死ぬことが確約されている悪役令息ですが、推しの闇落ち回避のために頑張ります

蒸しケーキ

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 狩猟大会までは残り三日となった。学園内は相変わらず慌ただしく、狩猟大会に向けての設営が進められているようだった。あちこちで学生たちが忙しそうに動き回っている。

 とはいえ俺は、委員会とかボランティアに参加しているわけではない。入る気もなかったし、入れるわけもないけど。だから、いつもと変わらぬ平凡な日々を過ごしていた。

 準備期間中、カリムの姿は学何度か見かけた。だがやはり忙しいのか、あれ以来、まともに顔を合わせることはなかった。目が合うことすらない。

 ......もしかして、俺のこと忘れられてる?

 心に少しだけ寂しさを感じつつ、俺はハイドの森へ向かおうとした......のだが。

「え? 俺の馬車が壊れてる?」

「そうなのよ。今朝確認したら滑車の部分が壊れていてね。申し訳ないのだけれど、しばらく徒歩でもいいかしら?」

「......はい、分かりました。大丈夫です。」

 多少不便ではあるが、もともと馬車は学園との往復くらいにしか使っていなかったし、そこまで支障はないだろう。

「すまないねぇ。修理の目途が立ったら、また知らせるよ。」

 俺は徒歩で狩猟大会の舞台へ向かった。道のりは思っていたよりも整備されており、急な山道というほどでもない。ゼノの家がある森に比べれば、これくらいの坂はどうということもなかった。

 やがて会場付近に到着すると、すでにいくつものテントが張られていた。

 ......ここから合流するのは、さすがに気まずいな。

 少し面倒ではあったが、俺は会場を避けて森の中へと足を踏み入れた。奥へ奥へと進んでいく。だが、夢で見たような“嫌な気配”は感じられない。

 崖が近くにあるような様子もないし......あれは狩猟大会とは無関係な出来事だったのか?

 いや、どちらにせよ用心するに越したことはない。

「......この辺りは大丈夫そうだな。」

 軽く周囲を見渡し、俺は踵を返した。そろそろ弓や短剣も用意しておかないといけない。鍛冶屋にも行く必要がある。

 ーーあ、そうだ。

「明日、アルトの弓でも折っておくか。」

 狩猟大会前に、何かしら妨害はしておかないとな。アルトのクラスの場所はすでに把握できている。準備は万端だ。

 あぁ、でもやりたくもないのに嫌がらせを実行しようとするのって、気が引けるな。

 そんなことを頭の中で考えながら森を抜け、再び会場付近へ戻る。

 夕暮れが近いせいか、設営に携わっていた学生や教員の姿はすでになく、そこは静まり返っていた。聞こえるのは、風に揺れる木々の音だけだ。

 ーーそのとき。

 森から会場に戻る道すがら、軽く視線を感じた気がした。

「......気のせいだよな。」

 一瞬、足を止めたが、結局そのまま城下町へ向かうことにした。

 俺と同じように準備に来た学生が多いのだろう。特に鍛冶屋や雑貨屋の前は人で溢れている。

「......いや、混みすぎだろ」

 人がはけるのを待ってみたものの、減るどころか増えていく一方だった。まぁ、無理もないか。

 狩猟大会で結果を出せば、将来の昇進や地位、名誉に直結する。いわば人生を左右するイベントだ。

 ーー今の俺には、どうでもいいけど。

「......もう明日でいいか。」

 そう判断して帰ろうとした、そのときだった。

 思わぬ光景が、目に飛び込んできた。

 ーーカリムとアルトが、同じ店から並んで出てきたのだ。それにカリムとアルトのあの笑顔、距離感。

「......お?、これは。」

 一瞬、脳内が情報処理のために混乱したが、すぐに理解した。アルトも貧困層の支援活動をしているのだ。つまり、カリムと目的が一致していても不思議ではない。

「......なるほどね」

 これはーーかなりいい流れじゃないか?

 思わぬ収穫に、胸が高鳴る。

 理由はどうあれ、二人が一緒にいるという事実。それだけで十分だ。

(......これは、カリムルートに入ってるってことでいいよな?)

 ふっ、と笑みがこぼれる。

 狩猟大会当日が楽しみだ。もしかしたらーーカリムがアルトに狩った白狼の毛皮を渡す、あのシーンも見られるかもしれない。

 ......最高すぎる。

 俺は高ぶる気持ちを抱えたまま、家に帰ってこの幸せな気持ちのまま眠りにつこうとした。けれど、上手くいかなかった。

 頭の中は狩猟大会の作戦でいっぱいになった。道を誤らせる、猛獣のエリアは無理でも、せめて弓を折るのは頑張んないとな......あぁ、うまくいくかな。

 だが、このときの俺はまだ知らない。

 窮地に陥るのが、アルトではなくーー自分自身だということを。
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