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秋祭りとS王子
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それから、1週間ほどがたった頃。
近所ではお祭りが始まっていた。
土曜日から2日間、この辺では大きな秋祭りが開催されるのだ。
そして、私たち西雅高校の生徒は全員参加が原則とされている。
1-B組は、フライドポテト担当。
で、すぐるの1-E組は……そこから大分離れた場所でスーパーボールすくいをしている。
「碧~、油温まったよぉ」
ハッピ姿の律が、そう言う。
「オッケ~」
私は、冷凍ポテトの袋を破いていく。
まだ祭りが始まったばかりだけど、もう沢山の人が集まってきていて、屋台の前の道が埋まり始めていた。
「ねぇ、碧。S王子とはどうなったの?」
「あぁ、うん。一応はすぐるの気持ち聞けたよ」
少し照れながらそう言うと、律は「何て? 何て?」と、興味津々に聞いてくる。
本当に、人の事となるとすぐに首を突っ込みたがるし、詮索したがる性格だ。
「怒られちゃった」
「え?」
「『好きでもない女を恋人にすると思ったのか』……って」
そう言うと、律はポテトの袋をキュッと胸で握り締め「きゃ~っ!!」と、黄色い声を上げた。
「いいなぁいいなぁ碧。S王子に愛されてんじゃん!!」
そう言い、バシバシと背中を叩かれる。
愛されてる……。
ジンワリと心の中に広がり、ポッと頬がばら色に染まるような言葉だ。
うん。
そうかも。
私、すぐるに愛されてるかも。
「あ……そっか、だから?」
「うん?」
律が、意味深かげな表情に私をマジマジを見てくる。
な、なに?
キョトンとしていると、律が私の首筋を指差してきた。
「これ。この時期に虫にかまれたりはしないよなぁって、ずっと気になってたんだけど」
「虫……?」
一瞬、何のことか理解できずに首をかしげる。
しかし、次の瞬間、思い出した!
すぐるにつけられたキスマーク!!
まだクッキリと残っていたのだ。
咄嗟にその場所を手でかくし「何でもないよ」と言いながら、ポテトを揚げる。
油がジュワッと音を立てて、おいしそうな香りがフンワリと広がる。
「碧~! ごまかすな!!」
「ちょっ律、油使ってるんだから危ないってば!!」
私の腰をくすぐってくる律に、私はじゃれる。
ポテトも、油の中でおいしそうな狐色になりつつある、その時だった。
「碧さん」
聞きなれたその声に、私はビクッと体を縮める。
「清子さん……」
振り向くと、屋台の裏に清子さんが立っていた。
すごく、険しい表情で。
「なに?」
私は、強気でそう聞き返した。
すぐるの、『契約違反のキスマークが3つついたら、罰を行う』というあの言葉をしっかりと覚えていたから。
「あなた、まだすぐると一緒にいるのね」
『呆れた』
そんな言葉が語尾に隠れているような、ため息を吐いた。
律が、私のかわりにせっせとポテトを揚げていく。
客に出すときに、もう一度サッと揚げなければならないから、手を休めている暇がないのだ。
「そうだけど?」
私は、清子さんをまっすぐに見つめ返した。
すると、清子さんは軽く笑みを作った。
小ばかにして、人を見下すような笑顔だ。
私は、その嫌味な笑顔を真正面から受け止めながら、ギュッとこぶしを作った。
胸やけがするような、嫌な感じ。
自分の中の、ドロドロとした黒い感情が、清子さんによって表へ出てしまいそうになる。
「それが、どうかした?」
負けたくなくて、そう聞き返す。
「別に? すぐるも、かわいそうだと思って」
「……かわいそう?」
私は、眉をよせて首をかしげる。
なに、言ってるの?
清子さんは突然私の手首をつかみ、屋台の中から引っ張りだした。
火の暖かさがなくなり、急に体温が下がっていく。
「すぐるにはね」
「なによ」
「イイナズケがいるのよ」
……え?
