君じゃない?!~繰り返し断罪される私はもう貴族位を捨てるから~

サイケ ミカ

文字の大きさ
23 / 51
断罪編

介錯人という参謀側近

しおりを挟む
 イグザムがテラスから飛び出した後。

 直ぐ様ウイルザードも、エリオットと共にイグザムの後を追おうとした。
 しかし眼下に広がる森林に視界を阻まれ、飛び出す事は叶わなかった。

「殿下!!あ、あれは一体何でしょうか!?」

 仕方なく佇むウイルザードを呼びながら、エリオットがエンルーダ領の上空を俄に覆い始めた、見慣れぬ『雲』を指で示す。

「な、あ、!!」

 見る間に上空を覆い尽くす規模で、『光輝く雲』が地上から吹き上がり広がる。
 其の雲が、まるで大地から伸び逝く大樹の様にもみえる光景だ。

 ウイルザードとエリオットは突然現れた物体に、テラスに縫いつ行けられた如く空を見つめた。

「核石雲ですぞ。初めて見られたでしょうな。先代領主が戦で死した時は、まだ殿下とてお生まれになっておらんのですから。」

「核石雲、、あれが。」

 2人の後ろからアースロがテラスに出て来、其の雲を悲し気に見上げながら語る。
 気が付けば先程部屋に入って来た参謀側近も、テラスに出ると胸に片手を当てた。

 エンルーダ式の敬礼のポーズに、ウイルザードも同じポーズをする。

「領主の核石とは、、?」

 眼下に広がる森の先。
 エンルーダ領の城下から、幾筋もの火の手が見え始める中、4人が並んで雲を見る形でウイルザードがアースロに問う。

「厳密にいえば歴代領主の核石に刻まれし記憶や情報を、隠匿した果てに立ち上がる命の雲というのでしょうな。」

 ウイルザードを見る事無くアースロが答えた言葉は、暗に自分の兄が戦士したのだと示す。

 辺境とはいえ貴族の系譜を頭に入れているウイルザードが、拳を握りしめた。其のウイルザードの姿から察したエリオットが思わずアースロに聞き返す。

「戦場で上がれば、、領主が落ちたという事ですか、、、」

 けれどもエリオットの言葉に返事をするは、不躾な視線を始終ウイルザードに向けていたアースロの参謀側近だった。

「本来ならば墓守りの儀式で逝かせるが筋。しかし、戦で儀式は送れんでしょ。其の際はエンルーダ家の縁者が介錯を行い、あのように核石を消滅させるしかない。」

 冷ややかに言い返すと、彼は耳に付けた魔道通信で報告を受け始めた。
 まるで二度と会話をしたくないとも取れる態度に、アースロが続きを請け負う。

「ですから当主になる運命を背負う者は、幼少期から参謀側近を付けるのですよ。前線に相対して戦い、最期も介錯を委ねる故に。」

「それは、、」

 ウイルザードがアースロの言葉から、参謀側近を見た。きっとアースロの介錯人は此の人物なのだろうという様に。
 するとアースロが目を細めてウイルザードを揶揄する。

「まあ、殿下には其の従者になりますかな?」

「「・・・・」」

 領主となったアースロ程になれば、ウイルザードとエリオットが急拵えの従者関係だと見抜いているはず。2人はアースロ―に返す言葉無く、ただ黙るしか無い。

 テラスから見える火の手は、ますます延焼範囲を広げていく。このままではエンルーダ全体が火の海に包まれる勢い。

 ウイルザードとエリオットが、緊張した面持ちでテラスから階下を見ていると、開け放たれた応接室の入口に人影が立った。

「お館様、メーラにございます。」

「入れ。」

 そうして現れた人物は意外にも女性で、落ち着いた物腰。
 けれどもウイルザードは一目見た瞬間に相手を理解した。アースロの後妻。

 とはいえ、イグザム達の元乳母であり、タニアの実母だとまでは思いつかない。

「お客人の前にて失礼致します。緊急時でございます故、挨拶は、、」

「よい。続けられよ。」

 皇族を前に正式な礼儀を、今は取れない事を詫びる相手に、ウイルザードは気不味気な表情を見せるも、片手を上げて許しの言葉を言い渡した。

 肝が据わった女性。

 そんな印象をウイルザードは持った。そして決して華がある雰囲気では無いが、人好きする顔立ちを何処かで見たがする。
 本来はタニアに似ていると思うのだろうが、ウイルザードの記憶にタニアの面影は薄い。

