運命に花束を

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運命に祝福を

話し合い ③

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 僕はイグサルさんを連れて、後にしたはずの教会へと足を運んだ。僕がその教会を離れてから既にずいぶん時間が経っていたはずなのに、そこでユリウス兄さんの叔父さんと、元騎士団長のケインさん、そして僕の父親も話し合いを続けていたらしい。ケインさんに話が通れば良いくらいに思っていた僕にとっては三人がまだ揃っているのならいっそ好都合だ。
 どうやら3人は僕が言った通りに3人が持っているそれぞれの情報を出し合い意見の擦り合わせをしていたらしい。お互いまだ疑心暗鬼な部分も残っていて、その擦り合わせに時間を要し、こんな時間まで議論は続いていたらしい。

「呆れた、まるで時間の無駄だね」

 僕が放った言葉に「こら、カイト!」と慌てたようにイグサルさんが僕の口を塞ぐ。何で彼がそんなに慌てているのか最初は分からなかったのだが、よく考えたら僕の父親はこの国の王子様だし? 目の前に居るのはこの国の現騎士団長と元騎士団長、そんな相手に歯に衣着せぬ言葉を吐き出したものだから、彼は慌ててしまったのだろう。

「もう、イグサルさんは黙ってて! それで、意見の擦り合せの結果はどうなったの?」
「あ? お前にそれを言ってどうする? 子供が口を挟む事じゃない」
「答え合わせだよ、僕はきっとあなた達が知らない情報も持っている、あなた達3人の擦り合わせた結論が合っているのか、合ってないのか、答え合わせをしようって話だよ?」

 僕の父親エリオット王子はますます険しい顔でこちらを見やった。本当に顔はアジェ叔父さんにそっくりなのに、こうやって見ると一目で別人だって分かる。なんでこの人いつもこんな険しい顔なんだろう?

「知っている事があるのなら、まずはお前が話せ。話しはそれからだ」
「それじゃ答え合わせにならないよ」
「子供の戯言に付き合っている暇は無い」

 どうやら大人達は、僕の事は完全に蚊帳の外で仲間に入れてくれる気はないらしい。

「ふぅん、そんな事言うんだ? だったらいいよ、僕は僕で勝手にやるから。まずは薬物の供給源を叩きに行くよ、イグサルさん、行こう」

 僕が踵を返して出て行こうとすると「ちょっと待て!」と慌てたような声がかかった。

「お前はこの薬物の供給源を知っているのか!?」
「うん? まぁねぇ……」

 実際の所はっきりした出所が分かっている訳ではない、けれどあの薬物中毒と思われる男は「薬は山の民から買った」とそう言っていた。そもそも山の民の数は少ない、その事はサクヤさんも分かっていて、ここへ来る前に「調べてみる価値はありそうだ」と言っていたので恐らくその供給源が特定されるのにそう時間はかからないと思うのだ。
 黒の騎士団の仕事はそういった調査諜報が元々の仕事だったはずで、適材適所に人を配するのが本来は一番効率がいいはずなんだよね。僕の護衛なんてホント任務としては見当違いなんだよ。

「その情報、置いていけ」
「嫌だよ、子供の戯言には付き合えないんだろ? だったら僕は僕で勝手にやるよ」
「お前は……」
「そもそもさぁ、あんた達分かってないよね。僕達がいなかったらあなた達は今こうやって顔を合わせる事もしてなくて、本当だったら未だにお互い疑心暗鬼で手を組む事だってできなかったんだろ。お互い悶々と思い悩むだけでこの国の崩壊を待つだけだったんじゃん? しかも、まだそれを続けようとしてる訳だろ? はっきり言って馬鹿みたい。僕はそういう効率の悪いのは嫌いだからね、あんた達が僕を拒むなら僕は僕で好きにやるよ、あんた達に期待なんて最初からしてないから」

