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18 聖者の血族
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リオの『順応の義』は失敗に終わった――――
混乱する大聖堂から、彼女を素早く連れ出せたことが幸いし、離宮まで騒ぎにまきこまれることなく移動できた。――が、陛下からすぐ呼び出しがかかる。
「ちっ……俺はリオ様の護衛騎士だ! 聖女のそばを離れん」
「ロズベルト様いけません! リオ様のご降臨のようすを語れるのは、あなた様だけです! 真実のご報告を!」
リオのことはまかせろ――というメイド長に、しぶしぶ彼女を預け、陛下たちが待つ部屋へ急いだ。
「アラン・ロズベルト! これはどういうことじゃ! あの女は来訪者を語る痴れ者か! 余をたばかったのか!」
「まさか貴様の策略か! 捏造してまで功を欲したか!」
国王陛下と宰相閣下は怒鳴りちらし……大司教猊下は後ろの長椅子に青い顔をして、ぐったり横たわっていた。
この3人の他に、王妃陛下、王太子殿下、ラキア領主ガラナミア伯爵と伯爵夫人。シシーリア聖皇国の皇子殿下とセフィロース卿が控えている。
――リオに深くかかわった人物が集められているようだな。
「僭越ながら申しあげます。彩雲からご降臨されたのは、リオ様です。空から降りてこられるリオ様を、直接抱きとめましたから間違いようがありません」
「うん。そうだよねぇ。その場に私も立ちあっていたから、虚偽の報告でないことは承認するよ」
候補者ふたりの言葉に、室内はさらに重苦しい空気につつまれた。
「なら、なぜ?! 水晶は輝かなかったのじゃ! 本物の来訪者様は、まだどこかにおかくれしているのじゃないのか? そうじゃ、きっとそうじゃ! 国をこえて全ファリアーナ神の民に、来訪者様の捜索と保護を嘆願せねば!」
「大司教猊下、恐れながら申しあげます。リオ様が話す異世界の話しは、どれも不思議で、とても彼女が来訪者様ではないとは、わたくしには信じられません」
ガラナミア伯爵夫人は、長い時間リオに行儀作法を教えていた。リオに接した時間が長い者ほど、リオを『異世界からの来訪者』と信じて疑わない。シャルナの王太子殿下とシシーリアの皇子殿下も同意し、深くうなずいた。
「儀式が失敗した原因を探したほうが、確実かな。なにか手がかりになるようなものはないか? 『聖者の手記』を調べてみることにしよう」
セフィロース卿に、すがるような視線が集まる。
『聖者の手記』? そんなものが残っているのか? そしてなぜ、セフィロース卿がそれを調べられる? わからないことが多すぎる……
俺の不審そうな視線に気がついたのか「我が家門、エバンティス侯爵家は1世代前の聖者の血縁なんだ」と、あっさり種明かしをした。
――そうか、セフィロース卿のエバンティス侯爵家は血族だったのか。副隊長が語った『火を創造した』という、セフィロース卿の魔法に合点がいった。
世襲貴族のガラナミア伯爵も驚いているようすがないところを見ると、平民出身の一代貴族の俺だけが知らない事実のようだ。気の弱い領主だから、気にもとめてなかったが、セフィロース卿にたいする弱腰の態度も、そういった裏事情があってのことなのかも知れない――しかし、セフィロース卿は俺に聖者の血筋をあかしてもよかったのか?
