史上最強の料理人(物理)~役立たずと言われパーティを追放されましたが、元帝国最強騎士なのは内緒です~

枯井戸

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アルバイターガレイト

元最強騎士と幼女

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「のああーっ! な、なんじゃ貴様ら!? なんでこんなとこにおるんじゃ!」


 金髪紅眼、ゴシック調の黒いドレスを着た、齢にして八、九歳ほどの少女がガレイト一行を睨みつける。
 そこは暗く、湿った地下道の最奥──すこし広まった、ぼんやりと明るい空間。
 少女はそこで、天井から伸びている、赤茶けて、古ぼけた鎖に両手を繋がれていた。


「な、なんでこんなところに女の子が……?」


 モニカとモーセが心配そうに、その少女へと近づいていく。


「だいじょうぶ? 怪我はない? お母さんは? お父さんは?」

「鎖に繋がれてるけど、これ、どう見ても犯罪よね……? 誰にやられたの?」

「はあ!? 何を言うとるんじゃ!」

「よしよし、怖がらないで。お姉さん、ギルドの職員だから」

「ななな、なんなんじゃ、この娘ども……? どっから現れたんじゃ……!?」

「どっからって……普通に、広場から降りて、地下道を歩いてきただけだけど……」


 モニカが答える。


「はあ!? 結界は? この部屋に入る直前に、妾を封じておった結界があったじゃろうが!」

「結界……?」

「触れれば即あの世行きぞ!? なんで無傷なんじゃ!」

「ガレイトさん、そんなのあった?」


 モニカが振り返って、ガレイトに尋ねる。


「ああ、そういえば──」


 ガレイトはモニカに尋ねられると、自身の手のひらを二人にかざし、よく見えるようにロウソクを近づける。
 ロウソクの火によって、ぼんやりと照らし出されたガレイトの手のひらは、すこしだけ焦げて薄皮がめくれている状態だった。


「ど、どうしたの、ガレイトさん。どこかで擦り剝いちゃった?」

「いえ、この部屋に入る際、何かよくない気配を察知したので……」

「察知したので……?」

「手をかざしてみたらバチッと……」

「じゃあ、それが、この子の言ってる結界……なのかな?」

「さあ、どうでしょう」

「でも結界って……なんか、気分悪いとか、そういうのはないの?」

「いえ、特には。俺自身、ただの強めの静電気かなにかだろうな、と」

「ななな、な~にが静電気じゃ!」


 少女の声が地下道内に響く。


「妾を何百年も封印しておった結界じゃぞ!?」

「何百年……?」

「貴様じゃなかったら全身が丸焦げになって昇天してるところじゃ! つーか、なんじゃ貴様!? なんでその結界に触れたのにピンピンしとるんじゃ! 人か? 人なのか!? 人じゃなかろう! 魔物じゃろう!」


 まくし立てる少女に対し、ガレイトは特に何も言わず、しょぼんと下を向いた。


「なにこの、テンション高めの子……」

「ごっこ遊びのつもりなのかしら。とりあえず、落ち着いて……!」

「……こ、こほん。少々取り乱したようだ。すまぬ」


 少女は小さく咳ばらいをすると、再びその紅い眼でガレイトたちを見た。


「ま、まあ? 多少予定は狂ったものの、これもまた僥倖。まさか、餌自らノコノコと現れてくれるとはな」

「え、餌……?」


 モーセが反芻するように言うと、少女はこくりと頷いた。


「左様。妾にとって、貴様ら人間などただの餌よ」


 少女はそう言うと、自身を拘束していた鎖を簡単に引きちぎった。
 バラバラと少女の足元に散らばる鎖。
 その様子に呆気にとられるモニカとモーセをよそに、少女は今まで自身を拘束していた鎖を忌々しそうに一瞥し、手首をゆっくりとさすった。
 

