憑依転生~女最弱騎士になった『俺』が最強に成り上がるまで

枯井戸

文字の大きさ
33 / 92
青銅編

それぞれの死闘

しおりを挟む
「おまえがボロボロにした盗賊団のボスだよ!」

「むぅ、盗賊団……?」

「ちっ、あんだけ殺しておいて、シラを切るつもりかよ。たいした奴だな、おまえもよ」

「いやいや。あたしほんとに心当たりがないんだけど……」

「ハッ、まあいい。こっちはおまえと言い合いをするために来たわけじゃないんでな。んで、いま俺の部下共がエストリアで暴れまくってるところなんだよ。聞くところによると、いまのエストリアにはあんた以外、戦力といえる戦力はいねえみたいだな」

「えっと、色々訊きたいことがあるんだけど、誰がその情報を提供したの? あなたが黒幕じゃないよね?」

「……おまえには関係ねえことだろ。どうせ、ここで殺されるんだからよ」

「あれ、そうなの?」

「そうなんだよ! ……それにしてもよ、不用心なんじゃねえのか? 剣を持ち歩かないで、ブラつくなんてよ。聖虹騎士さんよ」

「なんで?」

「なんでって……おまえ、状況わかって言ってんのか?」

「わかってるよ。象がいくら蟻に囲まれても、象はそれを脅威に思う? ……思わないよね?」

「殺れェ! テメエら! ぶっ潰してやれ!」

「あちゃー、怒っちゃったか」


 山賊たちが一斉にシノに襲い掛かる。
 手にはそれぞれ、剣や斧、ハンマーなどが握られていた。
 シノはまず、拘束していた男を柔術で地面に叩きつけた。
 男は背中を地面に強打すると、肺の空気をすべて吐き出し動かなくなった。

 シノはすばやく体勢を整え、次の相手の動きに備える。
 剣で斬りかかってくる相手には軸をずらして避け、斧やハンマーなどにはその射程外へ退避した。
 そして――

 掌底。

 武器を大きく空振り、体勢を崩した者から順に鋭い掌底を顎にたたき込んだ。

 小柄な者は否応なしに脳を大きく揺らされ、ガクッと力なく地面に倒れ込む。
 しかし、やはり体格差からか、大柄の男にはダメージはあったものの、戦闘不能まで追い込むことはできないでいた。
 それを好機とみたのか、頭領がすかさず大柄の男たちに命令する。

「いけ! 物量だ! 数で圧せ!」

 その命令により、大柄の男は束になってシノにつかみかかった。
 シノはその丸太のような腕の群れを縫うように、紙一重で避ける。
 そして男の顔を踏みつけ、その勢いのまま壁を三角飛びの要領で駆け上がった。


「逃がすな!」


 頭領が山賊たちを怒鳴りつける。
 シノほど身軽に駆け上がれなかったものの、山賊たちは難なく壁をよじ登っていった。


「へえ、ただの雑魚じゃないんだね」

「雑魚はテメエが全員殺したんだろうが!」

「自虐がきついってば。それにホントにあなたたちなんか、知らないってば」


 シノはそう言うと、男たちに背を向け、建物の屋根から屋根へ飛び移った。


「やっぱ素手じゃ決定力にかけるかな……。なんでもいいから、武器を調達しないと……」

「逃がすな! 絶対に捕まえろ!」


 頭領は怒号を発すと、一斉にシノの後を追っていった。





「へ、ヘンリー……」


 エストリア行政区青銅寮前。
 震えるドーラが、これまた震えているヘンリーの脚にしがみついていた。
 ヘンリーは剣を手にしているが、その切っ先は定まっていない。
 対峙しているのは、三人の賊。


「ささ……、下がってろドーラ、こいつらはオレが倒す!」

「へへ、脚が震えてるぜ、色男。その嬢ちゃんを置いておとなしく死んでろ」
「……は? おまえもしかして、幼女趣味かよ。引くわー」
「いや、おれも初めて知ったけど、やめたほうがいいぞ、そういうの」
「え、ちょ、おまえら仲間じゃなかったのかよ!?」
「いやぁ、仲間だけどそれはねえわ」
「つか、今の発言のせいで仲間だと思われんのも嫌になってくるんだけど」
「やめろよ! お……俺の精神を攻撃するなよ! 相手が違うだろうが! ……くそっ、こうなったらおまえを殺して、その幼女と結婚する!」

「だ、黙れこのロリコン野郎! テメエらあんときの山賊だな? なんでここにいんだよ!」

「復讐がてら、ちょっとしたビジネスってやつだよ」

「ビジネス……だと……?」

「おっと。はは、これは言ったらダメだったか?」
「いや、こいつらはどうせここで死ぬんだ。これ以上情報を与えなければいいんだよ」
「おい、命令はエストリア国民の虐殺だ。こんなやつらに時間を割いてる暇なんてねえぞ。それに、ここに残ってる騎士ってことは、たいしたことねえ雑兵だよ」
「そうだったな。おい、色男に芋ジャージのお嬢ちゃん。恨みはねえが、これも仕事なんでな」
「うおい! あの幼女は俺んだぞ! 殺すなよ!」

「クソっ、なにが仕事だよ……!」

「うおおおおおお! さっさと死ねや!!」

「くっそおおお!」


 切りかかってくる山賊に、ヘンリーも自分の剣で対抗する。
 両者が鍔迫り合いになり、あたりに火花が散った。
 ヘンリーはそのまま男の剣を受け流すと、側面から飛んできた剣をすぐさま薙ぎ払った。
 虚を突かれた山賊はたじろぎ、もうひとりは尻もちをついた。


