いぢわる王子様

西羽咲 花月

文字の大きさ
8 / 27

はじまり

しおりを挟む
うんと高い秋の空が、青々と輝いている。


少し冷たいと感じる空気に、紅葉が舞い落ちる小道。


呼吸をするたびに、もうすぐ訪れる冬の寒さを体の内側から感じ取ることができる。


そんな、ある日。


珍しくかかった虹の橋に目を奪われた私は、学校の昇降口の前で立ち止まった。


しっかりと、山から山へかかる虹の橋をどうしても携帯電話のカメラにおさめたくて何度目かのシャッターを押す。


「う~ん……」


が、光の反射でどうしても綺麗にはとれない。


ラスト、もう1回だけ。


そう思い、再び携帯電話をかかげた……その瞬間。


私の目の前に何か真っ黒なものが落ちてきた。


カメラに移った異物に首をかしげる暇なく、ガコンッ!!と何かが地面に当たる激しい音。


「なに!?」


慌てて携帯電話をしまい、見たものは……。


「ゴミ……箱?」


クラスにひとつ、必ず置いてある大き目のゴミ箱だった。


中のゴミが辺りにちらばっている。


なんで、ゴミ箱?


それが降って来た頭上を見上げるが、どこの教室の窓も開いてはいない。


けれど、ゴミ箱にはしっかりと1-Bと、クラス名が書かれている。


「私のクラスのじゃん」


間違いなく、それは私のクラスが使用しているものだったけれど、どうして落ちてきたのかは、さっぱりわからない。


困ってしまいその場に立ち尽くしていると、偶然体育の先生が通りかかった。


男の、筋肉質な先生だ。



「山本、なにしてる」


「先生……ゴミ箱が……」


降って来たんですけど。


と言って信じてもらえるかどうかと迷っていると、「なんだ、これはさっさと掃除しろ!!」と、頭ごなしに怒られてしまった。


「でもこれはっ!!」


「言い訳するな!」


言い訳じゃないってば!


そう思っても、掃除道具をズイッと突き出されると、それを素直に受け取ってしまった。


朝っぱらから、なんでこんな目にあうのよ……。


☆☆☆

クラスに入ると、まずは親友の律が大きく手を振りながらかけてくる。


いつもの光景だ。


「おはよう律。ねぇ、これ」


そう言ってさっき降って来たゴミ箱を差し出すと、律はキョトンとした顔をし、その後すぐに大声で笑い始めた。


「なに? なんでいきなりゴミ箱持ってんの!?」


確かに、かなり奇妙な光景だと思う。


けれど、私だって好きでゴミ箱を持ってるワケじゃない。


「さっき、降って来たのよ」


「降って来た?」


律に、ついさっきの出来事を身振り手振りで話して聞かせる。


律は、最初は興味深々に聞いていたのだけれど、途中からは首をかしげたり、鼻のあたまをかいたりし始めた。


「ちょっと、真剣に聞いてるの?」


「う~ん……だってさ、それ確かにこのクラス名が書いてあるけどさぁ」


そう言い、律は教室の後方を指差す。


そこには、いつも使っているゴミ箱が、ちゃんとあった。


「あれ!? 何で!?」


「何でって言われても、私もわかんない」


ヒョイッと肩をすくめる律とほっといて、私は教室にあるゴミ箱と、持っているゴミ箱を見比べてみた。


色も、形も、大きさも同じ。


1-Bと書かれている所も同じ。


けど……。


「文字が違う」


と、呟く。


私が持っている方のゴミ箱は、丸っこい女の子らしい文字。


けど、置いてある方は殴り書きで、ところどころインクがとれている。


使い古されている証拠だ。


「こりゃぁ、手のこんだいたずらだね」


隣でその様子を見ていた律が呟く。


いたずら……。


「どう見ても、碧の持ってるゴミ箱は真新しいよ。それにゴミをつめて、クラス名書いて上から落としたんだろうね」


「って……待ってよ。それってなんのために?」


「知らないよ。碧、あんた誰かに恨まれてるんじゃない?」


恨まれて……?