1世代前の聖者は約160年前にシシーリア聖皇国に来臨した。聖者が亡くなるまで聖者の魔法で守られたシシーリア聖皇国は、周辺諸国のどこよりも栄華を誇っている。
来訪者は『聖者・聖女条約』で護られているが、血族は条約の対象外だ。体外に作用する来訪者の魔法の力は、世代を重ねるたび弱わくなっていくが、血族は各国間の強力な政治的コマに使われると聞く。
――聖者の魔法が消えたあと、有力な国の力になる血族を、他国にかどわかされないよう、血族の家門は秘匿された。
「セフィロース卿、感謝します。どうか我が国に聖女の加護を! なにとぞ、なにとぞ……」
宰相閣下が床に頭がつきそうな勢いで、頭を下げた。
「早急に取りかかりましょう。原因がわかるまで、リオ様をよろしくお願いします」
セフィロース卿は力強く約束の言葉を残し、シシーリア聖皇国の皇子殿下と一緒に退室していった。彼がなにかしらの原因を見つけるまで、じっと耐えていなければいけないのが、もどかしい……
自国民だけになった室内に、宰相閣下の皮肉めいた声が響く。
「――しかし、セフィロース卿の目を欺き、聖女降臨を偽装した疑いは残っていますので、アラン・ロズベルトはセフィロース卿から報告があるまで謹慎……と、いうことでよいですかな」
「なっ! 彼女は聖女で間違いありません! それに私は聖女の護衛騎士、聖女のおそばを離れません!」
抗議する俺に、閣下は、やれやれ……と、首を振った。
「その聖女の認定ができなかったではないですか? 『順応の義』が失敗した今、あの娘は、ファリアーナ神の加護がある来訪者か、詐欺師か、神の導きなく勝手にやって来た、異世界からの異邦者か? ――なにが本当の姿かわからない、得体の知れない存在なのですよ」
閣下の言葉に目の前が暗くなる。
「聖女の可能性も残っとる。あの娘の保護は神殿でやろう……」
大司教猊下が疲れたようにつぶやいた。
「アラン・ロズベルトは、あの娘を連れだす危険があるため、城の塔で謹慎を申しつける」
「閣下! せめて、リオ様のそばで……「ならぬ!」」国王陛下の叱責が飛んだ。
「ことが判明するまで、あの娘との接触は禁ずる! アラン・ロズベルトは結界石をはめ城の塔へ! 連れて行け!」
陛下の言葉は、俺の耳に残らず――なにか別次元の言葉のように頭のなかを素通りしていった。
俺は今回もリオを守れないのか――絶望が心を支配していた……
混乱する大聖堂から、彼女を素早く連れ出せたことが幸いし、離宮まで騒ぎにまきこまれることなく移動できた。――が、陛下からすぐ呼び出しがかかる。
「ちっ……俺はリオ様の護衛騎士だ! 聖女のそばを離れん」
「ロズベルト様いけません! リオ様のご降臨のようすを語れるのは、あなた様だけです! 真実のご報告を!」
リオのことはまかせろ――というメイド長に、しぶしぶ彼女を預け、陛下たちが待つ部屋へ急いだ。
「アラン・ロズベルト! これはどういうことじゃ! あの女は来訪者を語る痴れ者か! 余をたばかったのか!」
「まさか貴様の策略か! 捏造してまで功を欲したか!」
国王陛下と宰相閣下は怒鳴りちらし……大司教猊下は後ろの長椅子に青い顔をして、ぐったり横たわっていた。
この3人の他に、王妃陛下、王太子殿下、ラキア領主ガラナミア伯爵と伯爵夫人。シシーリア聖皇国の皇子殿下とセフィロース卿が控えている。
――リオに深くかかわった人物が集められているようだな。
「僭越ながら申しあげます。彩雲からご降臨されたのは、リオ様です。空から降りてこられるリオ様を、直接抱きとめましたから間違いようがありません」
「うん。そうだよねぇ。その場に私も立ちあっていたから、虚偽の報告でないことは承認するよ」
候補者ふたりの言葉に、室内はさらに重苦しい空気につつまれた。
「なら、なぜ?! 水晶は輝かなかったのじゃ! 本物の来訪者様は、まだどこかにおかくれしているのじゃないのか? そうじゃ、きっとそうじゃ! 国をこえて全ファリアーナ神の民に、来訪者様の捜索と保護を嘆願せねば!」
