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運命に花束を②
運命の三回戦⑩
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「ん? どうしたんだ?」
「どうやら足に怪我を負ったようだな」
ブラックの言葉にリンが応え、ナダールはアインに連れられて行ってしまった。ガリアスは何やら近くの兵士と話をしている。
「まぁ言っても、これは明らかに第2騎士団長の勝ちだろうな。残念だが仕方あるまい」
「お前はナダールを第1騎士団長にしたかったのか?」
「いや、そういう訳ではないが、なったらなったで面白そうだな、と途中から思っていた」
なんせ新入りが騎士団長就任なんてこの武闘会始まって以来の快挙だ、これが更に初出場で第1騎士団長就任となれば箔も付く。
今現在まで自分の若かりし頃の武功が伝説となって残っているこの国で、新たな伝説も生まれるという物だ。
「さてと、行くか。新しい第1騎士団長を労ってやらねばな」
ブラックは玉座から立ち上がり、前へと進み出た。
遠くから歓声と拍手が聞こえてきた。
「どうやら式典が始まったようだな」
「あなたは行かなくていいのですか?」
ナダールが足の治療を受ける傍らで、アインは呑気に寛いでいる。
「優勝者がいれば問題ないだろう。俺は今回も引き続き第三騎士団長のままだしな」
「そんなものなのですか?」
「お前は行けば労ってもらえると思うぞ。なんせ異例の大出世だからな、ちなみに副団長以上の昇格には金一封が出るから楽しみにしておけ」
「本当ですか? 助かります!」
ナダールの喜色に、グノーが呆れたような表情を見せる。
「お前……うちが困窮してるみたいに聞こえるからやめろ。別にうちはそこまで貧乏じゃない」
「お金は幾らあっても困る事はありませんよ。これから子供達も大きくなって、何時どんな事でお金が必要になるかなんて分かりませんからね」
「そしたら俺だってちゃんと働くよ、この足なら何でも屋家業復活しても大丈夫そうだし」
「何でも屋?」
アインは首を傾げる。
「あぁ、元々俺は旅から旅の旅人でさ、色々な場所で色々な仕事請け負って小銭稼いで暮らしてたんだ。だから俺、意外と何でもできるぜ。用心棒から子守までなんでもござれだ」
「だったらあんたも騎士団入ればいいだろう、二馬力で働けば生活なんざ楽勝だぞ」
「それは嫌」
「なんでだ、お前剣も扱えるんだろ」
「ブラックにいいように使われるのが目に見えてるから、絶対、嫌!」
「ブラック?」
「国王陛下の事ですよ。旅の途中で知り合って意気投合したらしくて仲が良いのはいいんですけど、さすがにもう少し敬う事を覚えないと……」
「ブラックはブラックだ。それに俺は誰にも媚びへつらうつもりはないし、あいつも気にしねぇよ」
「また不思議な交友関係だな……」とアインは呆れたようにそう言った。
「でもそのおかげで私は今、ここにいます」
「もっと別の職だって幾らでもあるのに……」と不貞腐れるグノーの横で「それでも私は生まれながらの騎士ですよ」とナダールは笑った。
父も祖父もそのまた祖父もデルクマン家は代々騎士の家系なのだ、それ以外の職を今まで考えた事もなかった。
ムソンではカズイやリンを手伝い諜報活動もしたりはしたが、どうにも自分には合わないというのも分かっていた。
「自分を一番活かせる事ができるのがこの仕事なので、できれば応援して欲しいのですけど」
「応援はしてるよ、もう分かってる。だけど、無理はすんな」
「分かっています」
そんな夫婦の語らいの傍でアインは一人頷いた。
「そうか、お前は国王陛下のお墨付きだったか。通りで強い訳だな」
「いえ、別にお墨付きという訳では……来いと言われたので来ただけですし、役職を付けるとは言われましたが、騎士団長だなんて聞いてないです。それに一切手助けも受けてはいませんよ。クロードさんとエディ君に手伝ってもらったのが手助けだと言われてしまったら、それは否定できませんけどね」
