26 / 71
25 聖者の手記
しおりを挟む
『聖者の手記』から導きだした考察が、セフィロース卿から届いたのは、リオの『順応の義』から10日も過ぎてからだった。――書簡の郵送時間も考えれば、最速で調べてくれている……とは、思う。だが、結界石をはめられ城の塔へ軟禁された俺にとっては、長い日々だった。
監視がつけば訓練場に行く許可がおりたため、日がな一日、訓練にあけくれていた。監視が勘弁してくれ……と、訓練場から逃げだし、数名交代になったが、体を動かしていないと爆発しそうないらだちが、おさまらなかった。
「ロズベルト様、お聞きになりまして。聖女をかたったあの女、魔力を高めるため! と言って毎夜、寝所に男をひっぱりこんでいるそうですわよ」
「離宮の者は服を着る暇もないほど……とか。どれほど魔力が高まったことか? 次の『順応の義』のときには、ぜひともそのお力を発揮してほしいものですわよね」
「役立たずの異邦者に騙されたロズベルト様も災難でしたわね。陛下に頼んで護衛騎士の任命、取り消していただくこと、できませんの? お慰めしたいわぁ」
訓練中も、城の塔の鉄格子がはまった部屋の前でも、うるさい女たちがピーチクパーチク騒ぎたてる。そんな尻軽な女、リオのはずないではないか! ……と、憤る反面、俺のかわりにリオに治療魔法をかけることになった奴が、リオの白い肌を自由に蹂躙している姿を想像し、怒りで我を忘れそうになる。
『順応の義』の失敗で不安な心を抱えているだろうリオを、はやく慰めてあげたい。
リオの安否をしつこく問いただしたため、大司教猊下から毎日、書簡が届くようになった。
『元気……とのことだ』『王都で有名な菓子を希望しとる』『ワインの注文が多い』『針子を呼んだ』――など。
リオはどんな菓子が気に入っているのだろう? カフェに誘えば来てくれるだろうか? 酒を一緒に酌み交わすのは、楽しそうだ! ドレスは俺が用意してやりたかった――と、一喜一憂して過ごしていた。
結界石で作られた腕輪が恨めしい……これさえなければ、鉄格子など身体強化で破ることなど、たやすいのに……腕輪をガンガン壁に打ちつけてみる。びくともしない。忌々しい……
結界石は魔獣の体から、まれに取れる魔石で作られている。魔石は魔力を吸収するため、魔法を使えなくする。主に罪人の処罰か逃亡防止に使われる。こんなことなら、魔獣討伐で手にはいった魔石を、国に献上するんじゃなかった……と、過去の自分にも怒り心頭だ。
――国王陛下からの呼び出しがあったときは、やっとリオに会える……と、うかれた。
謁見の間には、あの日話しあった人物のうち、シシーリア聖皇国のふたりと、ガラナミア伯爵夫婦以外の全員が集まっていた。
宰相閣下がセフィロース卿の書簡を読みあげる。
セフィロース卿から届いた、『聖者の手記』から導きだした考察には、こう書かれていた――
『ファリアーナ神を心の底から信じられなかったとき、『順応の義』で張った結界が弱まって、魔獣が都に侵入した』
『ファリアーナ神の教えに共感できたとき、浄化の力が膨れあがった気がした。都の空気が一気に清々しいものになっている』
『以前住んでいた世界は、僕にとって神は身近な存在ではなかった』――などの文面が見つかったことから、リオ様がまだファリアーナ神の教えを理解していないか、神の存在を信じきれていないことが原因と考えられます。
リオ様は、ファリアーナ神の水晶にふれ、水晶の輝く光をご覧になる前に、治療のため魔法の力にふれました。
リオ様にとってファリアーナ神の御業より、魔法の力のほうが不思議で神秘的な現象となってしまったことでしょう。
魔法の力こそが、ファリアーナ神の加護のなせる技だと理解できれば『順応の義』の成功につながると考察します。
神殿での正しい教育で、ファリアーナ神の存在を身近に感じていただければ、素晴らしい聖女になられることでしょう。
リオ様を肉体的にも精神的にも、害したりすることがないよう、重ねてお願い申し上げます。
リオ様が、この世界を恨み、怒りの悪感情を強く持たれると、愛と慈愛の女神ファリアーナ神の教えから遠ざかります。愛と慈愛を持って、リオ様をお導きください。
さらに詳しく調査を進めようと思います。なにかあればシシーリア聖皇国へお越しください――
「まことか? なんと喜ばしいことよ!」
「時間はかかってしまいそうだが、聖女が手にはいることを考えれば、たいした問題ではない。大司教、さっそく聖女教育をはじめてくれ」
国王陛下と大司教猊下は諸手をあげて喜んでいる。宰相閣下だけが、チラリと俺を見て……
「おおっ……しまった。結界石の鍵を屋敷に忘れてきてしまった。明日にはなんとかするから、今日だけはそのままで」などと言ってきた。とことん、いやみな奴だ。
「かまいません。聖女の護衛騎士としてすぐ離宮へ向かいます。では失礼します」
「待て、私も行くぞ!」
大至急リオのところへ駆けつけたかったが、大司教猊下の足が遅い。置いていってしまいたいが、そうもいかないだろう……
「猊下、失礼します」ことわりをいれたから大丈夫だろう! ガッ……と、大司教猊下を小脇に抱えて走りだした。猊下がなにか叫んでいるが、無視だ。
――そして、離宮で俺は……あの惨状を見ることになる――
監視がつけば訓練場に行く許可がおりたため、日がな一日、訓練にあけくれていた。監視が勘弁してくれ……と、訓練場から逃げだし、数名交代になったが、体を動かしていないと爆発しそうないらだちが、おさまらなかった。
「ロズベルト様、お聞きになりまして。聖女をかたったあの女、魔力を高めるため! と言って毎夜、寝所に男をひっぱりこんでいるそうですわよ」
