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05 騎士たちの誤算
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――まさか聖女様が成人していたなんて……
ツヤツヤした黒髪は短く、肩の下あたりまでしかなかった。髪を伸ばしだす前の子供のようだった。豊穣の大地の瞳といわれる、ファリアーナ神と同じ色の濃褐色の瞳は、好奇心にあふれ輝いている。
なにかに驚いたように、ビクッと体をとびあがらせたり、プルプルふるえながら見上げてくるようすは、庇護欲をかきたてられた。
聖女様が着ている小さな花柄のワンピースも膝下丈で、成人女性が着ることはない短さだった。不自然に高いかかとの靴が大人への憧れから、背のびしたい年頃のように感じさせた。
馬上にちょこんと座った聖女様を見たとき、魔獣もでるシノアの森に迷子が?! と、……驚いた。
――だから……大きな間違いを犯してしまった。
「――隊長……早く戻ってきてください」祈るようにつぶやく。
現状での数少ない幸運は、シシーリア聖皇国使節団の護衛任務についていたのが、西の城壁都市ラキアの誇る、我が西翼城壁部隊だったことだ。
根城のラキアでなら、セフィロース卿に不信感をいだかせることなく、隊長に連絡を取る手段がある。
階段警備の隊員と、聖女様の部屋の前警備を交代し、そっと階下の一室に入った。
「副隊長、状況は?」
「よくない。聖女様は成人していた」
ひゅっと、室内に待機していた隊員の、のどが鳴った。
「ラキアの神殿で『順応の義』ができれば……」
「――無理……だろうな。シシーリア聖皇国の目がある。司祭様を呼んで、聖女様に今後の説明してもらう提案も、セフィロース卿がご自分で説明するからと、却下された。シャルナ王国の神殿に、少しも近づけたくないんだろうよ。『聖者・聖女条約』を持ちだされれば、妥協するしかない……
セフィロース卿の魔法も見せられたが――化物だぜ。火を創造しやがった。すぐ隊長に戻ってきてもらったほうが、武があるよ」
魔法は自分自身に使うモノ。体外に作用するモノなんて……どれだけ魔力を高めているんだよ。あれは俺にたいしての牽制だろうな……一瞬で、極限まで身体強化してもかなわないって、理解させられた。
――数刻前にだした聖女保護の『のろし』の指示。そのときとは違い、沈痛なおももちで王都に向けて、緊急事態の『のろし』をあげるよう指示をだす。
隊長の足ならば、そろそろ王都に着いているころだろう……謁見のため、ながながと待たされたりしたら――取り返しがつかないことがおこりそうで……ぶるりと、体がふるえた。
――異世界からの来訪者をつげる虹色の雲、彩雲。神殿の壁画には、歴代の聖者、聖女の降臨のようすが描かれている。その彩雲の大きさで、来訪者の魔力量がはかれたからだ。
乱反射する彩雲に小さく開く光の道を通って、来訪者は降臨する。
今回の来訪者ほど大規模な彩雲は、神殿の長い歴史を紐解いてみても前例がなかった。かなり力のある者が降臨したといえる。
軽くシャルナ王国全域をおおった彩雲は、近隣諸国にもその光を反射させた。
降臨場所がどこだろうと、『聖者・聖女条約』により、『降臨に立ちあった人物の所属する国家』に、来訪者を迎えいれる権利が発生する。
降臨にまにあわなければ、保護した人物の所属する国家――複数の国が権利を得たばあいは、そのなかから来訪者の意向で決まる。
――城下や神殿前は、神の御業にうかれた人びとであふれかえっていた。そのなかには、他国の商人の姿も見られる。シシーリア聖皇国との貿易開発会議のおこぼれにあずかろうと、入国している商人達の数は普段より多かった。
「――せっかくの我が国への来臨、よりにもよって他国民の多いこの時期とは……」
国王の後ろに控えた宰相が難色をしめした。
「いいですか、来訪者様をかならずシャルナ大神殿に! 神名に誓って来臨いただくのですよ!」
大慌てで登城した大司教は、国王陛下の指示のもと、御前に整列した近衛騎士団にむかい大声で檄を飛ばす。即席の『来訪者捜索部隊』だ。
隊長は王太子殿下がつとめることになっている。順次、国軍も総動員する予定だ。
――今、まさに出発の号令がだされようとしていた。そのとき、伝令が謁見の間に転がりこんできた。
「報告します! 西のラキアから聖女保護の『のろし』確認」
「なんと! でかした!」
