44 / 92
白銀編
繰り返し繰り返し
しおりを挟む「ルーシーさん、いつまで逃げる気だい?」
「勝つまでですよ!」
「逃げたままじゃ無理じゃないかな」
「うるさいなぁ……」
人がひとり通れるほどの路地。
デフはタカシにつかず離れずで追いすがっている。
路地はその狭さゆえ、ときおりデフの装甲が壁に擦れてガツンガツンと当たっていた。
時折、デフは近づいて手を伸ばしたり、攻撃しようとしたりするが、タカシはそれをひらりひらりと躱していた。
しかし――
ガッ!
と、やがてデフの右手がタカシの左腕を捉える。
デフはそのままグググと手に力を込め、タカシの手甲をバキィッと握りつぶした。
そしてそのままさらに力を込め、タカシの細腕を握りつぶそうとする。
「くっ……!」
腕の骨がミシミシと音をたてて歪む。
タカシは苦悶の表情を浮かべ腕を引き抜こうとするが、万力に挟まれているように、ビクともしない。
バキィ! メキメキボキバキィィ!!
「あっ……ぐ……っ!!」
『た、タカシさん……!』
腕の骨が完全に潰される。
しかしデフは腕を放そうとはせず、今度は雑巾を絞るようにねじ切ろうとした。
「くそ……がぁ! やらせるか……てのォ!」
タカシはその場でジャンプすると、両脚でデフの頭を挟み込んだ。
そしてそのまま体を捻ると、勢いよくデフの頭を地面に叩きつけた。
兜を被っていなかったデフは、石畳にゴドンと頭を強く打った。
「ちっ、くそ……、いってえ!」
タカシは左腕をだらんとさせながら、ふたたび逃走を開始した。
フラフラになりながらも、曲がり角に差し掛かると直角に方向転換をした。
「ふぅ、なかなかやるもんだね」
デフはそう言いながら、ゆらりと身を起こした。
そして頭を軽く振ると、タカシを追うようにして、デフも直角に曲がろうとした。
刹那――
ズ――と、デフの喉元に黒剣の刃が伸びてくる。
黒剣はすこしデフの喉元に食い込んだ辺りで、ビタッと止まった。
黒剣をあてがわれたところからは、プツっと血が滲んでいる。
「ぐッ……な……!?」
「窮鼠猫の首を掻っ切る……とまではいかないですけど、何かを追いかけてるなら、細心の注意を払ったほうがいいです。あまりにも悠長で緩慢で、隙が多すぎます」
「はは、やられたよ……」
デフは視線を黒剣の軌跡へ移した。
路地の壁には黒剣の通った跡、抉られた跡があった。
音が全くしなかったため、デフも気づかないでいた。
「……その剣、片手だけで使ってるのによく切れるみたいだね」
「支給品に感謝ですね。まさかここまで切れる剣をいただけるとは」
「僕の記憶が正しければ、白銀騎士にはそんな剣支給されなかったと思うけど」
「そうなんですか? じゃあ最近、この剣に変わったんじゃないですかね。いやあ、年々お上も太っ腹になっていってるみたいで、国民としても騎士としても嬉しい限りですよ」
「……、頭は、斬り落とさないのかい?」
「正直言うと、迷っているんですよ」
「なにをだい?」
「もちろん、斬るか斬らないかですよ」
「ここまできてまでそれか。僕はキミの腕を潰したんだよ?」
デフはそう言って、タカシの折れた腕に視線を落とした。
タカシの腕はぶらんと力無く垂れており、デフに握られていた場所が赤紫色に変色していた。
「まあ、はは……。べつにオレは上司だった人を斬りたいがために、ここまで来たつもりじゃないんで。そもそも目的がデフさんと思ってるのと違うって言うか、なんというか……」
「それは甘いよ。時には――」
「甘い? え? いやいや! ええ!? いやいやいやいや! なにを勘違いしているんですか、デフ殿」
「え?」
「オレが言ってるのはそうじゃなくて、こんな人気のないところで、ひっそりとオレに首を落とされるよりも、衆目に晒されて、売国奴と罵られながら、失意のなか市中引き回しにして、生皮を一枚一枚丁寧に死なないように剥いで、最終的に打ち首獄門にしたのち、未来永劫エストリアにその愚生を残されたほうがいいのかな、と。あ、もちろんあの大臣さんも一緒ですよ」
「は――」
「ただ殺すだけじゃ生ぬるいって言ってんだよ」
「……なるほどね、それがキミの素ってことか」
「さあ! ここで、ちょっと取引しませんか?」
「取引……なにかな。いやな予感しかしないんだけど」
「さっきのを踏まえて、後で死ぬか、今死ぬか、どっちか選んでくれませんか」
「いま?」
「ここで」
「言ったはずだ、僕は――」
言い終える前にデフの首が飛ぶ。
ゴロンゴロンとデフの生首が石畳の上を、紅い痕跡をまき散らしながら転がる。
その巨体が路地裏にドシャッと沈むと、タカシは冷ややかな目でその死体を見下ろした。
『うわ! ちょ、え、なに殺してんですか! デフさん、なにか言いかけてましたよね!?』
「おまえなぁ、『言ったはずだ』から続く言葉で、前向きな言葉が聞けると思うか? 常識的に物事を考えろよ、バカ!」
『バカじゃないですよ! それに、わかりませんよ? たとえば「言ったはずだ。僕は前々からルーシーさんのことが好きだったんだ。だから、なかまに加えてくれ」って言って寝返ってくれたかも』
「あほか。どこまでおめでたいんだよ、その頭は。……はぁ……もう、なんも言わねえよ。直接訊いてみるか?」
『え? 直接って――』
タカシはデフの懐からペンダントを取り出すと、それを思いきり、明後日の方向へ投げた。
ペンダントが見えなくなると、タカシは折れていた腕を回復魔法で治療し始める。
「――よし、これで問題ないな」
そして転がっているデフの頭を持ち上げると、胴体にドチャっとくっつけた。
『え、ちょ、タカシさん? まさか――』
「極大回復魔法」
