友梨奈さまの言う通り

西羽咲 花月

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手紙

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翌日学校までの通学路を歩いていると後ろから早希に声をかけられた。
「おはよう絵里香!」

そう言って小走りに駆け寄ってくるのを見て咄嗟に止めようとするけれど、早希は何事もなかったかのように笑顔で絵里香の隣をあるき出した。

少し息を切らしているけれど、その表情は全く苦しくなさそうだ。
むしろ顔色はいいくらいだ。

「本当に大丈夫なんだね?」
「見ての通りだよ! どれだけ走っても飛び跳ねても、全然平気なんだから!」

昨日の夜のうちに色々と動き回って試してみたのだろう、早希はその場で何度も飛び跳ねて見せた。

昨日までの早希を思い出すとまるで別人みたいだ。
驚いて口を半開きにしていると、早希に指を刺されて笑われてしまった。

「一応薬は持って来てるんだけどね、今日は必要なさそう」


「そうだね。そんな風に見えるよ」
絵里香もそう納得せざるを得ない状態だ。

ここまで元気になるとは思っていなかった。
こうして肩を並べてふたりで学校へ向かうのだって、本当に久しぶりな気がする。

早希は登校途中に気分が悪くなってそのまま早退してしまったり、もともと母親に送り迎えを頼むことが多い。

「見てこのチョコレート」
学校の校門が見えてきたところで早希がカバンを開けて見せた。

中には有名店のチョコレートが綺麗にラッピングされて入っている。
「すごい高いチョコレートじゃないの? たしか一箱何千円もするよね?」

早希はコクコクと頷く。

「だけど病院代とか考えるとこれでも安いものだよ。入院なんてすると、あっという間に何十万円とかかるんだから!」


確かに、それに比べれば数千円のチョコレートなんて安すぎる買い物だ。
これで早希に健康が訪れたんだから、言うことはなにもない。

「これを私の下駄箱に入れておくように言ってたよね?」
「うん、そうだね」

昨日のことを思い出しながらふたりで昇降口へ向かう。

この学校の下駄箱は木製の蓋付きのタイプになっているから、贈り物やラブレターを入れておくのに最適だ。

早希が自分の下駄箱の蓋を開けたとき、なにかに気がついたように眉を寄せた。
「どうしたの?」

「手紙が入ってた」



早希が取り出したのは真っ白な封筒だった。
表にも裏にも送り主の名前は書かれていないようだ。

早希は上履きを取り出して下駄箱にローファーを入れ、その上にチョコレートを置いて蓋を閉めた。

上履きに足を入れながら手紙を見つめる。
「もしかしてラブレター?」

冗談半分でそう聞くと早希は頬を少し赤くして「たぶん、そんなんじゃないし!」と、反論した。

それでも中身を見られるのが恥ずかしいようで、後ろを向いて手紙を読み始めた。
もしもラブレターだったらここから早希の恋が始まるかもしれないんだ。

私は恋の始まりを見ているのかもしれない。
そう思うと絵里香の心も沸き立ってきた。

けれど手紙を読み終えた早希は軽く肩をすくめて見せた。


「なんて書いてあったの?」
「友梨奈ちゃんからの手紙だったよ。放課後、校舎裏に来るように書いてあった」

そう言って早希は手紙を開いて見せてきた。
そこには丸っこくて可愛い文字で確かに、そう書かれている。

ラブレターじゃなかったことに「なぁんだ」とがっかりしながらも、友梨奈にまた会えることを楽しみにしているみたいだ。

重い病気を治してもらったのに、もう会えないのでは少し寂しかったのかもしれない。
「ねぇ、それって私も一緒に行ってもいいかな?」

2年B組へと歩きながら絵里香は聞いた。
「もちろん、いいと思うよ?」

手紙には1人で来てほしいとは書かれていなかったし、絵里香ももう1度友梨奈という少女に会ってみたかった。


できれば不思議な力について色々質問したいという気持ちもある。
それからふたりが教室へ入っていくと早希はすぐに友達に囲まれてしまった。

昨日の今日でここまで顔色が変化しているから、すぐに異変に気が付かれたみたいだ。
早希は必死に薬がよく効いているみたい。

と、嘘をついていた。


☆☆☆

それから3時間目の授業が終わるまで早希の体調に異変は現れなかった。
「4時間目は体育だけど、どうする?」

絵里香は体操着の入った袋を片手に持って早希に聞いた。
早希は少し迷った様子を見せたけれど、すぐに「参加する」と、答えた。

「大丈夫そう?」

「うん。もうなにも心配する感じがしないの。もし途中で体調が崩れたら、そのときはちゃんと休むから」

「わかった。今日はバスケだよ」
「私バスケって大好き! やったことはあまりないけど、ルールはちゃんと覚えてるよ」

ふたりで言い合いながら体育館へ向かう。

体操着姿の早希を見るのは何度目か、絵里香はその姿の早希を見た瞬間思わず抱きついてしまった。

体操着はほとんど着られていなくて、まだ新品の匂いがしている。
「ちょっと絵里香、感動しすぎだって」


本当にちょっとだけ涙が浮かんできたのはつかの間のことで、バスケを始めた早希を見て絵里香は驚いてしまった。

早希はもともと体を動かすのが好きだということは知っていたけれど、想像以上に運動神経がいい。

相手チームからボールを奪うと、一目散にゴールへと向かう。
走る早希に誰も追いつくことができないのだ。

ほとんど体育に出席してこなかった早希の運動神経の良さに誰もが驚いた。
「すごいじゃん早希! こんなにバスケがうまいなんて知らなかったよ!」

試合が終わって絵里香はすぐに早希に駆け寄った。


早希は額の汗を手の甲で拭って「私も、知らなかった」と、笑い声を上げた。
その表情はとても明るく、そしてとても楽しそうだ。

「私バスケ部に入ってみようかな」
「それがいいよ。足も早いから陸上でもいいかも」

「どうしよう、あれもこれもやってみたい」
早希目がキラキラと輝く。

運動ができるということだけで、これほどまで人の表情は変わるのだと絵里香は驚いた。


☆☆☆

それから放課後まではあっという間だった。
早希は沢山のクラスメートたちに囲まれて、体育での活躍を称賛された。

早希の噂を聞きつけたバスケ部の顧問が早希を見に来たくらいだ。
これは本当にバスケ部に入るかもしれない。

そうなるともっともっと早希の人生は輝くことだろう。
そうしてやってきた放課後に早希はどこか名残惜しそうな顔をしている。

「寂しそうな顔して、どうしたの?」
「1日の学校が終わることが寂しくて。もっとみんなと一緒にいたい」

早希がそんなことを言うなんて今まで1度もなかった。

みんなに次いていくことだけで精一杯で、学校を楽しむ余裕なんてなかったはずだ。


「それなら部活に入らなきゃ。早希がバスケ部に入るなら、私も一緒に入ろうかな」
「今更?」

「だって、帰宅部は飽きちゃったんだもん」
早希がいない放課後はどこか物足りなくて、だからさっさと帰るようにしていた。

だけどこれからはそれも変わってくるかもしれない。
そう思うと絵里香の胸は踊った。

だけどとにかく今日は約束場所へ行かなきゃいけない。
「友梨奈ちゃんがチョコレートを気に入ってくれてたらいいけど」

早希の関心はそちらへ移っていったのだった。
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