ泣くし。
いや、でも、アーニャを超えるほどの怪力を持っているんだ。
それも可能なのだろう。
まったく、アーニャといい、俺はなんて仲間に恵まれているんだろう。
「あ、えと……ですね。ヴィッキーは……」
「おーい、みんなー!」
遠くのほうから、ヴィクトーリアが手を振りながら走ってきた。
傷はひとつも無いように見受けられる。あれを、俺の付与魔法無しで一蹴か。
さすがだ。
……それにしても、心なしかヴィクトーリアがの顔からはなにか、申し訳なさそうな感じが伝わってきた。
なんなんだろ。ま、いっか。
「よかった、無事だったね。ひとりで大変じゃなかった?」
「え? あー……、いや、そんなことはなかったぞ! それと、周辺の住民の避難誘導はやっておいたからな!」
「そっか、そんなことまで……。どこまで役に立つんだ、ありがとな、ヴィクトーリア」
「う……ううん。幸い、住民の人はケガしなかったけど、ジマハリ付きの冒険者の何人かと、義勇兵の人たちはケガをしてしまったみたいだ」
「そう……なんだ。それは……ちょっとまずったかもしれないな……」
「ん? どういうことだ?」
「じつはさ、パーティを募集するためにここに来たって言ったよね?」
「そうだな」
「それは、ここの人たちに勧誘をかけようとしたってことなんだけど……じつはさ、ここに所属している冒険者の人たちって、かなり腕が立つ人たちでね」
「それはもしかして……度々、ここが襲われるから、ですか?」
「そうそう。俺やユウがいるからかもしれないけど、昔からそういうのが多くってさ。だから、粒ぞろいのここで募集かけようっておもったわけ」
「でも、最近はそうでもなかったけどね?」
「あれ? そうなの? 母さん」
「うん。べつにユウトを責めてる意味じゃないんだけど、ユウトがジマハリを出ていった頃くらいからかな? 襲撃回数が減ったのは」
「まじかよ……それって完全に俺のせいじゃん……」
「うん。だから早いとこ仲間見つけて、ジマハリから出てって」
「うおーい! 息子にかける言葉じゃねえよな!?」
「冗談冗談。……けど、ほんとにそう思う人も多くなってるよ。今回のことでさらに、ね。前まではそんなことなかったけど、いまではほら、勇者多いし。ユウトだけが希望ってわけじゃなくなったんだよね。それに……、あんたからはいい噂も聞かないしね?」
「ぐ……! たしかに……」
「よくよく考えてみたんだが、ユウトは世間からの評判はどん底なんだろ?」
「そ、そうだけどさ……」
面と向かって他人に堂々と言われるとへこむ。
「なら、どうやって仲間を集める気だったんだ? もしわたしだったら、そうそう付いていかないと思うぞ」
「ヴィッキー!」
「いや、ちがうよアーニャ。これは仮の話だ。べつにわたしがユウトに不満を持っているわけじゃないさ。現にいま、わたしはユウとのパーティに所属してるわけだし。それになにより、ユウトは恩人なんだからな。……けど、全員が全員、そうだってわけじゃないだろ?」
「ヴィクトーリアの疑問ももっともだ。けど、俺の評判とパーティを集めることは関係ないかな。……まあ、完全にってわけじゃないけど」
「どういうことだ?」
「冒険者ってのは、たいてい勇者の酒場に登録してるんだけど、誰しもがパーティを満足に組めるわけじゃない。報酬の取り分でもめたり、仲間と冒険性の方向の違いから解散したり、コミュ障だったり……みたいな感じでな。そんなとき、冒険者は勇者の酒場で『傭兵登録』をするんだ」
「傭兵登録?」
「そう。自分をそこに登録しておいたら、あとは勝手に勇者の酒場がその冒険者の能力を査定して、『傭兵カタログ』にその情報を記載する。それで傭兵を雇いたい人たちが、そのカタログを手に傭兵を選択して、勇者の酒場に仲介手数料を払って、傭兵を雇うんだ。傭兵とは、その時の冒険や、仕事内容によって、給料を支払うだけ。まさに、さっぱりとした関係ってやつだね。ま、もちろん傭兵側も選ぶ権利はあるから、俺と分かった途端、契約したがらない人もいるかもしれないけど、基本的に傭兵登録している人は、冒険好きな人が多いからね。そんなに困るもんじゃないよ」
「ちなみに、個人的に支払われる給料というのは、どうなっているんだ? もしかしたら、法外な値段を請求されることだってあるんだろ?」
「ううん。それはない。予めその冒険者の能力値や、冒険の日数などによって、給料の上限と下限が決められているんだ」
「ふむ……だったら、問題はない……な」
「そういうこと。……なんだけど、これもまた厄介なところでね。例えば、弱い冒険者なんかが傭兵登録すると、比較的安全な場所へ、強い冒険者はジマハリみたいな魔物激戦区に振り分けられるんだ。だから、有事の際……、今回は魔物襲撃だね。そのときになると、いの一番に駆り出されるってわけ」
「ということは、ユウトの目的だった……」
「そう。もう強い傭兵のひとが、負傷しちゃってるかもしれないってこと。……まったく、魔物も空気読まないよね……。でも、どのみちあとで勇者の酒場には行くけどさ……ほとんど負傷しちゃってるんだよね?」
「ああ、わたしが見たときはそうだったな」
「はぁ……どうしようかな……」
このまま、ジマハリに残って冒険者が回復するのを待つか?
