いぢわる王子様

西羽咲 花月

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今へつながる過去

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今から2年前の秋。


真っ白な病室で、すぐると清子さんが隣り合って座っている。


その視線の先には、ベッドに寝転ぶ1人の少女。


少女の肌は白く不健康なほどに細い。


折れてしまいそうな体とは裏腹に、明るい笑い声が響き渡る。


「弥生」


すぐるが、ベッドの上の少女へ声をかける。


「なぁに?」


「暖かくなったら、また桜を見に行こうな」


そう言って、すぐるは一枚の写真を取り出した。


本に挟まっていた、あの写真だ。


「あの桜、キレイだったよね。今度は清子も一緒に行こうよ」


「えぇ~? 私も?」


「嫌なの?」


「だって、2人のお邪魔にはなりたくないし」


と、清子さんは軽く頬を膨らませる。


まだ幼い顔の清子さんに、今の冷たさは見当たらない。


「ねぇ……」


弥生さんが、外の枯れ木へと視線を移す。

「もし……ね」


「どうした?」


「もし……桜の季節まで私が生きられなかっったら」


「何言ってんだよ」


すぐると清子さんの表情が、一瞬にして固くなる。


「そのときは……清子」


「え?」


「すぐるを、お願いね?」


弥生さんは相変わらず外へ目を向けたままで、その表情が伺えない。


清子さんの目の中が、微かにうるんだ。


そして、無理矢理笑顔をつくると、「そういえば、今日はお祭りだね!」と、話題を変えた。


「あぁ、そうだったな。ここからでも花火は見えるぞ」


と、すぐるが窓の外へ目をやる。


「弥生、何か食べたいものないか?」


「え?」


すぐるの言葉に弥生さんが振り向く。


少しだけ、目が充血しているのが見えた。


「すぐ近くだし、屋台で買ってきてやる」


「本当?」


弥生さんの表情が、パァッと晴れた。


「じゃぁ、イチゴ飴! 私、イチゴ飴が食べたい」


「言うと思ったよ」


すぐると、清子さんと……そして弥生さんの笑い声が聞こえていた……。


☆☆☆

3人が笑いあっていたのは、ほんの数時間前。


病院の廊下には、イチゴ飴を持ったすぐるがベンチに座っていた。


隣には、泣きじゃくる清子さんの姿。


外はもう真っ暗で、花火の音が遠くから聞こえてくる。


『ここからでも花火は見えるぞ』


すぐるは自分の言葉を思い出し、ギュッと下唇をかみ締めた。


「弥生……花火が見えるぞ」


廊下の端にある大きな窓から、外を眺める。


「すっげぇ……キレイだぞ」


すぐるの声が、か細く震える。


手の中のイチゴ飴も、それに合わせて震えた。


弥生さんが寝かされているベッドの脇で、看護士が一人。


弥生さんの体を、丁寧にタオルで拭いていく。


その横には……エンジェルセット……。


「弥生……」


その様子を見ていた清子さんが呟く。


「すぐるのこと、守るから……。絶対に、守るから――!!」


☆☆☆

清子さんの話しで、私の疑問や謎が一気に解けた。


『私の大切な人っていうのはね……』


『弥生のことよ』


清子さんは、同性愛者――。


そして、すぐるのイイナズケに恋をしていた。


だから、私へのイヤガラセに、長浜弥生の名前を何度も何度も使ったのだ。


すぐると弥生さんは愛し合っていた。


すぐるが相手だから、清子さんは弥生さんをあきらめていた。


それなのに……。


14の頃。


弥生さんは死んでしまった。


それから清子さんは死んだ弥生さんに変わり、すぐるを他の女から守り続けてきたのだ。


すぐるが女の子を好きになり付き合っても、清子さんの嫌がらせが原因で、長く続くことはなかった。


すべては、清子さんの弥生さんへの深い思いから生まれた……間違った愛情。


「……っ」


私は、いままでのイヤガラセをすべて忘れたかのように、清子さんの事を考えて泣き出した。


一生報われることのない、弥生さんへの片思い。


「泣いてるの?」


清子さんが、驚いたようにそう聞いてくる。


「だって……っ」


片思いに、いつまでのも縛られている清子さん。


そこから、動き出せずにいる清子さん。


そんなの……悲しすぎる――!!


「弥生さんが亡くなって、まだ数年だから辛いのはわかるよ?」


「え?」


「大切な人がいなくなって、辛くない人間なんていない」


だけど……。


だけどね、清子さん。


「いくら他人を傷つけても、弥生さんは戻ってこないの!

いくらすぐるを他の女から守っても、弥生さんは戻ってこないの!

あなたが弥生さんのためにしていることで、今生きている人たちが泣いてるの!」


これからも続いていく『生』を、『死』が原因で苦しめちゃ、いけない……!


無理に、忘れなくていいんだよ。


ずっとずっと、心の中にいていいんだよ。


私は、清子さんを抱きしめた。


辛いなら、休んでいいんだよ。


歩き出す前に、歩ける状態であるか、ちゃんと自分が自分を見てあげなきゃ。


清子さんが、大声を上げて泣き出した。


ヒックヒックと小さく、何度もしゃくりあげながら。


無理に刺を抜くと、痛くて痛くて仕方がない。


その後も、血が出て痕が残る。


いつまでもいつまでも、消えない傷になってしまう。


だからね、ゆっくりゆっくり。


優しく待ってればいいんだよ。


誰も、あなたを攻めたりしないから――。
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