いぢわる王子様

西羽咲 花月

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契約違反の

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律に背中を押された私は、もうすっかり暗くなった道を一人で歩いていた。


目指すは、すぐるの家。


車で10分だけど、歩いたら30分はかかる。


早足で歩いていると、体がポカポカと温かくなり、寒さには困らなかった。


早く、すぐるに会いたい。


会って、話がしたい。


けど……こわい。


もし、あの電話の人が本当に浮気相手だったりしたら、どうしよう?


なんて聞けばいいんだろう?


不安は募るばかりだが、それを見てあざ笑うかのように大きな家が見えてきた。


心臓が、苦しい。


恋愛って、こんなに苦しいものなんだ。


恋しか経験のない私は、いつも恋愛にあこがれていた。


いつも2人でいるんだから、幸せに決まってる。


ケンカしたっていいじゃない。付き合ってるんだから。


そんな考え方しか、できなかった。


本当に付き合うってことが、どれだけ苦しいか、今ようやく理解した。


玄関の前まできて、呼吸を整える。


ドキン。


ドキン。


と、すぐるに抱きしめられたときと同じように、心臓が音を立てる。


そして、私はチャイムを鳴らした……。



「はい?」


中から出てきたのは、背の高い40代半場くらいの女の人だった。


すぐるのお母さんかな?


「あの、私山本碧といいます。すぐる……君はいらっしゃいますか?」


背筋をピンッと伸ばし、まるで片言の日本語のようにぎこちなく聞く。


「あぁ、さっきの電話の子ね?」


「え……?」


「ごめんなさいねぇ。電話とったの、私なの」


そう言い、口元に手を当てて上品に笑う。


あの電話の声って、すぐるのお母さん!?


そうと知ると、急に体中の力が抜ける。


「あんまり若い声だったから、私……てっきり……」


ヘナヘナとその場へ座り込む私に、慌てて手を差し伸べてくれる。


「あら、若いだなんてありがとう。私はすぐるの母親なの」


その手を借りて、なんとか起き上がる私。


心配して、損した!


「すぐる、今呼んでくるわね」


「はい……」


とりあえず心配事が一つなくなり、私はホッと息を吐き出した。


けど、問題はまだ解決していない。


とにかく、すぐるの本当の気持ちを聞かなきゃ!



しばらくすると、寝癖をつけたすぐるが出てきた。


あれ?


もしかしてもう寝てたのかな。


「ごめんね。寝てた?」


「いや、ちょっと昼寝してただけだ」


大きなアクビを一つして、眠そうに目をこする。


なんか、可愛い。


いつものキツイ目とは違い、トロンとした目つきは日向ぼっこ中の猫みたい。


「すぐるに、聞きたい事があってきたの」


「聞きたいこと?」


「うん」


「とりあえず上がれよ」


すぐるの部屋に通されると、以前来た時と変わらない光景がそこにあった。


真新しく買い換えたマンガ本が、元通りに並べられている。


パタンと、背中でドアが閉められる音がしたとたん、私は後ろからすぐるに抱きしめられた。


「ちょっと、すぐる」


「碧。今日本当に大丈夫だった?」


「え?……あぁ、うん」


うなづく私の頭を、すぐるがこぶしで軽く叩いた。


「痛っ!!」


「お前が強いのは知ってるけど、俺の前では強がるなよ」


そう言い、私の体をトンッと押してベッドに座らせた。


まだ、布団が暖かい。


すぐるは私の隣に座り、突然、キスをしてきた。


すぐるのキスには少しはなれたけど、雰囲気もなにもない中で突然されるのは焦る。


慌てて身を離そうとしたけれど、そのままベッドへ押し倒されてしまった。


この状況、パーティーの時と同じ……。


すぐるが唇を離してくれなくて、抵抗ができない。


わざとらしくチュッと音を立ててキスを繰り返すすぐるに、私は体が火照り、力が抜ける。


すぐるの唇が、私の唇から離れ、そのかわり首筋に当たった。


「すぐるっ!!」


流されてしまいそうになる手前で、ようやく私はすぐるの体を押しのけた。


「なに?」


すぐるは、止められて不機嫌そうな声を出す。


「聞きたいことがあるんだってば」


「あぁ、そうだっけ?」


早くも、私がここに来た目的を忘れている。


「ちゃんと、私の話聞いて?」


「わかった」


そう言うと、すぐるは机の椅子に座った。


「あのね……」


けれど、いざ話すとなると勇気がいる。


モジモジと手悪さをし、うつむく。


まるで、怒られた小学生みたいだ。


「どうした?」


すぐるが、私の顔を覗き込む。


「すぐる……」


「うん?」


「私のこと、どう思ってるの?

すぐる、一度も『好き』とか言ってくれてないよね?
私、振り回されてるだけなのかなって思って」


勇気を出して、思っていた事を一気に吐き出す。


そして……沈黙が流れた。


すぐるからの返事がない。


私は、恐る恐る顔を上げてみた。


「すぐる?」


そこには、いつにも増して冷たく、キツイ顔のすぐるがいた。


なに?


なんでそんなに怖い顔してるの?


私、なんか悪いこと言った!?


「碧」


「え?」


「俺が、碧をどう思ってるか知りたいか?」


「うん……」


うなずく私に、すぐるは大きなため息を吐き出した。


「俺が、好きでもない女を恋人にするとでも思ったか?」


え?


だって……。


「好きでもない女を保健室に連れ込んで、キスすると思うのか?」


「だって、すぐる……。色々噂があるみたいだしっ!」


っていうか、怖いよ。


そんな、にらまないでよ。


「契約違反」


突然、すぐるがそう言った。


「え?」


「契約。『俺の事だけ信じてろ』」


あっ!!


今更思い出しても、もう遅い。


次の瞬間、すぐるは私の体をベッドへ押さえつけていた。


「いちいち噂に流されてんじゃねぇよ馬鹿」


そう言って、すぐるは私の首筋に小さなキスマークをひとつつけた。


「契約違反、1回な」


それだけ言うと、満足したように私の体を開放した。


待って……首筋ってかなり目立つんだけど!!


鏡を取り出して必死にキスマークを確認する私に、すぐるは更なる契約を言い渡した。


「契約違反のキスマークが3つついたら、罰を行う」


「ば……つ?」


って、どんな??


「嫌なら頑張って守るんだな」


すぐるはそう言って、ニヤリと笑った……。

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