「大司教猊下、恐れながら申しあげます。リオ様が話す異世界の話しは、どれも不思議で、とても彼女が来訪者様ではないとは、わたくしには信じられません」
ガラナミア伯爵夫人は、長い時間リオに行儀作法を教えていた。リオに接した時間が長い者ほど、リオを『異世界からの来訪者』と信じて疑わない。シャルナの王太子殿下とシシーリアの皇子殿下も同意し、深くうなずいた。
「儀式が失敗した原因を探したほうが、確実かな。なにか手がかりになるようなものはないか? 『聖者の手記』を調べてみることにしよう」
セフィロース卿に、すがるような視線が集まる。
『聖者の手記』? そんなものが残っているのか? そしてなぜ、セフィロース卿がそれを調べられる? わからないことが多すぎる……
俺の不審そうな視線に気がついたのか「我が家門、エバンティス侯爵家は1世代前の聖者の血縁なんだ」と、あっさり種明かしをした。
――そうか、セフィロース卿のエバンティス侯爵家は血族だったのか。副隊長が語った『火を創造した』という、セフィロース卿の魔法に合点がいった。
世襲貴族のガラナミア伯爵も驚いているようすがないところを見ると、平民出身の一代貴族の俺だけが知らない事実のようだ。気の弱い領主だから、気にもとめてなかったが、セフィロース卿にたいする弱腰の態度も、そういった裏事情があってのことなのかも知れない――しかし、セフィロース卿は俺に聖者の血筋をあかしてもよかったのか?
1世代前の聖者は約160年前にシシーリア聖皇国に来臨した。聖者が亡くなるまで聖者の魔法で守られたシシーリア聖皇国は、周辺諸国のどこよりも栄華を誇っている。
来訪者は『聖者・聖女条約』で護られているが、血族は条約の対象外だ。体外に作用する来訪者の魔法の力は、世代を重ねるたび弱わくなっていくが、血族は各国間の強力な政治的コマに使われると聞く。
――聖者の魔法が消えたあと、有力な国の力になる血族を、他国にかどわかされないよう、血族の家門は秘匿された。
「セフィロース卿、感謝します。どうか我が国に聖女の加護を! なにとぞ、なにとぞ……」
宰相閣下が床に頭がつきそうな勢いで、頭を下げた。
「早急に取りかかりましょう。原因がわかるまで、リオ様をよろしくお願いします」
セフィロース卿は力強く約束の言葉を残し、シシーリア聖皇国の皇子殿下と一緒に退室していった。彼がなにかしらの原因を見つけるまで、じっと耐えていなければいけないのが、もどかしい……
自国民だけになった室内に、宰相閣下の皮肉めいた声が響く。
「――しかし、セフィロース卿の目を欺き、聖女降臨を偽装した疑いは残っていますので、アラン・ロズベルトはセフィロース卿から報告があるまで謹慎……と、いうことでよいですかな」
「なっ! 彼女は聖女で間違いありません! それに私は聖女の護衛騎士、聖女のおそばを離れません!」
抗議する俺に、閣下は、やれやれ……と、首を振った。
「その聖女の認定ができなかったではないですか? 『順応の義』が失敗した今、あの娘は、ファリアーナ神の加護がある来訪者か、詐欺師か、神の導きなく勝手にやって来た、異世界からの異邦者か? ――なにが本当の姿かわからない、得体の知れない存在なのですよ」
閣下の言葉に目の前が暗くなる。
「聖女の可能性も残っとる。あの娘の保護は神殿でやろう……」
大司教猊下が疲れたようにつぶやいた。
「アラン・ロズベルトは、あの娘を連れだす危険があるため、城の塔で謹慎を申しつける」
「閣下! せめて、リオ様のそばで……「ならぬ!」」国王陛下の叱責が飛んだ。
「ことが判明するまで、あの娘との接触は禁ずる! アラン・ロズベルトは結界石をはめ城の塔へ! 連れて行け!」
陛下の言葉は、俺の耳に残らず――なにか別次元の言葉のように頭のなかを素通りしていった。
俺は今回もリオを守れないのか――絶望が心を支配していた……
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