けど、ここまでされるほど嫌われた事なんかない。


ゴミ箱がもし当たってたら、大怪我をしたかもしれないのに。


考え込んでいる私に、律が横からわき腹をつついてきた。


「なに?」


「たとえばさ……S王子のファンから、とか」


と、楽しそうにニヤニヤと笑う。


その瞬間、ポンッと頭の中にすぐるの顔が浮かんだ。


私はそれをすぐにかき消し、「そんなことないよ」と、否定する。


「じゃぁさ、ゴミ、確認してみなよ」


「ゴミ?」


「そ。その中のゴミだよ」


私は、持っているゴミ箱に視線を落とした。


そういえば、この中に犯人のヒントがあるかもしれないんだ……。


私たちはチャイムが鳴る前の教室から、屋上へと続く階段の一番上へと移動した。


屋上への扉は普段閉められているため、滅多に生徒がこない場所だ。


「いくよ……」


私は一呼吸おいてから、ゴミ箱を逆さまにし、中のものを撒き散らした。


律がすぐにしゃがみこみ、ゴミをあさり始める。


はたから見たら、すごく奇妙な光景だろう。


「紙ばっかりだね」


パッと見ると、ゴミのほとんどがクシャクシャに丸められた紙だ。


けれど、律は首をかしげた。


「ホコリが付いてないよね」


「あ……」


そういえば、ゴミ箱をひっくり返したのに、小さなゴミやホコリが全く舞い上がらなかった。


私は、紙の一つを手でつまみあげ、カサカサと開いていく。


普通の紙より、大分しっかりした手触り。


「え……?」


次の瞬間、私は言葉を失った。


「どうしたの?」


そう言い、律が私の持っている紙を覗き込む。


「これっ!!」


驚いて目を見開き、口をパクパクさせる律。


うん。


私も同じ感じ。


だって、その紙は写真で、それで、そこに写っていたのは……。



私。


つい昨日の私。


窓際の席で、目を細めてまどろんでいる様子が、そのまま切り取られて、今手の中にある。


律が、他の紙も開いて確認を始めた。


嫌な予感が、胸を渦巻く。


友達が自分の陰口を言っている所を偶然聞いてしまったような、気持ち悪さ。


「これ、全部――」


「やめてっ!!」


律の言葉を、私は途中でさえぎった。


聞きたくない。


開いた写真たちが、律の手のひらからスルリと落ちた。


机にふせて眠っている私。


体育館でバレーボールをしている私。


帰り道、律と一緒にマクドナルドへ寄る私。


家の中へ入っていく私。


私。


私。


私。


私……私。


その中の一枚を、手に取った。


カタカタと、体が震える。


更衣室で、着替えをしている……下着姿の……私。


「碧……」


私は、その写真を思いっきり力を込めて破った。


細かく、細かく。


ビリビリと音を立てて小さくなる写真に、体の震えは更に強くなる。


どうして……?


なんで……?


「碧、落ち着いて」


律が、私の体を抱きしめてくれる。


「誰が……こんな……」


声も震えて、うまく言葉にならない。


どうすればいいか、わからない。


「ね、やっぱりS王子が関係してるって!」


呆然とする私に、律がそう言う。


けど、この声もどこか遠くで聞こえているようで、反応ができない。


どこをどう見ても、嫌がらせだ。


今までこんなこと、一度もなかった。


それなのに、すぐると付き合いはじめた次の日から、こんな――!



私は、散らばった写真を両手一杯に持って、それをゴミ箱の中へと戻した。


「こんな手の込んだ嫌がらせ、初めてだよ」


ハハハッ!


と、乾いた声を上げて笑う。


「碧、笑い事じゃないよ?」


わかってる。


わかってるよ?



