72 / 80
第二部
毒を食らわば
この回には血の表現が出てきますので、ご注意ください<(_ _)>
~・~・~・~・~
国中の諸侯が集まっているホールは、いつもの夜会の何倍もの人で溢れかえっていた。
その内の何割かはサロンなどに移動していくでしょうけれど、それでもただの夜会とは違うという事が伝わってくる。
これだけ人が多いと魔女の眼を使って見極める事が難しいのではと思い、私の中で焦る気持ちが湧き上がってきた。
「大丈夫、落ち着いて」
私が混乱していると気付いたのか、ドミニク様は背中をさすって落ち着かせてくれる。
私は1つ息を吐いて落ち着きを取り戻していった。
ドミニク様が仰る通り、大丈夫よ。
王族の皆様を中心に視ればいいのだから。
とは言ってもその王族の方々は各々が挨拶に回っていて、いっぺんに視る事は難しそうだわ。
「まずは私たちも挨拶に回ろうか」
「はい!」
ドミニク様の言葉に頷き、まずは順に挨拶回りをする事にしたのだった。
私たちがホールを歩き始めると、ホール内が少し静まり、その後ザワザワし始める。
「これは……注目されているのでしょうか」
「そうみたいだね。舞踏会にも出席したけど、2人で挨拶回りをするのは初めてだから」
確かに揃って国中の諸侯に挨拶をするのは初めての事だわ。
私はヤヌシュと婚約をしていた時から淑女教育の一貫として、国中の諸侯のお名前と爵位を頭に叩き込んでいるので、挨拶をされればすぐにどういった立場の方なのか理解出来る。
そういった面で、自分のしてきた事が無駄ではなかったのだなと思えた。
そんな私たちに真っ先に笑顔で声をかけてきたのは、ディクセル王太子殿下だった。
「叔父上、ようこそいらっしゃいました。クリスティーナも!久しぶりだね、元気そうで何よりだよ」
「ディクセル、一応祝いの席なんだからきちんと挨拶をしなさい」
「叔父上は固いんだから。私とクリスティーナの仲なんだから大丈夫ですよ。ね、クリスティーナ」
「え?ええと……」
ドミニク様から物凄い負のオーラを感じるのは気のせいではなさそう……それに私たちのやり取りに周りにいたご令嬢たちの視線がとても痛いわ。
王太子殿下に合わせてはダメよね。
私が反応に困っていると、そこへ国王陛下と王妃殿下もいらっしゃって、気さくにお声をかけてくださる。
「ドミニク、クリスティーナ嬢、よく来てくれた。ディクセルの非礼をお詫びさせてくれ」
「いえ、そんな。陛下がお詫びするような事ではありません!」
「いや、兄上からもしっかりと言ってください。親しき中にも礼儀ありだと」
ドミニク様が完全にブツブツ言い始めたので、陛下も王妃殿下も笑っていらっしゃる。
「ドミニク様は本当にクリスティーナ様が大事なのね。ふふっ、見ていて楽しいですわ」
「ドミニク、嫉妬深い男は嫌われるぞ」
「そうですよ、叔父上」
「………………」
ドミニク様はご家族にそう言われ、お顔がみるみる青くなっていってしまう……これは私に嫌われると言われたから?
