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いない~久典サイド~
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「どこにもいないか……」
学校にいる間休憩時間になるたびに千紗を探したけれど、結局見つけることができずにいた。
普段使われない空き教室に、部室棟、外のトイレ。
他に調べる場所があるとも思えないから、やっぱり学校にはいないのかもしれない。
他のクラスメートたちが言っている通り、智恵理や栞と一緒に自分からどこかへ行ったのかもしれないと思い始めていた。
じゃないと、3人ともと連絡が取れなくなるなんて考えられない。
校門を出てから俺はスマホを確認した。
千紗だけじゃなく智恵理と栞にもメッセージを送っておいたのだけれど、誰も既読がついていない。
落胆してしまいそうになる心を奮い立たせて、歩き出す。
昨日は時間が遅くて店内まで見て回れなかった場所が多い。
今日はもう1度、カラオケ店やゲームセンターを中心に探しなおすつもりだった。
俺はスマホをポケットにしまって、大またで歩き出したのだった。
☆☆☆
3人がいそうな場所を探して1時間が経過していた。
やはり、どこにも3人はいない。
途中自動販売機を見つけて立ち止まり、休憩を取っていた時、スマホが震え始めた。
千紗かもしれないと期待してスマホ画面を確認すると、それは千紗の父親からの着信だった。
昨日、連絡がとりやすいようにスマホ番号を交換しておいたのだ。
「はい」
『久典君かい? もう、学校は終わったのか?』
「終わっています。今カラオケ店とゲームセンターを探しなおしたところです」
『そうか、もう動いてくれているんだね、ありがとう。これから合流できるかい?』
「もちろんです」
『じゃあ、そのあたりで待っていてくれ。車で行くから』
「わかりました」
千紗の両親が一緒なら心強い。
俺はジュースを飲み干して「よし、今日こそ絶対に千紗を探し出す」と、呟いたのだった。
☆☆☆
「毎回車を出してもらってすみません」
俺は千紗の父親が運転する車の助手席に乗り、そう言った。
「いや、久典君には迷惑と心配をかけているんだから、このくらい当然のことだ」
千紗の父親は昨日よりもやつれた顔をしている。
全然眠っていないのか目の下も濃くなっていた。
「今日は少し遠くまで探しに出てみよう。電車で移動したかもしれないから」
「そうですね。でも大丈夫ですか? 眠っていないんじゃないですか?」
「少し仮眠したから大丈夫だ」
車の中から注意深く町の様子を確認する。
今の時間帯はまだ学生服姿の人たちが多くて、探すのも大変だ。
千紗に似た後ろ姿を見つけるとそのたびに車をとめて確認に走った。
「どこにもいないな……」
隣町まで車を走らせたところで、千紗の父親がため息をはいた。
「そうですね」
俺は答えながらも外の様子を確認することを怠らない。
もしかしたら、今そこに歩いている人が千紗かもしれないのだから。
「千紗と仲のよかった友達もいなくなったんだろう?」
「はい、そうなんです」
同時に3人が行方不明になったことは、すでに連絡網で回っていた。
しかし、他の2人の両親が警察に連絡しているかどうかはわからなかった。
「学校内では、3人で遊びに出たんじゃないかって言われていますけど……」
そうじゃないと願いたい気持ちのほうが強かった。
「……それならいいんだけれどな」
千紗の父親は弱弱しい笑顔を浮かべて、言ったのだった。
☆☆☆
結局、なんの収穫もないまま夜になって家まで送ってもらっていた。
「お役に立てずにすみません」
車を降りて深くお辞儀をする。
千紗の父親は「そんなことはないよ、ありがとう」と言って車を走らせて行ってしまった。
きっと、これからまた千紗を探しに行くんだろう。
俺はスマホを取り出して千紗からの連絡がないか確認をした。
画面を見て肩を落とす。
やっぱり、返事はない……。
みんなが言っているようにただ遊びに出ただけなら、連絡くらいくれてもいいのに。
そう思い、少しだけ涙が滲んできたことに気がついた。
こんなことでなくなんてみっともない。
別に千紗が死んだわけじゃないのに。
そこまで考えて、ハッと息を飲んだ。
もしかして……と、嫌な予感が胸をよぎる。
が、強く左右に首を振ってその考えをかき消した。
そんなことありえない。
千紗が死ぬなんてこと!
