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28 下賜された聖女
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「ぎゃっ!」宰相邸に大きな悲鳴が響きわたった。
胸に急激な痛みを感じた。燃えるように熱くて痛い。慌てて上着を脱ぎ、原因を確認する。
「?」
上着の内ポケットがコゲている? ここには忌々しいアラン・ロズベルトを拘束している、結界石の鍵を入れていた。すぐ開放してやるのも、腹立たしいから屋敷に忘れてきたことにして、もう1日拘束してやる予定だった――その鍵が、消えている?
シャツもコゲて穴が開いている。私の胸にくっきりとした鍵形の火傷を残し、鍵は消失していた……
結界石の腕輪と鍵は同じ魔石から作られている。それぞれが引かれあう性質を持つため、片方の消失は、もう片方の消失に繋がる。
まさか、アラン・ロズベルトが自分で結界石を壊した? そんなことができるものなのか?
「あなた、大声が聞こえたけれど、どうしたの? あら? やだ、なにそれ、あはははは!」
「大笑いしていると、顔にシワができるぞ」
「嫌なこと言うのね。でも、あなたのお胸の鍵は、滑稽すぎるわ! あははははっ! 笑いがとまらなくなっちゃうから、とうぶん閨はご一緒しないわ。じゃあ今晩は帰らないから」
そもそもあいつがアラン・ロズベルトを寝所にひっぱりこんだのが、ことの発端だ。大笑いしながら出ていく、妻の後ろ姿を、憎々しく睨みつけた。
「閣下、王宮から火急の知らせです。すぐ登城してほしいとのことです」
「今、帰ってきたばかりだぞ?」
人使いが荒い、国王陛下の顔を思いだし、ため息をつく。シャルナ王国は今日も問題が山積みだ。聖女の件が解決すれば、一気に国力があがり、問題が解決するはずなのに……『順応の義』を失敗した娘のことを考え、また、ため息がでた。
そもそも『ファリアーナ神の存在を信じられない』っていうことが理解できない。唯一神を信じなくて、一体なにを信仰しているっていうのだろうか?
悩みつつ、登城するために着替える。今晩も急がしくなりそうな予感に、再度ため息がでた。
――謁見の間には、先ほど別れたばかりの顔ぶれがそろっていた。大司教猊下の顔色は真っ青で、ブルブルふるえている。
そこにアラン・ロズベルトが聖女になれていないあの娘を片腕に抱き、入場してきた。その手に結界石の腕輪はない。結界石を壊せるこの男に寒気を感じた。
抱きかかえられている娘の顔に、違和感をおぼえる。こんなに痩せていたか? 薄くなってはいるが、あきらかに頬に殴られたあとがある。聖女候補だぞ? どういうことだ?
「申し訳ありませんでした!!」
この国の王族に次ぐ権力の持ち主が、床に頭をつけ謝っている? 一体、なにを見せられているのだ?
「――せ、聖女様の……身に起こったことを、つつみかくさず報告いたします」
大司教猊下が床に這いつくばったまま話しだす。謁見の間に、数名の男女が連行されてきた。
なかの1人の女に目が吸いよせられた。鼻がない――いや、つぶれている。舌を噛むおそれがあるのか? さるぐつわまでされていた。男達は神殿の衛兵と修道士か? 全員、結界石のついた縄がかけられていた。
「――せ、聖女様は……聖女様は……」
猊下は、その言葉ばかりくりかえし、先を言えないでいる。
「聖女リオは、私が護衛騎士の任からはずされているあいだ、神殿で暴行をうけていた」
「ちが! 違う! 神殿の総意ではない! この女が勝手に暴走したことじゃ!」
アラン・ロズベルトの言葉に触発され、大司教猊下が飛びあがる勢いで顔をあげ、鼻のつぶれた女を指差し、反論しだす。猊下の言葉を無視するようにアラン・ロズベルトが腕のなかの娘に声をかけた。
「リオ、『順応の義』のあと、離宮でどうすごしていた?」
少し眠そうにアラン・ロズベルトの赤い髪をいじっていた娘が、顔をあげた。
「……ううん。離宮にはいなかったわ。修練館という建物の部屋に移ったの。でもあそこ怖かったから、逃げだして……木のうろにかくれていたの」
……? やけに、幼いしゃべりかた? 聖女として謁見したときは、もっと大人……だったような? いや、修練館だと? あそこは使用人用の……
「なにを食べていた?」
「なにも……1日小さなパンが2個もらえたの。だけど、掃除をしている女の人が食べちゃうようになって……とってもお腹がすいたの。……菜園の実をもいで食べたら、殴られたの」
ポロポロと泣きだす娘を呆然と見つめた……なにを言っている? いちおう、聖女候補のままだったはず……
「着るものは?」
「修道服を着せてもらったわ! ……でも、『聖女になれなかった役立たずの異邦者』が、神殿にいてはいけなかったのね。口々に私が悪いと叫ばれて、蹴られたとき破れてしまったの。1着しかなかったのに……ちょっと前まで一緒にお野菜を洗っていたのに……あっ、でもさっき新しいお洋服をもらえたの。ふふ、嬉しい」
ますます、意味がわからない。寝床も、食事も、着るものもろくにあたえず……殴るだと? 蹴られただと?