 それも其のはず。そもそもウイルザード自身は、パメラの進言を酔った様に鵜呑みにし、タニア・エンルーダとは学園で接点など無かったのだから。


 アースロはウイルザード達を室内に戻る様に促しながら、入って来たメーラに言葉少なく単語を紡ぐ。

「メーラ、結界を頼む。後で。出る。」

「、、かしこまりました。、、御武運を。失礼致しました。」

 そうすればメーラも短く答えを返し、踵を返す。

 後妻とはいえ、乳母というなれば完全に政略的婚姻で、夫婦には到底見えないとウイルザードとエリオットは、遣り取りから感じた。
 
 其の証拠に、夫が前線に出るといっているにも関わらず、メーラの表情は驚くほど凪いでいたのだ。

「アミカス、酋長達はどうだ。」

 メーラが応接室から退出をすると、アースロが険しい目つきで参謀側近の名を呼んだ。

「間もなく狼煙が上がると。」
 
 耳の魔道通信に片手を当てて聞いていたアミカスがアースロに頷いて答える。

 奇襲を掛けられ正に領土が落ち逝かんとする割には、緊急招聘をするわけでも無く、作戦会議をする姿も無い。
 戦闘中というには、背景に火の手が上がる光景を除くならば、考えられない程冷静な雰囲気がある。

「すまんが伴侶殿に会ってこい。」

 が、アースロがアミカスに放った台詞に自体は深刻だとウイルザードは悟った。

「は?今更ですな。出られますか。」

 更に呆気にとられるウイルザード達に、アースロが次に下した言葉が、なけなしの騎士道心を折ってきた。

「殿下、皇帝隊を城から出さない様に願いたい、勿論貴殿方もだ。」

 戦力外通告。

 自分たちを非戦闘員扱いをしてきたアースロに、ウイルザードどころか、思わずエリオットでさえ叫ぶ。

「いや、搬送をする隊が墓守りの建屋に!彼等も戦闘中です!!隊の陣形を確認しなければなりません!ですよね殿下!!」

「残念だが其方の隊は無理でしょう?あの雲が上がったのならば、もう全滅していると見ていいんですよ。」

 アミカスが眉間に皺をよせつつも、わざとらしい笑顔でエリオットに宣言した。

「そんな、分からないでしょう!!」

「次の段階に移ったという事です!従者殿。」

 アースロやアミカスも、普段から幾筋もの戦闘展開をしてきているが故に、決断が速いだけなのだと聞かされた言葉でウイルザードは理解した。
 
 そこで敢えてアースロに確認をする。

「、、エンルーダ当主、何をされるつもりか。」

 静かに問うウイルザードに、真意が読めない無表情な台詞を、アースロが寄越した。

「魔獣戦に入るだけですな。」

 反面、言い放たれた言葉にウイルザードが絶句する。

「は?本気か?」

 応接室に腰を据えていたウイルザードが、両の手でテーブルを激しく一撃した。
 其の瞬間アミカスがウイルザードが叩いた両手の真ん中を拳で撃ち抜き、激情を打ち返す!

「じゃあ、貴方方は何を此の地に呼び込んだか!!見ろ、もう奇襲などの話では無い。」

 アミカスが振り返りテラスの向こうで赤く染まるエンルーダの空を示した。

「く。」

「殿下。」

『ポーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーンンンンン』

 直後、エンルーダ領全域に高く響く狼煙が幾つも打ちあがる!!