「明日には、絶対に見つけ出す」
俺はそう心に決めたのだった。
☆☆☆
この日、俺は思いのほかしっかりと眠ることができた。
前日に眠りが浅かったせいもあるだろう。
夢の中に千紗が出てきて、俺はかけよった。
「千紗、どこにいたんだよ!」
「ごめんね久典。ちょっと、トラブルに巻き込まれちゃって」
夢の中の千紗は体を震わせていた。
「寒いのか?」
そう言って手を握り締めると、その手は氷のようにつめたい。
「どうしてこんなに冷たいんだ? トラブルってなんだよ?」
質問しても、千紗は無言で左右に首をふるだけだ。
その表情はとても悲しそうに見えて、胸が締め付けられる。
「今どこにいる? みんなすごく心配してるんだぞ?」
「そっか……、心配かけてごめんね。でもあたしはまだ大丈夫だから」
「まだ大丈夫ってどういう意味だよ? 智恵理と栞は一緒にいるのか?」
質問している間に、気がつけば握り締めていた手が離されていた。
咄嗟に握りなおそうとしたけれど、手を伸ばしても届かない。
千紗の体がどんどん遠く離れていく。
「千紗!」
名前を呼んで駆け出した。
走っているのに追いつくことができなくて、千紗はどんどん遠ざかる。
「千紗、行くな!!」
「ごめんね久典」
千紗が泣き声でそう言った次の瞬間、俺はベッドの上に飛び起きていた。
「夢……」
呟き、千紗の手を握り締めた右手を見つめる。
あの冷たさが今でも残っている気がした。
「今、千紗は泣いているのか?」
夢のせいでひどい胸騒ぎがした。
早く千紗を見つけ出さないと大変なことになるんじゃないか。
そんな恐怖心が湧き上がってくる。
俺はサイドテーブルに置いているスマホを確認した。
相変わらず千紗からの連絡は来ていない。
小さく舌打ちをしてベッドから起きて着替えを済ませる。
時刻はまだ朝の6時だったが、関係ない。
俺は制服姿で家を飛び出したのだった。
☆☆☆
昨日もおとといも探した公園へ行き、千紗が嫌っていた公衆トイレも除き、そしてコンビニに足を運んだ。
そのどこにも千紗の姿はない。
智恵理も、栞もいない。
焦燥感は募るばかりで探しながらも涙が溢れ出してくる。
本当にどこに行ったんだよ!
千紗のことならなんでもわかっている気でいたけれど、大間違いだ。
連絡手段がなくなると、どこにいるのかもわからなくなる。
悔しくて下唇をかみ締めた。
学校までの道のりをかなり大回りして探してみても、千紗を見つけることができないまま、学校に到着してしまった。
「久典、大丈夫かよ?」
B組の教室に入ると、先に登校してきていた友人が心配そうに声をかけてきた。
「え?」
「顔。見てないのか?」
そう言われて、昨日からろくに顔も洗っていないことを思い出した。
トイレに向かって鏡を確認してみると、うっすらと無精ひげが生えている。
目の下も少しクマができていた。
「ひでぇ顔」
呟き、簡単に顔を洗う。
冷たい水のおかげで少し頭がスッキリとした。
そうしている間にホームルーム開始のチャイムが鳴り始めて、俺は慌てて教室へ戻ったのだった。
☆☆☆
担任の先生は5分ほど送れて教師に入ってきた。
その慌て方を見る限りただの遅刻ではなさそうだ。
まさか千紗たちが見つかったとか?
期待を抱いて先生の言葉を待っていると、予想外な言葉が出てきた。
「昨日から松月さんが行方不明になったそうだ」
ソワソワと落ち着かない様子で言う先生に俺は目を見開いた。
郁乃まで……。
郁乃の机に視線を向けると、確かにそこは無人だった。
教室内にざわめきが走る。
「郁乃がいなくなるってどういうこと?」
「3人とは、あんまり仲良くなかったよねぇ」
「まさか、テスター?」
その言葉に俺はビクリと体をはねさせていた。
テスター。
それは郁乃が言っていた都市伝説の人物だ。
美少女を誘拐して、顔のパーツを切り取って自分のものにしてしまう。
ただの都市伝説なのに、4人目の行方不明者が出たことでそれは信憑性をましていっている気がした。
4人に共通しているのはB組の生徒だということと、美少女だということ。
もし、本当にテスターが存在するのだとすれば、4人は十分に狙われる可能性があったんだ。
「異常事態のため、今日は午前中で授業は終わりだ。部活も、委員会活動も中止。みんな真っ直ぐ帰るように」
先生の言葉に今度は教室内が静まり返った。
これはただ事ではないと、やっとみんなも気がつきはじめたみたいだ。
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
なにが起きてるんだ……?