緑色の光がタカシの手から放たれる。
光は切り口を包んでいくと、切断面をピッタリとくっつけた。
「ガフッ……!! ごほっ、ゲエホっ……!」
『あ、え、生き返った?』
「やっぱ、この回復力だと死んで間もないやつは生き返るんだな……」
『最初の――あの戦争の時に使った魔法もそれなんですか?』
「ああ、たぶんな」
「ルーシー……さん? ここは? 僕は一体――」
「おはようございます、デフさん。まだ多少は意識の混濁、混乱が見受けられますね。わかりますか? ルーシーです」
「な、ここは……!?」
「お、どうやら思い出したようですね。……どうですか? もう一度お聞きします。さきほどのお考え、なにか変わりましたか?」
「く、こんなことを……、フザケ――」
再びデフの首が飛ぶ。
『――え? ふざけてんですか? なにやってんですか? バカなんですか?』
「いやいや、え? 聞いてなかった? 『フザケ』って言ってたよ? 『フザケ』って。もう交渉の余地ないじゃん。決裂どころか、最初から成立してないじゃん」
『だからせめて、最後まで聞きましょうよ! なんで途中で斬首するんですか! サイコパスですか、あなたは!』
「サイコパスっておまえなあ――って、おい、ちょっと待てよ。唐突にひらめいたぞ。これは使えるかもしれんな……!」
「あ、ちょっと、なんて顔してんですか。悪魔みたいな顔になってますよ!? わたしの顔ですよ! そんな顔はやめてください! 戻らなくなったらどうするんですか」
タカシは再度デフの頭を掴むと、回復魔法を唱えて接合させた。
「ガ……ハ……ッ!! ハァ……ハァ……ハァ……ここは……またか……?」
『え? タカシさん? 何やってんですか?』
「ルーシー、おまえ目瞑ってていいからな」
『え? ……え? なにが起きるんです?』
「……さあ、デフさん。ここから耐久勝負といこうじゃないですか。あなたの心が折れるのがさきか、オレの魔力が切れるのがさきか!」
「ひ……っ」
「覚悟してください。あなたの死に安寧などはない」
0
あなたにおすすめの小説
魔法使いじゃなくて魔弓使いです
カタナヅキ
ファンタジー
※派手な攻撃魔法で敵を倒すより、矢に魔力を付与して戦う方が燃費が良いです
魔物に両親を殺された少年は森に暮らすエルフに拾われ、彼女に弟子入りして弓の技術を教わった。それから時が経過して少年は付与魔法と呼ばれる古代魔術を覚えると、弓の技術と組み合わせて「魔弓術」という戦術を編み出す。それを知ったエルフは少年に出て行くように伝える。
「お前はもう一人で生きていける。森から出て旅に出ろ」
「ええっ!?」
いきなり森から追い出された少年は当てもない旅に出ることになり、彼は師から教わった弓の技術と自分で覚えた魔法の力を頼りに生きていく。そして彼は外の世界に出て普通の人間の魔法使いの殆どは攻撃魔法で敵を殲滅するのが主流だと知る。
「攻撃魔法は派手で格好いいとは思うけど……無駄に魔力を使いすぎてる気がするな」
攻撃魔法は凄まじい威力を誇る反面に術者に大きな負担を与えるため、それを知ったレノは攻撃魔法よりも矢に魔力を付与して攻撃を行う方が燃費も良くて効率的に倒せる気がした――
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
神樹の里で暮らす創造魔法使い ~幻獣たちとののんびりライフ~
あきさけ
ファンタジー
貧乏な田舎村を追い出された少年〝シント〟は森の中をあてどなくさまよい一本の新木を発見する。
それは本当に小さな新木だったがかすかな光を帯びた不思議な木。
彼が不思議そうに新木を見つめているとそこから『私に魔法をかけてほしい』という声が聞こえた。
シントが唯一使えたのは〝創造魔法〟といういままでまともに使えた試しのないもの。
それでも森の中でこのまま死ぬよりはまだいいだろうと考え魔法をかける。
すると新木は一気に生長し、天をつくほどの巨木にまで変化しそこから新木に宿っていたという聖霊まで姿を現した。
〝この地はあなたが創造した聖地。あなたがこの地を去らない限りこの地を必要とするもの以外は誰も踏み入れませんよ〟
そんな言葉から始まるシントののんびりとした生活。
同じように行き場を失った少女や幻獣や精霊、妖精たちなど様々な面々が集まり織りなすスローライフの幕開けです。
※この小説はカクヨム様でも連載しています。アルファポリス様とカクヨム様以外の場所では公開しておりません。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
『冒険者をやめて田舎で隠居します 〜気づいたら最強の村になってました〜』
チャチャ
ファンタジー
> 世界には4つの大陸がある。東に魔神族、西に人族、北に獣人とドワーフ、南にエルフと妖精族——種族ごとの国が、それぞれの文化と価値観で生きていた。
その世界で唯一のSSランク冒険者・ジーク。英雄と呼ばれ続けることに疲れた彼は、突如冒険者を引退し、田舎へと姿を消した。
「もう戦いたくない、静かに暮らしたいんだ」
そう願ったはずなのに、彼の周りにはドラゴンやフェンリル、魔神族にエルフ、ドワーフ……あらゆる種族が集まり、最強の村が出来上がっていく!?
のんびりしたいだけの元英雄の周囲が、どんどんカオスになっていく異世界ほのぼの(?)ファンタジー。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います
町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる