史上最強の料理人(物理)~役立たずと言われパーティを追放されましたが、元帝国最強騎士なのは内緒です~

枯井戸

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懐かしのヴィルヘルム

見習い料理人と不吉な一週間

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 レストラン、グロースアルティヒから場所は変わり、ガレイトのいえ
 その中庭。
 すでに陽が沈み、暗くなっている中庭そこを、備え付けの魔導灯が優しく照らす。
 ガレイトとブリギットはそこで、夕食の準備に取り掛かっていた。
 二人が下拵えをしているのは、帰り道に市場で買った野菜や肉。
 一行は、騒ぎが大きくなったこともあり、外食を断念していた。


「なるほど。あくれいど・おぷてぃます……あの英雄えるろんど殿のお孫さんで、三番隊の隊長……」

 数枚の細長い板と、金属で組み立てられた簡易テーブル。
 そこで、金属の串に肉や野菜を刺しながら、サキガケが口を開く。

「ふむ、だいたいあくれいど・・・・・殿についてはわかったのでござるが、なぜ、がれいと殿はあの時、微妙・・な顔をしていたのでござる?」

「え? ど、どうしてそれを……?」


 包丁を持っていたガレイトの手が止まる。


「あ、なんか……ごめんでござる。別に答えたくないのなら、無理に答えなくていいでござるよ……っと、これ、よろしく頼むでござる」


 サキガケはそう言うと、その串をイルザードに渡す。
 イルザードはそれを受け取ると、炭火で熱された網の上に並べた。
 バーベキューコンロは煉瓦レンガが積まれただけの、これも簡易の的な物。


「いえ、べつに答えたくないわけではないのですが……」

「──アクレイドはガレイトさんが嫌いなのだ」


 話を聞いていたイルザードがきっぱりとそう告げる。


「え? そうなのでござる?」

「……おい、イルザード」

「いいじゃないですか。知られて困ることは何もないでしょう」

「おまえがそれを判断するのか?」

「……あの女たらしアクアといい、アクレイドといい……ガレイトさんはなぜか、隊長格の人間には嫌われる傾向があるみたいですからね」

「隊長に……それはまた難儀な……」

「おい、サキガケさんが信じてるだろう。どうせ言うのだったら正確に伝えろ。馬鹿者め」

「ということは、いるざぁど殿も、じつはがれいと殿のことを……?」

「私か? ははは! 私は無論、ガレイトさんラブ勢だとも!」

「で、ござるよね……ちなみに、えるろんど殿は、がれいと殿とあくれいど殿の関係については……?」

「知っているだろうな」

「じゃあ、もしかして二人の仲を取り持とうと?」

「知らん。……というか、あの人はそんなことを考える人じゃない。忘れていたか、もしくはどうでもいいのだろう」

「どうでもいいって……」

「と、とりあえず!」


 黙って話を聞いていたガレイトが口を挟む。


「明日は、美味しいヴィルヘルム料理が食べれますよ! 楽しみだなあ!」


 その場にいた全員がガレイトを見る。


「う……そ、そうだ。サキガケさん」

「ニン……?」

「定例会はどうでしたか?」

「ああ、なんか……すごかったでござるよ」

「すごかった……ですか?」

「天井がきらきらしてて、机も大きくてぴかぴかで綺麗だし、椅子もりくらいにんぐ……? で、すごく座りやすかったでござるな。あとはふかふかの絨毯も敷かれてて……」

「いえいえ、定例会の内容ですよ」

「あ、そっちでござるか……そうでござるな、とくにこれといったことは……」

「そうなんですか?」

「ニン。まだ一日目だということもあって、今日は皆の顔合わせと自己紹介、あとは会長の挨拶くらいでござった」

「なるほど」

「成果の報告や近況報告やらは、また後日でござろうな。がれいと殿はどんな感じでござる?」

「──あ、そういえば私もまだ聞いてませんでした。王に会いに行ったんですよね?」


 イルザードが興味津々といった様子で、会話に加わる。


「ああ、国王にはお会いした。……が、そのあとに皇帝陛下に会えと言われてな──」


 ガレイトは皇帝アルブレヒトのことと、新たに依頼を押し付けられたことを話した。


「──と、いうわけで、サキガケさんに、イノシシについて色々とお尋ねしたいのです」

「ふむふむ。なるほどでござる。つまりは、対処法でござるな」

「はい」

「……ちなみに、確認しておきたいのでござるが、その猪は普通の猪……でよかったでござるな?」

「えっと、ミカンを食べ過ぎて、体毛が黄色くなった……以外は、特に普通のイノシシだと思いますが……」

「それくらいならまぁ──こほん」


 サキガケがわざとらしく咳ばらいをすると、改めてガレイトと向き合った。


「対処法……の前に、まずは猪の簡単な生態の紹介から。まず、猪の目はあまりよくないのでござる」

「そうなんですか?」

「ニン。……そのぶん、耳と鼻がよく利くのでござる」

「耳……ということは、大声をあげれば……?」

「そう。だから、普段は鈴などを持って、近寄せないようにするのが正解……なのでござるが、それは山中でばったり遭遇しないようにする方法。畑を荒らしに来ている猪に対しては、あまり意味がないのかもしれぬでござる」