見えない恐怖がジリジリと俺たちに近づいてきているように感じられたのだった。
☆☆☆
ホームルームが終わるのを見計らい、俺は郁乃と中野いい前田さんに声をかけた。
「昨日の郁乃の様子を教えてくれないか?」
「うん。でも昨日は一緒に帰らなかったから、よくわからないよ?」
「どうして一緒に帰らなかったんだ?」
2人は仲がよくて、いつも一緒に登下校している。
その様子を俺も何度も見かけていた。
「昇降口までは一緒だったんだけど、郁乃は教室に忘れ物をしたって言って戻って行ったの。あたしは待ってるって言ったんだけど、すぐに追いつくから先に帰ってって言われて、それで……」
そこまで言って俯いてしまった。
郁乃の言葉通り帰ってしまったことを、後悔している様子だ。
「郁乃は教室にひとりになったってことか?」
「たぶん。あたしたち、昨日教室を出るのが遅かったから、忘れ物を取りに戻ったときは郁乃一人だったと思う」
「そうか……」
顎に指を当てて呟く。
なにかひっかかる部分があるけれど、それがなにかわからない。
なんだっけ……?
そう思ったとき不意に記憶がよみがえってきて「あっ!」と、声を上げた。
そういえば千紗たちがいなくなったときも教室には3人以外誰もいなかったはずだ。
俺は千紗の居残りが終わるまで待つつもりだったけれど、千紗が大丈夫だと言って!
あの時の状況とほとんど一致している!
「ありがとう! なにかわかった気がする!」
俺がそう言うと前田さんはキョトンとして表情を浮かべていたのだった。
☆☆☆
いなくなった4人は放課後教室にいた。
それなら、放課後教室に残っていればなにかがわかるかもしれない。
そうとわかるとはやる気持ちが抑えられない。
早く放課後になってほしくて落ち着かない気分だ。
今日が午前中授業で本当によかった。
4時間の授業は瞬く間に過ぎて行き、待ちに待った放課後がやってきた。
終わりのホームルームを終えて、みんなそれぞれ教室から出て行く。
今日は警備員の巡回も早い時間に行われるようで、教室に残る時間はごくわずかだ。
俺はみんなが教室から出て行くのを見送り、ゆっくりとカバンに教科書をつめて行った。
「守屋、早く帰れよ」
教室から出る前に先生が声をかけてきた。
「はい」
返事をして先生の後ろ姿を見送れば、完全にひとりになる。
俺は教科書をしまう手を止めて静かな教室内を見回した。
いつもと変わらない景色でも誰もいないだけで少し異様な雰囲気を感じる。
4人はここにいて、そして誰かに連れ去られたんじゃないだろうか?
美少女という共通点を見ればおそらく、テスターに……。
そこまで考えてゴクリと唾を飲み込んだ。
テスターの噂が本当なら、誘拐した少女たちの顔は切り取られているはずだ。
「そんなことない。千紗は無事だ。千紗は……」
呪文のように口の中で繰り返す。
千紗の長いまつげ、綺麗な鼻筋、ぷっくりとした唇。
それらが切り取られてしまうなんて想像するのも恐ろしい。
千紗はきっともとの姿のまま俺の元に帰ってきてくれる……!