「ははっ、ドミニクが面白いな。今のところ問題はなさそうだが」
楽しくお話していたところで陛下が笑顔のまま、こちらを見て頷いてきた。
私はそのお顔を見て魔女の眼を使う時なのだと理解し、王族の方々のグラスをジッと見つめながら力に集中する。
この力を使っている時は微かに耳鳴りのような音がしているので、周りの声がほとんど聞こえなくなり、私の眼は人の目に見えないモノだけを視始める――――
国王陛下や王妃殿下、ディクセル王太子殿下のグラスに良くないものは見当たらない。
ひとまず大丈夫そうなのでホッと胸をなでおろして、王族の方々に頷いて見せた。
そしてホールをひとしきり見渡してみても、モヤがかかっているものは見受けられず、給仕係が持っているものまで全て綺麗な飲み物のようだった。
良かった――――私がホッとしていたところに、今一番聞きたくない声が聞こえてくる。
「これはこれは、王族の皆様、オーレンブルク公爵閣下にそのご婚約者まで。皆で集まって楽しそうですな」
「フェンデルバーグ公爵閣下」
今日は王太后陛下の快気祝の宴なので、もちろんこの方が来ているのは当たり前だけれど、公の場で一緒になるのは初めてなので緊張が走る。
少し後ろにはヤヌシュやナタリア嬢もいて、ヤヌシュは顔から生気が消えているようにも見えた。
目の下には隈が見えるし、どうしてしまったのだろう。
心配する私をよそに、公爵が言葉を続けていった。
「私たちも交ぜていただいてもよろしいかな?」
「もちろんだ、そなたは我が国の宰相なのだから」
陛下が表情を崩さずに公爵に対応していく。
その隣りの王妃殿下も同様に陛下に笑顔で寄り添っていて、こういった時にさすがだなと思ってしまうわ。
私なら何事もなかったかのように振舞う事が出来ないもの……現に動揺しているのが顔に出てしまっているかもしれない。
私は自分に落ち着けと言い聞かせ、笑顔を張り付けて会話に参加した。
「王太后陛下の御加減はいかがですかな?」
「お蔭様でご自分のおみ足でお立ちになって歩けるようになりましたわ。閣下や民のお心が王太后陛下に届いたのでしょうね」
王妃殿下が閣下にお言葉を返しておられるけれど、私には強烈な意趣返しに聞こえてしまう。
閣下のお心とは真逆の事態ですもの……王妃殿下って凄いお方。
「そうですか、それは何よりですな。王太后陛下や王族の皆様方のご健勝を常にお祈り申し上げております」
「うむ、我々もそなたには感謝している」
陛下もいつもと全く変わらない態度で、むしろ好意的にすら思うような対応に驚きを隠せない。
これが駆け引きなのね……周りの貴族は皆、このやり取りを見てフェンデルバーグ公爵の立場を見せつけられた事でしょう。
そこへ私にそっと声をかけてきた人物がいて振り返ると、お父様とお母様が立っていたのだった。
「お父様、お母様!お久しぶりですわ」
「今日は我々も出席せねばならないからね、ティナに会えるのを楽しみにしていたんだ」
「もう、あなたったら。お父様はティナに会えるからって朝からソワソワしてたのよ」
「ふふっ、私も嬉しいです!」
両親とこういった場で一緒になる事は初めてなので、私の方が浮かれてしまったのかもしれない。
ドミニク様のお邸に移り住んでからは手紙のやり取りしかしていなかったので、懐かしい2人に顔が緩んでしまう。
「何か不自由な事はないかい?」
「私がいて、そんな事になるはずがないだろう」
「ドミニクは気が利かないから、ティナが寂しい想いをしそうで心配なんだ」
「君の中の私はどういう人間なんだ」
お父様とドミニク様は相変わらずのやり取りをしていた。
二人とも本当に仲がいいのね。
お母様も同様に笑顔で2人を見守っている。
ふと視線を感じてその方向を見ると、フェンデルバーグ公爵がこちらを見ていた――――視線の先はドミニク様でもお父様でも私でもなく、おそらくお母様。
閣下とお母様の間に何があったかは分からないけれど、あの目……食い入るような、舐め回すような目線に背筋が粟立つ。
お母様は気付いていらっしゃらないようだけど、王太后陛下が現れたら早めに王宮を後にした方がいいと伝えてみようかしら。
