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第二章

王都からやってきた司祭

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 「あたしらが虐げられている間、あんたらはぬくぬくと旨いもの食って、あったかい布団で寝て…………何不自由なく暮らしていたんだろ?!それを今さら…………救いの手を差し伸べに来ましたって?バカにしやがって…………何しに来たんだよ……」

 「テレサ………………」

 
 オルビスが泣きそうなテレサを心配して彼女の元へ行き、背中をさすって落ち着かせてくれる…………ぐぅの音も出ないくらい正論ね……王太子妃教育に必死だったって言っても彼らから見たら、贅沢な悩みでしょうし………………いつの時代も虐げられるのは弱いものばかり。
 
 私は自分の事で精一杯で、周りを見てこなかった。上に立つ者のくせに……王太子妃候補としても領主の娘としても失格ね。突然オリビアの中身が私に変わって、子供たちの為にやってきましたって言ったって誰も納得するわけがないわ。

 信頼を得るには言葉じゃなくて、行動で示すしかない。

 
 「あなたの言う事、全てその通りよ。私は何か言える立場ではないわ」

 「お嬢様!お嬢様は王太子妃候補なのです…………領地に顔を出す事が出来なくても当たり前…………」

 「オルビス、いいの。領主の娘として生まれてきて、私に責任がないとは間違っても言ってはいけないわ。」

 私はオルビスを制して、椅子から立ち上がり、テレサの元へ行く。テレサは領主の娘に暴言を吐いた事を自覚してか、私が近づくとビクッとしながら震えていた…………私が守るべき者は子供たちだけではなかったのね…………テレサの両手を握り、頭を下げる。

 
 「あなた達の苦しみに気付いてあげられなくて、ごめんなさい。こんな私だけど挽回するチャンスがほしいの、お願い………………」

 「お嬢様!」
 「オリビア!」

 
 殿下とオルビスが同時に私の名前を呼ぶ声がする…………貴族が簡単に頭を下げるものではない事は分かっているわ。でも私の気持ちを感じてもらうには態度で示すしかないの。


 「…………………………いいよ。あんたの好きにしてみなよ。どうなるか見ててやる……」


 「…………ありがとう、テレサ……」
 「馴れ馴れしく名前で呼ぶなよなっ……」

 …………耳が赤い、これがいわゆるツンデレってやつかしら……背は高いけど猫のようで可愛いわ。私はふふっと笑いながらテレサの頭を撫でてみる。するともっと真っ赤になってプイッと背中を向けてしまった。


 ………………可愛いわ…………


 「……さっそくなんだけど、あなた達に聞きたい事があるの。オルビス、テレサもお話を聞かせてもらってもいい?」

 「……何なりと」
 「……仕方ないな……」

 周りには住人が、私たちのやり取りを見守っている。しっかり話し合わないと……二人の協力を得て、ここの現状をちゃんと把握しなければ。そう思い殿下の隣にまた腰をおろすと、私の手をそっと握ってきた。心配してくれてるのかしら…………ちょっと勇気が出てきた気がする。
 

 「……大丈夫ですわ」

 笑顔で殿下にそう言うと、殿下は驚いた表情を見せ、私の手をさらにぎゅっと握ってきたけど、それ以上何も言ってくる事はなかった。


 「あなた達に聞きたい事は、ここの事なんだけど…………私の記憶が正しければ、私が領地にいた8歳くらいまでは、あなた達のような人々が集まる場所はなかったと思うのだけど…………」


 「……………………そうだよ。」

 テレサは少し俯きながら答えてくれた。嫌な記憶を思い出してもらうのは心が痛むわ…………でも聞かなければならない。

 
 「いつぐらいから、こういった場所が出来始めたの?」


 「私も最初からいたわけではないんですが、皆の話を聞く限りお嬢様が殿下と婚約が決まり王太子妃教育の為に完全に王都に移り住む時、旦那様も一緒に王都に行ってしまわれてから…………数年経ってからです」

 「………………アイツだよ…………教会に変な司祭が来てから全部変わっていったんだ………………」
 

 テレサが苦々しく吐き捨てるように言うと、殿下が司祭という言葉に反応した。
 
 
 「変な司祭?……それは聞き捨てならないな。名は?」

 「………………ヤコブ………………あーーあんなヤツの名前を口にするだけで吐き気がする。アイツはここに突然やってきて、公爵がいないのをいい事に私らのような人間を教会から追い出した。入れてほしければ税を納めろと言い出して………………ただし女は……条件を飲めば入れてやると………………」

 「条件?…………まさか……」
 
 
 すごく嫌な予感がする。私はテレサに聞いてから後悔した。

 
 「……そうだよ。体で払うなら入れてやると言ってきやがった…………私が教会に通っていた時もすり寄ってきて……変な手付きで………………」

 「テレサ!」

 そこからはオルビスが制した。テレサはその時の事を思い出したのか頭を抱えてしまった…………

 
 「ここからは私が。そのヤコブ司祭は王都から派遣されて来たようで、自身には様々な権限があるのだと言っていました。」

 「王都からという事は聖ジェノヴァ教会から派遣されてきたのだな……あそこがこの国の教会にとって中枢である事は間違いない。そこから派遣されて来た司祭か…………厄介だな」


 どういうところが厄介なのか、私には理解出来ずにいたので殿下の顔を見ていると、私の考えている事が分かったのか説明してくれた。


 「聖ジェノヴァ教会は王族とも関係が深く、大司教クラスになると貴族と同じ、いやそれ以上の権力を持つ場合がある。王家としても教会とは波風立てずにやっていくに越したことはないからな……そこから直接派遣されているとなると、様々な権限があるというのも皆が納得してしまうだろう。もちろん公爵もこの司祭が来る事は了承済みだろうが……大司教あたりからの話なら、派遣を了承せざるを得なかったのか……」


 そう言ってヴィルも考え込んでしまう。


 聖ジェノヴァ教会、後に聖女が降臨する教会だったはず。


 
 この教会が我が公爵領に入り込んできていたという事?
 

 「さすがに王都から派遣されてきた司祭に貧しい者たちが口を出す事は出来ないので………………それでも皆、細々と生活をしていたようです」

 「オルビスはいつからここで暮らすようになったの?」


 私は素朴な疑問をぶつけてみた。明らかに公爵家の人間であったようなのに今はここの住人でもあって……公爵家と連絡を取っているようにも見えないのよね…………


 「私は……元々公爵家にお世話になっていた者だったんですよ。」

 「え?」

 オルビスの突然の告白にびっくりしてしまった…………公爵家にいたなら私も顔見知りのはず。私には転生する前の事は小説に書いてあった事くらいしか分からない。オルビスっていう名前は出て来なかったから…………

 
 「お嬢様は幼かったので覚えていらっしゃらないかもしれません。旦那様にもお世話になって…………今マナーハウスをロバート様が取り仕切っていますが、私はロバート様の手伝いをしていました。」


 


ーーーーーーーーーー


ここまで読んでくださって、ありがとうございます^^

次話から16時に1話ずつ更新になります、よろしくお願いいたしますm(__)m

 
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