幽霊鬼ごっこ

西羽咲 花月

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幽霊鬼ごっこ Day2

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もう二度とあんな思いはしたくない。
そう考えた私は放課後になるとすぐに教室を飛び出した。
誰よりも早く階段を駆け下りて昇降口へ向かう。

下まで下りきったときにははぁはぁと息切れをしていた。
「ふぅ。これで帰れる」
靴を履き替えて外へ出た時、ようやく呼吸を整えることができた。

昨日のように教室に閉じ込められる前に、ここまで逃げてきたのだ。
信一と直人はまだ教室にいたみたいだけれど、大丈夫かな。
そう思ってふと振り返る。

そこには誰の姿もなくてシンと静まり返っている。
放課後の騒がしさを感じられなくて私は「あれ?」と、首を傾げた。

普段なら私みたいに一目散に昇降口へ向かう生徒の姿もあるのに、今日は本当に私が一番乗りだったみたいだ。
それにしても、学校内が静か過ぎる。
ちょっと不気味に感じるほどの静けさに、靴を履いたまま昇降口の中へと引き返した。

「みんな?」
廊下へ向けて声をかけてみると、トンネルの中みたいに自分の声が反響した。
こんなこと、初めてだ。
私は廊下へ背を向けて再び外へ出ようとしたそのときだった。

一歩足を踏み出した瞬間、目の前の景色が変わった。
学校を取り囲むようにして植えられている植木が消えて、代わりに大きなプールが現れたのだ。

「うわっ」
危うくプールの中に足を突っ込んでしまいそうになり、引っ込める。
「ここって、学校のプール?」

私の右手には低学年用の浅いプールもあり、後方にはシャワーがある。
見間違いようもなく、ここは学校のプールみたいだ。

でも、どうして?
キョトンとして立ち尽くしていると、不意に人の気配を感じた。
視線を向けるとそこには信一と直人が立っていたのだ。

「え、プール?」
信一が目を丸くして私を見る。
「ふたりとも!」
慌てて駆け寄って、自分が今まで昇降口にいたことを説明する。

「俺たちは教室からでたところだったんだ。でも、気がついたらここにいた」
と、直人が言った。
「これって一体どういうこと?」

そう呟いた時だった。
背中に寒気を感じたと思った次の瞬間「鬼ごっこしようよ」と、声が聞こえてきていた。
ぞっと全身に寒気が走り、振り向くとそこには昨日の男の子が立っていた。

足が半分透けて後のフェンスが見えている。
「キャアア!」
悲鳴を上げると同時に後ずさりしてしまい、ザブンッと水の中に落下してしまった。

必死で手足を動かして水面に顔を出す。
「裕美、大丈夫か!?」
信一が手を伸ばしてくれる。

その手をつかもうとしたとき、男の子の姿がこつ然と消えた。
「え……?」
呆然としていると、今度はプールの水面に男の子が現れた。

水の上に立っている。
「ふたりとも、水の中の方が気持ちいいよ」
男の子が信一と直人を手招きすると、ふたりは見えない力に引き寄せられるようにしてプールに落ちてしまった。
激しい水しぶきが上がったあと、ふたりが水面に顔を出す。

「なにすんだよ!」
直人が男の子へ向けて怒鳴る。
男の子は楽しそうな笑い声をあげるばかりだ。
「みんな、今日は水中鬼ごっこだよ」

「水中鬼ごっこ?」
思わず聞き返す。
すると男の子はコクンと頷いて「プールの中で鬼ごっこをするんだよ。楽しそうだろ?」と、答えた。

水が胸くらいまであるプールの中では思うように動けない。
陸上でやる鬼ごっこに比べたら、半分ほどの速さも走れないかもしれない。
「泳ぐのはあり。だけど陸に上がると失格」

「失格って……具体的にはどうなるの!?」
この鬼ごっこは普通の鬼ごっこじゃない。
男の子にタッチされたら本物の鬼になるし、まわりから存在を忘れられてしまう。

失格になった場合どうなるのか、ちゃんと聞いておかないと怖い。
私の質問に男の子がスッと笑みを消した。

そして低く、まるで大人のような声で答えた。
「地獄に落ちてもらう」
地獄……。

凍りついてしまって返事ができなかった。
男の子がそう言うからには、本当に地獄につれて行かれてしまうんだろう。
もう二度と戻って来られないということだ。
「水中じゃ走るのは不利だな。ふたりとも泳げるか?」