「鎖が……」

「妾は傾国の吸血鬼ヴァンパイア、グラトニーである。猿共よ、妾の糧となる栄誉を授けようぞ」

「ぐ、グラトニー……て、おとぎ話の?」

「くくく、御伽噺・・・とな! よもやそれほどまでの年月が流れようとは……だが、妾はよみがえった……!」

「やっぱり……グラトニーだったんだ……しかも吸血鬼って……」

「ざまあみさらせ、バカ猿共! 今から一匹残らず駆除するから、覚悟しとけよ! うはははははっ!」


 モニカの声が届いていないのか、グラトニーはひとりで高笑いを上げている。


「……どうする、モニカ?」

「いや、あんたがどうすんのよ。こうなる事はわかってたんでしょ?」

「まさか……! グラトニーが、こんな女の子だなんて思うわけないじゃない!」

「……じゃあ、仮にグラトニーがバケモノだったらどうするつもりだったの?」

「もちろん、ガレイトさんに退治をお願いしようとしてたんだけど……」

「あー……」

「体の大きい男性が小さな女の子を追い回すのって……その……」

「た、たしかに、ちょっとアブナイかも……」

「でも、だったら、どうする?」

「いや、平和的に解決するしかないでしょ。それこそギルドの仕事なんじゃないの? 迷子サービス的な」

「そんなんないわよ。モニカのツテとかないの?」

「ないよ、そんなの」

「でも、ガレイトさん引き取ってるし」

「ガレイトさんは迷子じゃないでしょ!? ……でも、うーん、特に害もなさそうだし、見た目もただの女の子だし、普通に帰ってもらえば?」

「まあ、それしかないよね……」


 モーセとモニカは再びグラトニーを見ると、生唾をごくりと飲み込んだ。


「ほほぅ? よほど妾を恐れていると見えるな、特にそこな娘二人。たしかに、まだ体が本調子でないとはいえ、妾に内包されておる規格外の魔力に恐れおの……」

「あの、グラトニー……さん?」


 モーセが話を遮るようにして、グラトニーに話しかけた。


「なんじゃ娘。今いいところなのに……」

「長い間眠っていたところ申し訳ないのですが、用が済んだら帰っていただけますか?」

「……む?」

「もしご家族の方がいらっしゃらないのでしたら、里親を探すことくらいならロハでやれますけど……それに、ただの女の子がこんなところで一人でいるのも危険ですし……」

「……うむ? いまなんつった娘」

「ああ、ごめんなさい。ロハっていうのは無料──」

「妾を小娘とそしったのか!?」

「え? いや、小娘とは一言も……あたしは女の子と……」

「同じじゃろ! ……が、我慢ならぬ! ていうか、最初に断りを入れておいたじゃろが! この姿は仮の姿じゃと!」

「でも、仮じゃない姿を知りませんし……それに今、現に女の子ですし……」

「本来の妾はナイスなバデーで、それはもう男どもがうじゃうじゃと蠅のように……いや、そういう話じゃのうて、妾が言いたいのは……なんで今現れたんじゃ!」

「え?」

「計画がもうパーじゃ! どうしてくれるんじゃ!?」

「いや、なんか声が聞こえたから、放置するのはマズいと思って調査を……」

「声……? いや、月の満ちる刻と言っていたじゃろ!」

「まあ、それまでには対処しようかなと」

「……っくぅ~! 堪え性のない阿呆め! これだから人間は……そもそも、あれ独り言じゃったんじゃが!? なに勝手に聞いてくれるんの!?」

「いや、どう聞いても誰かに語り掛けてるようにしか……」

「久しぶりに喋るから、人間どもの前で恥かかんよう、発声練習ついでに声を発してただけじゃ!」

「でも、それにしては重要な情報が多かった気が……」

「なんっなんじゃ小娘! さっきから揚げ足ばっかとりおって! こちとら年上ぞ!? なんでそんな簡単に口答えできるんじゃ! 恥を知れ! 恥を知ったうえで礼儀も知れ! オロカモノ!」

「で、でもそのおかげで、いまでは流ちょうに話されてますね。よかったですね」

「かっちーん……!?」


 グラトニーの瞼がぴくぴくと痙攣し始める。


「……はは、何? いま娘、妾のこと煽った?」

「え? べつにそういう意味じゃ……」

「いま絶対煽ったじゃろ、妾のこと! な~にが流ちょう・・・・じゃ! こちとら眠りにつく前はクールビューティ言われとったんじゃぞ!? 口数少なかったんじゃぞ!? それを貴様ら、臆面もなくツッコませおってからに……!」


 グラトニーが額に青筋を立てながら、ビシビシと三人を指さしていく。


「いや、なんであたしらまで……お嬢ちゃんを煽ってたのはモーセだけなんだけど……」

「はあ!? 裏切るの!?」

「裏切るも何も……実際その意図があったかどうかはわからないけど、あれは煽られてるって受け取られても仕方ないって」

「……まあ、実際ちょっと煽ったかもしれないけど……」

「やっぱ煽ってたんかい」

「──よい! わかった! もういい! もういいもん! 下手にでてたらよかったものの、貴様らは妾を怒らせた!」


 グラトニーがそう言うと、グラグラと地下道が振動し始めた。


「な、なに!? 地震?!」

「もう、かっぴかぴに干乾びるまで貴様らの精を吸い尽くしてやる! ……いいや、なんかもう、妾の血肉になるのもムカつく! もはや消し飛ばす! 覚悟せえよ、マジで!」


 グラトニーはそう言うと、両手のひらを前へ突き出した。
 ズズズ……!
 まるで渦潮のように、黒い液体のような物がグラトニーの手を中心に集まっていく。黒い液体はやがて一点に収束していくと、黒い球体に形を変容させた。
 いままで呑気に構えていたガレイトも、それを見た途端、モニカとモーセの前に立ちはだかる。


「な、なに……あれ?」


 モニカがガレイトの体から顔だけ出して、グラトニーの様子を窺う。


「くっくっく……! 見えるか、この黒い結晶が! これこそが妾の奥義、自身の放出した魔力を高密度に圧縮し、それをぶつけて細胞ごと塵にする魔法じゃ!」

「そ、そうなんだ……!」


 モニカが驚いたような、呆れたような声を出す。


「泣き喚き、謝ってももう遅い! 記念すべき復活後の犠牲者第一号、二号、三号は貴様らじゃ! 死ねぃ!」


 黒い球体はグラトニーの手から離れると、ガレイトたちめがけて一直線に飛んで行った。


「危ない! モニカさん、モーセさん! 俺の陰に!」


 ガレイトは右手で握りこぶしを作ると、まっすぐにその黒い球体を殴りつけた。
 球体はグラトニーの顔のすぐ横をかすめると、そのまま壁の中を際限なく掘り進み──消えた。
 グラトニーは口をキュッと一文字に結ぶと、恐る恐る背後を振り返り、出来た穴を見つめ──首を傾げた。


「あれ?」
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