幽霊鬼ごっこ

西羽咲 花月

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いなくなる

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「終わった……?」
全身の力が抜けて立ち上がることができない。
信一に手助けしてもらいながら、どうにか立ち上がるけれどやっぱり両足に力が入らなかった。

「ドアが開くようになってるぞ!」
直人の声に顔を向けると、あれだけ力を込めても開かなかったドアが開いている。
「外に出られる!」

私と信一もすぐに廊下へと向かう。
教室の外へ出た瞬間嬉しさがこみ上げてみて涙が出てきた。

「終わった……終わったんだよね!?」
「あぁ。俺たち幽霊鬼ごっこに勝ったんだ」
信一が嬉しそうに答える。
よかった。

これで家に帰ることができる!
その場で何度も飛び跳ねて喜びたい気分だったけえれど、体力が限界に来ていてそれもできない。
「幽霊鬼ごっこを経験したなんて言ってもきっと誰も信じてくれないだろうね」
「あぁ。だけど俺たちは本当に経験した。それに教室からの脱出も!」

「ねぇ直人、こういう経験をした人から噂が流れてきたんだよね?」
会話に参加してこない直人を振り向くと、直人は教室の中を見つめたままだった。
「直人、どうしたの?」
「……由紀は?」

その質問にハッと息を飲む。
鬼ごっこは終わった。
外にでることができた。
それに気を取られてしまって、鬼になった由紀のことを忘れていた。

「由紀!?」
慌てて教室へ戻って声をかける。
だけど中から反応はない。
机の下。

大きなロッカーの中を調べてみても誰もいない。
「由紀、どこに行ったんだ!?」
3人で学校中を探し回ったけれど、由紀の姿はどこにもなかったのだった。

☆☆☆

家に戻ってからすぐに由紀のスマホに電話を入れたけれど、通じなかった。
「裕美、どうしたの?」
ずっと電話をかけている私にお母さんがそう声をかけてきたけれど、返事ができなかった。

由紀がいなくなった。
鬼になって、たぶん幽霊に連れて行かれてしまった。
そんなことを言っても信じでもらえない。

「ううん、なんでもない」
私は小さな声で答えて、自分の部屋に向かったのだった。

☆☆☆

その夜はベッドに潜り込んでもなかなか眠ることができなかった。
あれだけ走り回って体は疲れているはずなのに、恐怖が体の芯から這い上がってきて寝付けない。

ようやくウトウトしはじめたのは朝5時を回ったところだった。
「裕美」
私を呼ぶ声がして目を覚ますと、そこには由紀がいた。

「由紀!?」
慌ててベッドから飛び起きて由紀の姿をマジマジと確認する。
いつもどおり、人間の姿の由紀だ。
鬼なんかじゃない。

「よかった由紀! どこに行ったのかと思ってたんだよ」
由紀の体を抱きしめるとシャンプーのいい香りがする。
「ごめんね裕美。私鬼になっちゃったから一緒にいられないの」

「え? なに言ってるの。鬼ごっこはもう終わった……」
そこまで言ったとき、由紀の体がムキムキと巨大かしていくことに気がついた。
私の腕から抜け出した由紀の頭には一本の角が生えてきて、指先にはクマよりも大きな爪が伸びてくる。

「私鬼だから……だから……人間を食べたくなるのぉぉぉぉ!」
由紀の声は咆哮に変わり、その手が私の体を掴んだ。
爪が体に刺さり、激痛が走る。

由紀が大きく口を開いて牙が見えた。
「イヤアアア!!」
悲鳴を同時に目を覚ました。
はぁはぁと呼吸を繰り返して周囲を確認しても由紀の姿はない。

「夢……かぁ……」
ほーっと息を吐き出してから、昨日由紀がいなくなってしまったことを思い出して胸がギュッと痛む。
きっと由紀の両親は由紀が戻ってこないことを心配して警察に連絡しただろう。
今日は私たちも由紀についてなにか質問されるかもしれない。

本当のことは言えないから、信一たちと相談しておいた方がいいかもしれない。
「あら、今日は早いのね」
悪夢のせいで2度寝できなくなった私はすぐに顔を洗って着替えをして、キッチンに顔を出した。

お母さんが朝ごはんの準備を始めたところで、お味噌汁の匂いがしている。
「お母さん、学校から何か連絡きてない?」
由紀のことはきっと連絡網で回ってくるだろうと思ってそう言うと、お母さんは左右に首を降った。
「特に来てないわよ。どうして?」

「それは……えっと……なんとなく」
どうにかごまかして食器棚からお皿を取り出して手伝いを始める。
由紀がいなくなったことはすでに知られていると思っていたから、意外だった。

由紀の両親は自分たちだけで由紀を探してるんだろうか。
結局、学校へ出るまでの間に連絡網が回ってくることもなかったのだった。

☆☆☆

5年1組の教室内は昨日と変わらず騒がしかった。
数人の友達に「おはよう」と声をかけてから、窓際にいる信一と直人へ近づいた。

ふたりとも神妙な顔つきをしている。
「ふたりともおはよう。あの、昨日のことなんだけどさ、夢とかじゃないよね?」
朝起きてからずっと考えていたことをそのまま質問した。
昨日はあれだけ怖い思いをしたのに、一夜経過してみるとあまりにも現実離れしていることに思えてきた。