「分かっている、そういう意味ではなくて、あれだろ? 国王って伝説の剣豪だろう? それに認められたって言うならそれだけでもう充分強いって事だ。俺もエディに付いて行って何度か手合わせさせていただいた事があるが、あの人は本当に強いな」
「伝説の剣豪?」
「知らんのか? 国王陛下はこの国じゃあちょっとした伝説の人だぞ。言っても伝説を残しているのはブラック・ラングとしてだから、今の国王陛下とその剣豪が同一人物だと知っている奴はそう多くはないと思うがな」
「ふぅん、ブラックが伝説の剣豪ねぇ……」
グノーは瞳を細めて不敵な笑みを見せる。
「なんだ、含みのある物言いだな」
「確かにあいつは強いけど俺とやり合って勝敗は半々だよ、その程度で伝説とか笑わせる。それならその内絶対に、こいつがその伝説の上に立つだろうよ」
「ちょっとまた何言い出してるんですか! さすがにそれは失礼ですよ」
「本当の事だ、俺はもうこの足じゃあこれ以上は望めないけど、ナダールにはまだまだ伸び代がある。うかうかしてると今度はあんたもあっさり負けるぞ」
アインの額にぴきんと血管が浮き上がるのが分かり、ナダールはあわあわと慌てる。
「ほぅ、よく言った。言ったからには逃げ隠れは許さんぞ」
「望む所だ」
「ちょっとグノー、勝手に人を巻き込んで喧嘩を売るのは止めてください。私がそういうの好きじゃないの知ってるでしょう!」
「あぁ!? 売られた喧嘩は買うもんだ」
「喧嘩を売ったのはあなたの方ですよ……あぁ、本当にもう、すみません」
そう言ってぺこぺこ頭を下げるナダールからは先程までの強さは欠片ほども感じられない。こんな弱気で今までよく騎士などやってきたなとアインは呆れてしまった。
結局足にはヒビが入っており、全治一ヶ月の診断が下された。
足はがっちり固定され、どうにもこうにも身動きが取り難い。
「あはは、なんともしまりませんねぇ」
「笑い事じゃねぇよ、お前の鍛え方が足りないから怪我なんかするんだ。今度は受け身のやり方もみっちり叩き込むから覚悟しとけ」
ぷりぷりと怒り顔のグノーだが、その態度が心配の裏返しなのは本当に分かりやすくて、つい笑ってしまう。
「あぁ、でも結局優勝はできませんでしたから、ご褒美はお預けですかね」
「何言ってんのお前、約束どおりに第三騎士団長には勝っただろ、ちゃんと準備しておくから楽しみに待っておけ」
そのグノーの言葉にナダールは驚いたような表情をした後、それは嬉しそうに笑顔を見せた。
ナダールがアインに抱えられるようにして競技場に戻ると、観衆からは割れんばかりの拍手で迎えられた。
「よく頑張った。これから余の為、国の為よく働くように」
ブラックに労われて、ナダールは頭を下げる。これでもう正式なファルスの騎士団員の一員だ。
まさかこんなとんとん拍子に騎士団長に昇進してしまうとは思わなかったが、会場の拍手と歓声に改めて頑張ろうと心を新たにする。
「皆もよく頑張った、勝った者、負けた者、昇進した者、降格した者様々だろうが、今夜は無礼講だ、大いに食べ、大いに飲め。そして英気を養い、明日からも共に我が国ファルスを盛り上げて参ろう」
国王の言葉に続いて「ファルス万歳」の声が響き、宴が始まる。騎士団員のみならず、民衆も含めて城の中だけではなく城下町も大賑わいのお祭り騒ぎだ。
「凄いな、国中がお祭りしてるみたいだ」
「三年に一度のお祭りですからね」とキースは笑う。
幼い子供達はもうそろそろおねむの時間で、グノーがルイを、キースがユリウスを抱いて一足先にグノー達は帰路についていた。
「悪いなキース。どうしてもこうなると一人で二人はきつくてな……」
子供達は二人の腕の中ですでにうつらうつらと船を漕ぎ出している。
「特等席で観戦させてもらったお礼なんで、このくらいお安い御用ですよ。それに祭りは終わってませんから、まだこれから繰り出すので大丈夫です。今年は騎士団長が二人も入れ替わったから本当に大盛り上がりですよね」
「俺、こんな盛大な祭り初めて見たよ」
「あはは、まだこんなもんじゃないですよ」
「そうなのか?」
「祭りは夜が本番だから、まぁ見ててください」
言ってキースが城の後方を指差し「もうじきですよ」と笑みを見せる。そして間もなくすると、城の後方から次々と光の華が咲き乱れ始めた。