「よし……よしっ! 姉御との特訓の成果が出てる……! これならやれるぞ!」

「ぷっ。おいおい、やられてんじゃねえか。おまえら」
「く、くそ! こいつ……けっこうやりやがるぞ!」
「本気でやれ。いくぞ!」

「ヘンリー! やっちゃえー!」


 ドーラが遠くの物陰に隠れながら、ヘンリーに声援を送る。


「お、おう! やってやるぜ!」

「くそがぁ! 幼女に応援されやがって! 許さん!」
「すまん、ひとりで盛り上がってるとこ悪いけど、おまえはおれらのやる気を削いでくれるな」





「きゃあああああああああ! お父さん!!」

「うっぐぐぐ……!」


 エストリア王都の郊外。
 ルーシーの実家にも、賊の魔の手が及んでいた。
 ルーシーの父親は賊相手に鍬で応戦していたが、あっけなく斬りつけられてしまった。
 切り傷からは、多量の血が流れ出ている。


「へっへへへ……、おまえら親子じゃなくて夫婦かよ」
「こんなおっさんが、こんなきれいな女をねえ……」

「黙れ貴様ら……! 女房には、指一本触れさせんぞ!」

「バーカ、そのザマで良く言えたもんだな」
「お、いいこと思いついたぜ、こいつの目の前で嫁をぶち犯してやろうぜ!」
「はは! そりゃあいい! じゃあさっそく……」

「や、やめて! こないでください!」


 賊のひとりが母親にゆっくりと近づいていく。
 しかし、父親は必死に賊の足元にしがみついた。


「言った、だろう……! 指一本、触れさせんと……!」

「ぐっ! この死にぞこないが!」

「逃げるんだァ! アンちゃんと一緒に……!」

「ちっ、いい加減放しやがれ……うぜえんだ――」


 賊が持っていた剣を振り上げる。
 父親は死を確信したのか、ギュッと目を瞑った。
 しかしその体勢のまま、賊は一向に剣を振り下ろす気配がない。
 
 それもそのはず。
 山賊の首には、一本のナイフがズブリと突き刺さっていた。

 その場にいる全員が、眼を見開いて驚く。
 やがて山賊は「ゴボゴボ」と血反吐を吐きながら、地面に這いつくばった。
 

「だ、だれだ!?」

「わたし」

「あ、アンちゃん……!?」


 見ると、アンが戸口のほうで、手に数本のナイフを持って立っていた。
 アンはゆっくりと母親のほうへ歩いていくと、賊との間に立ちふさがった。


「なんのつもりだ、クソガキ……!」

「おばさん、下がってて」

「でも……アンちゃん……!」

「大丈夫。わたしもすこしは戦えるから……」

「はっ、まだガキじゃねえか。まぐれ当たりで調子に乗――」


 賊の眉間にナイフが生える。


「隙だらけ」

「て、てめえ! もう許さねえぞ! おまえもボコボコにして、犯してやるからな! 泣いて謝っても許さねえ!」

「いい」

「あ!? 何か言ったか、クソガキ!」

「わたしも、あなたたちは許さないから……!」


 アンはそう言うとスッと、腰を落として構えをとった。





 広大な荒野。
 国境付近の場所に、いままさにエストリア軍、カライ軍が相まみえている。
 横たわるは沈黙。
 兵が手にしているのは己の魂。
 一触即発。
 両軍がまさにいま、火花を散らし合おうとしていた。


「あー、あー……」


 デフが拡声器を手に持ち、声を出した。


「こちらからカライ軍に確認、及び最後通達をするものとする。貴軍がいますぐに引き返すのであれば、こちらとしても争う気はない。このことは無かったことにしよう。だが――」


 一本の矢が空気を切り裂き、デフの前まで飛んでくる。
 デフはそれを掴むと、そのままへし折った。


「それがわが軍の答えである。貴軍に正義はない。正義はこちらにある」


 敵軍の将軍も同じように拡声器を使い、デフの問いかけに答えた。
 エストリア軍とは違って、カライ軍は冷静さを欠いており、なにかあればすぐにでも開戦しそうなほどに、怒りに満ち満ちている。


「なるほど、よくわかった。貴軍に撤退の意思なしとみて、これより、貴軍の兵士全員を殲滅する。泣き叫ぼうが命乞いをしようが、わが軍は貴軍の兵が生き残っている限り、徹底的に押し潰し、蹂躙する! せいぜい足掻け、せいぜい祈れ、さすれば寛大な心を持つ我らが貴軍らの首を、走馬燈を見る間もなくへし折ってやる」


 デフは持っていた紙切れを鎧にしまった。


「……王は相手が降参するときと、降参しなかったときの二通りの宣誓を考えておられたのですか」

「いやあ、僕みたいな口下手には大助かりだよね」


 デフはカッと目を見開くと、改めて号令をかけた。


「全軍、突撃ィィ!!」


 デフの声に被せるようにして、カライ軍の将軍も号令をかける。


「カライの兵よ、命を燃やせェェ!!」


 両軍がまさに、今、入り乱れようとしている。
 エストリア軍とカライ軍による戦争の火蓋が、いま切られた。
しおりを挟む
感想 45

あなたにおすすめの小説

魔法使いじゃなくて魔弓使いです

カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです 魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。 「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」 「ええっ!?」 いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。 「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」 攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――

荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました

夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。 スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。 ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。 驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。 ※カクヨムで先行配信をしています。

神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~

あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。 それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。 彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。 シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。 それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。 すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。 〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟 そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。 同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。 ※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』

チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。 その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。 「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」 そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!? のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...