がんじがらめの契約と狂愛〜聖女になれなかった異邦者の唯一〜

く〜いっ

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25 聖者の手記

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 『聖者の手記』から導きだした考察が、セフィロース卿から届いたのは、リオの『順応の義』から10日も過ぎてからだった。――書簡の郵送時間も考えれば、最速で調べてくれている……とは、思う。だが、結界石をはめられ城の塔へ軟禁された俺にとっては、長い日々だった。
 監視がつけば訓練場に行く許可がおりたため、日がな一日、訓練にあけくれていた。監視が勘弁してくれ……と、訓練場から逃げだし、数名交代になったが、体を動かしていないと爆発しそうないらだちが、おさまらなかった。

「ロズベルト様、お聞きになりまして。聖女をかたったあの女、魔力を高めるため! と言って毎夜、寝所に男をひっぱりこんでいるそうですわよ」
「離宮の者は服を着る暇もないほど……とか。どれほど魔力が高まったことか? 次の『順応の義』のときには、ぜひともそのお力を発揮してほしいものですわよね」
「役立たずの異邦者に騙されたロズベルト様も災難でしたわね。陛下に頼んで護衛騎士の任命、取り消していただくこと、できませんの? お慰めしたいわぁ」

 訓練中も、城の塔の鉄格子がはまった部屋の前でも、うるさい女たちがピーチクパーチク騒ぎたてる。そんな尻軽な女、リオのはずないではないか! ……と、憤る反面、俺のかわりにリオに治療魔法をかけることになった奴が、リオの白い肌を自由に蹂躙している姿を想像し、怒りで我を忘れそうになる。
 『順応の義』の失敗で不安な心を抱えているだろうリオを、はやく慰めてあげたい。
 リオの安否をしつこく問いただしたため、大司教猊下から毎日、書簡が届くようになった。
 『元気……とのことだ』『王都で有名な菓子を希望しとる』『ワインの注文が多い』『針子を呼んだ』――など。
 リオはどんな菓子が気に入っているのだろう? カフェに誘えば来てくれるだろうか? 酒を一緒に酌み交わすのは、楽しそうだ! ドレスは俺が用意してやりたかった――と、一喜一憂して過ごしていた。

 結界石で作られた腕輪が恨めしい……これさえなければ、鉄格子など身体強化で破ることなど、たやすいのに……腕輪をガンガン壁に打ちつけてみる。びくともしない。忌々しい……
 結界石は魔獣の体から、まれに取れる魔石で作られている。魔石は魔力を吸収するため、魔法を使えなくする。主に罪人の処罰か逃亡防止に使われる。こんなことなら、魔獣討伐で手にはいった魔石を、国に献上するんじゃなかった……と、過去の自分にも怒り心頭だ。





 ――国王陛下からの呼び出しがあったときは、やっとリオに会える……と、うかれた。
謁見の間には、あの日話しあった人物のうち、シシーリア聖皇国のふたりと、ガラナミア伯爵夫婦以外の全員が集まっていた。
 宰相閣下がセフィロース卿の書簡を読みあげる。

 セフィロース卿から届いた、『聖者の手記』から導きだした考察には、こう書かれていた――


『ファリアーナ神を心の底から信じられなかったとき、『順応の義』で張った結界が弱まって、魔獣が都に侵入した』
『ファリアーナ神の教えに共感できたとき、浄化の力が膨れあがった気がした。都の空気が一気に清々しいものになっている』
『以前住んでいた世界は、僕にとって神は身近な存在ではなかった』――などの文面が見つかったことから、リオ様がまだファリアーナ神の教えを理解していないか、神の存在を信じきれていないことが原因と考えられます。
 リオ様は、ファリアーナ神の水晶にふれ、水晶の輝く光をご覧になる前に、治療のため魔法の力にふれました。
 リオ様にとってファリアーナ神の御業より、魔法の力のほうが不思議で神秘的な現象となってしまったことでしょう。
 魔法の力こそが、ファリアーナ神の加護のなせる技だと理解できれば『順応の義』の成功につながると考察します。
 神殿での正しい教育で、ファリアーナ神の存在を身近に感じていただければ、素晴らしい聖女になられることでしょう。
 リオ様を肉体的にも精神的にも、害したりすることがないよう、重ねてお願い申し上げます。
 リオ様が、この世界を恨み、怒りの悪感情を強く持たれると、愛と慈愛の女神ファリアーナ神の教えから遠ざかります。愛と慈愛を持って、リオ様をお導きください。
 さらに詳しく調査を進めようと思います。なにかあればシシーリア聖皇国へお越しください――


「まことか? なんと喜ばしいことよ!」
「時間はかかってしまいそうだが、聖女が手にはいることを考えれば、たいした問題ではない。大司教、さっそく聖女教育をはじめてくれ」

 国王陛下と大司教猊下は諸手をあげて喜んでいる。宰相閣下だけが、チラリと俺を見て……

「おおっ……しまった。結界石の鍵を屋敷に忘れてきてしまった。明日にはなんとかするから、今日だけはそのままで」などと言ってきた。とことん、いやみな奴だ。

「かまいません。聖女の護衛騎士としてすぐ離宮へ向かいます。では失礼します」
「待て、私も行くぞ!」

 大至急リオのところへ駆けつけたかったが、大司教猊下の足が遅い。置いていってしまいたいが、そうもいかないだろう……

「猊下、失礼します」ことわりをいれたから大丈夫だろう! ガッ……と、大司教猊下を小脇に抱えて走りだした。猊下がなにか叫んでいるが、無視だ。

 ――そして、離宮で俺は……あの惨状を見ることになる――
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