幽霊鬼ごっこ

西羽咲 花月

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イジメ

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信一が鬼になってからの10分は今までで一番簡単な鬼ごっこだった。
緑鬼の操縦がうまく行かないのか、男の子の方が苦戦していたくらいだ。
「今日の鬼ごっこはこれで終わりだよ」

そう言ったときの声もどこか不服そうだった。
もしかしたら鬼の中の信一が必死で抵抗してくれたのかもしれない。
「今日は……名前を呼んでくれてありがとう。じゃあ、また明日ね」

男の子はそう言って緑鬼と共に姿を消したのだった。
「名前って?」
直人に聞かれて私は今日の出来事をふたりに説明した。

男の子の名前は森慎吾。
ここからまたなにか調べだすことができるはずだ。
「1人だけ逃げちゃってごめんね?」

今日学校を休んでいた由紀が申し訳無さそうに言う。
「ううん。あんな目に遭ったんだから仕方ないよ。でも明日はちゃんと学校に来て、調べ物を手伝ってくれる?」
「もちろんだよ」
由紀は大きく頷いたのだった。

☆☆☆

翌日。
学校へ来ると今までと同じように、みんなからは信一の記憶が消えていて、直人の記憶が戻ってきていた。

「昨日情報をくれたのは榎本さんっていう子なの。今日も図書室にいるかもしれない」
昼休憩の時間に私はふたりを連れて図書室へと急いだ。
「あ、今日も来たんだ。今回は友達も一緒?」
昨日と同じ場所で表紙の厚い本を広げていた榎本さんが顔を上げて言った。

昨日は信一と一緒だったんだけれど、その記憶は私1人がここにいたように書き換えられている。
「うん」
私は頷いて榎本さんに由紀と直人を紹介した。

3人で榎本さんの前の席に座る。
「昨日吉野さんに話しかけられてから、自分でもちょっと調べてみてるんだ」
そう言って読んでいた本を見せてきた。

それは10年前の卒業アルバムだったのだ。
「亡くなった生徒の名前は森慎吾さん。この人だよ」
アルバムの中の男の子を指差す。
集合写真の右上に四角く切り取られた写真の子は確かにあの男の子で間違いない。

「でもちょっと気になることがあったんだ」
「気になることって?」

「この人のこと、私知ってるの」
そう言って指差したのは倉田洋次という男性だった。
今は21歳くらいになっているはずだ。

「どうして知ってるの?」
「近所の人だからだよ。もう社会人になってるけど、学生の頃には何度か遊んでもらったこともあるんだ。この年は生徒数が少なくて5年生と6年生の頃はクラス替えがなかったらしいから、きっと森慎吾って人のことも知ってると思う」

「それ、本当!?」
図書室の中で思わず大きな声が出てしまった。
だけど周囲を気にしている場合じゃない。

森慎吾を直接知っていると逢えるかもしれないチャンスなんだ。
「お願い榎本さん。その人の家がどこにあるのか教えて!」
私は顔の前で両手を合わせて言ったのだった。

☆☆☆

倉田さんの家の場所を聞いた私達は学校を早退してその近くまで来ていた。
「ここじゃねぇか?」
先頭を歩いていた直人が榎本さんから聞いた家と外観が一致するものを見つけて立ち止まった。

赤い屋根で小さな庭付きの家だと聞いていたけれど、それと同じだ。
「表札も倉田になってるからたぶんここだね。平日だけどいるかな?」
勢いで学校を出てきてしまったけれど、今日は平日だ。

社会人だという倉田さんがどんな仕事をしているかわからないけれど、家にいない可能性もある。
「とにかくチャイムを鳴らしてみよう」
直人がモニター付きチャイムを押す。

けれど中から誰かが出てくる気配はない。
やっぱり留守なのかな。
もう1度直人がチャイムを押してみると、今度はスピーカーから「はい、どなたですか?」と、男性の声が聞こえてきた。

「お、俺、キズナ小学校の生徒です。倉田洋次さんにお話があって、き、きました」
直人が慣れない敬語を使ってどうにか説明する。

「キズナ小学校の生徒?」
スピーカー越しの男性はいぶかしそうな声をしているけれど、しばらく待っていると玄関を開けてくれた。

ひとまず門前払いはされなかったようでホッとした。
中から出てきたのは榎本さんから聞いていたような若い男性だった。

「倉田洋次は僕だけど、なに?」
スラリと背が高くて銀色のメガネがよく似合う人だ。
「俺、竹中直人っていいます。こっちは吉野裕美と川井由紀」

「はじめまして」
私は直人の後で頭を下げた。
由紀も同じようにお辞儀している。
「どうも」

「実は俺たち10年前に亡くなった人について調べてるんです」
その言葉ですぐにピンとくることがあったのだろう。

倉田さんは「あぁ……」と、短く返事をして黙り込んでしまった。
「こ、この前授業で命の大切さについて学んだんです。それで、今回はその授業の延長でお話を聞きに来ました」

信一が言っていたことを思い出しながら説明すると、倉田さんは納得したように頷いた。
「そういうことか。ただの好奇心とかじゃないんだな?」
「ち、違います!」

全力で否定するとようやく「わかった」と、頷いてくれた。
ただの好奇心で人の死を話題にしたくないんだろうということがわかった。

「君たちが言っているのは森慎吾くんのことで合ってる? というか、キズナ小学校で生徒が亡くなったのはそれくらいしかないよな?」
「そうですね」

私は頷いた。
他にそういうことが起きたという話は聞いたことがない。
まだ創立24年目だし、大きな事故や事件はあまり耳にしない。
「君たちが僕のところへ来たってことは、森と同じクラスだったってことも知ってるんだよな?」

「はい」
頷いたのは直人だった。
「僕と森は5年生と6年生の時に同じクラスだった。でもあまり仲良くはなかったんだ。正確には森がおとなしくてあまり話さないタイプだったから、僕もあまり話しかけなかったんだ」

「森さんはおとなしい生徒だったんですね?」
「あぁ。風の噂だけど森は時々誰かに呼び出されていたらしい。なにが目的なのかわからないままだったけど」
「呼び出し? その相手については知りませんか?」
「悪い。僕は本当に森と仲良くなかったからわからないんだ。ただ、何度か呼び出しがあった後に、森は川に落ちて死んだ。だからもしかして関連があるんじゃないかって、言われてたんだ」

「もしかして、イジメとか?」
声に出しただけで嫌な感じがした。
もしも森慎吾がイジメに遭ってそれが原因で死んだとすれば、こうして学校に出てきている理由にもなる。

森慎吾は今でも学校に縛り付けられているんだ。
「僕が話せることはここまでだよ。それじゃ、勉強がんばって」
倉田さんはそう言うと家の中へと入ってしまったのだった。

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