いや、それだと時間がかかりすぎる上に、また魔物の襲撃があるかもしれない。
それほどのデメリットを覚悟するだけのうまみが、ここにはもうない。
俺がここで採るべき行動、それはさっさと違う街に行く事……、だよな。
……それにしても、ジマハリにまで俺の噂が届いてるってことは、もう俺の悪名もほぼほぼ全国区だな。
これからは迂闊に顔を晒すこともできない。
覆面とか、布とか、何か顔を隠すもので対策しないとヤバいかもな。
「うん。わかった。アーニャ、ヴィクトーリア。とりあえずもう、ジマハリからは出よう。ここにいても、ジマハリの人に迷惑でしかないからな。仲間はまた別の町で探すよ」
「そうですね。名残惜しいですが、わたし、ユウトさんの故郷が見れて、すこし感動しました」
「だな。ホントはもう少し、勇者の生まれ故郷とやらを観光したかったが、こればかりは仕方があるまい」
「ああ。ごめんな、ふたりとも。――だから、そろそろ、俺から離れてくれるか? ユウ?」
俺の左腕、ユウはそこに静かに抱きついてきていた。
さきほどから、なんとかして振りほどこうと試みていたが、ガッチリホールドされている。
なんてことだ。
『金魚の糞』どころじゃないな、これは。『金魚のヒレまで移動した糞』だな。
「あのな、ユウ。兄ちゃんはこれから魔王とユウキに一泡吹かせに行くんだ。ユウはここで……」
「やだ。ついていくから。もう、離れないから」
「でもな、おまえ……」
「いいんじゃない? 連れてってあげなさいよ」
「いや、でも母さん……」
「足手まといにならないのは、さっき証明したばっかりでしょ? なんなら、ここらの傭兵の中でも、一番強いまであるんじゃない?」
「それは……そうかもだけどさ……」
未だに腕に抱きついて離れないユウを見る。
泣いているのかどうかわからないけど、すこし震えているのを感じる。
俺はアーニャとヴィクトーリアのほう見てみた。
ふたりは俺の視線に気がつくと、すこしだけはにかんでみせた。
「……はぁ、しょうがないか。ただ、足手まといに感じたら、すぐにジマハリに帰すからな?」
「ふぇ」
なぜかヴィクトーリアが、情けない声をあげる。
……なんで、あんたが反応してんだよ。
まあ、ユウなら足手まといにはならないだろうけど、俺が言いたかったのは、とにかく気を引き締めろ。という意味だ。
「やった。ありがとうおにいちゃん、だいすき」
ユウはそう言って、俺のほっぺたに唇を押し付けてきた。
「なにやってんだおまえ……」
「わーお」
「わあっ! ふふ……素敵です」
「………………」
母さんはわざとらしく驚き、アーニャに満面の笑みで祝福され、ヴィクトーリアは耳まで真っ赤にして俯いてしまった。
なんだこれは、公開処刑か?
母さんにいたっては、娘の奇行を止めろよ!
「みなさん、不束者ではありますが、よろしくお願いします」
やれやれだ。まあ、けど戦力的には大きな増強だな。――なんて思っていると、ユウが低い声で付け足してきた。
「それと、おにいちゃんを誘惑しないでくださいね。許しませんから」
先が思いやられるばかりである。
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