「私は泳げるよ。直人は?」
聞くと直人は青ざめていた。
誰よりも力の強い直人はその分水泳が苦手だったのだ。
「俺は自信がない。だけどやるしかねぇし、ふたりには迷惑かけねぇようにするから」

「そんな、迷惑だなんて」
3人で力を合わせて逃げ切ることができるはずだ。

そう言おうとした時だった。
突然プールの中に巨大な赤鬼が出現したのだ。
水が左右に大きく揺れて、足元がおぼつかなくなる。

「鬼は引き続き赤鬼さんにしてもらうよ」
男の子が赤鬼へ視線をむけて言った。

「由紀!」
赤鬼は名前を読んでも反応しない。
自分が由紀だという自我がないのかもしれない。

「お願い、由紀を返して!」
「もちろん。今回の鬼ごっこで誰かが鬼に捕まれば由紀は元に戻れるよ」
「由紀を取り戻すためには誰かが犠牲になるってことか」

信一が悔しそうに下唇を噛み締めた。
4人全員で無事に帰ることは許されないのか。
「さぁ、そろそろいいかな? 鬼ごっこスタート!」

男の子の合図と同時に赤鬼が一歩前へ動いた。
それだけで大きな波が立ち、私達は立っているだけでやっとの状態になる。
鬼は太ももから下しか水に入っていないから、動きも素早い。
「裕美、ふたてに別れて逃げるぞ!」

信一に言われて「うん!」と返事をして、クロールで泳ぎ始める。
赤鬼の右側を私が、左側を信一が通る。
赤鬼はどっちを追いかければいいかわからず、その場から動けなくなってしまった。

その間に直人が気が付かれないよう、水面ギリギリに顔を出して赤鬼から遠ざかる。
「グォォォォォ!」

突然赤鬼が咆哮を上げて大きな腕を水面に叩きつけた。
バシャンッと激しく水しぶきが上がり、水が大きく波打つ。

そのせいでうまく前に進めなくて途中で足をついてしまった。
地面に足をつけるとグラグラと上半身が揺れる。
だけどそのときには赤鬼の後方まで来ていたので、私はそのまま鬼の背中へと回り込んだ。
「大丈夫か!?」
水面から信一が顔を出す。
信一も怪我はないみたいだ。
「うん。大丈夫だよ」
問題は直人だ。
直人は泳げないと言っていたし、歩くのもままならない状況だ。
「もう1度ふたてに別れて、今度は鬼の前側へ移動しよう。そうやって鬼を錯乱させるんだ」

「わかった」
頷いた、その時だった。
「ギャアア!」

と悲鳴が聞こえてきて心臓が止まりそうになった。
見ると鬼が直人の体を掴もうとしている。
「直人!」

信一が叫んで急いで直人の元へ近づいていく。
だけどやっぱり思うようには動けず、何度も波に体を押し戻されてしまう。

クロールで必死に鬼の横まで来た時、信一は叫んだ。
「直人、逃げろ!」
その声に鬼が反応して動きが止まる。
声の主を探るように体の向きを変えたタイミングで、直人が鬼から離れることができた。
よかった。

と、ホッとしたのもつかの間だ。
今度は鬼が信一をターゲットにした。

すぐにクロールで逃げようとする信一めがけて鬼が右手を振り下ろした。
「うっ」
と、うめき声が聞こえてきたかと思うと、信一の姿が見えなくなった。

「信一!」
声をかけるけれど、返事はない。
しばらくすると水面にゆらゆら揺れる血が滲んできたのだ。

「嘘だろ。、おい!」
鬼から逃げることができた直人が青ざめる。
両手で水をかいて必死で信一がいた場所へと向かう。

だけどそこにはまだ鬼がいる。
「直人、行っちゃダメ!」
直人を引き止めるために手を伸ばすが、届かなかった。

直人は水をかき分けながらどんどん進んでいく。
「信一、どこだ!?」
鬼が直人の声に反応した。
鬼の視線が直人を捉えたのと、水面から信一が顔を出したのはほぼ同時だった。

信一が出てきたのは鬼から離れた場所の水面だったのだ。
「え……」
直人がそれに気がついて目を丸くする。
そのスキをねらったように鬼が直人の体を握りしめた。
そのまま高く持ち上げられる。

「直人、お前、どうして!?」
ずっと水中にいた信一が混乱した声をあげる。
信一は無事に直人を逃したと思って、自分は水中を歩いて逃げてきたのだ。
鬼は直人の体を口のあたりまで持ち上げると、そのまま口の中へと放り込んでしまったのだった。

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