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28話 小さき者の反乱①

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「待って、健太」

帰り支度をし、席を立とうとする俺にチハルが声をかけてきた。その顔は、どこか思い詰めたような、僅かに眉を寄せている。

不思議に思いチハルの肩に触れようとした俺の手をグイッと掴まれた。

「え、チハル?」

「ちょっと話があるんだけど2人で話せない?」

いつもと様子の違うチハルに戸惑うも、有無を言わさない雰囲気に反射的に返事を返す。

「わかった。けどその前に、遅れるって連絡しなきゃ。」

「ダメ!」

「っおわ、、っと。危ないよチハル!」

集まりに遅れるとペナルティが待っているから、貴志先輩か生徒会長に連絡を入れようとスマホを出したらチハルに叩き落とされそうになって慌てて掴み直した。

「アイツらに連絡しないで。と言うか、おかしいよ健太。そんな剃り込みまでされちゃってるの?」

「剃り込みって、、そんな良い方ないだろ?」

「いや、剃り込まれてるね!ここ最近ずっとアイツらの言いなりじゃない・・・。っとりあえず、お願いだから連絡はしないでよ。」

喧嘩腰だったチハルは、気持ちを落ち着かせるようにフーっと一息つき、真っ直ぐと俺を見た。

チハルの透き通った綺麗な瞳に違和感を覚える。

ーーこの大きくて何の汚れもない純粋な瞳を視野に入れたのはいつ振りだろうかーー

前までの俺なら何も思わなかったはずだろう。

だってそれが普通だったのだから。

でも確かに違和感を、、チハルは自分とは違う人種だと感じるのだ。

いや、違う

ついこの間まで、自分もこんな眼をしていたはずだ、、

ということは、

・・変わったのは俺?



いつの間にか、自分でも気づかぬうちに狡猾で冷酷で支配的な眼に囚われ慣らされていたのだ。

じわりじわりと悪魔に侵食されていた。

この数ヶ月俺を取り囲んできた人種どもの

ーー狂気を含む瞳、それこそが普通なのだとーー


そこまで考え我に返った俺は、押し寄せる悪寒にブルッと背筋を震わせた。

先の見えない自分の未来が暗闇に包まれる感覚に陥る。

大雅という狂気的な悪魔に、再度囚われることになった己の不運を哀れだと嘆く。

けど、まだまだこんなものは序章にすぎず、囚われた鎖がより強固になり己が更なる奈落の底に落とされるとはこの時はまだ気づいていなかった。

いつもそう、気づいた時にはもう遅いのだ。

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