「そうなんですね……」

「まあ、がれいと殿ほどの大声であれば、効果はあるかもしれぬでござるが……それでも、一時しのぎにしかならないでござる」

「なぜだ? 大声をあげて威嚇すれば、もう寄ってくることはないのではないか?」


 イルザードがサキガケに尋ねる。


「たしかに。けどそれは〝声〟に対して、ござるな」

「というと……?」

「がれいと殿は、その畑が何度も襲われている、と言ったでござるな?」

「はい。それと、今回はすごい被害だ。とも言っていました」

「ふむ、ということはつまり、徐々に人間に慣れている……ということでござる」

「人間に……?」

「ニン。猪というのは、一度でも慣れ・・てしまえば、そこからはもうずっと、舐めてくるのでござる」

「なんてたちの悪い……」

「ああ見えて猪は、したたかで、頭のいい動物なのでござる」

「そうなんですね……では、対処法は?」

「そうでござるな。そもそも猪を近づけなくさせる罠を作るか、……あとはやはり──」

「殺処分だろ。死人に……ならぬ死イノシシ・・・・・に口なし」

「イルザード、おまえはまたそういう……」

「そうは言いますが、こういうのは殲滅戦がいちばん効率がいいと思います。畜生にかける情けなど必要ないと思いますが?」

「……まぁ、いるざぁど殿の言うとおりでござるな」

「というか、ガレイトさん。殲滅せずにどうやってイノシシを駆除する予定だったんですか?」

「いや、ほんの二、三頭を目の前で処断すれば、逃げていくのでは……と」

「それで食材も手に入って、めでたしめでたしって感じですか?」

「くっ、茶化すな。見通しが甘いのはわかっている……」


 ガレイトはほんの数秒だけ黙り込むと、再び口を開いた。


「……あの、ちなみに、罠とはどういったものが……?」

「さきほども言ったでござるが、猪は頭がいい。完全に畑を防護する罠となると、かなり難しいものになってくるでござる。──が、それでも、それなりに有効なのものもあるでござる」

「それは……?」

「柵でござるな」

「柵、ですか?」

「そう、この国にもあると思うでござるが、鉄製の糸に……魔法でもなんでもいいので、電気を流して、猪の鼻の高さに設置しておく。というのが一般的でござる。猪の鼻は弱点でもあるゆえ」

「なるほど。……では、一度、そういう道具がないか調べてみたほうが──」

「そうは言いますが、ガレイトさん。イノシシはもう、明日には来るのでしょう?」


 イルザード諭すように言う。


「……ああ、そうだな」

「しかもそれを逃してしまうと、無一文……になってしまうのですよね?」

「……なんだ。何が言いたい」

「一日足らずで、畑全てをカバーできる仕掛けを作れるんですか?」

「それは……まあ……」

「ガレイトさん、気持ちはわからなくはないですが……」

「……そう……だな。気は進まんが、やはり殺処分しか……」

「ニン。……それに、イノシシ共の行為を見逃せば、今度はその農家さんが食べられなくなってしまうでござる」

「……そう、ですね。では、当初の予定どおり、待ち伏せでいこうと思います」

「ニン。あまり役に立てず、申し訳ないでござる」

「いえ、お気になさらないでください。お話自体、とても興味深かったですし」

「気を遣ってただき、かたじけない……」

「ああ、そういえば……」

「ニン? ほかに何か?」

「ええ、ふと思い出したのですが、なぜ一週間なのかと思いまして」

「一週間……?」

「……あの、イノシシ襲ってくる周期のことです。あそこのイノシシは、どうやら一週間おきに畑を襲っていて……あれ? 俺、話しませんでしたっけ?」

「いや、ずっと妙だとは思っていたのでござるが……もしかして、一週間って、そういう意味で言っていたのでござる?」

「そうですけど……なにか、引っかかることでも……?」

「引っかかるというか、妙というか……そもそもの話、猪はそこまで几帳面でもないし、昼行性の動物なのでござる」

「昼行性……? ですが、農家の方は、襲われるのは基本、夜から明け方にかけてだと……」

「それは、人間を怖がっているからでござるよ。猪の多くは昼行性なのでござる。でも昼に姿を見かけないのは、隠れているから。だから、朝方から夜にかけて襲っているのは、その時間帯が安全だと思っているからで……」

「──ちょっと待ってください。あの畑、中心へ行くほど被害が少なくなっていたのですが、あれはもしかして……」

「あー……それは、その餌場・・が徐々に安全かどうかを確かめて……あれ?」


 ガレイトとサキガケの顔から、さーっと血の気が引いて行く。
 そんな二人をよそに、イルザードが口を開いた。


「サキガケ殿の言うとおり、イノシシが舐めてくるような動物だとすれば……いま、まさにその農家、やばくないですか?」
────────
ごめんなさい、アルファポリスのほうの更新ボタンを押し忘れてました。
明日は17時に更新させていただきます。
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