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上書き ~結人Side~
しおりを挟む「それにしても……亮クン美人さん~~~~素顔がこんなに可愛いなんて知らなかった!!」
駆流の大きな声でハッと現実に戻された。
この場で亮の素顔を見たのは連中だけではなく、コイツにも見られてしまったのだ。
亮の白くて柔らかい頬を挟みながら、しきりに可愛い可愛いと言う駆流の腕を引き剥がす。
「おい、触るな!菌がうつる」
「ちょっと、ひっど~~菌扱い反対!」
「あははっ」
俺のそばで、俺を見て、亮が笑っている。
それだけで、苦しかった中学時代がウソのように、べっとりと胸にこびり付いていたどす黒い感情が溶けていくような気がした。
亮がなぜ中学受験をしたのか、理由はまだ聞いていない。
ずっとそばにいるって約束をしたのに受験を選んだ……理由を聞きたいけど、自分が求めていたのはそんな事ではなく、ただそばにいて俺を必要としてほしかっただけなんだ。
でももうあの頃みたいな子供じゃない。
体も大きくなったし、今度は俺がそばにいて守ってあげられるようになったのだから。
「ん」
「え……おんぶしてくれるの?」
「さっき首が思い切り締められてたし、頭が揺さぶられただろ。頭は危険だからな」
俺の言葉にゆっくりと遠慮がちに背中に乗ってきて、そのまま立ち上がった。
あまり頭を揺らさないように慎重に歩いていく。
背中で大人しくおんぶされている幼馴染の温もりに、感じた事のない幸せな気持ちが全身に広がっていった。
背中から亮の良い匂いがしてくる……小学生の時、よくお泊り会をしていて、コイツの匂いが常に近くにあった。
あの頃と何も変わっていないな。
変わったのは俺の気持ちだ。
あの頃のような純粋な気持ちではなく、胸の中には幼馴染に対しての欲望がチリチリとくすぶっていた。
大事な幼馴染の温もりに、匂いに、体が反応しそうになるのを必死で堪える。
考えるな、煩悩を振り払え、無事に送り届ける事に集中しろ――――自分に活を入れながら何とか駅に着いたのだった。
「駆流クン、今日は色々ありがとう。助かったよ」
無事に家の近くの駅に着いて、亮が駆流に笑顔で挨拶をした。
すると、駆流がゆっくり亮に近付いていく。
「亮クン」
なんだか駆流の様子がおかしいな。
「…………おい」
俺の声も聞こえていないのか、どんどん亮に寄っていき、体を屈めていく。
内緒の話があるにしても距離が近すぎるだろ。
そう思って二人を引き離そうとした瞬間、駆流の唇が亮の白くて綺麗な頬に触れ、チュッと音がして離れたのだった。
「亮クンに一目惚れしちゃった。んふっ」
「駆流!!!」
咄嗟に亮から引き離したが事後だった為、駆流は俺の顔を見ながら舌を出し、勝ち誇った表情をしている。
「いいじゃん~~誰のものでもないんだから。僕のことも意識してくれると嬉しいなぁ」
すっかり油断していた俺は、今後駆流からも亮を守らなくてはならなくなってしまうのだった。
クソッ……まさか駆流まで魅了してしまうとは……亮が亮らしく生きられるのはいい事とは言え、あまりにも周りを無自覚に魅了してしまうのは危険だ。
驚き戸惑う幼馴染をこれ以上駆流と関わらせたくなかった俺は、すぐに彼をおんぶして自宅へと向かった。
俺の背中の亮は、駆流と別れてからずっと無言で大人しくしている。
きっと物凄い動揺しているだろうな……クソ…………まだ俺もキスしてないのに……!
「おい、駆流のことだけど」
「え?!」
駆流の名前を出しただけで声が上ずっている。
やっぱ、すげー意識してんじゃねぇか……。
「アイツはだいたいいつもあんな感じだから、あまり考え過ぎんな」
「え、そうなの?」
「ああ」
「そっかー、そうなんだ…………ありがとう」
これで少しはコイツの意識から駆流を追い出せただろうか。
何食わぬ顔で亮の初めてを奪っていく駆流に対して、腹立たしい気持ちでいっぱいになっていく。
イライラを必死で抑え、亮の家のインターフォンを押すと、とても懐かしい声が聞こえてきたのだった。
『はぁーい』
「帰ったよ」
おばさんの声だ……すげー懐かしい。
母さんと親友だったから、母さんが死んだ後も随分お世話になったな。今の俺を見たらガッカリするだろうか。
そんな心配は杞憂だったようで、何事もなかったかのように俺に気付いて声をかけてくれたのだった。
「あなた結人くん?!」
「……っす。お久しぶりです」
「久しぶりじゃない~~ここで話すのもなんだし、入って入って!」
変わらない声、変わらない態度、亮の家の匂い、全てが昔に戻ったかのように錯覚してしまう。
幸せだったあの頃と同じように俺を受け入れ、家にはおじさんもいて、二人とも俺との再会をとても喜んでくれた。
亮を部屋のベッドに寝かせたあと、今日のことを2人に説明しなくてはならない。
「ちょっと路上でトラブルに巻き込まれてしまって……眼鏡が壊れてしまいました」
「まぁ……でも二人とも無事で良かったわ」
「亮をここまで送ってくれてありがとう」
「いえ、俺は何も……」
実際に俺が守ったわけじゃないからそう言ったのに、2人は感謝の気持ちを隠さない。
居心地の悪い実家とは大違いだ。
懐かしくて話が弾み、夕飯を一緒にと言われたので亮を呼びに行くと、疲れたのか寝息を立てて眠ってしまっていた。
「寝たのか……頑張ったもんな」
ベッドサイドに座り、心地よい眠りに落ちている幼馴染の顔を眺める。
肌も綺麗だな……頬がもちもちしている。
甘い吐息と吸い込まれそうなピンクの唇。
このままキスしてぇ。無防備すぎるだろ。
彼の右頬を撫でると、駆流がそこにキスをした事をふいに思い出す。
ほとんど無意識に動いていたと思う。
ゆっくりと顔を近付け、アイツがキスをした部分に上書きをするようにキスをした。
柔らか……ずっとこのままでいたい。
でもこの白い肌に痕がつくのは許せないから、名残り惜しみながら唇を離した。
「好きだ」
深い眠りの中にいる幼馴染の耳元で、囁くように伝える。
ずっと、ずっと、自分の心の中にいるのは亮だけだった。
中学時代はあまりに現実が苦しくて、求めても報われる事のない気持ちから目を逸らしたけど、もう逸らすことは出来ない。
今日アイツらに痛めつけられる幼馴染を目の当たりにし、心臓が止まるかと思った。
あんな思いをするなら、自分が傷ついた方がいい。
それほど大切で、どんなことからも守ってやりたいと思うのは、亮だけ――――
「おやすみ、亮」
眠る幼馴染にそっと挨拶し、部屋を後にした。
おじさん、おばさんには亮が眠っている事を伝え、夕飯は丁寧に断り高嶺家を出る。
夜空を見上げると大きな満月が光り輝き、自分の道筋を照らしているような気がした。
俺も避けてばかりいられないな……亮のことや自分の家の問題、それらとこれから向き合う覚悟を決め、自宅へと戻ったのだった。
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