がんじがらめの契約と狂愛〜聖女になれなかった異邦者の唯一〜

く〜いっ

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13 護衛騎士の苦悩

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 聖女とシャルナ国王陛下との謁見の日取りが決まったのは、リオが降臨してから2週間ほどたってからだった。リオにはじっくり怪我を癒してほしかったが、シシーリア聖皇国側からの圧力も強まり、これ以上は日程をのばすことができなかった。
 どちらの国で『順応の義』がおこなわれるのか? 市井は、その話題でもちきりだ。

 魔法ばぁのところにリオを連れて行った翌日には、ラキア領主ガラナミア伯爵から、挨拶の申し入れがあった。王都の近衛騎士団を引き連れた王太子殿下もやってきていて、うるさいかぎりだ。
 シシーリア聖皇国からも、皇子殿下がやってくるという……

 護衛騎士であり、伴侶候補者でもある権限で、ことわりつづけるのもそろそろ限界だ。とくにシシーリア聖皇国側から『聖者・聖女条約』をもちだされては、ことわれない。

 あせる両国の王族とは違い、もうひとりの伴侶候補者、セフィロース卿は、あっさり怪我をしたリオを俺に託した。彼ら使節団は、俺がぬけた西翼城壁部隊の騎士たちに護衛されながら王都にむけて出発し、予定どおり貿易開発会議に参加した。
 『順応の義』の件を、あえて議題にあげないよう、注意深く話しあわれた会議は、おおむね両国にとって納得のできる内容で落ちついたそうだ。これで冬に飢える心配はしなくてすみそうだ……

 セフィロース卿だけは、会議が終わった今も王城に滞在している。このまま聖女の到着を待つという――気絶したリオをあっさり解放した、あの夜を思いだすたび殺してやりたい衝動にかられる。
 彼が持っていた『約定の証書』の内容はわからないが、蛮行をとめることができなかったのだから、本物の『契約』なのだろう……
 扉の前で警護していた副隊長は、なんの異変も感じなかった……と、深く落ちこんでいた。彼のせいではない。憶測でしかないが、セフィロース卿の持つ『約定の証書』に、シャルナ王国の騎士の行動を制限する文言があったのだろう……狡猾なやりかただ。

 リオが彼に肌を暴かれ、白い乳房を蹂躙されているさまを見つづけさせられた――気が狂いそうになったあの夜。ファリアーナ神の『契約』の力は強力で、リオの傍らで手を握っていることが精一杯だった。
 嫌がるリオのようすから、『約定の証書』の内容を彼女が理解して『契約』したとは思えなかった。
 『聖女の護衛騎士』になった肩書きが、俺に行動の自由をあたえていたのに……リオを守りたい! と強く思う意志とは別に、むりやり『部屋を出なければ……』という意識に支配されそうだった。
 リオの手のぬくもりだけが、俺の意識を保つすべてで、それにすがりついた。

 リオをセフィロース卿の好きにさせたくなかった――そんな俺の身勝手な嫉妬心が、リオを傷つけたんだ。

 罪は幾重にもからまり、さらに加速する……リオを治療するための、なんて魅力的で罪深い行為――彼女の唇を奪うたび、襲ってくるふるえるほどの歓喜と絶望。
 『順応の義』をおこなっていない彼女に魔法のかかりは弱く、何度もくりかえされる――苦しくも、至福の時間。
 普段のリオの目には、俺にたいするはっきりとした恐怖の色が見える。治療のあいだだけ、この刹那のとき……濃褐色の瞳が潤み色香がにじみだす。甘い吐息も官能的だ。かたく縮こまっている舌が、ふいに俺の舌をチョンとつつき、驚いたように引っこむさまも、可愛らしい。

 ――平民出身のわりに魔力量に恵まれた俺は、貴族婦人の寝室に露骨に誘われることが多かった。軍人として鍛えてきた肉体も婦人たちにとって魅力のひとつだったらしい。一夜の淫らな魔力の高めあい――成人したてのころは、戦場でたかぶった気持ちを落ちつけるため、婦人たちを都合よく利用させてもらっていた。
 ――ただ、あの媚びるような視線だけは嫌いだった。
 長年つづいたそんな爛れた生活に嫌気がさし、誘いをことわるようになった。ことわるたび、戦場や魔獣討伐隊への配属が決まったが、その功績で騎士爵の称号を授与され、貴族の一員になった。
 貴族になると誘いをかけてくるのは、ご令嬢たちに様変わりしたが、一代貴族に本気で嫁ぐ気があるわけでなく……婦人たちと同じように俺で遊ぶ気満々なのがすけて見えた。反対に、夫に死別された寡婦からの婚儀の申し込みは、強引すぎて不快感をおぼえるほどだった。
 ――女性にたいして、過度な期待はしないようになっていった。

 ――いつしか、冷徹騎士、堅物軍人などと呼ばれるようになっていたが、リオが降臨したとき、冷たく凍っていた心がとけ、熱い感情があふれだしそうな感覚に襲われた。
 ――計算か? 無自覚か? こんな可愛い反応をする女性は見たことがない。

 治療魔法の方法を聞き、真っ赤になって泣く姿。痛みで気絶するまで、俺を拒否した強情さ。頭からかぶった布団から、ちょこんと目元をのぞかせて「接吻だけよ……」と、つぶやかれたときは、リオは俺を殺す気か? と、真剣に悩んだ。
 聖女は崇拝の対象だったが、リオとであった途端、年甲斐もなく一目惚れしたんだと思う。リオとすごすうち、彼女の純粋さにますます惹かれた。

 リオの世話は、領主館から世話役のメイドを派遣してもらっている。彼女の世話は、すべて自分でしたかったが……自制が効かなくなりそうで――治療時以外の接触は避けるようにした。いつかリオが俺に心を開いてくれたなら……または、俺を忘れられないくらい憎んで、その心に刻んでくれたなら……相反する希望に、今日も翻弄されそうだ。
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