あれは本当に自分たちが経験したことだったのか、時間が経つにつれてわからなくなってしまった。
「本当にあったことだよ。由紀が鬼になった」
信一が小さな声で答えた。

やっぱり、夢じゃなかったんだ。
ゾクリと背筋が寒くなり、直人へ視線を向けた。
「直人は、昨日の怪我とかはない?」
「あぁ。平気だ。でも、由紀が来てない」

教室内へ視線を巡らせて直人が言った。
確かに、由紀の姿は見えない。

みんな風邪かなにかで休んでいるのと思っているのか、心配している様子もなかった。
「由紀はあの後どうなったんだろう? いなくなったのかと思ってたけど、そういう連絡来てないよね?」

「そういえばそんな連絡は来てないな。由紀の両親が学校側に秘密にしてほしいって頼んでるのかもしれないけど」
「そっか。大騒ぎになっちゃうから、情報を止めてるのかもしれないよね」

私は信一の意見に賛同した。
だから由紀がいなくなったことをまだ誰も知らないんだ。
「でも俺たちは最後まで由紀と一緒にいたから、きっと何か質問されるぞ」

直人が言う。
「うん。それは私も思ってた。だけど幽霊鬼ごっこなんて誰も信じてくれないよね」
「話を作っておいたほうがいいのかもしれないな」

信一が机から紙とエンピツを取り出した。
「まず、僕たちは昨日の放課後由紀と一緒にここにいた。少し話をした後、バラバラに帰ったことにするんだ。その後由紀はいなくなった。だから俺たちはなにも知らない」
信一が昨日の出来事を隠すために嘘の出来事をメモ書きしていく。

仕方のないことだと思う反面、胸の奥がチクチクと痛む。
由紀のことを隠さないといけないことが、心苦しい。
「具体的な時間も決めた方がいいんじゃねぇか?」

「そうしよう。まずホームルームが終わったのが午後3時45分。それから15分間、ここにいたことにしよう」
信一がエンピツを走らせて行く。
私達は学校を出た4時10分以降、由紀の姿を見ていないことになった。

「裕美、今日なんか元気ないね? どうかしたの?」
友達の綾が声をかけてきたのはホームルームが始まる前のことだった。

「うん。今日は由紀が来てないから寂しくて」
そう返事をすると綾は目をパチクリさせて「由紀って誰?」と、聞いてきた。
「え? なに言ってるの綾。由紀は由紀だよ。同じクラスの」
説明しても綾はずっと不思議そうな顔をしている。

まさか、由紀のことを覚えてないの!?
そう聞こうとしたとき教室のドアが開いて先生が入ってきたので、なにも聞けないままホームルームが始まってしまったのだった。

だけど、それからもおかしなことは続いた。
教室へ入ってきた先生が点呼を取り始めたのだけれど、由紀の名前だけ飛ばして読み上げていくのだ。

そして最後に「よし、今日は全員出席だな」と言って名簿を閉じてしまった。
「あ、あの、先生!」
思わず手を上げしまう。
「どうした吉野」

「あの、由紀は欠席です。今日来ていません」
「由紀? それは誰のことだ?」
先生がもう1度名簿を広げて生徒たちの名前を確認している。

けれどすぐに顔を上げると「そんな生徒、1組にはいないぞ?」と言ったのだ。
「嘘……」
呆然としているとガタンッと音がして、直人が椅子を蹴って立ち上がっていた。

そのまま教卓へと大股で近づいて行き、先生の横から名簿を確認する。
私と信一もほぼ同時に立ち上がって教卓へ近づいた。
「おいお前達、どうしたんだよ」

先生が驚いた声を出しているけれど、気にしている場合じゃなかった。
5年1組の名簿を済から済まで確認してみても、川井由紀の名前はどこにもなかったんだから……。

☆☆☆

ホームルームが終わってから3人で由紀のことを覚えている生徒がいないか聞いて回ったけれど、誰1人として覚えていなかった。
5年1組の生徒だけじゃない。
他の学年で由紀と同じ通学班の子に聞きに行ったけれど、その子も由紀のことを覚えていなかったのだ。

「これって、どういうことだと思う?」
教室へ戻ってきたとき信一が深刻な表情で質問してきた。
「みんな、由紀のことを覚えてない。たぶん、昨日のことが関係してるんだと思う」

由紀は鬼になって、そして幽霊と共に消えた。
それ以外に思い当たることなんてなかった。
「鬼になったまま鬼ごっこが終わると、存在を消されるのかもしれねぇな」

直人が怖いことを言う。
もし存在を消されていたとしたら、由紀はもうこの世にいないことになる。
「だけどあの幽霊、最後に『また明日』って言ってなかったか? ってことは、今日も幽霊鬼ごっこがあるってことかな?」

「え、そんなこと言ってたっけ」
信一の言葉に記憶を巡らせてみるけれど、しっかりと思い出すことはできなかった。
それだけ昨日の私は混乱していたんだと思う。

「俺もそれ覚えてるぞ。鬼ごっこは1回じゃ終わらねぇのかもしれないよな」
「じゃ、じゃあ、今日もまたあれをやらされるってこと!?」
思い出すだけで全身が寒くなって、声が大きくなってしまう。
私は深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。

「まだわからない。でも、その可能性もあるかもしれない」
「あぁ。覚悟しといた方がよさそうだぜ」
ふたりの言葉に私の胸には渦のような不安が膨れ上がってきたのだった。

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