清子さんの言葉が、私の中を通りぬける。
「い……い……?」
唖然として、言葉が出ない。
いいなずけ。
……許婚。
何度その言葉を繰り返しても、理解できない。
「だから言ったでしょ? すぐるにとってあなたは特別なワケじゃないって。
私、碧さんにいじわるで言ってるわけじゃないのよ? すぐるに溺れれば溺れるほど、後で傷つくのは碧さんよ」
そんな……。
そんな事、いきなり言われたって……。
本当は、清子さんの言葉にかなり動揺していた。
あれほど幸せだった気持ちが、一瞬にして消えていく。
だけど……私は、笑った。
清子さんが、少し驚いたように目を丸くする。
驚いた表情も、とても綺麗な人だった。
「私は、すぐるを信じてるから」
『俺の事だけ信じてろ』あの契約を、信じてるから。
私は、それだけ言うと屋台の中へと戻った。
「碧、大丈夫だった?」
律が、心配して聞いてくる。
私は満面の笑みを浮かべて、「うん!」と、頷いた――。
☆☆☆
私たちのフライドポテトの屋台は、なかなかの人気だった。
他にも同じものを売っている屋台は沢山あるのだけど、学生が売っているということで、近所のおばさんたちが顔を見に買いに来てくれることが多かった。
「頑張ってね」
「おいしいよ」
そんな言葉をかけてくれると、こちらも自然と暖かい気持ちになる。
ポテトを揚げて自分自身が脂っこくなりながらも、私のさっきまでの黒い感情は薄れて行っていた。
人の言葉ってすごい。
心の色まで変えてしまう力があるんだから。
「山本と清原、交代だ」
しばらくすると、生徒たちの屋台を回っていた先生が帰ってきて、私と律にそう言った。
やった!
やっと他の屋台も見てまわれる。
2時間交代なので、今から2時間はお祭りを楽しめる。
すっかり油の匂いがしみついたハッピとエプロンを脱ぎ捨てて、私と律はさっそく屋台めぐりを始めた。
この辺一体は西雅高校の屋台がズラリと出ている。
「律、私すぐるのところに行ってみるね」
「おう! ラブってこい!!」
ガハハハと、豪快な笑い声を上げて私の背中を押した。
すぐるの屋台に行く前に、私は他のクラスからイチゴ飴を2つ買った。
やっぱり、屋台といえばこれ食べなきゃね。
本当はリンゴ飴の方が好きなのだけど、大きすぎて結局最後まで食べきることができない。
なので、買うのは必ずイチゴ飴にしていた。
「すぐる!」
食べ物の屋台がひしめき合う中で、子供たちが何人か座り込み熱中している。
スーパーボールすくいの屋台だ。
「碧、もう交代か?」
「うん」
そう言いながら、私は勝手に屋台の中にお邪魔する。
ブルーのハッピ姿のすぐるも、カッコイイ。
「はい、イチゴ飴」
「イチゴ飴?」
「うん。屋台といえばこれでしょ?」
そう言い、私はすぐるに飴を差し出した。
すぐるはそれを受け取り、それからフッと息が抜けるような笑顔をこぼした。
「どうしたの?」
「いや、なんか、懐かしくてな」
「懐かしい?」
「あぁ。これ好きなヤツがいてさ」
少し、遠くを見つめるようにしてイチゴ飴を見るすぐる。
私じゃない、誰かを見ているような態度に、さっきの清子さんの言葉を思い出す。
『イイナズケ』……。
なんだかんだと強がってみても、気にならないワケがない。
「ねぇ、それってさ――」
「お、いっぱい取れたなぁ」
私の言葉に気づかず、すぐるが子供の取った色とりどりのスーパーボールを透明な袋に入れていく。
「碧」
「え?」
「これやる」
そう言って、すぐるは水に流れている透明なボールを一個指でつまんで、私に差し出してきた。
「キレイ……」
透明なボールは水に濡れてキラキラと輝き、まるで宝石のようだった。
「それ、光に向けて覗き込んでみ?」
言われたとおり、私は太陽の方に向いてボールを覗き込んでみた。
そこには……。
「わっ!!」
ハートマークが、ボールの中に浮かび上がってきた。
「な? 綺麗だろ」
「なにこれ? なんで!?」
「さぁ? 普通に見ただけだとそのハートマークは見えない。けど、光に当てて覗き込むと見えるんだ」
「くれるの?」
「さっきそう言っただろ」
すごい、うれしい!!