嫌な妄想をかき消して、俺は窓の外を見つめた。
今日は部活動も停止になっているからグラウンドに人の姿は見当たらない。
校舎内からも生徒の声は聞こえてこなくなっていた。
ホームルームが終わって20分ほど経過するが、教室内に誰かが入ってくる気配だってなかった。
「ここにいても、意味がないのかな」
呟く。
俺は男だからテスターからすれば興味のない存在だ。
だから出てこないのかもしれない。
諦めかけた時だった。
グラウンドにスーツ姿の女が歩いているのを見つけて、身を乗り出した。
ここは学校だからスーツ姿の人が歩いていたって珍しくない。
それでも気になったのはその人物がやけに歩きにくそうにしていたからだ。
足を怪我でもしているのだろうか、ひきずっているように見える。
もっとよく確認しようと窓を開けると、その音に気がついてように女が立ち止まった。
咄嗟に体を低くした時、女が振り向いた。
その顔には包帯がグルグルに巻かれていたのだった。
学校にいる間休憩時間になるたびに千紗を探したけれど、結局見つけることができずにいた。
普段使われない空き教室に、部室棟、外のトイレ。
他に調べる場所があるとも思えないから、やっぱり学校にはいないのかもしれない。
他のクラスメートたちが言っている通り、智恵理や栞と一緒に自分からどこかへ行ったのかもしれないと思い始めていた。
じゃないと、3人ともと連絡が取れなくなるなんて考えられない。
校門を出てから俺はスマホを確認した。
千紗だけじゃなく智恵理と栞にもメッセージを送っておいたのだけれど、誰も既読がついていない。
落胆してしまいそうになる心を奮い立たせて、歩き出す。
昨日は時間が遅くて店内まで見て回れなかった場所が多い。
今日はもう1度、カラオケ店やゲームセンターを中心に探しなおすつもりだった。
俺はスマホをポケットにしまって、大またで歩き出したのだった。
☆☆☆
3人がいそうな場所を探して1時間が経過していた。
やはり、どこにも3人はいない。
途中自動販売機を見つけて立ち止まり、休憩を取っていた時、スマホが震え始めた。
千紗かもしれないと期待してスマホ画面を確認すると、それは千紗の父親からの着信だった。
昨日、連絡がとりやすいようにスマホ番号を交換しておいたのだ。
「はい」
『久典君かい? もう、学校は終わったのか?』
「終わっています。今カラオケ店とゲームセンターを探しなおしたところです」
『そうか、もう動いてくれているんだね、ありがとう。これから合流できるかい?』
「もちろんです」
『じゃあ、そのあたりで待っていてくれ。車で行くから』
「わかりました」
千紗の両親が一緒なら心強い。
俺はジュースを飲み干して「よし、今日こそ絶対に千紗を探し出す」と、呟いたのだった。
☆☆☆
「毎回車を出してもらってすみません」
俺は千紗の父親が運転する車の助手席に乗り、そう言った。
「いや、久典君には迷惑と心配をかけているんだから、このくらい当然のことだ」
千紗の父親は昨日よりもやつれた顔をしている。
全然眠っていないのか目の下も濃くなっていた。
「今日は少し遠くまで探しに出てみよう。電車で移動したかもしれないから」
「そうですね。でも大丈夫ですか? 眠っていないんじゃないですか?」
「少し仮眠したから大丈夫だ」
車の中から注意深く町の様子を確認する。
今の時間帯はまだ学生服姿の人たちが多くて、探すのも大変だ。
千紗に似た後ろ姿を見つけるとそのたびに車をとめて確認に走った。
「どこにもいないな……」
隣町まで車を走らせたところで、千紗の父親がため息をはいた。
「そうですね」
俺は答えながらも外の様子を確認することを怠らない。
もしかしたら、今そこに歩いている人が千紗かもしれないのだから。
「千紗と仲のよかった友達もいなくなったんだろう?」
「はい、そうなんです」
同時に3人が行方不明になったことは、すでに連絡網で回っていた。
しかし、他の2人の両親が警察に連絡しているかどうかはわからなかった。
「学校内では、3人で遊びに出たんじゃないかって言われていますけど……」
そうじゃないと願いたい気持ちのほうが強かった。
「……それならいいんだけれどな」
千紗の父親は弱弱しい笑顔を浮かべて、言ったのだった。
☆☆☆
結局、なんの収穫もないまま夜になって家まで送ってもらっていた。
「お役に立てずにすみません」
車を降りて深くお辞儀をする。
千紗の父親は「そんなことはないよ、ありがとう」と言って車を走らせて行ってしまった。
きっと、これからまた千紗を探しに行くんだろう。
俺はスマホを取り出して千紗からの連絡がないか確認をした。
画面を見て肩を落とす。
やっぱり、返事はない……。
みんなが言っているようにただ遊びに出ただけなら、連絡くらいくれてもいいのに。
そう思い、少しだけ涙が滲んできたことに気がついた。
こんなことでなくなんてみっともない。
別に千紗が死んだわけじゃないのに。
そこまで考えて、ハッと息を飲んだ。
もしかして……と、嫌な予感が胸をよぎる。
が、強く左右に首を振ってその考えをかき消した。
そんなことありえない。
千紗が死ぬなんてこと!
