がんじがらめの契約と狂愛〜聖女になれなかった異邦者の唯一〜

く〜いっ

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07 聖女の護衛騎士

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「降臨にシシーリア聖皇国のセフィロース卿も同席しただと! なんたる失態じゃ」

 『聖女保護』の報告中、大司教猊下の叱責はとまらない。
 聖女に馬の相乗りを拒否され、セフィロース卿の馬車に同乗させたと聞いては、怒り。ラキアの神殿に、聖女を連れて行けなかったと聞いては、嘆き。シシーリア聖皇国使節団と同じ宿に、聖女を宿泊させていることに地団駄を踏み。王都に連れてこられなかったことを怒鳴り……
 降臨時のセフィロース卿の同席に戻り、また怒り狂っている。

 ――俺だって使節団護衛の任務をほおりだし、リオ様のそばにいたかったさ。

 ――近年、シャルナ王国の辺境地域に魔獣の出没がふえ、主食の穀類に多大な被害が出ていた。
 シシーリア聖皇国との貿易開発会議を成功させ、食料を確保することが早急に求められていた。
 友好国に便宜をはかってもらうため、大臣たちはシャルナの軍神と他国にも知れわたっている、アラン・ロズベルトに護衛隊長の任をあたえ、『シシーリア聖皇国使節団の安全を保障し、護衛は使節団の意向を最優先することを国家として認める』という『契約』をシシーリア聖皇国へ送っていた。

 ――この契約に縛られて、シャルナ王国の騎士たちは『聖女』にたいして、後手後手にまわらざるをえない状況におちいっていた。

「まぁまぁ猊下、『聖者・聖女条約』を持ちだされてはどうにも……せめて彼が高位貴族だったら、もう少し強気にでれたはずでしょうが……女性におモテになる軍神様をもってしても、子供の聖女様の心を掴めなかったようですしね~」

 宰相閣下がいやみったらしく大司教猊下をなだめだした。

 ――ご自分が発行した『契約』の内容は忘れているようだな。使節団に強気にでれないよう、縛ったのは、貴殿たちだろ。

 ラキア領主ガラナミア伯爵が、『聖者・聖女条約』をもちだしたセフィロース卿に弱気になり「とにかく陛下に報告を!」と、王都に決定権を丸投げしなければ、リオ様の傍らを離れなかった。

 ――心を掴む努力をしていたさ……虹色に輝きながら、ゆっくり天から降りてきた、色白で小柄な少女に一瞬で心を掴まれた。ぽろぽろ涙を流し自分を見上げてきた濃褐色の美しい瞳。
 鈴を転がしたような声で「大きすぎて怖い」と告白されたとき、愛馬のことなのに自分のことを言われたような錯覚におちいり、沸きあがった嗜虐心にふるえた。

「わかっておるのか! 『順応の義』をおこなう場所が大切なんじゃぞ!」

 異世界からの来訪者は、降臨後『順応の義』で正式にファリアーナ神の愛し子になり魔法を使う。聖者、聖女が使う魔法はこの『順応の義』での1回のみ。
 強大な魔力が『順応の義』をおこなった国の隅々まで広がり、癒し、浄化、豊穣、強化、結界の効果を発動する。――国が富み、個々の魔法が強化され、魔獣などの害悪から国を守る結界が出現するのだ。

 ――通常の自分自身に使う魔法とは違い、体外に作用する大魔法で、広く大地を満たす。
 来訪者の血筋は、体外に作用する魔法を使えるが、血が薄くなるにつれ、その効果も低くなるという……
 ただ、なぜか『順応の義』の魔法の効果は、儀式をおこなった国に限られた。効果の持続期間は聖者、聖女が亡くなるまでつづき、魔法の威力は彩雲の規模に比例した。
 ――『順応の義』……最初で最後の大魔法が発動したあと、来訪者は魔法を使えなくなるが、その身に宿す強大な魔力の恩恵はつづき、他国の者でもその恩恵は受け取ることができた。
 来訪者を迎え『順応の義』をおこなうのが、国をあげての最大目標。来訪者に気にいられ、魔力の恩恵を受けることが個々人の目標となる。

 ――ラキアから緊急の『のろし』の伝令が届いたのは、シャルナ王国の重鎮がそろう謁見の間で『シシーリア聖皇国をどうだしぬこうか……』、そんなくだらない議題の真っ最中――俺を参加させていないで、リオ様のところへ行かせてくれ……と、切望していたときだった。

「私を使節団護衛の任からはずし、新たに聖女の護衛の任命を!」

 このときばかりは国の重鎮が集合していて助かった。
宰相閣下の名で『護衛の任からはずされ(理由はバカバカしくも、護衛対象のそばを離れて王都にきたからだそうだ)』。国王陛下と大司教猊下の連名で『聖女の護衛騎士』を拝命した。

 ――これで動きやすくなった!! 俺の聖女、リオ様のもとへ!!

 謁見の間を飛びだし、うかれる城下の人びとを避け、屋根伝いに最短距離を行く。
王都の外で待機させていた愛馬を呼びよせ、ラキアへ向けて疾走する。

 ――なにがあった! まにあえ! まにあえ! まにあえ! リオ様!!
 ――早く! 俺の聖女のもとへ! リオ……様……俺の聖女――リオ!!





 ラキアに到着したのは、深夜と呼ぶには、まだ早い刻限。街の喧騒とは裏腹に、宿は静寂につつまれている。
 妙な違和感にうなじの毛がピリピリと逆立った。部下たちは俺を認識していないのか? 微動だにしない。扉の前で立っている仲間を無視し扉を蹴り開けた。

 ――俺の目に飛びこんできたのは、涙で濡れるリオの青ざめた顔。夜着は乱れ、白い太腿がセフィロース卿の体の下から見える。
 宙をさまよっている小さな手は、俺を求めているように感じ――怒りで全身が、カッと熱くなった。

 ガッ!!

 無言でセフィロース卿の肩をつかみ、後方へ投げ飛ばすようにリオから引き離す。いきおいが強すぎ、反動でセフィロース卿がベッドの端から転がり落ちた。ふん。ざまぁみろ。

 振り返った瞬間、――思考がかたまる。青ざめている顔色とは反対に、粗い呼吸で赤く色づいた肩を上下させ、白い大きな乳房をふるわせているリオ。

 ――なんて蠱惑的な……少女のような……大人なような……アンバランスな魅力。

 ――俺の聖女だ……こくりっ……と、のどが鳴った。

「――ア、アラン……様~」

 エッグ、エグとえずきながら、甘えるように伸ばされた腕が、俺の首にまわされた。

「遅くなってすまない」リオをぎゅっと抱きしめた。
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