 其の白い煙を窓越しに見ながらアースロがウイルザードに諭す様に、静かに告げた。

「これより自領戦で、魔獣戦を展開。」

「や、そ、それはっ!!」

 事態を呑み込み、顔面を蒼白にしたエリオットが否を返すが、

「我が地が焼土と化した今、最善の策を打つだけ。」
 
 アースロに続いてアミカスが、即座にエリオットの言葉を退ける。

「城はこれから我が伴侶が結界の切り替えを行います故、我々は失礼する。」

 徐に2人は立ち上がると、応接室の外へと歩みを進めた。
 もう、ウイルザードとエリオットなぞ眼中に入れもしない素振りだ。それでもウイルザードが立ち上がり、2人に詰め寄った。

「じゃあ、こんな時に何処へいかれるのか!!」

 もう最初から最後まで招かざる客扱いは想定済。其の証拠に、もとより茶の一つも出されていないのだ。しかもウイルザードが王都シャルドーネから連れて来た皇帝部隊も、意味が無いと捨て置かれている。

 墓守りの建屋に差し向けた部隊の、生存者確認さえ必要なしと判断された。

「知れた事。後に戦闘へ。切り替えになれば城から出る事は叶いませぬから。」

 ならばもう一つ食い下がらねばならない事がウイルザードにはある!!

「待ってくれ!!本当に貴殿の令嬢は死んだのか!!」

 ウイルザードは取り繕うのも辞めて、アースロの背中に向かって叫んだ!!

「殿下!!やめてください。」

 エリオットがウイルザードの言葉を止めようとするのを搔い潜って、アースロの肩をウイルザードが掴む。
 例え皇族であっても、年長者への礼着に反する。

 其の証拠に、肩に掛けたウイル―ザードの手をアースロは無下に払いのけ、さっきまでの冷静さを忘れたかの形相で、睨んできた。

「戯言を。殿下、血迷い過ぎでは?」

「!!痣だ、薔薇の痣が付いてなかったか?!」

「そもそも痣がどうされた!!」

 それでもウイルザードは引かない。落とされた絶対零度の声色に気圧されつつも、更に重ね聞く。

「薔薇の痣を持つ乙女が、私の想い人なのだ。」

 パメラだと思って抱いた女の足付け根にあった痣。ウイルザードは興奮をしてか、顔を赤らめ言い切るが、エリオットは

「それが婚約者の令嬢なのではないですか?!!意味が分かりませんよ殿下!!やめましょう!」

 パメラ嬢の恥ずかしい秘密だと考えてウイルザードを椅子に抑え込んだ。が、アースロの言葉が更にウイルザードへと投げられた。

「じゃあ、間違われて聖紋など禁忌を刻まれましたか。ならば殿下は聖女と契りを交わされたのでしょうな。それはもうこの世の者では無いという事でしょう。」




しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

彼女にも愛する人がいた

まるまる⭐️
恋愛
既に冷たくなった王妃を見つけたのは、彼女に食事を運んで来た侍女だった。 「宮廷医の見立てでは、王妃様の死因は餓死。然も彼が言うには、王妃様は亡くなってから既に2、3日は経過しているだろうとの事でした」 そう宰相から報告を受けた俺は、自分の耳を疑った。 餓死だと? この王宮で?  彼女は俺の従兄妹で隣国ジルハイムの王女だ。 俺の背中を嫌な汗が流れた。 では、亡くなってから今日まで、彼女がいない事に誰も気付きもしなかったと言うのか…? そんな馬鹿な…。信じられなかった。 だがそんな俺を他所に宰相は更に告げる。 「亡くなった王妃様は陛下の子を懐妊されておりました」と…。 彼女がこの国へ嫁いで来て2年。漸く子が出来た事をこんな形で知るなんて…。 俺はその報告に愕然とした。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...