「『聖女になれなかった役立たずの異邦者』とは、なんじゃ……」
陛下も青い顔をして問いかけている。
「私のことよ? 私は、役立たずの異邦者なのでしょ? みんなそう呼んでいたもの……」
「違うのじゃ! 聖女様は役立たずなどでは、けっして! ファリアーナ神は、愛と慈愛を持って、聖女様を導いて……「イヤ――!」」
大司教猊下の言葉に、悲鳴がかぶさる。娘はふるえながら、アラン・ロズベルトの頭に抱きついていた。
「この世界の神様なんて嫌い! 帰して……もとの世界に帰して……うわあああっん!」
大泣きするその姿は、まるで幼子だ……一体、なにがどうなった?
「リオ様は……もともと、男が苦手のようでした。接吻にも戸惑われるかたです。そのかたが使用人用の閨部屋へほおりこまれ、怯えて逃げたさきで暴行を受けたのです。身を守るため、小柄な体型をいかし、未成年のふりをして逃げていた……
逃げかくれていたリオ様を見つけたメイド長が、リオ様を自分のものにしていた離宮に、嘲るために連れ帰り……彼女に……ふぅ……申し訳ありません。私の口からはこれ以上は申し上げられません」
アラン・ロズベルトが言葉をつまらせ、うつむいた。心配そうに腕に抱かれた娘が、アラン・ロズベルトの顔を覗きこみ、頭をぽんぽん……と、撫でている。
「おまえから報告しなさい」大司教猊下が、拘束されている修道士を指名した。修道士は、真っ青な顔をして、ふるふる顔を横に振っていたが、観念したように床を見つめながら話しだす。
「――メイド長キャティ様は、私たちに聖女様を抱きつぶせとご命令になりました。でも、聖女様は、その……汚くて……泥だらけでボロボロだったし、顔なんて腫れあがっていて、よく見えなかったし……聖女様を抱いている。と……思っていた、修練館がよいの下男たちが、誰も魔力が高まった者がいなかったので……抱き損になるうえ、病気になったら嫌だな……と、思って……拒否しました。
キャティ様は幻惑の香を焚かせ、聖女様に媚薬をひと瓶、飲ませ……その、辛さから開放されたいなら、自分でイケと……私たちの前で自慰行為を……」
「もうよい!」
今まで国王陛下の後ろに控えていた王妃陛下が立ちあがり、修道士の言葉をとめる。
「もうよい……聖女様が、壊れてしまわれているのは、見ればわかる」
「――媚薬の効果を抜き、治療しているとき、一回、意識を取り戻しました……そのときは、自分がなにをさせられたのか、はっきり覚えているようでした。ひどく動揺され、再び意識を失い……目覚められたときには、もう……心が幼子に戻っているようでした。
リオ様は唯一神の御名にさえ拒絶をしめし、怯えられます。セフィロース卿の書簡のにあった、最悪の状態と言えます。もう、『順応の義』を成功させることは、かなわないでしょう」
アラン・ロズベルトの言葉が、その場の空気を氷つかせる。『順応の義』を成功させることは、かなわない……だと。シャルナ王国の悲願の達成が、目前でかなわない……だと。
「ならぬ! 『順応の義』は成功させねばならぬ! ファリアーナ神の愛と慈愛のお力で……」
「いやややぁぁぁ! 神様、嫌い! ここの神様は私のこと嫌いだもん! 私にひどいことばかりするもん! ここの神様の愛は、私のと違う! いやぁぁぁぁぁ!」