でも、すぐるが昨日言ったんだ。


『何があっても、俺だけを信じてろ。


そして……俺のいない時に何かが起きても、絶対に負けるな――』


その後ね、苦しいくらいのキスをしてくれた。


あの言葉、きっとこうなることを知ってたんだと思う。


だからね、私……。


「碧」


その言葉にハッとして私と律は振り向いた。


階段の下ですぐるがこちらを見上げている。


「すぐる!?」


もうとっくの前にチャイムは鳴っている。


なのに、なんでこんなところにいるの?


困惑している私に、すぐるが近づいてきた。


咄嗟に、ゴミ箱を隠す。


「隠し切れてないんだよ」


そう言い、アッサリとすぐるに見つかってしまったゴミ箱。


「なんでもないよ」


慌てて、手を振る。


でも、そんなことで騙せれるすぐるではない。


半場強引に押しのけられて、ゴミ箱の中身を確認された。


「なんで隠す?」


ゴミ箱から顔を上げ、すぐるが言う。


目つきが、こわい。


「なんでって……」


そう言われても、うまい返事ができない。


「隠すな」


「……っ! すぐるが昨日、絶対に負けるなって――」


「馬鹿っ!! 負けるな、とは言ったけど、『隠せ』とは言ってないだろ!? こういうことは、全部言え! いいな?」


怒鳴るように言われて、一瞬体がすくむ。


けど、そんなすぐるの瞳は心配の色が見え隠れしていた。


あぁ、そっか。


すぐる、私のことをすごく心配してるんだ。


「……わかった」


コクンとうなづくと、ようやくすぐるはホッとしたように肩の力を抜き、微笑んだ……。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】純血の姫と誓約の騎士たち〜紅き契約と滅びの呪い〜

来栖れいな
恋愛
「覚醒しなければ、生きられない———       しかし、覚醒すれば滅びの呪いが発動する」 100年前、ヴァンパイアの王家は滅び、純血種は絶えたはずだった。 しかし、その血を引く最後の姫ルナフィエラは古城の影で静かに息を潜めていた。 戦う術を持たぬ彼女は紅き月の夜に覚醒しなければ命を落とすという宿命を背負っていた。 しかし、覚醒すれば王族を滅ぼした「呪い」が発動するかもしれない———。 そんな彼女の前に現れたのは4人の騎士たち。 「100年間、貴女を探し続けていた——— もう二度と離れない」 ヴィクトル・エーベルヴァイン(ヴァンパイア) ——忠誠と本能の狭間で揺れる、王家の騎士。 「君が目覚めたとき、世界はどう変わるのか......僕はそれを見届けたい」 ユリウス・フォン・エルム(エルフ) ——知的な観察者として接近し、次第に執着を深めていく魔法騎士。 「お前は弱い。だから、俺が守る」 シグ・ヴァルガス(魔族) ——かつてルナフィエラに助けられた恩を返すため、寡黙に寄り添う戦士。 「君が苦しむくらいなら、僕が全部引き受ける」 フィン・ローゼン(人間) ——人間社会を捨てて、彼女のそばにいることを選んだ治癒魔法使い。 それぞれの想いを抱えてルナフィエラの騎士となる彼ら。 忠誠か、執着か。 守護か、支配か。 愛か、呪いか——。 運命の紅き月の夜、ルナフィエラは「覚醒」か「死」かの選択を迫られる。 その先に待つのは、破滅か、それとも奇跡か———。 ——紅き誓いが交わされるとき、彼らの運命は交差する。

英雄魔術師様とのシークレットベビーが天才で隠し通すのが大変です

氷雨そら
恋愛
――この魔石の意味がわからないほど子どもじゃない。 英雄魔術師カナンが遠征する直前、フィアーナと交わした一夜で授かった愛娘シェリア。フィアーナは、シェリアがカナンの娘であることを隠し、守るために王都を離れ遠い北の地で魔石を鑑定しながら暮らしていた。けれど、シェリアが三歳を迎えた日、彼女を取り囲む全ての属性の魔石が光る。彼女は父と同じ、全属性の魔力持ちだったのだ。これは、シークレットベビーを育てながら、健気に逞しく生きてきたヒロインが、天才魔術師様と天才愛娘に翻弄されながらも溺愛される幸せいっぱいハートフルストーリー。小説家になろうにも投稿しています。