 ぐぐぅ……と、大人達がこちらを睨む。3人が3人ともあまり愛想の良くない恐面なので、結構な迫力があるけど別に怖くないよ。僕は幼い頃から大人に囲まれ育ってきてる、自分の周りに居たのは怖い顔の騎士団員達で、だけどそんな顔をしていても全然怖くない人もたくさんいるの知ってるからね。
 そんでもって、今目の前にいる3人が怖い人達じゃないって事をもう僕は知ってしまっているわけで、どれだけ威嚇されたって少しも怖いと思えない。

「……分かった、答え合わせをしようじゃないか」

 最初に声を上げたのは、居丈高な僕の父親。

「王子、そんな子供の言う事を真に受けて……」
「カイトは言っても、もう16だ。俺が過去の暗殺未遂事件に巻き込まれたのも同じ年齢の時だった、大人じゃない、だが、そこまで物の分からない子供でもない」
「一応ファルスの成人は15歳なんだけどな……」
「親にとっては、子供は幾つになっても子供だよ。父上が俺をそう思っていたようにな」

 溜息を吐くように父は言う。

「国王陛下は貴方を蔑ろにしていた訳では……」
「分かっている、だが結果的に俺には何も知らされずお前は動いていた訳で、お前の話を聞く限りでは俺には知らされていない国の機密は幾つもあったじゃないか」
「それは……」

 言い合いをしているのは父と元騎士団長のケインさん。どうやらケインさんは父の父、要は現ランティス国王陛下の命で動いていたという事らしい。
 ファルス国王に連れられてランティスの現状を直視させられる前、父はメリアを毛嫌いし色々な問題から目を逸らしていた。ランティス国王はそんな王子に国の現状を打ち明ける事が出来なかったのか、それとも父の方が聞く耳を持たなかったのか分からないが王子には何も告げず秘密裏に色々な調査をしていたらしい。
 僕はその話に黙って耳を傾ける。

「現在この国で問題になっているのは薬物の蔓延、メリア人の人身売買、そしてメリア人による治安の悪化だ」
「王子、それは一部間違っています、治安の悪化はメリア人の手によるものではありません、その裏で手を引いているのは、一部のランティス人です」
「あぁ、それも分かっている、だが話しは筋道を立ててしなければな」

 そう言って、僕の父親が語ってくれたのはこうだ。
 まずは元騎士団長ケインさんの話。彼は騎士団の激務をこなして体調を崩し、やむなく騎士団長を辞任したのだが、その後、どうにか体調を回復したものの己の不甲斐なさに鬱々としていたのだと言う。
 さすがに歳も歳で騎士団に復帰はできなくて、けれどやり残した仕事は幾らもある事は分かっていた。
 特にケインさんが気にかけていたのは近年増えていた捨て子の問題。子供達は親に捨てられ身寄りもなく、喰うに困って軽犯罪を繰り返す。そんな子供達を放置すればいずれその子供達が成長した未来で新たな治安悪化を招くのは必然で、彼はそんな子供達の保護に余生を費やす事を決めたのだ。
 けれど、そんな事を1人でやろうと思っても限度がある、そして考え付いたのが孤児院の設立だった。騎士団長時代のあらゆるコネを駆使して出来上がったのが、この教会に併設された孤児院だ。彼はここで子供達の面倒を見ながら暮らしていた。
 けれど、子供の保護を進めるにつけ、浮かび上がってきた問題が幾つかあった。それが子供達の薬物汚染と人身売買だ。
 保護した子供達の何割かでその薬物依存の症状が見られたのと、やはり子供達の何割かがメリア国内から攫われてきた、もしくは騙されたメリア人とランティス人との間に生まれた、行き場のない子供達なのだという事が判明したのだ。事態は深刻だと察した彼はそれをそのまま国王陛下に直訴する。