国王陛下の言葉は、娘の大泣きの声にかき消された。その場の全員が顔色をなくし、シャルナの希望が失われたことを実感した。
「陛下、お許しがいただけるのなら私は爵位を返上し、リオ様だけの護衛騎士になりたく存じます。リオ様を私に御下賜いただきたく思います」
「……許す」
あんなにも追い落としたいと思っていた男は、あっさりと爵位を手放し、彩雲と共にあらわれ、聖女になれなかった娘だけを手にいれ、市井にくだる――どこか幸せそうに笑った男の顔を、私は生涯、忘れられないだろう……アラン・ロズベルト騎士爵、貴殿は幸せを掴んだのだな。胸の鍵形の火傷あとがズキリと痛んだ――シャルナ王国は、聖女と軍神を同時に失った。
「こたびの元凶に罰を言いわたす。聖女を失った悲劇は甚大。だが、愛と慈愛のファリアーナ神は豊穣の女神。人命が失われることをよしとしない。よって神の奇跡をなくした愚かな国と、他国に責められ、生活が困窮するであろうシャルナで、罪を背負って生きることを許す。
全員に結界石の腕輪を! 女は身分剥奪のうえ、市井で生きろ。男たちは魔力を高める行為を禁止後、神殿での終身奉仕を申しつける。去勢の用意を!」
男たちはうなだれ……鼻のつぶれた、元メイド長は、なにやら泣き叫んでいたが、さるぐつわのため、言葉の意味はわからなかった。
魔法で気軽に治療をほどこせるこの世界の住人は、罪の意識なく、簡単に暴力をふるう。傷を治せない者への偏見と差別は根強い。このつぶれた顔面では、市井で生きるのも苦労することだろう……
胸に急激な痛みを感じた。燃えるように熱くて痛い。慌てて上着を脱ぎ、原因を確認する。
「?」
上着の内ポケットがコゲている? ここには忌々しいアラン・ロズベルトを拘束している、結界石の鍵を入れていた。すぐ開放してやるのも、腹立たしいから屋敷に忘れてきたことにして、もう1日拘束してやる予定だった――その鍵が、消えている?
シャツもコゲて穴が開いている。私の胸にくっきりとした鍵形の火傷を残し、鍵は消失していた……
結界石の腕輪と鍵は同じ魔石から作られている。それぞれが引かれあう性質を持つため、片方の消失は、もう片方の消失に繋がる。
まさか、アラン・ロズベルトが自分で結界石を壊した? そんなことができるものなのか?
「あなた、大声が聞こえたけれど、どうしたの? あら? やだ、なにそれ、あはははは!」
「大笑いしていると、顔にシワができるぞ」
「嫌なこと言うのね。でも、あなたのお胸の鍵は、滑稽すぎるわ! あははははっ! 笑いがとまらなくなっちゃうから、とうぶん閨はご一緒しないわ。じゃあ今晩は帰らないから」
そもそもあいつがアラン・ロズベルトを寝所にひっぱりこんだのが、ことの発端だ。大笑いしながら出ていく、妻の後ろ姿を、憎々しく睨みつけた。
「閣下、王宮から火急の知らせです。すぐ登城してほしいとのことです」
「今、帰ってきたばかりだぞ?」
人使いが荒い、国王陛下の顔を思いだし、ため息をつく。シャルナ王国は今日も問題が山積みだ。聖女の件が解決すれば、一気に国力があがり、問題が解決するはずなのに……『順応の義』を失敗した娘のことを考え、また、ため息がでた。
そもそも『ファリアーナ神の存在を信じられない』っていうことが理解できない。唯一神を信じなくて、一体なにを信仰しているっていうのだろうか?