私たちが各々会話している間もヤヌシュはあまり話に入ってくる事はなく、ナタリア嬢がディクセル王太子殿下に頑張って話しかけていたけれど、王太子殿下も対応がお上手なので笑顔でそつなく対応していたのだった。
そこへ王太后陛下がやってきたとの一報がホール内に響き渡る。
王族の方々はその場を後にし、王太后陛下の元へと戻っていったのだった。
階段を数段上った壇上に王族の皆様が並び、王太后陛下を中心に左右に国王陛下と王妃殿下、ディクセル王太子殿下、シェリアン王女殿下が並ぶ。
そして新しいグラスをもらい、乾杯が行われる運びとなった。
「皆の者、よくぞ来てくれた。私の容体が思わしくない中、この国を支え、尽力してくれた事に礼を言う。この国は諸君らの、そして民のものだ。我々はそれを見守る者に過ぎないというのが先王陛下の御考えだった。そのお心のままに、これからも皆が築くこの国の未来をこの老婆にも見守らせてほしい」
王太后陛下の御言葉は力強く、そして素晴らしいお言葉の数々に皆が惜しみない拍手を送った。
ご自分の足でしっかりと立ち、歩いていらっしゃる姿を見て、もう大丈夫と安心感が胸に広がっていく。
横を見るとお父様やお母様も嬉しそうで、ドミニク様も目を細めていらっしゃった。
王族の皆様方もとても嬉しそう。
そんな感慨に浸っている私に、ドミニク様がそっと耳打ちをしてきた。
「ティナ、今お願い」
私はふと我に返り、急いで魔女の眼を使う。
キィィィンッ――――少しの耳鳴りと共に周りの音が消え、グラスに注目していく。
すると王族の方々に与えられた新しいグラスは、真っ黒に染まっていた。
どうして?さっきまでホールにはあのような黒いグラスなどなかった。
先ほど王族の方々に渡した給仕係の方なの?
それとも…………
「ド、ドミニク様っ!」
私は焦ってドミニク様の服を掴み、目で訴える。
ドミニク様は私の様子を見て察したのか、軽く頷いて王族の方々の方を向いた。
ほんの一瞬だけドミニク様と陛下の目が合ったような気がして、ホールには王太后陛下の乾杯の声が響き渡る。
「ツェットリーニ王国の益々の繁栄と発展を願い、乾杯!!」
「「乾杯!!!」」
ダメ、それを飲んだら――――私が止めようと動こうとした瞬間、ドミニク様に体を掴まれて止められてしまう。
声に出せないので表情でなぜ?と訴えると、ドミニク様は首を横に振って私を制止した。
どうして?このままでは毒を飲んで皆亡くなってしまうわ!
あのグラスの飲み物に入っている毒は、一瞬で亡くなる致死量が入っているのは一目で分かった。
彼は私を抑えながらグラスをあおる陛下達の様子を見守ると、突然皆が血を吐き、次々と倒れ出したのだった。
「「キャ――ッ!!!」」
「「陛下が!!」」
ホール内は混乱し、阿鼻叫喚の地獄絵図のような状況になる。
人々は逃げ惑い、そんな中陛下の元へと行こうとしても、逃げ惑う人々によってなかなかたどり着けない。
ドミニク様は陛下の元へと行く前に貴族の方々をホールから出していた……なぜ?どうして陛下の元へ駆けつけないの?
ううん、ドミニク様の事だから何かお考えがあるに違いない。
私は皆を救う為に王族の方々の元へ駆けつけたのだった。
「陛下!!」
するとすでにフェンデルバーグ公爵が陛下の元へ駆け付けていて、陛下の体を支えている。
王太后陛下や王妃殿下、ディクセル王太子殿下やシェリアン王女殿下は血を吐いたまま床に倒れ、何も反応がなかった。
まさか皆、亡くなったわけじゃないわよね?
「王太后陛下!王妃殿下!!」
急いで皆に声を掛け、生存を確認しようとしたけれど、ぐったりしていて全く反応がない。
どうしよう……まさか本当に亡くなってしまわれたの?
そこへ弱々しい陛下の声が聞こえてくる。
まだ意識があるんだわ……!!
私は嬉々としてそちらに駆け寄ったのだった。
「はぁ……はぁ…………ッ毒を盛られたか……!」
「さようですな……残念ながら」
「陛下!お喋りになられてはお体に障ります!!今回復させますので!」
私は周りに人がいる事など全く気にもせずに魔女の力を使う決意をした。
なのに妨害するかのように私の手を掴んだ閣下に一喝されてしまう。
「ならぬ!その力を使う事は許さぬ!!」
「……っ!あなたに何と言われようと私は……!!」
力を使いたいのに両腕をガッチリと摑まれ、全く振りほどけない……!
