いぢわる王子様

西羽咲 花月

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王子の疑惑

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真っ白な天井が、まるで今の自分のようだった。


家に帰って、ベッドに寝頃がって、もう何時間もこうしている。


そろそろ親が帰ってくる時間なのに、起き上がることもできない。


『すぐるにとってあなたが特別なワケじゃないわ。勘違いしないであげてね?』


清子さんの言葉。


『碧、完全にS王子に惚れちゃってるじゃん』


律の言葉。


『清子のこと、責めないでやってほしいんだ』


すぐるの言葉。


そして……


『俺は、碧ちゃんが、好きだ』


誠先輩の言葉……。


ゴロンと寝返りを打って、枕に顔をうずめる。


今まで付き合ったことなんてなかった。


告白されたことなんて、なかった。


なのに、この数週間に2人の人に告白されて、キスされて、イヤガラセまで受けて……。


「もう、わかんない」


色々ありすぎて、どうすればいいかわからない。


何も考えられない。


また悲しくなって、涙が出る。


普通、こういうとき彼氏がいたら電話とかメールとかして慰めてもらうんだろうな……。


そう思い、机の上の携帯電話を見る。


そういえば、私からすぐるに電話とかしたことなかったっけ。


すぐるは、今日みたいに毎日放課後にメールをしてくれていた。


私は、それに返事をするだけ。


でも、すぐるの事で傷ついてるのに、本人に電話するなんておかしいよね……。


鼻をグスグスとすすりあげ、ノッソリとなまけもののように起き上がる。


「とりあえず、着替えなきゃ」


いまだに体操服のままなのに気づき、部屋着へと着替える。


もちろん、のそのそと、時間をかけて。



黒いジャージに着替えると、私は携帯電話を手にとって机の椅子に座った。


画面を開き、《すぐる様》のアドレスを出す。


どうしよう、今電話しても大丈夫かな?


初めて、異性に電話をする。


しかも、彼氏にだ。


緊張して、なかなか決心が付かない。


彼女なのだから電話くらい普通にすればいいのだけど、どうしても躊躇してしまう。


すぐるの番号を目の前にして、ボタン一個がなかなか押せない。


その、もどかしい気持ちを吹き飛ばすように、私はギュッと目をとした。


帰り際の、清子さんを擁護するような言葉の意味だって、ちゃんと聞かなきゃいけない。


そのまま大きく息を吐き出し、ボタンを押した。


すぐに呼び出し音が聞こえてくる。


私は自分を落ち着けるように深呼吸をしながら、すぐるが出るのを待った。


そして……。


数コール目で、相手が取った。


『もしもしぃ?』


聞こえてきた少しけだるそうな女の声に、心臓が飛び上がる。


「……もしもし?」


『はいはい? だれぇ?』


「あの……すぐるは……」


『すぐる? あぁ、今ねぇシャワー浴びてるけどぉ?』


シャワー!?


相手の言葉に、私は思わず電話を切ってしまった。


手が、細かく震える。


すぐるの家でみた、沢山の写真を思い出す。


もしかして、あの子たちの誰か……?


嫌な予感が、胸をよぎる。


私は、携帯画面に視線を落とした。


もう一度、かけてみようか?


でも、それでまた女の人が出たら?


迷っていると、余計にリダイヤルできなくなる。


『何があっても、俺だけを信じてろ』


すぐるの、あの言葉が、すごく遠い――。


☆☆☆

ずいぶん日の傾いた公園は誰もいなくてさびしかった。


けど、きっとこの光景よりも私の心の中の方がさびしいんだろうな。


今の私は、昼間の月みたいだ。


ずっとそこにいるのに、ほとんどの人がその存在に気づかない。


そんな、月みたいだ……。


「碧!!」


律の声に、私は振り向く。


「律……」


悲しいハズなのに、笑顔がこぼれた。


「碧、大丈夫?」


「うん。なんとか」


結局、私は律に連絡したのだ。


律はすぐに行くからと行って、近くの公園で待ち合わせをした。


まるで、律が彼氏みたいだ。


「女の人の声って、誰なのか確認はしてないんでしょ?」


「うん……。でも、『シャワー浴びてる』とか言われちゃったから」


「そんな……それじゃまるで――」


言いかけて、律は口を閉じた。


私の隣に座って、ジッと地面をにらみつけている。


「ね? まるで、浮気現場って感じだよね」


律の言葉の後を、私は笑いながら続けた。


「碧……」


「大丈夫だよ? でも、一気に色んなことがありすぎて頭の中はグチャグチャかな……。

それにね、今日誠先輩に告白されたんだ」


私の言葉に、律が「はぁ!?」と、声を上げる。


「『はぁ!?』だよね? 私も、急すぎてビックリしちゃって」


「あんた、それってどうするの?」


私は、首を傾げて見せた。


どうするといわれても、自分でもわからない。


そんなにすぐに出せるような答えでもない。


「けどさ、おかしいよねぇ……」


律が、首をかしげる。


「何が?」


「S王子。噂と全然違う」


あ、そういえば律はすぐるのこと最初から知ってたんだっけ。


「噂って、どんな?」


「うん。好きになった子には、かなり一途で、俺様な態度取るんだって」


俺様っていうのは、確かに合ってると思う。


けど、一途っていわれると……。


「そういえば、私契約させられたんだ」


「契約?」


「そう。名前で呼ぶ事と、すぐるだけを信じる事。

それと……すぐるがいない場所で何かがあっても、負けるなって」


私の言葉に律が何度かうなづく。


「なにそれ? 嫌がらせされちゃうこと、最初からわかってたみたいじゃない」


「うん……。そうみたい……」


なのに、犯人である清子さんを責めるなと言った……。


「すぐるの気持ち、全然わかんない」


私が言うと、律も真剣な表情でため息をついた。


彼女である私が理解できないことを、律が理解できるわけがない。

「碧、ちゃんと『好きだ』って言われたんでしょ?」


「え……?」


キョトンとして、律を見つめる。


「もしかして、言われてないの……?」


言われて、ない。


付き合うって形にはなってるけど、好きだとか、すぐるの気持ちは何も聞いてない。


「でも……私も、すぐるには『好き』って言ってないし」


「『言ってないし』なに? 碧が言ってないのは当たり前でしょ? だってS王子のこと知りもしなかったんだから」


あ……。


そうだよね。


突然付き合おうと言ってきた、すぐる。


突然だけど、ちゃんと好きだと告白してくれた、誠先輩。


2人の顔が、浮かんでは消え、浮かんでは消える。


「律……」


「うん?」


「私、ちゃんとすぐるに好かれてるよね?」


胸の中に不安が一杯につのり、すがるような思いで律にたずねる。


けれど、律の口から出たのは表面上だけの、なぐさめの言葉なんかじゃなかった。


「正直、碧は振り回されてるだけに見えるよ」


一言一言が、小さな針となって突き刺さる。


けど、これは受け止めなきゃいけない言葉なんだ……。


律は、私のためを思って言ってくれてる。


「碧の話聞いてたら、なんで付き合ってるのかも、わからないよ」


返す言葉が、なかった。



「さっきの電話の事もそうだけどさ。本当は切らずにその女と話すべきだったと思うよ」





「逃げてちゃ、ダメだよ――」
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