悩みつつ、登城するために着替える。今晩も急がしくなりそうな予感に、再度ため息がでた。
――謁見の間には、先ほど別れたばかりの顔ぶれがそろっていた。大司教猊下の顔色は真っ青で、ブルブルふるえている。
そこにアラン・ロズベルトが聖女になれていないあの娘を片腕に抱き、入場してきた。その手に結界石の腕輪はない。結界石を壊せるこの男に寒気を感じた。
抱きかかえられている娘の顔に、違和感をおぼえる。こんなに痩せていたか? 薄くなってはいるが、あきらかに頬に殴られたあとがある。聖女候補だぞ? どういうことだ?
「申し訳ありませんでした!!」
この国の王族に次ぐ権力の持ち主が、床に頭をつけ謝っている? 一体、なにを見せられているのだ?
「――せ、聖女様の……身に起こったことを、つつみかくさず報告いたします」
大司教猊下が床に這いつくばったまま話しだす。謁見の間に、数名の男女が連行されてきた。
なかの1人の女に目が吸いよせられた。鼻がない――いや、つぶれている。舌を噛むおそれがあるのか? さるぐつわまでされていた。男達は神殿の衛兵と修道士か? 全員、結界石のついた縄がかけられていた。
「――せ、聖女様は……聖女様は……」
猊下は、その言葉ばかりくりかえし、先を言えないでいる。
「聖女リオは、私が護衛騎士の任からはずされているあいだ、神殿で暴行をうけていた」
「ちが! 違う! 神殿の総意ではない! この女が勝手に暴走したことじゃ!」
アラン・ロズベルトの言葉に触発され、大司教猊下が飛びあがる勢いで顔をあげ、鼻のつぶれた女を指差し、反論しだす。猊下の言葉を無視するようにアラン・ロズベルトが腕のなかの娘に声をかけた。
「リオ、『順応の義』のあと、離宮でどうすごしていた?」
少し眠そうにアラン・ロズベルトの赤い髪をいじっていた娘が、顔をあげた。
「……ううん。離宮にはいなかったわ。修練館という建物の部屋に移ったの。でもあそこ怖かったから、逃げだして……木のうろにかくれていたの」
……? やけに、幼いしゃべりかた? 聖女として謁見したときは、もっと大人……だったような? いや、修練館だと? あそこは使用人用の……
「なにを食べていた?」
「なにも……1日小さなパンが2個もらえたの。だけど、掃除をしている女の人が食べちゃうようになって……とってもお腹がすいたの。……菜園の実をもいで食べたら、殴られたの」
ポロポロと泣きだす娘を呆然と見つめた……なにを言っている? いちおう、聖女候補のままだったはず……
「着るものは?」
「修道服を着せてもらったわ! ……でも、『聖女になれなかった役立たずの異邦者』が、神殿にいてはいけなかったのね。口々に私が悪いと叫ばれて、蹴られたとき破れてしまったの。1着しかなかったのに……ちょっと前まで一緒にお野菜を洗っていたのに……あっ、でもさっき新しいお洋服をもらえたの。ふふ、嬉しい」
ますます、意味がわからない。寝床も、食事も、着るものもろくにあたえず……殴るだと? 蹴られただと?
「『聖女になれなかった役立たずの異邦者』とは、なんじゃ……」
陛下も青い顔をして問いかけている。
「私のことよ? 私は、役立たずの異邦者なのでしょ? みんなそう呼んでいたもの……」
「違うのじゃ! 聖女様は役立たずなどでは、けっして! ファリアーナ神は、愛と慈愛を持って、聖女様を導いて……「イヤ――!」」
大司教猊下の言葉に、悲鳴がかぶさる。娘はふるえながら、アラン・ロズベルトの頭に抱きついていた。
「この世界の神様なんて嫌い! 帰して……もとの世界に帰して……うわあああっん!」
大泣きするその姿は、まるで幼子だ……一体、なにがどうなった?
