がんじがらめの契約と狂愛〜聖女になれなかった異邦者の唯一〜

く〜いっ

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54 伯爵邸からの脱出

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 来訪者様とシャルナの軍神がシャルナ王国を捨て、セフィロース領の伯爵邸に到着した。と、ジリオーラから連絡を受けたときは、我が耳を疑った。
 来訪者様が『順応の義』に失敗したことは聞いていたが、まさか市井にくだる……そんなバカな決定をシャルナがくだすとは思ってもみなかった。これだから聖者、聖女を受けいれたことがない国は、情報がなさすぎて笑える……
 聖女を他国にとられるぐらいなら『順応の義』の失敗、おおいに結構なことだ。『聖者・聖女条約』に護られていない、『順応の義』で使われるはずだった膨大な魔力を内包したままの来訪者様の訪問。運が巡ってきたと思った。

 聖者の血族の力もだいぶ弱まり、あと数世代後には血族魔法はエバンティスから消えてしまうことだろう。血族婚でその血を濃くたもつのも限界で、血族魔法を使えないエバンティスもふえてきた。
 外交手段で使えるコマが少なくなってしまい。皇室からの要求は若いエバンティスの負担になってきている。だいたい皇族の快楽のためにもエバンティスを呼びよせるからタチが悪い。
 エバンティスが権力を握るため必要なことだから、血族の仕事を担った者たちも理解していることだろうが……私自身、好色な皇太后殿下の寝室に侍った日々は辛いものがあった。

 聖者の正妃の直系であるエバンティス侯爵家の跡継ぎ、ジリオーラに強い魔力を持つ花嫁を探していたとき、第6側室の子孫、ラズ侯爵家に血族魔法をつかえるレディ・ピアディが誕生した。誕生と同時に血族魔法で母親を癒したすばらしい魔力を持つ令嬢だ。
 すぐ、ジリオーラとの婚約をととのえレディ・ピアディを婚約者としたが……ほかの男の手垢がつかぬよう、内包している魔力を他家に奪われぬよう、すぐジリオーラにあたえたため、ジリオーラは妹のように可愛がってしまっている。
 着せ替え人形のように、ドレスをあたえ彼女を甘やかしていると、伯爵邸の使用人たちの報告を受けていた。

 『成人の義』のあと、体調を崩したことが原因か? 美しい銀髪が白く輝きをなくしてしまった。髪色が変わるほどの体調不良だ。子供ができにくい体になっていると、問題がある。婚姻は子供ができるまでさせないと決めた。
 2年たつ今も、子ができるようすがない。私の考えは間違っていなかった。血が残せない花嫁はエバンティス侯爵家には不必要な存在だ。

 ファリアーナ神に似るように育てられたレディ・ピアディは、他国の王族にも人気が高い。花嫁としては使えないが、血族の仕事をさせるのには重宝していた。彼女が持つ血族魔法も気持ちがいいと評判がよい。
 これからは血族の仕事をさせるコマとして、大切に育てていけばいい。ジリオーラには、新しい婚約者をあたえなければ……そう、考えていた矢先の聖女降臨だ。

 ジリオーラは伴侶の申し込みをことわられたが、シャルナの軍神をともなってシシーリア聖皇国へ、ジリオーラのもとへきてくれた! 来訪者様こそ、我がエバンティス侯爵家の花嫁にふさわしい!

 国内外にお披露目を兼ねた夜会で、まさかこんな騒ぎがおころうとは!

 今、目の前でシャルナの軍神が、来訪者様をさらおうとしていた!

「来訪者様をはなせ! 痴れ者が!」

 衛兵にシャルナの軍神を追わせ、門をかたく閉ざす。夜会参加者のバカ者どもが、レディ・ピアディを取りあって騒ぎをおこしたため、騒動は混迷をきわめていた。ジリオーラも怒ってレディ・ピアディを連れて本邸へ戻ってしまった。
 まったく俗物のラズ侯爵は、レディ・ピアディの人気に胡座をかき『成人の義』のときもこういった狂宴に彼女を参加させ、毎度ジリオーラの怒りをかっている。

 ジリオーラのかわりに、私がこの騒ぎをおさめることになった。数人の体に炎が燃え移り、のたうちまわっている。そのなかには、帝国の王太子殿下もまざっていた。

「助けろ! なんとかしろ! これは、おまえの息子の仕業だぞ!」

 王太子殿下が泣き叫んだ。なに? この炎はジリオーラの血族魔法か? なんとすばらしい! もしや、来訪者様と閨を共にしていたか?
 国際問題になるのは困るが、息子の急激な魔力の高まりに興奮する。

「おい、ジリオーラを呼んでこい。血族魔法の炎なら、これはジリオーラにしか消せん。王太子殿下、息子を呼びに行かせましたので少々お待ちを」
「早く、早くしろ! 治癒魔法がおいつかん!」

 王太子殿下はわめき散らしていたが、今はさらわれた来訪者様を助けることが先決だ。こんなことなら、奴に『聖者の手記』をわたすのではなかった。来訪者様にすっかり骨抜きになっているようだったから、油断した……

 ズズーンンンッ! 轟音が鳴りひびく。

「なにごとだ!」

 業火のなか、真っ赤な髪を逆立てた、シャルナの軍神が来訪者様を片腕で抱き、外壁までの庭園の樹木をすべて一刀で薙ぎ払っていた。
 衛兵はその風圧で、吹き飛ばされている。

 人間業じゃない……あの姿は、あれはまるで、他の神がみと敵対し、この世界を去ったといわれる、怒れる鬼神……魔獣王そのものだ……

 魔獣王に抱かれた来訪者様は、涙をながし魔獣王の顔に頬をよせ、唇に接吻をくりかえしていた……魔獣王の咆哮が、大地を揺るがし伯爵邸の外壁を崩壊させる。

 ――そして彼らは、セフィロース領内へ姿を消した……
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