「碧。俺の気持ちが不安だったら、これを見ろ」
「え?」
「俺の碧への気持ちは、いつでもこの中にある通りだ」
ドキン。
真剣な表情をして、すぐるはそう言った……。
☆☆☆
すぐると過ごす2時間は、あっという間だった。
辺りはずいぶん薄暗くなり、もうすぐ花火が上がる。
「碧、S王子の所に行ったきり戻ってこないんだからっ!!」
プリプリと頬を膨らませる律に、「ごめんごめん」と、苦笑いする。
スカートのポケットには、あのスーパーボール。
すぐるの言葉を思い出すと、自然と笑みがあふれ出す。
「なんか幸せそうだしぃ」
笑顔のままの私に、今度は唇を尖らせる。
「律は、幸せじゃないの?」
「だって……。なんか最近碧ばっかりモテてるしさ」
確かに、私と律なら律の方が可愛い。
目は私の2倍は大きいし、足は細くてきれいだ。
今までモテていたのも、当然律の方。
「律は、いい人いないの?」
私は、再びポテトを揚げながら聞いた。
すると、律は軽く俯き「気になる人なら……」と、呟いた。
「え!? うそ!?」
てっきり今は全然そんな話はないと思っていた。
自分の事ばかりが頭の中で一杯で、律の片思いを見抜けなかったのだ。
「誰? 誰誰誰!?」
「あっ……」
私の質問に答える前に、律は目の前に立った人物に頬を染めた。
ん?
律の視線を追うと……誠先輩!!
お客としてたっている誠先輩に、私は慌てふためく。
「いらっしゃいませ」
律の、いつもより数段女の子らしい声が隣から聞こえてくる。
「ポテト一つ頂戴」
「はい」
頬を軽く染めて、手際よくポテトに塩を振り掛ける。
律……もしかして……?
「ありがとう。碧ちゃん、頑張ってね」
誠先輩は律からポテトを受け取り、私に声をかけてから背を向けた。
律は、その後姿を見つめている。
恋してます。って、瞳で……。
近所ではお祭りが始まっていた。
土曜日から2日間、この辺では大きな秋祭りが開催されるのだ。
そして、私たち西雅高校の生徒は全員参加が原則とされている。
1-B組は、フライドポテト担当。
で、すぐるの1-E組は……そこから大分離れた場所でスーパーボールすくいをしている。
「碧~、油温まったよぉ」
ハッピ姿の律が、そう言う。
「オッケ~」
私は、冷凍ポテトの袋を破いていく。
まだ祭りが始まったばかりだけど、もう沢山の人が集まってきていて、屋台の前の道が埋まり始めていた。
「ねぇ、碧。S王子とはどうなったの?」
「あぁ、うん。一応はすぐるの気持ち聞けたよ」
少し照れながらそう言うと、律は「何て? 何て?」と、興味津々に聞いてくる。
本当に、人の事となるとすぐに首を突っ込みたがるし、詮索したがる性格だ。
「怒られちゃった」
「え?」
「『好きでもない女を恋人にすると思ったのか』……って」
そう言うと、律はポテトの袋をキュッと胸で握り締め「きゃ~っ!!」と、黄色い声を上げた。
「いいなぁいいなぁ碧。S王子に愛されてんじゃん!!」
そう言い、バシバシと背中を叩かれる。
愛されてる……。
ジンワリと心の中に広がり、ポッと頬がばら色に染まるような言葉だ。
うん。
そうかも。
私、すぐるに愛されてるかも。
「あ……そっか、だから?」
「うん?」
律が、意味深かげな表情に私をマジマジを見てくる。
な、なに?
キョトンとしていると、律が私の首筋を指差してきた。
「これ。この時期に虫にかまれたりはしないよなぁって、ずっと気になってたんだけど」
「虫……?」
一瞬、何のことか理解できずに首をかしげる。
しかし、次の瞬間、思い出した!
すぐるにつけられたキスマーク!!