『のろし』の報告に遅れること数分、西の城壁都市ラキア、西翼城壁部隊・隊長――アラン・ロズベルト騎士爵の到着がつげられた。
ツヤツヤした黒髪は短く、肩の下あたりまでしかなかった。髪を伸ばしだす前の子供のようだった。豊穣の大地の瞳といわれる、ファリアーナ神と同じ色の濃褐色の瞳は、好奇心にあふれ輝いている。
なにかに驚いたように、ビクッと体をとびあがらせたり、プルプルふるえながら見上げてくるようすは、庇護欲をかきたてられた。
聖女様が着ている小さな花柄のワンピースも膝下丈で、成人女性が着ることはない短さだった。不自然に高いかかとの靴が大人への憧れから、背のびしたい年頃のように感じさせた。
馬上にちょこんと座った聖女様を見たとき、魔獣もでるシノアの森に迷子が?! と、……驚いた。
――だから……大きな間違いを犯してしまった。
「――隊長……早く戻ってきてください」祈るようにつぶやく。
現状での数少ない幸運は、シシーリア聖皇国使節団の護衛任務についていたのが、西の城壁都市ラキアの誇る、我が西翼城壁部隊だったことだ。
根城のラキアでなら、セフィロース卿に不信感をいだかせることなく、隊長に連絡を取る手段がある。
階段警備の隊員と、聖女様の部屋の前警備を交代し、そっと階下の一室に入った。
「副隊長、状況は?」
「よくない。聖女様は成人していた」
ひゅっと、室内に待機していた隊員の、のどが鳴った。
「ラキアの神殿で『順応の義』ができれば……」
「――無理……だろうな。シシーリア聖皇国の目がある。司祭様を呼んで、聖女様に今後の説明してもらう提案も、セフィロース卿がご自分で説明するからと、却下された。シャルナ王国の神殿に、少しも近づけたくないんだろうよ。『聖者・聖女条約』を持ちだされれば、妥協するしかない……
セフィロース卿の魔法も見せられたが――化物だぜ。火を創造しやがった。すぐ隊長に戻ってきてもらったほうが、武があるよ」
魔法は自分自身に使うモノ。体外に作用するモノなんて……どれだけ魔力を高めているんだよ。あれは俺にたいしての牽制だろうな……一瞬で、極限まで身体強化してもかなわないって、理解させられた。
――数刻前にだした聖女保護の『のろし』の指示。そのときとは違い、沈痛なおももちで王都に向けて、緊急事態の『のろし』をあげるよう指示をだす。
隊長の足ならば、そろそろ王都に着いているころだろう……謁見のため、ながながと待たされたりしたら――取り返しがつかないことがおこりそうで……ぶるりと、体がふるえた。
――異世界からの来訪者をつげる虹色の雲、彩雲。神殿の壁画には、歴代の聖者、聖女の降臨のようすが描かれている。その彩雲の大きさで、来訪者の魔力量がはかれたからだ。
乱反射する彩雲に小さく開く光の道を通って、来訪者は降臨する。
今回の来訪者ほど大規模な彩雲は、神殿の長い歴史を紐解いてみても前例がなかった。かなり力のある者が降臨したといえる。
軽くシャルナ王国全域をおおった彩雲は、近隣諸国にもその光を反射させた。
降臨場所がどこだろうと、『聖者・聖女条約』により、『降臨に立ちあった人物の所属する国家』に、来訪者を迎えいれる権利が発生する。
降臨にまにあわなければ、保護した人物の所属する国家――複数の国が権利を得たばあいは、そのなかから来訪者の意向で決まる。
――城下や神殿前は、神の御業にうかれた人びとであふれかえっていた。そのなかには、他国の商人の姿も見られる。シシーリア聖皇国との貿易開発会議のおこぼれにあずかろうと、入国している商人達の数は普段より多かった。
「――せっかくの我が国への来臨、よりにもよって他国民の多いこの時期とは……」
国王の後ろに控えた宰相が難色をしめした。
「いいですか、来訪者様をかならずシャルナ大神殿に! 神名に誓って来臨いただくのですよ!」
大慌てで登城した大司教は、国王陛下の指示のもと、御前に整列した近衛騎士団にむかい大声で檄を飛ばす。即席の『来訪者捜索部隊』だ。
隊長は王太子殿下がつとめることになっている。順次、国軍も総動員する予定だ。
――今、まさに出発の号令がだされようとしていた。そのとき、伝令が謁見の間に転がりこんできた。
「報告します! 西のラキアから聖女保護の『のろし』確認」
「なんと! でかした!」
『のろし』の報告に遅れること数分、西の城壁都市ラキア、西翼城壁部隊・隊長――アラン・ロズベルト騎士爵の到着がつげられた。
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