がんじがらめの契約と狂愛〜聖女になれなかった異邦者の唯一〜

く〜いっ

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15 シャルナ国王への謁見

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 玉座まで一直線に敷かれた赤い絨毯。左右の壁際にシャルナ王国の貴族が整列している。王座から一段低いところに整列しているのは、この国の重鎮たちと国王陛下の縁者。――陛下は玉座から腰をうかすようにして、聖女の到着を待っていた。

 先触れが、王太子殿下の入場をつげ。つづいてシシーリア聖皇国、皇子殿下の訪問をつげ。最後に聖女の到着をつげた。

 謁見の間にいた全員の視線が扉に集中する。

 ――こくり。緊張のため、小さく生唾を飲んだ。つっ……と左手をひかれる。エスコートしているアラン様にしたがって、赤い絨毯に踏みだした。

 立派な体格のアラン様は、黒い軍服をかっちり着こみ、左胸にはいくつもの勲章。背中のマントをはためかせ、謁見の間の誰よりも堂々として見えた。迷いなく私をエスコートして進むその頼もしさに、緊張がとけていく。
 右側に並んで歩くジリオ様は豪華な銀糸で刺繍された深い紫の衣装、白いクラヴァットにも銀糸で繊細な刺繍がはいっている。細身のパンツは、すらりとしたスタイルのよさを強調していた。
 ――正反対な雰囲気のふたりを従え、まっすぐ前を見据えて歩く。私としては、堂々と! 立派に! 聖女らしく!

 ――でも、包帯を巻いた右手を、胸の前で首からかけた布で固定している姿は、怪我を治癒魔法でさっさと治してしまうこの世界の人びとにとって、とても異質で痛々しいものに見えた……ようで……「おいたわしい」「まだ幼いのに……」と、すすり泣く声が聞こえてきた――成人してます……

「シャルナの太陽、国王陛下にご挨拶、申し上げます。唯一神ファリアーナ様のお導きで来臨いたしました。佐藤理緒リオと申します。――どうぞリオとお呼びください」

 ガラナミア伯爵の奥様の特訓は伊達じゃない! 挨拶のセリフは徹底的に習いました。――カーテシーは……付け焼き刃では無理なので、丁寧なお辞儀をします。

「聖女リオ、ファリアーナ神のお導き感謝する。ご降臨早々、大変な怪我をされたと聞き、心苦しく思っておった。会えて嬉しく思う。
 不幸なことだったが、ラキアの司祭のほうから報告があがっておる。治療中、この世界のこと。これからのこと。基本的な説明をしたと聞く。シャルナの王太子、シシーリアの皇子殿下からも、各国のこと聞きおよんでいると聞く……で、我が国か、シシーリア聖皇国か、どちらを選ぶ」

 国王陛下、いきなり直球ですね。謁見まで、ほぼ1ヶ月。もう待ちきれなかったんですね。

 ――私の少し後ろに待機していたアラン様とジリオ様が正面にまわり、私に向かって跪く。左手を胸に当て、右掌を私に向けてさしだした。

「降臨に立ちあった者として、乞い願う。ファリアーナ神の神議シンギにて、2国間の帰結を。我がシシーリア聖皇国への聖女の来臨を。
 ジリオーラ・エバンティス・セフィロースは、乞い願う。聖女の伴侶としての生涯を」
「降臨に立ちあった者として、乞い願う。ファリアーナ神の神議シンギにて、2国間の帰結を。我がシャルナ王国への聖女の来臨を。
 アラン・ロズベルトは、乞い願う。聖女の伴侶としての生涯を」

 誓いのポーズ、誓いの言葉。
 ――もう、どちらの手を取るのかは決めていた。

「わたくし佐藤理緒リオは、ファリアーナ神の神議シンギにて、シャルナ王国へ来臨することを希望する。――ただし、今すぐ伴侶を決めることは拒否する。アラン・ロズベルトは、わたくしの護衛騎士として今までどおり務めてください。セフィロース卿、おちついたらシシーリア聖皇国への訪問を約束します」

 ジリオ様が持つ『約定の証書』の存在が気になるけれど……今は、考えない。
 そっと、左手をアラン様の右手にのせた。――ガッ! と握られて、肩が跳ねる!

「感謝する……」――アラン様? 目元が真っ赤? 今にも泣きそうな表情だった。

 わああああぁぁぁぁ――――――!!

 謁見の間は、激しい歓声につつまれた。シシーリア聖皇国の皇子殿下やその護衛騎士団、並んでいる貴族の一角がうなだれている。きっとシシーリア聖皇国の人たちだったのだろう。
 ふと、ジリオ様のほうを見てみた。彼は、とくに悔しがるでもなく――気にする素振りもなく――ニコニコとしていた。馬車から降りて再会したときと同じように――ただ微笑んでいた。
 『約定の証書』があるから、今は手放してもいいって思っているの? 再会したとき、感じた違和感を再び感じた。

 そもそも強引に抱こうとしていたのに、私をあっさりアラン様に預けたのも、考えてみれば変だ。貿易開発会議が終わったあと、使節団と一緒に隊員の館にくることもできたはず……あのときは一緒じゃないと知って、ほっとしたけれど……

 おばぁ様や司祭様から、聖女の魔法のことを聞き、来訪者の魔法をこの世界の人びとが切望していることを知った。『順応の義』をした国にだけあたえられる恩恵。
 ジリオ様が国の代表として聖女を欲していたのなら、会議を書記官にまかせ、私のそばにいたとしても、シシーリア聖皇国側は問題にしなかったはず。ジリオ様のかわりを皇子殿下がしていたようなものだもの……
 ――ジリオ様の目的は、『約定の証書』を手にいれることだけだとしたら……? 目的は私を抱くことだけ?

 ジリオ様との再会に恐怖し、どんな対応をすればよいのか? 悩んでいたのに……「自意識過剰! 悩むことすらバカバカしい」と、笑われたほうが、ふざけるな! と、怒って終われたかも知れないのに……
 あの夜のことを忘れてしまったかのように……一連の出来事など、起こらなかったかのように……『感じのよい素敵な男性だ』と、思った出会ったときと同じ笑顔で、私を出迎え――今も横にいる。

 感情の読めない笑顔が……怖いと思った。
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