「うわっ、何これ!? これってアレか? 花火ってやつか?!」
「そうですよ、初めてですか?」
「あぁ、初めて見た。綺麗なもんだなぁ……」
腕の中のルイも花火の音に目が覚めたのか、キラキラした瞳でその光の華を見上げていた。
「これいいなぁ、本当、この国はいいなぁ。楽しい事ばっかりだ」
「そう言ってもらえると、ファルス国民としては鼻が高いです」
「あぁ……でもできたらあいつと一緒に見たかったなぁ」
「今回は仕方がないですよ、今頃ナダールさん色々な人に囲まれて引っ張りだこでしょうからね」
「そうだな、あいつは本当にどこに行ってもすぐにその環境に馴染んじまう、本当凄いよ」
グノーは微かに瞳を伏せた。
「あはは、そうなんですねぇ。そうだ、俺、第2騎士団に勤務希望出しますね」
「え? 所属ってこの大会結果で決まるんじゃなかったっけ?」
「そうですよ。でも行きたい場所があるなら希望を出せるし、そこに適正があるって判断されれば希望は通ります。第2・第5は新しい団長なので希望すれば入れるんじゃないかな」
「そっか、そうしたらまた何かと会う機会もありそうだな。俺達まだ越してきて間もないからさ、知り合いも少ないし、いつでも遊びに来てくれよな」
「遊びに行ったら黒の騎士団の人達にも会えますかね?」
「そうだな、たぶんあいつ等もちょこちょこ顔出してくれるんじゃないかな」
キースの顔がぱっと明るくなる。
「俺、まだあの人達に聞きたい事たくさんあるんだ。それにナダールさんの傍は楽しそうだし、絶対遊びに来ますよ!」
笑うキースに「今日はありがとう」と礼を述べると「とんでもないっす」とぺこりと頭を下げられ、いい子だなと思う。
家まで送り届けてもらい、お茶でもと勧めてみたが、キースは友達と遊ぶ約束があると跳ねるように戻って行った。
子供達はベッドの中ですやすやと夢の中、グノーはまだ上がり続ける花火を見上げて、ほぅと息を吐く。
ナダールが騎士団長になり、明日からの生活に何か変化はあるのだろうか?
喧騒は遠いがまだまだ街の賑わいと華やかな明かりは見て取れて、グノーはそれを何とはなしに眺めていた。
「どうやら足に怪我を負ったようだな」
ブラックの言葉にリンが応え、ナダールはアインに連れられて行ってしまった。ガリアスは何やら近くの兵士と話をしている。
「まぁ言っても、これは明らかに第2騎士団長の勝ちだろうな。残念だが仕方あるまい」
「お前はナダールを第1騎士団長にしたかったのか?」
「いや、そういう訳ではないが、なったらなったで面白そうだな、と途中から思っていた」
なんせ新入りが騎士団長就任なんてこの武闘会始まって以来の快挙だ、これが更に初出場で第1騎士団長就任となれば箔も付く。
今現在まで自分の若かりし頃の武功が伝説となって残っているこの国で、新たな伝説も生まれるという物だ。
「さてと、行くか。新しい第1騎士団長を労ってやらねばな」
ブラックは玉座から立ち上がり、前へと進み出た。
遠くから歓声と拍手が聞こえてきた。
「どうやら式典が始まったようだな」
「あなたは行かなくていいのですか?」
ナダールが足の治療を受ける傍らで、アインは呑気に寛いでいる。
「優勝者がいれば問題ないだろう。俺は今回も引き続き第三騎士団長のままだしな」
「そんなものなのですか?」
「お前は行けば労ってもらえると思うぞ。なんせ異例の大出世だからな、ちなみに副団長以上の昇格には金一封が出るから楽しみにしておけ」
「本当ですか? 助かります!」
ナダールの喜色に、グノーが呆れたような表情を見せる。
「お前……うちが困窮してるみたいに聞こえるからやめろ。別にうちはそこまで貧乏じゃない」
「お金は幾らあっても困る事はありませんよ。これから子供達も大きくなって、何時どんな事でお金が必要になるかなんて分かりませんからね」
「そしたら俺だってちゃんと働くよ、この足なら何でも屋家業復活しても大丈夫そうだし」
「何でも屋?」
アインは首を傾げる。
「あぁ、元々俺は旅から旅の旅人でさ、色々な場所で色々な仕事請け負って小銭稼いで暮らしてたんだ。だから俺、意外と何でもできるぜ。用心棒から子守までなんでもござれだ」