「国王陛下はそんな国の惨状を憂えて、私に調査の依頼と幾人かの人員を与えてくれた。そして、その結果浮かび上がってきたのが裏で暗躍する商人達だったと言う訳だ。最初は薬物と人身売買だけの話だったのだが、調べていくうちに、それは我が国だけの問題ではないのだと言う事も分かってきた……」
「それはもしかしてメリアの……?」
「あぁ、そうだな。今、私の仲間が何人も、そちらに侵入して調査を進めている」
「もしかして、その中の一人がファルスでメリアの王子を襲ったりしませんでしたか?」
「…………何故それを? アレは仕方がなかったんだ、侵入先の仲間に疑われないようにする為には汚れ仕事も時には請け負わなければならない時がある。それが潜入捜査という物で、やらなければ自分の正体がばれてしまうからな」

 イリヤでツキノを襲った犯人のうちの一人が、どうやらランティスの人間だったらしいという話しをナダールおじさんから聞いている。その人はきっと、この元騎士団長が放った密偵だったという事だ。

「あぁ、そういえば報告が上がっていたな、その場にはエリオット王子にそっくりの人物がいた、と。彼も王子の弟君の存在は知っている、あの場にいたのはやはりアジェ王子だったという事か? メリアとアジェ王子は結託しているのかもしれないと、そんな報告も受けているが……」
「結託とか意味が分からないよ、どうして悪い方に受け取るのかな? アジェ叔父さんとは普通に仲良いけど、何かを企んだりとかありえないからね。っていうか、そもそもツキノはメリアの王子として暮らしてないし、メリアをどうこうとも、ランティスをどうこうとも考えてないから!」
「何故君がそれを断言できる?」

 怪訝な表情でケインさんに問われるけど、そんなの当たり前の話だと思ってるの、僕達だけなのかな?

「ツキノは僕の幼馴染で、僕の恋人で、僕のただ一人の番相手だからだよ!」

 驚いたような表情でケインさんが僕と僕の父親を交互に見やるのだが、僕の父親は苦虫を噛み潰したような表情で「俺はまだ認めていない」とぼそりと呟いた。

「別にあなたに認められる必要ないです」
「お前は俺の子だ、親には子の将来に口を出す権利がある」
「そういう傲慢な考え、僕は嫌いだな」

 「ちっ」とひとつ舌打ちを打って、父は黙る。今はこんな事で親子喧嘩をしている場合ではないというのは分かっているのだろう。

「では、アジェ王子もそのツキノというメリアの王子も薬物汚染や人身売買には……」
「関わってる訳ないじゃないですか、常識的に考えてあり得ないよ。無駄な所に労力割くの、ホント時間の無駄だからね」
「こちらだって何も分からない所から調査をしているんだ、何事も疑ってかかるのは当然だろう」

 まぁ、それはそうなんだろうけど、色々な事情が分かっているこちらから見たら、本当に何の火もない所に煙を立てようとしている無駄な作業にしか思えないんだもん。

「とりあえず、僕の周りの人は自分達が平和に暮らせたらそれでいい人達ばっかりだから、そういう陰謀? みたいなのの片棒担ぐような人、誰もいないから!」
「それはファルスに暮らすナダール・デルクマンもか?」
「……はぁ!?」

 あまりの衝撃に完全に言葉を失った。それこそ「陰謀」なんて言葉から一番かけ離れた所で暮らしているのがナダールおじさんで、そんな事言われるの、本当に予想外なんだけど!

「まさかおじさんも疑われているの?」
「それはそうだろう、彼は祖国を捨てた人間だぞ。しかも妻はメリア人、メリアの元第二王子だ。これほど疑わしい人間はそういないだろう」
「兄はそんな事をする人間ではありません」
「だが、お前だって多少疑ってはいたのだろう?」

 現騎士団長のリクさんが、ケインさんの言葉に厳しい表情で黙り込んだ。
 え? 待って、そうなの? なんで?! ナダールおじさんにそんな疑惑みたいなもの持つ意味がさっぱり分からないんだけど!!
 そもそもナダールおじさんは、もしこのランティスを巡る陰謀に弟のリク騎士団長が関わっているようだったら、自分の手で弟を討たなければいけないと悲痛な訴えを僕に伝えてきたくらい、ランティスの現状を憂えて考えてくれているのに、そんな人を疑うとか本当にどうかしているよ!

