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鐘の音
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遠くで鐘の音が鳴っているのが聞こえた。
「あ、この鐘って王都全域で鳴っているって聞きました」
「そうだ、時間を知らせる鐘だ、この鐘は商売を終えるという最終の鐘だろう。休息がおろそかにならぬよう、鐘で皆に色々と知らせているのだ」
薫はふむふむと頷きながら、窓の外を見て微笑んだ。
慈愛に満ちた笑顔で、城下町に住む人々を想像しているのかもしれない。
「そういえば僕、ここが60階だって気づかずに過ごしていたんですよ!」
いきなりそんなことを言い出して、驚いた我は思わず目を見開いた。
「ん?」
「最初、鳥居をくぐってから、ここまで、ずっと平行移動だと思っていたんですよ。この建物がとても高いというのは入る前に見たから知っていたんですけどね」
ほう……と興味を持ちながら長椅子へ移動し、薫もそこへ招く。
「で、昨日なんですけどね、お勉強の合間に気晴らしに窓の外を見たんです。そうしたらこの景色ですよ!」
薫は窓のほうを指さしながら興奮気味に言った。
そこからは庭しか見えないが、薫はその先にある城下町の事を伝えたいのだろう。
「まあ、上下の移動は空間魔法を使うから、そう言われてみたらなにも言われず案内されれば気づかぬかもしれぬな」
「そうですよ! 気づきませんって、でも本当に魔法なんてあるんですね。僕のいた世界ではそれはお話の中だけのことで」
「なんだって? ではずっと魔力を放出してないというのか?」
「その、魔力ですけど、本当にありますか?僕にそんなものが」
薫の顔をじっと見て、手を取った。
じんわりと常に辺りを照らすように滲み出る優しい光、触れば心地よく流れ出す魔力。
間違いなく歴代でも随一と言われる自分の魔力量とうまく拮抗している。
「薫、そなたの魔力量はかなり多いぞ。それはもう溢れるぐらいだ。というか溢れておるな…… 知らず知らず少しずつ滲み出るようにして放出してきたのであろう。……ニホンではどうだったのだ?こんな調子で普通に暮らせるとは思えぬが…… 日常生活は相当つらかったのでは?」
「……僕は少しでも無理をすると倒れたり熱を出したりするので、学校でも特別扱いで、体育の授業などは見学でした。夏などは学校に行き着く前に倒れ運ばれた日もあります。でも不思議な事に病院でいくら検査しても、どこも異常無しと言われてました。今思えば、原因は魔力だったと思われるので、それはあちらの世界の検査でわかるわけがないんです。仕方ない事だったとは思うんですが……本当に苦しくて……怠けてるだけと思われてるんじゃないかって」
「薫、大丈夫だ、そなたのことをそんな風に思う者がいたとすれば、それはむしろそやつの心に問題があるのだ。弱って動けぬ者をさらに追い詰める性質の者がたまにいる……だが、これで原因がわかったであろう。そなたも私と同じで多すぎる魔力に押しつぶされようとしていたのだよ」
薫は静かに頷いた。
「はい、色々と今までことの答え合わせができています」
困ったように笑う顔を見ていると、抱きしめたくなった。
そっと抱きしめてみると、抵抗せずにこちらに身を預けてくれている。
「薫、今宵はずっとそばにいてくれるな?」
薫はそっと頷いて顔を上げじっと見つめてきた。
「僕は不思議なんです。 突然こっちに来てすごく不安だったんですけど。…… 家族のことが心配だったし心残りががたくさんあって押しつぶされそうでした。でも、蘭紗様のいるこの世界に来て、僕なんとなく分かってきたことがあります」
「どんなことをだろうか?」
「今まで生きてきた元の世界は僕には合っていませんでした。努力しようとしても体力が無さ過ぎて叶わないことが多すぎて、つまり、やろうとしてもできないことが多かったんです。でもそれはあなたに会ったとたんうまくいくようになりました。体も本当に楽なんです。蘭紗様のいるこの世界にいるだけで……僕はようやく息ができるようになったように感じます」
花を香りがする薫の髪の毛をそっと梳いた。
少し青味がかった美しい黒髪だ。
こちらにも黒髪の者はいくらでもいるが、これほどの艶があるものは少ない。
あちらの世界でも良いくらしをしていたことがわかる。
そっと額に口づけて綺麗な黒い瞳をまっすぐ見つめた。
「薫、私も……そなたがいるこの世界が愛おしい。苦しいだけであった全てに今は歓迎されているようだ。そよぐ風も仰ぎ見る空も……そなたが来てから優しく我を包んでくれているように感じる」
真っ赤に染まった薫の頬をそっと撫でてみると、くすぐったそうにクスリと笑った。
「蘭紗様、詩人すぎますよ……でも嬉しい」
「急にこの世界に渡ったのだ……不安がすべて無くなったわけではあるまいが、我と共にあることで無くなってゆくとよいな」
