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第8話 それもデカい……

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 変態騎士団長はゆっくりとヤーナに歩み寄ると、自信満々な笑顔を見せつけてヤーナに言った。

「ヤーナよ。長槍など筋肉の前には爪楊枝つまようじも同然。ここは我々に任せるんだ」

 するとヤーナは驚きながら問いただした。

「我々に任せろ? ってか、あの黒パンツは敵だったんじゃないのか?」

 それを聞いた黒パンツは、ヤーナの前に出ておもむろに答えた。

「筋肉は自由だ。風の吹くまま気の向くまま。ただ己の筋肉が感じるままに行動するのだ」

 そう言い終わると、黒パンツは変態騎士団長とガッシリ手を組んだ。

 しかし、それを見たヤーナは思わずつぶやいた。

「おいおい。そりゃ、ただの気まぐれ野郎じゃないか……」

 しかし変態騎士団長と黒パンツは、そんなヤーナの心配を他所よそに、手際よく、そして丁寧ていねいに全身にオイルを塗り始めた。

 太い腕の筋肉のせいで届かなくなった背中は、お互いに塗りっこしてオイルを塗りった。

 そしてお互いにヌルヌルのベチョベチョになると、騎士団員から盾を借りて長槍の兵士の待つ細い通路へと向かって行った。

「わたしが下になろう」
「では、わたしが上だな」

 黒パンツが下、変態騎士団長が上と位置を決めると、二人は狭い通路へと一気に走っていった。

 そして二人はどんどんと速度を上げると、盾を前にしながら狭い通路へ飛び込んだ。

「合体! 筋肉ところてんアタァーーーーック!」

 二人の巨体は通路の狭さにミッチミチになったが、ヌルヌルに塗られた油のお陰で発射された弾丸のように一気に滑っていった。

 シャァァアアアァ!!

 二人は前に出した盾と巨体を利用した慣性で次々と長槍を爪楊枝つまようじのようにへし折っていくと、長槍の兵士たち諸共もろとも、通路の外へと押し出した。

 ヌポンッ

「ぬぅぁああああぁああ!」

 二人は通路から滑り出ると、筋肉に血管を浮かせながら一緒にモストマスキュラーポーズを決めて長槍の兵士たちを威嚇いかくした。

 そして、変態騎士団長は下に落ちていた長槍を拾い上げて構えると即座に投げ捨てた。

「長い!」

 そして、ち〇こケースから一滴いってき一滴いってきと体に塗った油をしたたり落すと、不敵な笑みを浮かべながら長槍の兵士たちに問いかけた。

「なぁ。だろ?」

  長槍の兵士たちは全く言っている意味が分からず動揺した。

 しかし変態騎士団長と黒パンツはお互いに顔を見合わせて笑い合うと、ウンウンとうなずいた。

 そして変態騎士団長と黒パンツは同時に走り出すと、ムーンサルトをクロスして飛び込み、次々と長槍の兵士たちの股間を掴み上げていった。

「おぉおおおぉりゃぁ!」
 ガシッ

「でいっ!」
 ガシッ

「はっ!」
 ガシッ……

「「「ぎゃぁあああああ!」」」

 股間を握りつぶされた兵士たちの断末魔だんまつまが響き渡ると、気を失った兵士たちのむくろの山がきずかれていった。

 ◆

 二人は長槍の兵士たちを壊滅かいめつさせると、お互いの筋肉をたたえ合った。

「すばらしい筋肉だ。まさか、その筋肉をソイ・プロテインだけで育てたとは……」

「ふっ、世界を見てみろ。ゴリラやバイソン、ゾウにいたるまで強靭きょうじんな筋肉は草食獣そうじょくじゅうゆうしている」

 その言葉に変態騎士団長はハッとした。

「……たしかに」

 すると黒パンツは柔和な笑顔をたずさえて変態騎士団長にさとした。

「最強の筋肉は草食獣そうしょくじゅうに宿る。百獣ひゃくじゅうの王などと言われるライオンなど、草食獣そうしょくじゅうサイに追い回されるのだ」

(テロップ)
 ※個人の感想です。効果には個人差があります。この筋肉は取材当時のものです。

 黒パンツの言葉を聞いた変態騎士団長はひれ伏して言った。

「とても貴重な意見、大変参考になった! 感謝する!」

 黒パンツはおもむろにパンツの中から懐中時計を取り出すと変態騎士団長に言った。

「今日は良い戦いであった。わたしは、ここで帰るとしよう。そろそろプロテインを補給しなければならぬ」

「うむ。それは命より大事な儀式。行ってくれ」

 変態騎士団長はそう言うと黒パンツの筋肉ダルマと抱き合って、なんとなくチョットだけ一緒にヌルヌルした。

 そして固い握手をすると、黒パンツはがけを飛び降り、何処どこかへ去って行ってしまった。

 ◆

 変態騎士団長たちは王宮に侵入し、良く手入れされた道を抜けると、大きな建物の前に出た。

 するとヤーナが丸めた紙を広げて位置を確認し、変態騎士団長に説明した。

「この建物は地上三階建てで、最上階に王がいるらしい。あと少しだな」

「そうか。行くぞ」

 変態騎士団長は左手で両手剣を鷲掴わしづかみにすると、王宮の扉へと向かった。

 そして扉の前で立ち止まると、扉が少しだけ空いていることに気づいた。

「ん? 開いてるではないか。無用心ぶようじんだなぁ。ひょんな事から変態が入ってきてしまったら、どうするんだ……」

 変態騎士団長はブツブツとつぶやきながら扉を開けて入ると、中には何もない石造りの広い部屋が広がっていた。

 騎士団員たちも変態騎士団長に続いて中に入ると、光の届かない部屋の奥から何かが聞こえてきた。

 グルルルルルル

「ほう、何かいるな。それもデカい……」

 変態騎士団長がそう言うと、なんと部屋の奥からゆっくりとドラゴンが現れた。

 それを見た騎士たちは慌てふためきながら後ろへ下がった。

 しかし変態騎士団長は握っていた両手剣を慎重に構えてから投げ捨て、両腕を組んで仁王立ちをすると、部屋の奥にいるドラゴンを挑発した。

「おい、ドラゴン! そんなヘナチョコな筋肉では、わたしには勝てんぞ! 近くへ来い! 相撲すもうをとってやる!」

 するとドラゴンは目を邪悪に光らせながら大きく息を吸い込んだ。

 それを見たヤーナは大声をあげて指示を出した。

「ドラゴンが火をくぞ! 退けぇ! 退けぇぇ!!」

「「「うわぁぁあ」」」

 ヤーナの指示に騎士団員たちはドアの外へ逃げ出すと、ヤーナもそれに続いた。
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