「離宮の者は服を着る暇もないほど……とか。どれほど魔力が高まったことか? 次の『順応の義』のときには、ぜひともそのお力を発揮してほしいものですわよね」
「役立たずの異邦者に騙されたロズベルト様も災難でしたわね。陛下に頼んで護衛騎士の任命、取り消していただくこと、できませんの? お慰めしたいわぁ」
訓練中も、城の塔の鉄格子がはまった部屋の前でも、うるさい女たちがピーチクパーチク騒ぎたてる。そんな尻軽な女、リオのはずないではないか! ……と、憤る反面、俺のかわりにリオに治療魔法をかけることになった奴が、リオの白い肌を自由に蹂躙している姿を想像し、怒りで我を忘れそうになる。
『順応の義』の失敗で不安な心を抱えているだろうリオを、はやく慰めてあげたい。
リオの安否をしつこく問いただしたため、大司教猊下から毎日、書簡が届くようになった。
『元気……とのことだ』『王都で有名な菓子を希望しとる』『ワインの注文が多い』『針子を呼んだ』――など。
リオはどんな菓子が気に入っているのだろう? カフェに誘えば来てくれるだろうか? 酒を一緒に酌み交わすのは、楽しそうだ! ドレスは俺が用意してやりたかった――と、一喜一憂して過ごしていた。
結界石で作られた腕輪が恨めしい……これさえなければ、鉄格子など身体強化で破ることなど、たやすいのに……腕輪をガンガン壁に打ちつけてみる。びくともしない。忌々しい……
結界石は魔獣の体から、まれに取れる魔石で作られている。魔石は魔力を吸収するため、魔法を使えなくする。主に罪人の処罰か逃亡防止に使われる。こんなことなら、魔獣討伐で手にはいった魔石を、国に献上するんじゃなかった……と、過去の自分にも怒り心頭だ。
――国王陛下からの呼び出しがあったときは、やっとリオに会える……と、うかれた。
謁見の間には、あの日話しあった人物のうち、シシーリア聖皇国のふたりと、ガラナミア伯爵夫婦以外の全員が集まっていた。
宰相閣下がセフィロース卿の書簡を読みあげる。
セフィロース卿から届いた、『聖者の手記』から導きだした考察には、こう書かれていた――
『ファリアーナ神を心の底から信じられなかったとき、『順応の義』で張った結界が弱まって、魔獣が都に侵入した』
『ファリアーナ神の教えに共感できたとき、浄化の力が膨れあがった気がした。都の空気が一気に清々しいものになっている』
『以前住んでいた世界は、僕にとって神は身近な存在ではなかった』――などの文面が見つかったことから、リオ様がまだファリアーナ神の教えを理解していないか、神の存在を信じきれていないことが原因と考えられます。
リオ様は、ファリアーナ神の水晶にふれ、水晶の輝く光をご覧になる前に、治療のため魔法の力にふれました。
リオ様にとってファリアーナ神の御業より、魔法の力のほうが不思議で神秘的な現象となってしまったことでしょう。
魔法の力こそが、ファリアーナ神の加護のなせる技だと理解できれば『順応の義』の成功につながると考察します。
神殿での正しい教育で、ファリアーナ神の存在を身近に感じていただければ、素晴らしい聖女になられることでしょう。
リオ様を肉体的にも精神的にも、害したりすることがないよう、重ねてお願い申し上げます。
リオ様が、この世界を恨み、怒りの悪感情を強く持たれると、愛と慈愛の女神ファリアーナ神の教えから遠ざかります。愛と慈愛を持って、リオ様をお導きください。
さらに詳しく調査を進めようと思います。なにかあればシシーリア聖皇国へお越しください――
「まことか? なんと喜ばしいことよ!」
「時間はかかってしまいそうだが、聖女が手にはいることを考えれば、たいした問題ではない。大司教、さっそく聖女教育をはじめてくれ」
国王陛下と大司教猊下は諸手をあげて喜んでいる。宰相閣下だけが、チラリと俺を見て……
「おおっ……しまった。結界石の鍵を屋敷に忘れてきてしまった。明日にはなんとかするから、今日だけはそのままで」などと言ってきた。とことん、いやみな奴だ。
「かまいません。聖女の護衛騎士としてすぐ離宮へ向かいます。では失礼します」
「待て、私も行くぞ!」
大至急リオのところへ駆けつけたかったが、大司教猊下の足が遅い。置いていってしまいたいが、そうもいかないだろう……
「猊下、失礼します」ことわりをいれたから大丈夫だろう! ガッ……と、大司教猊下を小脇に抱えて走りだした。猊下がなにか叫んでいるが、無視だ。
――そして、離宮で俺は……あの惨状を見ることになる――
20
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
冷徹公爵の誤解された花嫁
柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。
冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。
一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
踏み台(王女)にも事情はある
mios
恋愛
戒律の厳しい修道院に王女が送られた。
聖女ビアンカに魔物をけしかけた罪で投獄され、処刑を免れた結果のことだ。
王女が居なくなって平和になった筈、なのだがそれから何故か原因不明の不調が蔓延し始めて……原因究明の為、王女の元婚約者が調査に乗り出した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる