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第二部
まさかの出来事とスーパースター?
この回にも血の表現が出てきますので、ご注意ください<(_ _)>
~・~・~・~・~
やっぱりこの人が皆様を……!
でも力が使えない……どうしよう、どうすれば…………。
悔しくて腕を掴まれたまま睨んでいると、閣下は王族の皆様が倒れている姿を確認し、ゆっくりと話し始めた。
「陛下、今までご苦労様でした……後の事は私めが全ておこなっておきますので、心安らかにお眠りください」
「…………っぐ…………侍医を呼べ……!」
「その必要はありませぬ。あなたは助からない」
「なん……だと……そなた、まさか…………」
陛下の息が絶え絶えなのをいい事に、フェンデルバーグ公爵がついに本性を現す。
その歪んだ醜悪な顔に、私まで凍り付いてしまうのだった。
「リドメキシアの秘薬は強力だ。この国では王族がいなくなった場合、国で最も身分の高い者が後を継ぐ事が出来る。ご自分の命が狙われている事を今知るとは……そのような間抜けな国王など必要ない」
「なんて無礼な事を!離してっ!!」
早く陛下を助けなければ……!!!
「ティナ!!」
私が閣下に抵抗をしているところに、後ろからドミニク様が駆けてきてくれて、閣下の腕から助けてくださった。
腕には赤く痕がついてしまったけれど、掴まれたままだと力が使えなかったので助かったわ。
「ドミニク様、ありがとうございます!」
「フェンデルバーグ公爵、ティナに何を……!」
「おや、無力な元王弟殿下ではありませぬか。あなたが王宮を出て隙だらけになった王宮はとても動きやすく、王太后陛下もあと少しのところだったのに……つくづく邪魔な存在よ」
「貴様……」
ドミニク様の怒りがヒシヒシと伝わってくるわ……やっぱり王宮にはドミニク様の力が必要だったんだわ。
結局防ぐ事が出来なかったなんて。
でもまだ私の力を使えば救えるかもしれない……!
「ドミニク様、私が力を使います。皆様を助ける為にさせてください」
彼がホールの貴族達を避難させるべく誘導してくださったので、このホールには衛兵と私たちぐらいしか残ってはいなかった。
完全に封鎖されたような状況になっている……もしかしたらドミニク様は私が力を使う事まで考えてくださっていたのかもしれない。
「……グレゴリオ…………貴様……母上にも……?」
「今頃気付いたのか!王太后陛下、そして先王陛下も、な。あの時は秘薬を使う分量を間違え、あっという間に亡くなられたので焦ったものよ。リドメキシアの秘薬は少量ずつなら体内に毒素が残らないのは分かってはいたのだが……」
「あの時から…………っ!」
「陛下が愚かだからでしょう。責めるならご自分を責められるといい」
許せない、私の中で初めてと言っていいくらいの怒りの感情が湧き上がってくる。
ドミニク様の方を見たものの、角度的に表情を読み取る事は出来なかった。
悔しいわよね…………ほんの少し震えているのが分かる。
今なら陛下も回復させる事が出来るし、閣下も捕まえる事が出来るわ。
とにかく陛下の命をお助けしなくては……!
私は覚悟を決めて国王陛下に近づくと、その陛下からいつもの穏やかな口調で私を制止する声が聞こえてくるのだった。
「その必要はない、大丈夫だ」
「え?」
陛下は私に声をかけた後、ゆっくりと立ち上がった。
何が起きてるの?
さっきまでとても苦しそうだったのに、全く問題ないと言わんばかりに体を起こし、肩をパキッと鳴らしている。
そしてさらに私を驚かせたのは、周りで倒れていた王族の方々も次々に体を起こし始めたのだった。
「いたた、首が痛いな……」
「いつまで寝させるつもりですの?」
「お義母様、大丈夫ですか?」
「うむ……動かないというのは存外大変なものだな」
床に突っ伏した状態が長かったので首を痛そうにするディクセル王太子殿下、あの状態から動けなくて不満を漏らすシェリアン王女殿下、王太后陛下を気遣う王妃殿下、王太后陛下はまだ病み上がりなので妃殿下に助けてもらいながら起き上がっている。
「ど、どういう事、ですの?」
「な……なっ……!!」
私も驚きで理解が追い付かない状況だったけれど、閣下はもっと混乱した様子で、声も出せない状態だった。
「まさか、皆様……!」
「うむ、私たちは飲んではいない」
「でも血が…………」
「こんな物はすぐに用意出来てしまうものなのだよ」
そう言って国王陛下は手の平に赤いお薬のようなものを乗せ、液体に触れると血のように広がっていった。
それを吹き出しただけだと軽く言ってのける。
そんなものがあるとは思わず、私の目が思わず点になってしまう。
陛下は驚く私に笑いながら、フェンデルバーグ公爵の方へ向き直り、話し始めた。
「さて、グレゴリオ。この件で申し開きはあるか?」
「………………」
「リドメキシアの秘薬はな、血を吐いて死ぬわけではない」
「バカな……!」
「そなたは父上が亡くなられた現場を見ていないからな。自分の愛人にさせるからそのような事になる……その愛人も父上が苦しむ姿しか見ていないのだろう」
私は陛下のおっしゃっている意味を考えながら、頭を巡らす……閣下の使おうとしていた秘薬が血を吐いて亡くなるのではないとしたら、完全に墓穴を掘ってしまった事になるわ。
まさかそこまで考えて、この演技を?