恥ずかしそうに目を逸らし、小さく頷く薫の顔を見つめ、顎に手をやり上を向かせた。
そして、柔らかい唇に口付けた。
「あ、この鐘って王都全域で鳴っているって聞きました」
「そうだ、時間を知らせる鐘だ、この鐘は商売を終えるという最終の鐘だろう。休息がおろそかにならぬよう、鐘で皆に色々と知らせているのだ」
薫はふむふむと頷きながら、窓の外を見て微笑んだ。
慈愛に満ちた笑顔で、城下町に住む人々を想像しているのかもしれない。
「そういえば僕、ここが60階だって気づかずに過ごしていたんですよ!」
いきなりそんなことを言い出して、驚いた我は思わず目を見開いた。
「ん?」
「最初、鳥居をくぐってから、ここまで、ずっと平行移動だと思っていたんですよ。この建物がとても高いというのは入る前に見たから知っていたんですけどね」
ほう……と興味を持ちながら長椅子へ移動し、薫もそこへ招く。
「で、昨日なんですけどね、お勉強の合間に気晴らしに窓の外を見たんです。そうしたらこの景色ですよ!」
薫は窓のほうを指さしながら興奮気味に言った。
そこからは庭しか見えないが、薫はその先にある城下町の事を伝えたいのだろう。
「まあ、上下の移動は空間魔法を使うから、そう言われてみたらなにも言われず案内されれば気づかぬかもしれぬな」
「そうですよ! 気づきませんって、でも本当に魔法なんてあるんですね。僕のいた世界ではそれはお話の中だけのことで」
「なんだって? ではずっと魔力を放出してないというのか?」
「その、魔力ですけど、本当にありますか?僕にそんなものが」
薫の顔をじっと見て、手を取った。
じんわりと常に辺りを照らすように滲み出る優しい光、触れば心地よく流れ出す魔力。
間違いなく歴代でも随一と言われる自分の魔力量とうまく拮抗している。
「薫、そなたの魔力量はかなり多いぞ。それはもう溢れるぐらいだ。というか溢れておるな…… 知らず知らず少しずつ滲み出るようにして放出してきたのであろう。……ニホンではどうだったのだ?こんな調子で普通に暮らせるとは思えぬが…… 日常生活は相当つらかったのでは?」
「……僕は少しでも無理をすると倒れたり熱を出したりするので、学校でも特別扱いで、体育の授業などは見学でした。夏などは学校に行き着く前に倒れ運ばれた日もあります。でも不思議な事に病院でいくら検査しても、どこも異常無しと言われてました。今思えば、原因は魔力だったと思われるので、それはあちらの世界の検査でわかるわけがないんです。仕方ない事だったとは思うんですが……本当に苦しくて……怠けてるだけと思われてるんじゃないかって」
「薫、大丈夫だ、そなたのことをそんな風に思う者がいたとすれば、それはむしろそやつの心に問題があるのだ。弱って動けぬ者をさらに追い詰める性質の者がたまにいる……だが、これで原因がわかったであろう。そなたも私と同じで多すぎる魔力に押しつぶされようとしていたのだよ」
薫は静かに頷いた。
「はい、色々と今までことの答え合わせができています」
困ったように笑う顔を見ていると、抱きしめたくなった。
そっと抱きしめてみると、抵抗せずにこちらに身を預けてくれている。
「薫、今宵はずっとそばにいてくれるな?」
薫はそっと頷いて顔を上げじっと見つめてきた。
「僕は不思議なんです。 突然こっちに来てすごく不安だったんですけど。…… 家族のことが心配だったし心残りががたくさんあって押しつぶされそうでした。でも、蘭紗様のいるこの世界に来て、僕なんとなく分かってきたことがあります」
「どんなことをだろうか?」
「今まで生きてきた元の世界は僕には合っていませんでした。努力しようとしても体力が無さ過ぎて叶わないことが多すぎて、つまり、やろうとしてもできないことが多かったんです。でもそれはあなたに会ったとたんうまくいくようになりました。体も本当に楽なんです。蘭紗様のいるこの世界にいるだけで……僕はようやく息ができるようになったように感じます」
花を香りがする薫の髪の毛をそっと梳いた。
少し青味がかった美しい黒髪だ。
こちらにも黒髪の者はいくらでもいるが、これほどの艶があるものは少ない。
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「薫、私も……そなたがいるこの世界が愛おしい。苦しいだけであった全てに今は歓迎されているようだ。そよぐ風も仰ぎ見る空も……そなたが来てから優しく我を包んでくれているように感じる」
真っ赤に染まった薫の頬をそっと撫でてみると、くすぐったそうにクスリと笑った。
「蘭紗様、詩人すぎますよ……でも嬉しい」
「急にこの世界に渡ったのだ……不安がすべて無くなったわけではあるまいが、我と共にあることで無くなってゆくとよいな」
恥ずかしそうに目を逸らし、小さく頷く薫の顔を見つめ、顎に手をやり上を向かせた。
そして、柔らかい唇に口付けた。
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