「明日には、絶対に見つけ出す」
俺はそう心に決めたのだった。
☆☆☆
この日、俺は思いのほかしっかりと眠ることができた。
前日に眠りが浅かったせいもあるだろう。
夢の中に千紗が出てきて、俺はかけよった。
「千紗、どこにいたんだよ!」
「ごめんね久典。ちょっと、トラブルに巻き込まれちゃって」
夢の中の千紗は体を震わせていた。
「寒いのか?」
そう言って手を握り締めると、その手は氷のようにつめたい。
「どうしてこんなに冷たいんだ? トラブルってなんだよ?」
質問しても、千紗は無言で左右に首をふるだけだ。
その表情はとても悲しそうに見えて、胸が締め付けられる。
「今どこにいる? みんなすごく心配してるんだぞ?」
「そっか……、心配かけてごめんね。でもあたしはまだ大丈夫だから」
「まだ大丈夫ってどういう意味だよ? 智恵理と栞は一緒にいるのか?」
質問している間に、気がつけば握り締めていた手が離されていた。
咄嗟に握りなおそうとしたけれど、手を伸ばしても届かない。
千紗の体がどんどん遠く離れていく。
「千紗!」
名前を呼んで駆け出した。
走っているのに追いつくことができなくて、千紗はどんどん遠ざかる。
「千紗、行くな!!」
「ごめんね久典」
千紗が泣き声でそう言った次の瞬間、俺はベッドの上に飛び起きていた。
「夢……」
呟き、千紗の手を握り締めた右手を見つめる。
あの冷たさが今でも残っている気がした。
「今、千紗は泣いているのか?」
夢のせいでひどい胸騒ぎがした。
早く千紗を見つけ出さないと大変なことになるんじゃないか。
そんな恐怖心が湧き上がってくる。
俺はサイドテーブルに置いているスマホを確認した。
相変わらず千紗からの連絡は来ていない。
小さく舌打ちをしてベッドから起きて着替えを済ませる。
時刻はまだ朝の6時だったが、関係ない。
俺は制服姿で家を飛び出したのだった。
☆☆☆
昨日もおとといも探した公園へ行き、千紗が嫌っていた公衆トイレも除き、そしてコンビニに足を運んだ。
そのどこにも千紗の姿はない。
智恵理も、栞もいない。
焦燥感は募るばかりで探しながらも涙が溢れ出してくる。
本当にどこに行ったんだよ!
千紗のことならなんでもわかっている気でいたけれど、大間違いだ。
連絡手段がなくなると、どこにいるのかもわからなくなる。
悔しくて下唇をかみ締めた。
学校までの道のりをかなり大回りして探してみても、千紗を見つけることができないまま、学校に到着してしまった。
「久典、大丈夫かよ?」
B組の教室に入ると、先に登校してきていた友人が心配そうに声をかけてきた。
「え?」
「顔。見てないのか?」
そう言われて、昨日からろくに顔も洗っていないことを思い出した。
トイレに向かって鏡を確認してみると、うっすらと無精ひげが生えている。
目の下も少しクマができていた。
「ひでぇ顔」
呟き、簡単に顔を洗う。
冷たい水のおかげで少し頭がスッキリとした。
そうしている間にホームルーム開始のチャイムが鳴り始めて、俺は慌てて教室へ戻ったのだった。
☆☆☆
担任の先生は5分ほど送れて教師に入ってきた。
その慌て方を見る限りただの遅刻ではなさそうだ。
まさか千紗たちが見つかったとか?
期待を抱いて先生の言葉を待っていると、予想外な言葉が出てきた。
「昨日から松月さんが行方不明になったそうだ」
ソワソワと落ち着かない様子で言う先生に俺は目を見開いた。
郁乃まで……。
郁乃の机に視線を向けると、確かにそこは無人だった。
教室内にざわめきが走る。
「郁乃がいなくなるってどういうこと?」
「3人とは、あんまり仲良くなかったよねぇ」
「まさか、テスター?」
その言葉に俺はビクリと体をはねさせていた。
テスター。
それは郁乃が言っていた都市伝説の人物だ。
美少女を誘拐して、顔のパーツを切り取って自分のものにしてしまう。
ただの都市伝説なのに、4人目の行方不明者が出たことでそれは信憑性をましていっている気がした。
4人に共通しているのはB組の生徒だということと、美少女だということ。
もし、本当にテスターが存在するのだとすれば、4人は十分に狙われる可能性があったんだ。
「異常事態のため、今日は午前中で授業は終わりだ。部活も、委員会活動も中止。みんな真っ直ぐ帰るように」
先生の言葉に今度は教室内が静まり返った。
これはただ事ではないと、やっとみんなも気がつきはじめたみたいだ。
俺はゴクリと唾を飲み込んだ。
なにが起きてるんだ……?