「だったらあんたも騎士団入ればいいだろう、二馬力で働けば生活なんざ楽勝だぞ」
「それは嫌」
「なんでだ、お前剣も扱えるんだろ」
「ブラックにいいように使われるのが目に見えてるから、絶対、嫌!」
「ブラック?」
「国王陛下の事ですよ。旅の途中で知り合って意気投合したらしくて仲が良いのはいいんですけど、さすがにもう少し敬う事を覚えないと……」
「ブラックはブラックだ。それに俺は誰にも媚びへつらうつもりはないし、あいつも気にしねぇよ」
「また不思議な交友関係だな……」とアインは呆れたようにそう言った。
「でもそのおかげで私は今、ここにいます」
「もっと別の職だって幾らでもあるのに……」と不貞腐れるグノーの横で「それでも私は生まれながらの騎士ですよ」とナダールは笑った。
父も祖父もそのまた祖父もデルクマン家は代々騎士の家系なのだ、それ以外の職を今まで考えた事もなかった。
ムソンではカズイやリンを手伝い諜報活動もしたりはしたが、どうにも自分には合わないというのも分かっていた。
「自分を一番活かせる事ができるのがこの仕事なので、できれば応援して欲しいのですけど」
「応援はしてるよ、もう分かってる。だけど、無理はすんな」
「分かっています」
そんな夫婦の語らいの傍でアインは一人頷いた。
「そうか、お前は国王陛下のお墨付きだったか。通りで強い訳だな」
「いえ、別にお墨付きという訳では……来いと言われたので来ただけですし、役職を付けるとは言われましたが、騎士団長だなんて聞いてないです。それに一切手助けも受けてはいませんよ。クロードさんとエディ君に手伝ってもらったのが手助けだと言われてしまったら、それは否定できませんけどね」
「分かっている、そういう意味ではなくて、あれだろ? 国王って伝説の剣豪だろう? それに認められたって言うならそれだけでもう充分強いって事だ。俺もエディに付いて行って何度か手合わせさせていただいた事があるが、あの人は本当に強いな」
「伝説の剣豪?」
「知らんのか? 国王陛下はこの国じゃあちょっとした伝説の人だぞ。言っても伝説を残しているのはブラック・ラングとしてだから、今の国王陛下とその剣豪が同一人物だと知っている奴はそう多くはないと思うがな」
「ふぅん、ブラックが伝説の剣豪ねぇ……」
グノーは瞳を細めて不敵な笑みを見せる。
「なんだ、含みのある物言いだな」
「確かにあいつは強いけど俺とやり合って勝敗は半々だよ、その程度で伝説とか笑わせる。それならその内絶対に、こいつがその伝説の上に立つだろうよ」
「ちょっとまた何言い出してるんですか! さすがにそれは失礼ですよ」
「本当の事だ、俺はもうこの足じゃあこれ以上は望めないけど、ナダールにはまだまだ伸び代がある。うかうかしてると今度はあんたもあっさり負けるぞ」
アインの額にぴきんと血管が浮き上がるのが分かり、ナダールはあわあわと慌てる。
「ほぅ、よく言った。言ったからには逃げ隠れは許さんぞ」
「望む所だ」
「ちょっとグノー、勝手に人を巻き込んで喧嘩を売るのは止めてください。私がそういうの好きじゃないの知ってるでしょう!」
「あぁ!? 売られた喧嘩は買うもんだ」
「喧嘩を売ったのはあなたの方ですよ……あぁ、本当にもう、すみません」
そう言ってぺこぺこ頭を下げるナダールからは先程までの強さは欠片ほども感じられない。こんな弱気で今までよく騎士などやってきたなとアインは呆れてしまった。
結局足にはヒビが入っており、全治一ヶ月の診断が下された。
足はがっちり固定され、どうにもこうにも身動きが取り難い。
「あはは、なんともしまりませんねぇ」
「笑い事じゃねぇよ、お前の鍛え方が足りないから怪我なんかするんだ。今度は受け身のやり方もみっちり叩き込むから覚悟しとけ」
ぷりぷりと怒り顔のグノーだが、その態度が心配の裏返しなのは本当に分かりやすくて、つい笑ってしまう。
「あぁ、でも結局優勝はできませんでしたから、ご褒美はお預けですかね」
「何言ってんのお前、約束どおりに第三騎士団長には勝っただろ、ちゃんと準備しておくから楽しみに待っておけ」