フェンデルバーグ公爵は顔を真っ青にして、俯いてしまっていた。
陛下を殺害しようとしたのは白日の下に晒されたわけで、言い逃れ出来る状況ではない。
「先王陛下の毒殺、王太后陛下の毒殺未遂、我々王族に対しても手をかけようとした。この罪はそなたの命1つで償う事は出来ぬ。リドメキシアの秘薬の流通を止められ、焦っただろう?」
「なぜ分かった…………」
「そなたが無力の王弟殿下と言っていたドミニクが全て暴いてくれた。東の帝国に掛け合ってな」
「………………っ!!」
ドミニク様は素晴らしいお力と知恵を持っていらっしゃるわ。
それをひけらかさないだけ……結局侮った相手によって罠にはまった閣下は、力なく衛兵によって捕縛された。
「グレゴリオ、そなたの事は本当に信頼していただけに残念だ。あの世で父上に謝るんだな」
「くそぉぉぉぉおおおおお!!」
「連れて行け!!」
「「は!」」
ホール内には閣下の叫び声が響き渡り、暴れる閣下を衛兵が5人がかりで抑え、引きずりながら連れて行く。
その姿を皆がジッと見つめていた。
表情からは読み取る事は出来ないけれど、捕まえたからと言って先王陛下が戻ってくるわけではないし、陛下や皆様の複雑な気持ちを思うと胸が軋むわ。
そんな沈黙を破るように、陛下がドミニク様に明るく話しかけた。
「それにしてもドミニク、クリスティーナ嬢にこの事を伝えてないとは驚いたぞ。おかげでグレゴリオの本性が暴く事が出来たが」
「その方があの男の本性を引き出しやすいと判断したんですが……物凄く上手くいってしまって複雑です」
「ひとまずクリスティーナ嬢に謝った方がいいのではないか?」
私がいじけて頬を膨らませているのを見て、陛下がそう仰ってくださる。
「ティナ……すまない」
「………………」
確かに陛下たちが血を吐いて倒れた時は本当に焦ったし、半狂乱になっていた自分が今さらながら恥ずかしくなってきてしまう。
でも皆が無事だったわけだし本当は怒ってなどいないけれど、少し困らせてあげたい気持ちで怒ったフリをしてみたのだ。
皆の”フリ”に振り回されたのだから、これくらいいいわよね。
私の態度に陛下たちは声を挙げて笑った。
次の瞬間、突然ホール内にフェンデルバーグ公爵の声が響き渡る。
「やれ!!!!」
ホールから連れ出される寸前に叫んでいたらしく、何が起きたのか全く分からずに皆が辺りをキョロキョロと見まわす。
……どういう事?
誰に何を命令したの?
すると、王妃殿下の悲痛な悲鳴が響き渡った。
「陛下!!!!」
国王陛下に何が起こったのかと振り返ると、陛下は突然苦しみだし、床には血が滴り落ちていく。
腹部を抑えていたその手にはべったりと血がついていて、自身の手を見ながら後ろをゆっくりと振り返った。
「レインハルト!!」
「父上!!!」
「……っぐ……あ゙…………お、前…………」
陛下の体が力なく床に崩れ落ちる。
すると、そこには一人の侍女が小剣を持って立っていた。
「貴様!!」
陛下の隣りに立っていたドミニク様がすかさずその侍女を羽交い締めにし、地面に倒して動きを封じた。
「衛兵!この者を捕らえるのだ!!」
「「はっ!!」」
ドミニク様のおかげで速やかに捕まった侍女は抵抗するも、多数の衛兵に抑えつけられ、あっという間に捕縛されたのだった。
「ふははははっ!!リドリス、よくやった!!!」
「父上!!ふふ、一矢報いる事ができた……ざまぁないな!お前たち王族など、下々の者の事など考えてもいないくせに。父上に国王の座を渡せ!!」
父上……それはフェンデルバーグ公爵の事だわ。
この女性が彼の娘のリドリス。
ドミニク様から今回の件で様々な事を聞いた時、リドリスのお話も聞いていたのですぐに誰なのかが分かった。
フェンデルバーグ公爵は娼婦だったリドリスの母、シーデイルを娼館から買い取り、不自由のない暮らしをさせてあげていたようだった。
その恩に報いる為にシーデイルもリドリスも公爵の言う事を従順に聞いていた事も。
でも今はリドリスに構っている場合ではないわ……!
「陛下!傷口をお見せください!!」
「クリスティーナ様!お願い、この人を助けてっ!!」
王妃殿下が涙を流しながら懇願してくる……お気持ちが痛いほど分かってしまうわ。
もしドミニク様が同じ目に遭ったら、私だって正気でいられるか分からないもの。
私に出来るかは分からないけれど、ありったけの魔力を使って傷口を塞がなくては……!
「失礼いたします!」
陛下は後ろから腹部を刺されていたので、私は陛下の体を横にしてもらい、傷口を確認する。
そして止めどなく流れる血を見ながら、早く塞がなくては手遅れになると感じていた。
侍女が持っていた小剣が内蔵まで達し、体の臓器を傷つけているとしたら、それらも全て綺麗にしなければならない……私に出来るの?
そんな事、やった事もないのに――――焦りと緊張で、次第に動悸が激しくなっていく。
どうしよう、力の使い方がようやく分かってきたばかりなのに。
失敗したら……と考えると、手がカタカタと震えてきてしまう。
そこへ聞き覚えのある声が私の名を叫ぶ。
『ティナ様――――!!』
「ラディ!!!」
どうしたらいいのか混乱し、涙目になっていた私の元へラディが勢いよく飛んできて私の腕にそっととまった。
その姿はスーパースターさながらで、私には彼がヒーローのようにも思えたのだった。
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