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第三章
思いがけない訪問者
しおりを挟むマナーハウスに帰ると、ロバートが出迎えてくれた。
「お嬢様!王太子殿下、ソフィアも皆ご無事で何よりです……!」
少し疲れた表情をしているけど、司祭の方が上手くいったからか、ロバートの顔はすっきりして見えた。
「ただいま!ロバートも大変だったでしょう……オルビスやテレサから聞いているわ。頑張ったわね……司祭は慌てて王都に向かったようだけど」
「はい、突然王都からの使者が来まして。呼び戻されたようですが、お嬢様が何か対策をしていらっしゃったのでしょうか?」
「違うのよ、ヴィルが事前にお父様に全て伝えてくれたみたいで……王太子の権力も発動してくれたみたい。お父様も動きやすかったのではないかしら」
私がそう言うとヴィルは満更でもない感じの顔をしていた。……まぁ実際そうだと思うから仕方ないわね。
「王太子殿下、ありがとうございます。ここまで上手くいくとは思わず、若干拍子抜けしましたが……何はともあれ皆さまがご無事で何よりですな。今日はゆっくり湯に浸かってお休みください」
「……そうだな。まずは疲れを取るとしよう」
「そうね!」
そう言ってマナーハウスに入るとマリーが「お嬢様~~!!」と涙目で走ってくるのが見える…………帰ってきたって感じがしてホッとしたのだった。
∞∞∞∞
翌日は疲れきっていたのか、私もソフィアも遅い目覚めだった。すっかり日は昇りきってお昼が近い時間まで寝てしまった。
「う…………ん……」
寝ぼけてゴロンとしていると、どこからともなく声が聞こえてくる。
「まだ寝ぼけているようだな。そろそろ昼になるぞ……」
ベッドがギシッと軋む音がしたので目を開くと、ヴィルの顔が目の前にある…………あまりのエフェクトに固まってしまった。
「ヴィ、ヴィル……どうして、ここに?」
慎重に言葉を選んで聞いてみたのだけど「オリビアがなかなか起きてこないから部屋で待機させてもらった」と当たり前のように言ってくる。
「オリビア付きのマリーという侍女は、喜んで入れてくれたよ」
マリーー!……きっと何の悪気もなく入れたのよね、マリーは。マリーを思い浮かべると、その場面が浮かんでくる。そして私に嬉しそうに「王太子殿下がお嬢様を心配して~」って言ってくるに違いない。
私は溜息1つ落とし、隣のソフィアに目を向ける。ぐっすり眠っているわね…………それほど疲れたのでしょう。体も心も疲れたでしょうし、このまま寝かせておいた方がいいわね。
「……では着替えるので、ヴィルは応接間で待っていてくれる?」
「わかった。ゆっくりでいいよ」
私が頷くと風のように出て行った。こんな気安い話し方が出来る日がくるなんてね……ヴィルも悪い人ではないし、友達にはなれそうなのよね。
さっそくベッドからおりて着替えようと動き出すと、もそもそとソフィアも動き始めた。お目覚めかしら?ソフィアのすぐ近くのベッドサイドにしゃがみ込み、顔を覗いて目覚めるのを待つ。ソフィアの目がゆっくりと開いていく……
「……おはよう」
「………………お……はよう」
穏やかな日常が戻ってきた感じがして、幸せな気持ちになる。私たちは二人ともマリーに手伝ってもらい、着替えを済ませて応接間へと行く事にした。
――コンコン――
「お入り」
私は一瞬固まってしまった…………この声は………………意を決して扉を開くと、そこにはお父様がヴィルと向かい合って座っていた。
「お、お父様…………なぜ、ここに?」
「つれないな~~久しぶりの父に会えたのにその台詞だなんて。」
お父様はいつもと変わらず、朗らかな感じでそう言ってくれたけど……ひとまず私はソフィアと一緒にヴィルの隣に腰を下ろした。司教の件が解決したばかりだったので、まさかお父様がここにいるとは思わず、驚きを隠せないでいる私に説明してくれた。
「殿下が我が領地での事にお力添えしてくれたおかげで、教会の方が大人しくなってくれてね……少し動きやすくなったから、早馬で来たんだ。着いて早々に司教の件と司祭の件が同時に片付いたと聞いてびっくりしたけどね。それにオリビアが関わっているって聞いて、さらにびっくりしたよ……」
「お父様……色々と勝手をしてごめんなさい。委任状を頼む時も詳しく書いてなかったのに協力してくれて……とっても感謝しています」
そうなのだ、委任状を送ってもらう時に詳しい経緯を説明している時間がなくて、掻いつまんで少し書いた程度の説明しかしていなかった。それでもお父様は委任状を書いて送ってくれて…………それがとても助かったのよね。
「実際に王太子殿下からの連絡を受けて、司祭の勝手を教会に報告した時に彼を王都に戻してもらうように掛け合ったら、慌てて使者を送ってくれました。いや~助かりました。近頃の教会は力が大きくなってきて、なかなか動いてくれませんから。殿下の書状を見せたらあっという間に動いてくれましたよ」
私は二人のやり取りを聞いて、想像以上に王都では教会の力が大きいのだという事を感じて、少し不気味な空気を感じた。
「それにしても今回の件、公爵の中ではどのくらい認識していた?あなたの事だからほとんどの事は想定済だったのではないのか?」
ヴィルがお父様にそう言ったのを聞いて、私は信じられずヴィルとお父様を交互に見やった。お父様は朗らかに微笑みながらヴィルの言葉を否定する。
「そんなまさか!税の徴収や領地で色々とやっていた事は聞いていませんでしたよ。……しかし、オリビアが領地に行くと言い出した時、何か起こるだろうなとは思っていました」
「え?そうなの?お父様……」
私は驚きのあまり言葉を失ってしまう……私が領地に行くと言った段階で何か起こるって予想はしていたというの?私はお父様には療養に行くという名目で領地に行くと言ったけれど、その時の私はもう元気だったから療養目的ではない、という事は気付いていたと思う。
でも何か起こると予想していたというのは……お父様は私に頷いて話を続けた。
「オルビスの一件以来、こちらが何かしようとする度に教会が絡んでくるんですよね~その度にあのお方もやってくるものだから……」
「?」
お父様が何を言っているのかが分からなくて、話を理解出来ないでいるとヴィルがお父様の言葉に反応した。
「母上だな?」
「?!」
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