まだ力の使い方に慣れていない私は、手を塞がれてしまうと思うように魔力をコントロール出来なかった。
閣下は体格が大きいので、年齢を重ねていてもその腕は振りほどけず、私は力を使う事を止められてしまったのだった。
~・~・~・~・~
国中の諸侯が集まっているホールは、いつもの夜会の何倍もの人で溢れかえっていた。
その内の何割かはサロンなどに移動していくでしょうけれど、それでもただの夜会とは違うという事が伝わってくる。
これだけ人が多いと魔女の眼を使って見極める事が難しいのではと思い、私の中で焦る気持ちが湧き上がってきた。
「大丈夫、落ち着いて」
私が混乱していると気付いたのか、ドミニク様は背中をさすって落ち着かせてくれる。
私は1つ息を吐いて落ち着きを取り戻していった。
ドミニク様が仰る通り、大丈夫よ。
王族の皆様を中心に視ればいいのだから。
とは言ってもその王族の方々は各々が挨拶に回っていて、いっぺんに視る事は難しそうだわ。
「まずは私たちも挨拶に回ろうか」
「はい!」
ドミニク様の言葉に頷き、まずは順に挨拶回りをする事にしたのだった。
私たちがホールを歩き始めると、ホール内が少し静まり、その後ザワザワし始める。
「これは……注目されているのでしょうか」
「そうみたいだね。舞踏会にも出席したけど、2人で挨拶回りをするのは初めてだから」
確かに揃って国中の諸侯に挨拶をするのは初めての事だわ。
私はヤヌシュと婚約をしていた時から淑女教育の一貫として、国中の諸侯のお名前と爵位を頭に叩き込んでいるので、挨拶をされればすぐにどういった立場の方なのか理解出来る。
そういった面で、自分のしてきた事が無駄ではなかったのだなと思えた。
そんな私たちに真っ先に笑顔で声をかけてきたのは、ディクセル王太子殿下だった。
「叔父上、ようこそいらっしゃいました。クリスティーナも!久しぶりだね、元気そうで何よりだよ」
「ディクセル、一応祝いの席なんだからきちんと挨拶をしなさい」
「叔父上は固いんだから。私とクリスティーナの仲なんだから大丈夫ですよ。ね、クリスティーナ」
「え?ええと……」
ドミニク様から物凄い負のオーラを感じるのは気のせいではなさそう……それに私たちのやり取りに周りにいたご令嬢たちの視線がとても痛いわ。
王太子殿下に合わせてはダメよね。
私が反応に困っていると、そこへ国王陛下と王妃殿下もいらっしゃって、気さくにお声をかけてくださる。
「ドミニク、クリスティーナ嬢、よく来てくれた。ディクセルの非礼をお詫びさせてくれ」
「いえ、そんな。陛下がお詫びするような事ではありません!」
「いや、兄上からもしっかりと言ってください。親しき中にも礼儀ありだと」
ドミニク様が完全にブツブツ言い始めたので、陛下も王妃殿下も笑っていらっしゃる。
「ドミニク様は本当にクリスティーナ様が大事なのね。ふふっ、見ていて楽しいですわ」
「ドミニク、嫉妬深い男は嫌われるぞ」
「そうですよ、叔父上」
「………………」
ドミニク様はご家族にそう言われ、お顔がみるみる青くなっていってしまう……これは私に嫌われると言われたから?