暴君幼なじみは逃がしてくれない~囚われ愛は深く濃く

なかな悠桃
恋愛
暴君な溺愛幼なじみに振り回される女の子のお話。 ※誤字脱字はご了承くださいm(__)m

カモフラ婚~CEOは溺愛したくてたまらない!~

伊吹美香
恋愛
ウエディングプランナーとして働く菱崎由華 結婚式当日に花嫁に逃げられた建築会社CEOの月城蒼空 幼馴染の二人が偶然再会し、花嫁に逃げられた蒼空のメンツのために、カモフラージュ婚をしてしまう二人。 割り切った結婚かと思いきや、小さいころからずっと由華のことを想っていた蒼空が、このチャンスを逃すはずがない。 思いっきり溺愛する蒼空に、由華は翻弄されまくりでパニック。 二人の結婚生活は一体どうなる?

モテ男とデキ女の奥手な恋

松田丹子(まつだにこ)
恋愛
 来るもの拒まず去るもの追わずなモテ男、神崎政人。  学歴、仕事共に、エリート過ぎることに悩む同期、橘彩乃。  ただの同期として接していた二人は、ある日を境に接近していくが、互いに近づく勇気がないまま、関係をこじらせていく。  そんなじれじれな話です。 *学歴についての偏った見解が出てきますので、ご了承の上ご覧ください。(1/23追記) *エセ関西弁とエセ博多弁が出てきます。 *拙著『神崎くんは残念なイケメン』の登場人物が出てきますが、単体で読めます。  ただし、こちらの方が後の話になるため、前著のネタバレを含みます。 *作品に出てくる団体は実在の団体と関係ありません。 関連作品(どれも政人が出ます。時系列順。カッコ内主役) 『期待外れな吉田さん、自由人な前田くん』(隼人友人、サリー) 『初恋旅行に出かけます』(山口ヒカル) 『物狂ほしや色と情』(名取葉子) 『さくやこの』(江原あきら) 『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい!』(阿久津)

明日のために、昨日にサヨナラ(goodbye,hello)

松田丹子(まつだにこ)
恋愛
スパダリな父、優しい長兄、愛想のいい次兄、チャラい従兄に囲まれて、男に抱く理想が高くなってしまった女子高生、橘礼奈。 平凡な自分に見合うフツーな高校生活をエンジョイしようと…思っているはずなのに、幼い頃から抱いていた淡い想いを自覚せざるを得なくなり…… 恋愛、家族愛、友情、部活に進路…… 緩やかでほんのり甘い青春模様。 *関連作品は下記の通りです。単体でお読みいただけるようにしているつもりです(が、ひたすらキャラクターが多いのであまりオススメできません…) ★展開の都合上、礼奈の誕生日は親世代の作品と齟齬があります。一種のパラレルワールドとしてご了承いただければ幸いです。 *関連作品 『神崎くんは残念なイケメン』(香子視点) 『モテ男とデキ女の奥手な恋』(政人視点)  上記二作を読めばキャラクターは押さえられると思います。 (以降、時系列順『物狂ほしや色と情』、『期待ハズレな吉田さん、自由人な前田くん』、『さくやこの』、『爆走織姫はやさぐれ彦星と結ばれたい』、『色ハくれなゐ 情ハ愛』、『初恋旅行に出かけます』)

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

冷酷総長は、彼女を手中に収めて溺愛の檻から逃さない

彩空百々花
恋愛
誰もが恐れ、羨み、その瞳に映ることだけを渇望するほどに高貴で気高い、今世紀最強の見目麗しき完璧な神様。 酔いしれるほどに麗しく美しい女たちの愛に溺れ続けていた神様は、ある日突然。 「今日からこの女がおれの最愛のひと、ね」 そんなことを、言い出した。

処理中です...