まだクッキリと残っていたのだ。
咄嗟にその場所を手でかくし「何でもないよ」と言いながら、ポテトを揚げる。
油がジュワッと音を立てて、おいしそうな香りがフンワリと広がる。
「碧~! ごまかすな!!」
「ちょっ律、油使ってるんだから危ないってば!!」
私の腰をくすぐってくる律に、私はじゃれる。
ポテトも、油の中でおいしそうな狐色になりつつある、その時だった。
「碧さん」
聞きなれたその声に、私はビクッと体を縮める。
「清子さん……」
振り向くと、屋台の裏に清子さんが立っていた。
すごく、険しい表情で。
「なに?」
私は、強気でそう聞き返した。
すぐるの、『契約違反のキスマークが3つついたら、罰を行う』というあの言葉をしっかりと覚えていたから。
「あなた、まだすぐると一緒にいるのね」
『呆れた』
そんな言葉が語尾に隠れているような、ため息を吐いた。
律が、私のかわりにせっせとポテトを揚げていく。
客に出すときに、もう一度サッと揚げなければならないから、手を休めている暇がないのだ。
「そうだけど?」
私は、清子さんをまっすぐに見つめ返した。
すると、清子さんは軽く笑みを作った。
小ばかにして、人を見下すような笑顔だ。
私は、その嫌味な笑顔を真正面から受け止めながら、ギュッとこぶしを作った。
胸やけがするような、嫌な感じ。
自分の中の、ドロドロとした黒い感情が、清子さんによって表へ出てしまいそうになる。
「それが、どうかした?」
負けたくなくて、そう聞き返す。
「別に? すぐるも、かわいそうだと思って」
「……かわいそう?」
私は、眉をよせて首をかしげる。
なに、言ってるの?
清子さんは突然私の手首をつかみ、屋台の中から引っ張りだした。
火の暖かさがなくなり、急に体温が下がっていく。
「すぐるにはね」
「なによ」
「イイナズケがいるのよ」
……え?
清子さんの言葉が、私の中を通りぬける。
「い……い……?」
唖然として、言葉が出ない。
いいなずけ。
……許婚。
何度その言葉を繰り返しても、理解できない。
「だから言ったでしょ? すぐるにとってあなたは特別なワケじゃないって。
私、碧さんにいじわるで言ってるわけじゃないのよ? すぐるに溺れれば溺れるほど、後で傷つくのは碧さんよ」
そんな……。
そんな事、いきなり言われたって……。
本当は、清子さんの言葉にかなり動揺していた。
あれほど幸せだった気持ちが、一瞬にして消えていく。
だけど……私は、笑った。
清子さんが、少し驚いたように目を丸くする。
驚いた表情も、とても綺麗な人だった。
「私は、すぐるを信じてるから」
『俺の事だけ信じてろ』あの契約を、信じてるから。
私は、それだけ言うと屋台の中へと戻った。
「碧、大丈夫だった?」
律が、心配して聞いてくる。
私は満面の笑みを浮かべて、「うん!」と、頷いた――。
☆☆☆
私たちのフライドポテトの屋台は、なかなかの人気だった。
他にも同じものを売っている屋台は沢山あるのだけど、学生が売っているということで、近所のおばさんたちが顔を見に買いに来てくれることが多かった。
「頑張ってね」
「おいしいよ」
そんな言葉をかけてくれると、こちらも自然と暖かい気持ちになる。
ポテトを揚げて自分自身が脂っこくなりながらも、私のさっきまでの黒い感情は薄れて行っていた。
人の言葉ってすごい。
心の色まで変えてしまう力があるんだから。
「山本と清原、交代だ」
しばらくすると、生徒たちの屋台を回っていた先生が帰ってきて、私と律にそう言った。
やった!