見えない恐怖がジリジリと俺たちに近づいてきているように感じられたのだった。
☆☆☆
ホームルームが終わるのを見計らい、俺は郁乃と中野いい前田さんに声をかけた。
「昨日の郁乃の様子を教えてくれないか?」
「うん。でも昨日は一緒に帰らなかったから、よくわからないよ?」
「どうして一緒に帰らなかったんだ?」
2人は仲がよくて、いつも一緒に登下校している。
その様子を俺も何度も見かけていた。
「昇降口までは一緒だったんだけど、郁乃は教室に忘れ物をしたって言って戻って行ったの。あたしは待ってるって言ったんだけど、すぐに追いつくから先に帰ってって言われて、それで……」
そこまで言って俯いてしまった。
郁乃の言葉通り帰ってしまったことを、後悔している様子だ。
「郁乃は教室にひとりになったってことか?」
「たぶん。あたしたち、昨日教室を出るのが遅かったから、忘れ物を取りに戻ったときは郁乃一人だったと思う」
「そうか……」
顎に指を当てて呟く。
なにかひっかかる部分があるけれど、それがなにかわからない。
なんだっけ……?
そう思ったとき不意に記憶がよみがえってきて「あっ!」と、声を上げた。
そういえば千紗たちがいなくなったときも教室には3人以外誰もいなかったはずだ。
俺は千紗の居残りが終わるまで待つつもりだったけれど、千紗が大丈夫だと言って!
あの時の状況とほとんど一致している!
「ありがとう! なにかわかった気がする!」
俺がそう言うと前田さんはキョトンとして表情を浮かべていたのだった。
☆☆☆
いなくなった4人は放課後教室にいた。
それなら、放課後教室に残っていればなにかがわかるかもしれない。
そうとわかるとはやる気持ちが抑えられない。
早く放課後になってほしくて落ち着かない気分だ。
今日が午前中授業で本当によかった。
4時間の授業は瞬く間に過ぎて行き、待ちに待った放課後がやってきた。
終わりのホームルームを終えて、みんなそれぞれ教室から出て行く。
今日は警備員の巡回も早い時間に行われるようで、教室に残る時間はごくわずかだ。
俺はみんなが教室から出て行くのを見送り、ゆっくりとカバンに教科書をつめて行った。
「守屋、早く帰れよ」
教室から出る前に先生が声をかけてきた。
「はい」
返事をして先生の後ろ姿を見送れば、完全にひとりになる。
俺は教科書をしまう手を止めて静かな教室内を見回した。
いつもと変わらない景色でも誰もいないだけで少し異様な雰囲気を感じる。
4人はここにいて、そして誰かに連れ去られたんじゃないだろうか?
美少女という共通点を見ればおそらく、テスターに……。
そこまで考えてゴクリと唾を飲み込んだ。
テスターの噂が本当なら、誘拐した少女たちの顔は切り取られているはずだ。
「そんなことない。千紗は無事だ。千紗は……」
呪文のように口の中で繰り返す。
千紗の長いまつげ、綺麗な鼻筋、ぷっくりとした唇。
それらが切り取られてしまうなんて想像するのも恐ろしい。
千紗はきっともとの姿のまま俺の元に帰ってきてくれる……!
嫌な妄想をかき消して、俺は窓の外を見つめた。
今日は部活動も停止になっているからグラウンドに人の姿は見当たらない。
校舎内からも生徒の声は聞こえてこなくなっていた。
ホームルームが終わって20分ほど経過するが、教室内に誰かが入ってくる気配だってなかった。
「ここにいても、意味がないのかな」
呟く。
俺は男だからテスターからすれば興味のない存在だ。
だから出てこないのかもしれない。
諦めかけた時だった。
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それでも気になったのはその人物がやけに歩きにくそうにしていたからだ。
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