「ははっ、ドミニクが面白いな。今のところ問題はなさそうだが」
楽しくお話していたところで陛下が笑顔のまま、こちらを見て頷いてきた。
私はそのお顔を見て魔女の眼を使う時なのだと理解し、王族の方々のグラスをジッと見つめながら力に集中する。
この力を使っている時は微かに耳鳴りのような音がしているので、周りの声がほとんど聞こえなくなり、私の眼は人の目に見えないモノだけを視始める――――
国王陛下や王妃殿下、ディクセル王太子殿下のグラスに良くないものは見当たらない。
ひとまず大丈夫そうなのでホッと胸をなでおろして、王族の方々に頷いて見せた。
そしてホールをひとしきり見渡してみても、モヤがかかっているものは見受けられず、給仕係が持っているものまで全て綺麗な飲み物のようだった。
良かった――――私がホッとしていたところに、今一番聞きたくない声が聞こえてくる。
「これはこれは、王族の皆様、オーレンブルク公爵閣下にそのご婚約者まで。皆で集まって楽しそうですな」
「フェンデルバーグ公爵閣下」
今日は王太后陛下の快気祝の宴なので、もちろんこの方が来ているのは当たり前だけれど、公の場で一緒になるのは初めてなので緊張が走る。
少し後ろにはヤヌシュやナタリア嬢もいて、ヤヌシュは顔から生気が消えているようにも見えた。
目の下には隈が見えるし、どうしてしまったのだろう。
心配する私をよそに、公爵が言葉を続けていった。
「私たちも交ぜていただいてもよろしいかな?」
「もちろんだ、そなたは我が国の宰相なのだから」
陛下が表情を崩さずに公爵に対応していく。
その隣りの王妃殿下も同様に陛下に笑顔で寄り添っていて、こういった時にさすがだなと思ってしまうわ。
私なら何事もなかったかのように振舞う事が出来ないもの……現に動揺しているのが顔に出てしまっているかもしれない。
私は自分に落ち着けと言い聞かせ、笑顔を張り付けて会話に参加した。
「王太后陛下の御加減はいかがですかな?」
「お蔭様でご自分のおみ足でお立ちになって歩けるようになりましたわ。閣下や民のお心が王太后陛下に届いたのでしょうね」
王妃殿下が閣下にお言葉を返しておられるけれど、私には強烈な意趣返しに聞こえてしまう。
閣下のお心とは真逆の事態ですもの……王妃殿下って凄いお方。
「そうですか、それは何よりですな。王太后陛下や王族の皆様方のご健勝を常にお祈り申し上げております」
「うむ、我々もそなたには感謝している」
陛下もいつもと全く変わらない態度で、むしろ好意的にすら思うような対応に驚きを隠せない。
これが駆け引きなのね……周りの貴族は皆、このやり取りを見てフェンデルバーグ公爵の立場を見せつけられた事でしょう。
そこへ私にそっと声をかけてきた人物がいて振り返ると、お父様とお母様が立っていたのだった。
「お父様、お母様!お久しぶりですわ」
「今日は我々も出席せねばならないからね、ティナに会えるのを楽しみにしていたんだ」
「もう、あなたったら。お父様はティナに会えるからって朝からソワソワしてたのよ」
「ふふっ、私も嬉しいです!」
両親とこういった場で一緒になる事は初めてなので、私の方が浮かれてしまったのかもしれない。
ドミニク様のお邸に移り住んでからは手紙のやり取りしかしていなかったので、懐かしい2人に顔が緩んでしまう。
「何か不自由な事はないかい?」
「私がいて、そんな事になるはずがないだろう」
「ドミニクは気が利かないから、ティナが寂しい想いをしそうで心配なんだ」
「君の中の私はどういう人間なんだ」
お父様とドミニク様は相変わらずのやり取りをしていた。
二人とも本当に仲がいいのね。
お母様も同様に笑顔で2人を見守っている。
ふと視線を感じてその方向を見ると、フェンデルバーグ公爵がこちらを見ていた――――視線の先はドミニク様でもお父様でも私でもなく、おそらくお母様。
閣下とお母様の間に何があったかは分からないけれど、あの目……食い入るような、舐め回すような目線に背筋が粟立つ。