「ないよ! それ、絶対あり得ないからっ!!」

 思わず叫んだ僕に父は呆れたように、ケインさんは哀れむように、リクさん困惑したように三者三様の瞳を向ける。

「それはお前の主観であって、事実かどうかなんて分かりはしない」
「だっておかしいだろ! ナダールおじさんがそんな事をして一体なんの得があるっていうのさ! おじさんに何のメリットもないだろう?!」
「メリアとランティスの確執に便乗し国を乗っ取り、最終的にはファルスの一人勝ち……という話もなくはないだろう?」

 え? ちょっと待って、まるで理解が追いつかないんだけど……

「兄貴の嫁がメリアの元王子だっていうのが、そもそものネックなんだよ。兄貴はランティスを捨てファルスに渡り、ファルスでメリア人を優遇するような政策を打ち上げ、それをファルス国王も容認している。それが何故なのか? と考えた時、メリアにはファルス国王の娘が嫁いでいる、既にファルスとメリアは兄弟国のようなものだ、そんな二国が結託してランティスを陥れようとしている、そんな話もない話ではないだろう? 兄貴は自分の嫁を蔑ろにするランティス人を嫌っている、ランティスに対する恨みみたいなものを抱いていないとは言い切れない」
「そんな馬鹿な話ないよ! ナダールおじさんはランティスを嫌っても怨んでもないよ、おじさんはいつでも皆が平和に生活できる事だけを考えてる! そんなの絶対あり得ない!!」
「人の心の内なんて、端から見ているだけでは分からないものだ」

 疑心暗鬼の彼等には誰が信じられる人間なのかももう既に分からなくなっているのだ。それ程までにランティスは病んでいるのだと、そう思わずにはいられない。

「この違法薬物の事を考えた時、一番に頭に浮かんだのが、この国では有名だった薬物学者のカイル・リングスだった」
「え……」
「彼もまたランティスを捨て姿を消していたのだが、今になって姿を現した先がファルス王国だ。彼は現在ファルス王国で王室専属の薬剤師として雇われていると聞いている」
「確かに、それはそうだけど……それはたぶん給料が良かったのと、国王様が父さんのやりたい研究をやらせてくれたからで……」
「だがその研究の傍らで、彼が王の密命で違法薬物の製造をしているとしたら? 彼は薬の事となると理性が飛ぶ人間だと聞いている。それこそランティスで暮らしていた頃から違法な薬物を平気で扱っていたというのも有名な話だ」

 え……母さん、それホント? その辺僕、母さんの事、全く擁護できないんだけど……
 僕の母親カイル・リングスはケイン団長が言う通りの変人である事は間違いのない事実なので僕はそれを否定出来ない。

「そしてナダール・デルクマンとカイル・リングスは幼馴染でもあると聞いている。もし、何かしらの策略のために彼がカイル・リングスをファルスへと呼び寄せたのだとしたら……?」
「えぇ……それはないと思うよ? だって、ナダールおじさん、うちの父さんの事、嫌ってはなかったと思うけど、顔を合わせるといつも頭抱えてお説教ばっかりしてたもん。父さんいつもそんな説教は右から左で、ナダールおじさんいつも困ってた……それにさ、父さんがファルスへ渡ったのっておじさんに呼ばれたからじゃないよ、この人から逃げて僕を産む為だよ」

