狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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篠突く雨1 カジャル視点

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 夜半過ぎから雨になった。
強めに降る雨が全身を容赦なく濡らし着物は重くなる。
踏みしめる土がぬかるんで、足を取られそうになって思わず舌打ちをした。

……クソったれが!
グズグスせずにもっと早く出れば良かったんだ。

振り返って仰ぎ見る城はだいぶ遠くなって来たが、ここがまだ城の敷地内だということはわかっている。
研究所を出てからまだ一時間も経たない。

足元は危ういが早めにこの森を抜け街に出ないと厄介なことになる。

俺は足を早めた。

あいつの部屋になんて行かなければ。

この国に骨を埋めるんだと言って祖国を出てやって来た王子、涼鱗。
あいつの話を聞いてしまったから。
あいつが抱きしめてくるから……決心が鈍りそうになったんだ。
あいつに会いにさえ行かなければ、もっと早く出てこれたのに。

今も、涼鱗の悲しげでつらそうで、だけど少し幸せを孕んだような独特の眼差しを思い出すと、足が止まりそうになる。

何も言わずにただ抱きしめて、そして眠らせてくれた。
ずっと涙をチロチロと舌で掬い背中をさすってくれた。
俺の傷ついた手をこすり、血を通わせようとしてくれた。

あいつの体温はいつも少し低い。
種族の関係もあるのだろうが。
だが、抱き合うとそれが心地よかった。

俺は蘭紗様の元に伴侶として戻りたかった。
あいつに話を聞けば、あの薫とかいう男が偽物だと確証がつかめるかもと思っていたのだ。

でも、話を聞けば聞くほど、本物のお嫁様だと確信せざるを得なかった。
だが、それでも……納得なんてできない。

俺はただ、蘭紗様の元にいたかったんだ。
……でもそれが叶わないのなら、俺はもうここにいる必要がないということだ。

ガォ……グルルル……

ビクッとして辺りを見渡す。
獣の唸り声のようだったが。
俺は腰にある刀に手をやり腰を低くして様子を伺ったが、近くに何かがいる気配はない。

クソが!
俺はそんなにヤワじゃないだろが。

とにかく先を急ごう。
そう思って足を踏み出した次の瞬間、足元の地面がパァーと円状に光った。
古代文字と共に。

魔法陣!

焦って足を引き戻そうとしたが遅くその魔法陣に取り込まれ、次の瞬間気を失った。








 ぐつぐつと何かが煮える音がしてきた。
良い香りもしている。
……?
おかしい。
もう食事か?
いや……
なんだこの違和感は

俺は目を覚ましたが見慣れない天井をぼんやり眺めるだけで全く頭が働かない。

薄い灰色の見たことのない天井だ。
俺は……

「……!」

がばりと体を起こし、自分が縛られている事に気づいた。

「う!」

思わず出る呻き声。
両脛に激痛を感じ全身が強張る、見るとあらぬ方向に足は曲がり、折られていると悟った。

……嘘だろ……

「はぅ……だ、だれかっ!」
「は?なんだお前、もう気づいたのか?」
「だ、誰だお前は!」
「答えるわけないだろ、まぬけが」

汚い言葉を吐きつけられ、睨み返すがブハハと笑われ、身を固くした。
見上げると、一人の男が立っていてこちらを見下ろしている。

男は屈強な戦士のような見事な体をしていた。
綺麗な顔をしていて貴族のようにも見えたが、立ち居振る舞いは貴族のそれではない。
見ると奥にも何人か人間の男がたむろしている。

「おいケナ、暴れさせんなよー」

奥の奴らからも声がかかる。

「おう、大丈夫だ」

見張りの男が座り込み、目の前に顔を近づけてきた。
驚くほど澄んだ青色の瞳が俺の目をまっすぐに見つめてくる。

「へぇ……お前、まさかとは思ったが……やっぱり伴侶のカジャルだな、可愛い顔してやがる」
「……っ!」
「しー…… 静かにしねえとさ、後にいる怖いのがお前をやるぜ」
「……お、お前何者だ」
「クク ほんとぼっちゃんだなあ、そう聞かれて誰が答えるかよ。てかお前、なんであんなところを一人で歩いてたんだ?どこに忍んでいこうってんだ?」

ケナはフっと笑うと激痛が走る脛に指を這わせた。

「……ぅ!!!」
「まあ、痛いよなあ……すまんなぁ。人質ってのはさ、こうやって動けねえようにしておかないと、逃げられたら元も子もないだろう?でもまあ、おとなしくするんなら悪いようにはしないさ」
「人質……」

ケナは俺の顎に手をやり、上を向かせてベロっと鼻の頭を舐めあげた。
背中がぞわっとして全身の毛が逆立つ。
そして指でツンと眉間を押された。
俺は咄嗟にやめろと言ったつもりだが、声が出ない……それどころか、体が動かない。

これは……呪縛の魔術?
まさか、あの一瞬で?
しかし、全身が痺れていることからも、それが答えだと思い知る。

「なあお前、あれだろ?逃げてきたんじゃないのか?」

俺の目が見開かれたのを見てクっと笑い、もう一度今度はゆっくりと唇を指でなぞってきた。

「お前さあ、話す気ある?あるなら解いてやってもいいんだぜ?」

恐怖を感じながら男の顔を睨むと、もう一度口づけされた。
舌が思いっきり口の中に侵入し、そして歯をざりざり舐めあげられる。
そして手で無理やり口を開けさせられ、そのまま指で舌をもてあそばれた。

苦しくてよだれを流し息を荒くすると「たまらねえな」と一言つぶやいて、今度は着物を左右に分け、俺の胸をまさぐった。

俺はあまりのことに声にならない叫び声をあげた。


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