「リオ様は……もともと、男が苦手のようでした。接吻にも戸惑われるかたです。そのかたが使用人用の閨部屋へほおりこまれ、怯えて逃げたさきで暴行を受けたのです。身を守るため、小柄な体型をいかし、未成年のふりをして逃げていた……
逃げかくれていたリオ様を見つけたメイド長が、リオ様を自分のものにしていた離宮に、嘲るために連れ帰り……彼女に……ふぅ……申し訳ありません。私の口からはこれ以上は申し上げられません」
アラン・ロズベルトが言葉をつまらせ、うつむいた。心配そうに腕に抱かれた娘が、アラン・ロズベルトの顔を覗きこみ、頭をぽんぽん……と、撫でている。
「おまえから報告しなさい」大司教猊下が、拘束されている修道士を指名した。修道士は、真っ青な顔をして、ふるふる顔を横に振っていたが、観念したように床を見つめながら話しだす。
「――メイド長キャティ様は、私たちに聖女様を抱きつぶせとご命令になりました。でも、聖女様は、その……汚くて……泥だらけでボロボロだったし、顔なんて腫れあがっていて、よく見えなかったし……聖女様を抱いている。と……思っていた、修練館がよいの下男たちが、誰も魔力が高まった者がいなかったので……抱き損になるうえ、病気になったら嫌だな……と、思って……拒否しました。
キャティ様は幻惑の香を焚かせ、聖女様に媚薬をひと瓶、飲ませ……その、辛さから開放されたいなら、自分でイケと……私たちの前で自慰行為を……」
「もうよい!」
今まで国王陛下の後ろに控えていた王妃陛下が立ちあがり、修道士の言葉をとめる。
「もうよい……聖女様が、壊れてしまわれているのは、見ればわかる」
「――媚薬の効果を抜き、治療しているとき、一回、意識を取り戻しました……そのときは、自分がなにをさせられたのか、はっきり覚えているようでした。ひどく動揺され、再び意識を失い……目覚められたときには、もう……心が幼子に戻っているようでした。
リオ様は唯一神の御名にさえ拒絶をしめし、怯えられます。セフィロース卿の書簡のにあった、最悪の状態と言えます。もう、『順応の義』を成功させることは、かなわないでしょう」
アラン・ロズベルトの言葉が、その場の空気を氷つかせる。『順応の義』を成功させることは、かなわない……だと。シャルナ王国の悲願の達成が、目前でかなわない……だと。
「ならぬ! 『順応の義』は成功させねばならぬ! ファリアーナ神の愛と慈愛のお力で……」
「いやややぁぁぁ! 神様、嫌い! ここの神様は私のこと嫌いだもん! 私にひどいことばかりするもん! ここの神様の愛は、私のと違う! いやぁぁぁぁぁ!」
国王陛下の言葉は、娘の大泣きの声にかき消された。その場の全員が顔色をなくし、シャルナの希望が失われたことを実感した。
「陛下、お許しがいただけるのなら私は爵位を返上し、リオ様だけの護衛騎士になりたく存じます。リオ様を私に御下賜いただきたく思います」
「……許す」
あんなにも追い落としたいと思っていた男は、あっさりと爵位を手放し、彩雲と共にあらわれ、聖女になれなかった娘だけを手にいれ、市井にくだる――どこか幸せそうに笑った男の顔を、私は生涯、忘れられないだろう……アラン・ロズベルト騎士爵、貴殿は幸せを掴んだのだな。胸の鍵形の火傷あとがズキリと痛んだ――シャルナ王国は、聖女と軍神を同時に失った。
「こたびの元凶に罰を言いわたす。聖女を失った悲劇は甚大。だが、愛と慈愛のファリアーナ神は豊穣の女神。人命が失われることをよしとしない。よって神の奇跡をなくした愚かな国と、他国に責められ、生活が困窮するであろうシャルナで、罪を背負って生きることを許す。
全員に結界石の腕輪を! 女は身分剥奪のうえ、市井で生きろ。男たちは魔力を高める行為を禁止後、神殿での終身奉仕を申しつける。去勢の用意を!」
男たちはうなだれ……鼻のつぶれた、元メイド長は、なにやら泣き叫んでいたが、さるぐつわのため、言葉の意味はわからなかった。
魔法で気軽に治療をほどこせるこの世界の住人は、罪の意識なく、簡単に暴力をふるう。傷を治せない者への偏見と差別は根強い。このつぶれた顔面では、市井で生きるのも苦労することだろう……
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