 僕が父親を指差してそんな事を言うと、彼はまたしても苦虫を噛み潰した表情で「親をこの人呼ばわりするんじゃない、それに人を指差すな」と、その手を払い除けられた。

「王子から逃げた……?」
「そうだよ、束縛きつ過ぎて嫌気がさして逃げたんだって、父さんそう言ってたよ」

 哀れむようにケインさんとリクさんが僕の父親を見やる。そんな視線に苛立ったのだろう、父は「そんな事はどうでもいいだろう!」と机を叩いた。

「そもそも先生は、自分で違法薬物を扱うのは平気でも、誰かを苦しめる為にそれを使うような人間じゃない。何か弱味を握られ脅されたとか、そんな事があったら別だがな。それに俺はファルス王国を疑うのも今となっては疑問を持っている。そもそも我が国をこのまま潰そうと思うのなら、ファルス国王がわざわざ俺に我が国の惨状を見せる必要がない」
「まぁ、そのようですよね」

 ケイン元騎士団長はここで初めてその話を聞いたのだろう、腕を組んで考え込むようにひとつ頷いた。
 ケイン団長の差し向けた内偵は他にも何人もメリア国内に潜り込んでいるらしい。その話しは、僕がナダールおじさんから聞いていた内容とも合致して、メルクードでツキノを襲った人の言っていた言葉は間違っていなかったのだという裏付けが取れた。

「今となってはもうメリア国内だけではなく、我が国ランティス内にも放たれた内偵が幾人もいる状態だがな……」

 ケイン元騎士団長は溜息を吐く。

「メリアに病巣を求めると、そのことごとくが我が国に返ってくる、こんな事は予想外だった」
「結局悪い奴はランティスにいるって事?」
「それを君は知っているのだろう? 薬物の供給源を君は知っていると言ったではないか」

 あ、しまったやぶ蛇。まだ、そこははっきりランティスの人間かどうかまで分かってないんだよな。というか、そもそも山の民ってどこの国にもいるしなぁ……

「どれだけ調査を進めても突き止める事が出来なかった供給源を、こんなにあっさり見付け出されては、こちらとしても面目丸つぶれだ」

 瞳を細めて言うケインさん、これ絶対疑われてるね。あはは、はったりがバレるの時間の問題かも。

「まぁ、薬物の方は近々どうにかなると思う、それよりも今は人身売買の方だよ。犯人にツキノが攫われてる、これは由々しき事態だよ!」
「……ツキノ? それはもしかしてメリア国王の息子の事なのか?」
「そうだよ、僕の恋人!」
「なんでメリアの王子が我が国に……?」
「僕の事、心配して付いて来たに決まってる。だけどうっかり人攫いに攫われて、僕は気が気じゃないんだよ」
「王子が人攫いに……? 人身売買で売られているのはどちらかといえば愛玩用の奴隷で、見目麗しいオメガが狙われやすいと聞いている……いや、肉体労働用に売られる奴隷もいる事はいると聞いた事があるが、元々違法な取り引きだ、表立って使えない奴隷に需要はないとも聞いていたのだがな」
「それだったらツキノはばっちり需要を満たしているよ、なんせツキノは美人で可愛い! 気が強いのだけは玉に傷だけど、色好みの人間だったら放っておかないくらいにツキノは美人だよ」

 何故か皆が無言でこちらを見やる。何? なんで? 僕何も変な事言ってないはずだけど?!

「メリアの王子はアルファだと聞いているが……?」
「世の中には、あばたもえくぼという言葉もあるしな」
「確かに兄嫁は綺麗な顔立ちをしていた気がしなくもないが、あんな感じか?」

 と、三様の反応を返して寄越す。そうか、そう言えば現騎士団長と元騎士団長はツキノの容姿を知らないのだ。そして元騎士団長はツキノの性別、両性具有で今の見た目は女性寄りだという事も知らない訳だ。
 一方で僕の父親は、一度はツキノに会っているのにこの言い方……あばたもえくぼって酷くない? ツキノは世界一可愛いくて美人だからねっ!