お母様は気付いていらっしゃらないようだけど、王太后陛下が現れたら早めに王宮を後にした方がいいと伝えてみようかしら。
私たちが各々会話している間もヤヌシュはあまり話に入ってくる事はなく、ナタリア嬢がディクセル王太子殿下に頑張って話しかけていたけれど、王太子殿下も対応がお上手なので笑顔でそつなく対応していたのだった。
そこへ王太后陛下がやってきたとの一報がホール内に響き渡る。
王族の方々はその場を後にし、王太后陛下の元へと戻っていったのだった。
階段を数段上った壇上に王族の皆様が並び、王太后陛下を中心に左右に国王陛下と王妃殿下、ディクセル王太子殿下、シェリアン王女殿下が並ぶ。
そして新しいグラスをもらい、乾杯が行われる運びとなった。
「皆の者、よくぞ来てくれた。私の容体が思わしくない中、この国を支え、尽力してくれた事に礼を言う。この国は諸君らの、そして民のものだ。我々はそれを見守る者に過ぎないというのが先王陛下の御考えだった。そのお心のままに、これからも皆が築くこの国の未来をこの老婆にも見守らせてほしい」
王太后陛下の御言葉は力強く、そして素晴らしいお言葉の数々に皆が惜しみない拍手を送った。
ご自分の足でしっかりと立ち、歩いていらっしゃる姿を見て、もう大丈夫と安心感が胸に広がっていく。
横を見るとお父様やお母様も嬉しそうで、ドミニク様も目を細めていらっしゃった。
王族の皆様方もとても嬉しそう。
そんな感慨に浸っている私に、ドミニク様がそっと耳打ちをしてきた。
「ティナ、今お願い」
私はふと我に返り、急いで魔女の眼を使う。
キィィィンッ――――少しの耳鳴りと共に周りの音が消え、グラスに注目していく。
すると王族の方々に与えられた新しいグラスは、真っ黒に染まっていた。
どうして?さっきまでホールにはあのような黒いグラスなどなかった。
先ほど王族の方々に渡した給仕係の方なの?
それとも…………
「ド、ドミニク様っ!」
私は焦ってドミニク様の服を掴み、目で訴える。
ドミニク様は私の様子を見て察したのか、軽く頷いて王族の方々の方を向いた。
ほんの一瞬だけドミニク様と陛下の目が合ったような気がして、ホールには王太后陛下の乾杯の声が響き渡る。
「ツェットリーニ王国の益々の繁栄と発展を願い、乾杯!!」
「「乾杯!!!」」
ダメ、それを飲んだら――――私が止めようと動こうとした瞬間、ドミニク様に体を掴まれて止められてしまう。
声に出せないので表情でなぜ?と訴えると、ドミニク様は首を横に振って私を制止した。
どうして?このままでは毒を飲んで皆亡くなってしまうわ!
あのグラスの飲み物に入っている毒は、一瞬で亡くなる致死量が入っているのは一目で分かった。
彼は私を抑えながらグラスをあおる陛下達の様子を見守ると、突然皆が血を吐き、次々と倒れ出したのだった。
「「キャ――ッ!!!」」
「「陛下が!!」」
ホール内は混乱し、阿鼻叫喚の地獄絵図のような状況になる。
人々は逃げ惑い、そんな中陛下の元へと行こうとしても、逃げ惑う人々によってなかなかたどり着けない。
ドミニク様は陛下の元へと行く前に貴族の方々をホールから出していた……なぜ?どうして陛下の元へ駆けつけないの?
ううん、ドミニク様の事だから何かお考えがあるに違いない。
私は皆を救う為に王族の方々の元へ駆けつけたのだった。
「陛下!!」
するとすでにフェンデルバーグ公爵が陛下の元へ駆け付けていて、陛下の体を支えている。
王太后陛下や王妃殿下、ディクセル王太子殿下やシェリアン王女殿下は血を吐いたまま床に倒れ、何も反応がなかった。
まさか皆、亡くなったわけじゃないわよね?
「王太后陛下!王妃殿下!!」
急いで皆に声を掛け、生存を確認しようとしたけれど、ぐったりしていて全く反応がない。
どうしよう……まさか本当に亡くなってしまわれたの?
そこへ弱々しい陛下の声が聞こえてくる。
まだ意識があるんだわ……!!