そのグノーの言葉にナダールは驚いたような表情をした後、それは嬉しそうに笑顔を見せた。
ナダールがアインに抱えられるようにして競技場に戻ると、観衆からは割れんばかりの拍手で迎えられた。
「よく頑張った。これから余の為、国の為よく働くように」
ブラックに労われて、ナダールは頭を下げる。これでもう正式なファルスの騎士団員の一員だ。
まさかこんなとんとん拍子に騎士団長に昇進してしまうとは思わなかったが、会場の拍手と歓声に改めて頑張ろうと心を新たにする。
「皆もよく頑張った、勝った者、負けた者、昇進した者、降格した者様々だろうが、今夜は無礼講だ、大いに食べ、大いに飲め。そして英気を養い、明日からも共に我が国ファルスを盛り上げて参ろう」
国王の言葉に続いて「ファルス万歳」の声が響き、宴が始まる。騎士団員のみならず、民衆も含めて城の中だけではなく城下町も大賑わいのお祭り騒ぎだ。
「凄いな、国中がお祭りしてるみたいだ」
「三年に一度のお祭りですからね」とキースは笑う。
幼い子供達はもうそろそろおねむの時間で、グノーがルイを、キースがユリウスを抱いて一足先にグノー達は帰路についていた。
「悪いなキース。どうしてもこうなると一人で二人はきつくてな……」
子供達は二人の腕の中ですでにうつらうつらと船を漕ぎ出している。
「特等席で観戦させてもらったお礼なんで、このくらいお安い御用ですよ。それに祭りは終わってませんから、まだこれから繰り出すので大丈夫です。今年は騎士団長が二人も入れ替わったから本当に大盛り上がりですよね」
「俺、こんな盛大な祭り初めて見たよ」
「あはは、まだこんなもんじゃないですよ」
「そうなのか?」
「祭りは夜が本番だから、まぁ見ててください」
言ってキースが城の後方を指差し「もうじきですよ」と笑みを見せる。そして間もなくすると、城の後方から次々と光の華が咲き乱れ始めた。
「うわっ、何これ!? これってアレか? 花火ってやつか?!」
「そうですよ、初めてですか?」
「あぁ、初めて見た。綺麗なもんだなぁ……」
腕の中のルイも花火の音に目が覚めたのか、キラキラした瞳でその光の華を見上げていた。
「これいいなぁ、本当、この国はいいなぁ。楽しい事ばっかりだ」
「そう言ってもらえると、ファルス国民としては鼻が高いです」
「あぁ……でもできたらあいつと一緒に見たかったなぁ」
「今回は仕方がないですよ、今頃ナダールさん色々な人に囲まれて引っ張りだこでしょうからね」
「そうだな、あいつは本当にどこに行ってもすぐにその環境に馴染んじまう、本当凄いよ」
グノーは微かに瞳を伏せた。
「あはは、そうなんですねぇ。そうだ、俺、第2騎士団に勤務希望出しますね」
「え? 所属ってこの大会結果で決まるんじゃなかったっけ?」
「そうですよ。でも行きたい場所があるなら希望を出せるし、そこに適正があるって判断されれば希望は通ります。第2・第5は新しい団長なので希望すれば入れるんじゃないかな」
「そっか、そうしたらまた何かと会う機会もありそうだな。俺達まだ越してきて間もないからさ、知り合いも少ないし、いつでも遊びに来てくれよな」
「遊びに行ったら黒の騎士団の人達にも会えますかね?」
「そうだな、たぶんあいつ等もちょこちょこ顔出してくれるんじゃないかな」
キースの顔がぱっと明るくなる。
「俺、まだあの人達に聞きたい事たくさんあるんだ。それにナダールさんの傍は楽しそうだし、絶対遊びに来ますよ!」
笑うキースに「今日はありがとう」と礼を述べると「とんでもないっす」とぺこりと頭を下げられ、いい子だなと思う。
家まで送り届けてもらい、お茶でもと勧めてみたが、キースは友達と遊ぶ約束があると跳ねるように戻って行った。
子供達はベッドの中ですやすやと夢の中、グノーはまだ上がり続ける花火を見上げて、ほぅと息を吐く。
ナダールが騎士団長になり、明日からの生活に何か変化はあるのだろうか?
喧騒は遠いがまだまだ街の賑わいと華やかな明かりは見て取れて、グノーはそれを何とはなしに眺めていた。
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