「だが、まぁ、そちらに関しては、その人攫いの黒幕のもとには既にこちらの手の物が入り込んでいる、その君の恋人を助け出すのにそう時間はかからないと思うよ」
「え? 本当に!?」
「あぁ、まだ報告は上がってきていないが、近日中にはうちの内偵から報告が上がってくるはずだ。売りに出されるのならば、その日取りもな」

 まさかの急展開。黒の騎士団からの報告はまだないし、ツキノの行方は分からないまま途方に暮れていたのに、まさかこんなにあっさり情報が入るとは思わなかったよ。

「その情報、本当に間違っていたりはしないのか……?」
「今までに送られてきた情報にも、これまで間違いはありませんでしたよ、王子。現在現場に潜り込んでいるのが、陛下に与えられた兵ではなく、うちのうだつの上がらない弟なんで間違いありません。うだつは上がらなくても、あいつは決して私を裏切ったりはしませんから」

 「そうか」と嘆息するように父は息を吐いた。

「その黒幕って、やっぱりグライズ公爵だったの?」
「あぁ、どうやら間違いないらしい。やはり敵は身の内だ、見合いの件も含め、近日中には一波乱ありそうだな」

 父は疲れたような顔で、頷き続ける。

「で、こっちは全て話した、答え合わせはどうなんだ? ついでに薬物の出所は?」
「答え合わせは今したよね、僕の知ってる情報もあらかた出したよ。あと、薬物の出所は『山の民』だよ」

 「山の民……」そう呟いて三人は黙りこむ。

「山の民と言ってもたくさんいる、何処の国の者だ?」
「さすがにそこまで僕には分からないよ」

 僕の言葉に三人が三様に溜息を吐いた。情報としては足りないって事だろうけど、何も情報がないよりマシだろう!

「だが、山の民か……山の民と言えばファルスだな」
「そうですね、ファルスの国王は山の民を重用していると聞きますし」

 あれ? それ黒の騎士団の事言ってる? 黒の騎士団と山の民は全然違うよ!

「何処に住んでる人とかまではまだはっきりしないけど、今調査中だし近日中には分かると思う。その情報は僕にしか知り得ない情報だから僕も皆の仲間に加えてもらうよ。僕はもうただ待っているだけなんて真っ平だから!」

 三人の視線が僕に集まり、父が「それがどういう意味かお前は分かっているのか?」と僕に問う。

「意味って、なに?」
「俺達のこの中に子供であるお前が加わるというのならそれ相応の理由がいる。それは即ちお前が俺達に口出しが出来る立場に居ると示さなければいけない訳で、現在お前がこの場に加わっているのはお前が俺の息子だからな訳なんだが?」

 ええぇ、別に僕はただの情報提供者って立場でよくない? 駄目なの?

「お前、俺達がどういう立場の人間か本当に理解しているのか?」

 僕の態度に父は苛立ったように言うのだが、この国の王子様と王国騎士団長と元王国騎士団長だろ、そのくらい分かってる。

「お前は本当にファルスでのびのびと成長しすぎだな、普通は俺達くらいの立場の人間はお前程度の子供の意見なんて聞く耳なんぞ持たないものなんだぞ。それでも俺達がお前の話を聞いているのはお前が俺の息子だからだ、その意味ちゃんと分かっているか?」
「別にそんなのどうでも……」
「どうでも良くない! これは俺達の沽券にもかかわる問題だからな、俺達がその辺の子供の意見に振り回されているなんて、そんな事は許されない。お前はお前でちゃんと立場を弁える必要がある」

 父の言葉に僕は憮然と言葉を失くす。

「とりあえず、一度正式にお前を父上と母上に会わせるからな」
「はぁ!?」

 父上と母上って、それ国王陛下と王妃様じゃん、嫌だよ僕! なんでだよっ!

「これは決定事項だから、逃げるなよ」

 父はそれだけを僕に告げると今回の話し合いはその場でお開きとなった。
 いやいやいや、でも待ってよ、こんなの僕望んでない! 面倒ごと増えただけじゃん! 僕は早くツキノをこの手に取り戻したいだけなのに!!

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