私は嬉々としてそちらに駆け寄ったのだった。
「はぁ……はぁ…………ッ毒を盛られたか……!」
「さようですな……残念ながら」
「陛下!お喋りになられてはお体に障ります!!今回復させますので!」
私は周りに人がいる事など全く気にもせずに魔女の力を使う決意をした。
なのに妨害するかのように私の手を掴んだ閣下に一喝されてしまう。
「ならぬ!その力を使う事は許さぬ!!」
「……っ!あなたに何と言われようと私は……!!」
力を使いたいのに両腕をガッチリと摑まれ、全く振りほどけない……!
まだ力の使い方に慣れていない私は、手を塞がれてしまうと思うように魔力をコントロール出来なかった。
閣下は体格が大きいので、年齢を重ねていてもその腕は振りほどけず、私は力を使う事を止められてしまったのだった。
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢にされたので婚約破棄を受け入れたら、なぜか全員困っています
かきんとう
恋愛
王城の大広間は、いつも以上に華やいでいた。
磨き上げられた床は燭台の光を反射し、色とりどりのドレスが揺れるたびに、まるで花畑が動いているかのように見える。貴族たちの笑い声、楽団の優雅な旋律、そして、ひそやかな噂話が、空気を満たしていた。
その中心に、私は立っていた。
――今日、この瞬間のために。
「エレノア・フォン・リーベルト嬢」
高らかに呼ばれた私の名に、ざわめきがぴたりと止む。
誘拐された公爵令嬢ですが、なぜか皇帝に溺愛されています』
富士山麓
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間――
目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。
そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。
一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。
選ばれる側から、選ぶ側へ。
これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。
世継ぎは他の妃が産めばいい——子を産めない私ですが、帝の寵愛を独占して皇后になりました
由香
恋愛
後宮に入る女の価値は、ただ一つ。
——皇子を産めるかどうか。
けれど私は、産めない。
ならば——
「世継ぎは他の妃に任せます。私は、陛下に愛される女になります」
そう言い放ったその日から、すべてが狂い始めた。
毒を盛られても、捨てられず。
皇子が生まれても、選ばれたのは私だった。
「お前は、ここにいろ」
これは、子を産めない女が
ただ一つの武器“寵愛”だけで頂点に立つ物語。
そして——
その寵愛は、やがて狂気に変わる。
「退屈な女だ」と婚約破棄されたので去りましたが、翌日から国政が止まったそうです。え、私はもう存じませんけど?
にたまご
恋愛
公爵令嬢クラーラは、ユリウス王太子殿下に婚約を破棄された。
「退屈な女だ」「何の取り柄もない」と。
否定はしない。
けれど殿下が知らないだけで、通商条約も予算案も外交書簡も、この国の政務の大半を六年間匿名で回していたのは──この「退屈な女」だ。
婚約破棄の翌朝、宰相補佐官のレオンが焼き菓子と四十二件の緊急報告を携えて公爵邸を訪れる。
「貴女がいなくなった王宮は、控えめに申し上げて、地獄です」
──存じません。私はもう、ただの無職ですので。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜
美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?
お飾りの妃をやめたら、文官様の溺愛が始まりました 【完結】
日下奈緒
恋愛
後宮に入り、妃となって二年。
それなのに一度も皇帝に抱かれぬまま、沈翠蘭は“お飾りの妃”としてひっそりと日々を過ごしていた。
ある日、文部大臣の周景文が現れ、こう告げる。
「このままでは、あなたは後宮から追い出される」
実家に帰れば、出世を望む幼い弟たちに顔向けできない――。
迷いの中で手を差し伸べた彼にすがるように身を預けた翠蘭。
けれど、彼には誰も知らない秘密があった。
冷たい後宮から始まる、甘くて熱い溺愛の物語。
【完結】「元カノが忘れられないんでしょう?」と身を引いた瞬間、爽やか彼氏の執着スイッチが入りました
恋せよ恋
恋愛
「元カノが忘れられないなら、私が身を引くわくべきよね」
交際一周年、愛するザックに告げた決別の言葉。
でも、彼は悲しむどころか、見たこともない
暗い瞳で私を追い詰めた。
「僕を捨てる? 逃げられると思っているの、アン」
私の知る爽やかな王子の仮面が剥がれ落ち、
隠されていた狂おしいほどの独占欲が牙を剥く。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!