やっと他の屋台も見てまわれる。
2時間交代なので、今から2時間はお祭りを楽しめる。
すっかり油の匂いがしみついたハッピとエプロンを脱ぎ捨てて、私と律はさっそく屋台めぐりを始めた。
この辺一体は西雅高校の屋台がズラリと出ている。
「律、私すぐるのところに行ってみるね」
「おう! ラブってこい!!」
ガハハハと、豪快な笑い声を上げて私の背中を押した。
すぐるの屋台に行く前に、私は他のクラスからイチゴ飴を2つ買った。
やっぱり、屋台といえばこれ食べなきゃね。
本当はリンゴ飴の方が好きなのだけど、大きすぎて結局最後まで食べきることができない。
なので、買うのは必ずイチゴ飴にしていた。
「すぐる!」
食べ物の屋台がひしめき合う中で、子供たちが何人か座り込み熱中している。
スーパーボールすくいの屋台だ。
「碧、もう交代か?」
「うん」
そう言いながら、私は勝手に屋台の中にお邪魔する。
ブルーのハッピ姿のすぐるも、カッコイイ。
「はい、イチゴ飴」
「イチゴ飴?」
「うん。屋台といえばこれでしょ?」
そう言い、私はすぐるに飴を差し出した。
すぐるはそれを受け取り、それからフッと息が抜けるような笑顔をこぼした。
「どうしたの?」
「いや、なんか、懐かしくてな」
「懐かしい?」
「あぁ。これ好きなヤツがいてさ」
少し、遠くを見つめるようにしてイチゴ飴を見るすぐる。
私じゃない、誰かを見ているような態度に、さっきの清子さんの言葉を思い出す。
『イイナズケ』……。
なんだかんだと強がってみても、気にならないワケがない。
「ねぇ、それってさ――」
「お、いっぱい取れたなぁ」
私の言葉に気づかず、すぐるが子供の取った色とりどりのスーパーボールを透明な袋に入れていく。
「碧」
「え?」
「これやる」
そう言って、すぐるは水に流れている透明なボールを一個指でつまんで、私に差し出してきた。
「キレイ……」
透明なボールは水に濡れてキラキラと輝き、まるで宝石のようだった。
「それ、光に向けて覗き込んでみ?」
言われたとおり、私は太陽の方に向いてボールを覗き込んでみた。
そこには……。
「わっ!!」
ハートマークが、ボールの中に浮かび上がってきた。
「な? 綺麗だろ」
「なにこれ? なんで!?」
「さぁ? 普通に見ただけだとそのハートマークは見えない。けど、光に当てて覗き込むと見えるんだ」
「くれるの?」
「さっきそう言っただろ」
すごい、うれしい!!
「碧。俺の気持ちが不安だったら、これを見ろ」
「え?」
「俺の碧への気持ちは、いつでもこの中にある通りだ」
ドキン。
真剣な表情をして、すぐるはそう言った……。
☆☆☆
すぐると過ごす2時間は、あっという間だった。
辺りはずいぶん薄暗くなり、もうすぐ花火が上がる。
「碧、S王子の所に行ったきり戻ってこないんだからっ!!」
プリプリと頬を膨らませる律に、「ごめんごめん」と、苦笑いする。
スカートのポケットには、あのスーパーボール。
すぐるの言葉を思い出すと、自然と笑みがあふれ出す。
「なんか幸せそうだしぃ」
笑顔のままの私に、今度は唇を尖らせる。
「律は、幸せじゃないの?」
「だって……。なんか最近碧ばっかりモテてるしさ」
確かに、私と律なら律の方が可愛い。
目は私の2倍は大きいし、足は細くてきれいだ。
今までモテていたのも、当然律の方。
「律は、いい人いないの?」
私は、再びポテトを揚げながら聞いた。
すると、律は軽く俯き「気になる人なら……」と、呟いた。
「え!? うそ!?」
てっきり今は全然そんな話はないと思っていた。
自分の事ばかりが頭の中で一杯で、律の片思いを見抜けなかったのだ。
「誰? 誰誰誰!?」
「あっ……」
私の質問に答える前に、律は目の前に立った人物に頬を染めた。
ん?
律の視線を追うと……誠先輩!!
お客としてたっている誠先輩に、私は慌てふためく。
「いらっしゃいませ」
律の、いつもより数段女の子らしい声が隣から聞こえてくる。
「ポテト一つ頂戴」
「はい」
頬を軽く染めて、手際よくポテトに塩を振り掛ける。
律……もしかして……?
「ありがとう。碧ちゃん、頑張ってね」
誠先輩は律からポテトを受け取り、私に声をかけてから背を向けた。
律は、その後姿を見つめている。
恋してます。って、瞳で……。
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