狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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篠突く雨2 カジャル視点

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「ああ、これが紗国王の伴侶なのか?意外にもちゃんと鍛えてるじゃないか」

そういいつつ乱暴な手つきで乳首をギュウっとつまみあげられる。
俺はあまりの衝撃にもはや頭が付いていかず、混乱していた。
相変わらず声は出ない、ただ口がぱくぱくと動くだけだ。

「なあ……王様はどんなふうにしてくれるんだ?」
「……っ」
「ああ、そうだ、だけどお前もう、いらない子だっけ?あの噂本物なんだろ?お嫁様のこと、お前はもうかわいがってもらえないんだなあ」

ケナは青く澄んだ目を細めて同情するかのような表情を浮かべた。
俺は絶望を感じて力なくうなだれる。

「ああ、お前にとっては良くない出来事だったよなあ……だがこの国はこれで盤石だ。そうだろう?でもな、そのお嫁様とやらを手に掛けたらどうなるだろうねえ?」

なに?
なんだって?この男たちはまさか薫を狙っているのか?

俺が驚いて息を荒くすると、そのまままた口付けをされ顔中を舐めあげられた。
そして指で乳首をぎゅうぎゅうと捩じりあげられた。

恐怖とそして痛みでもはや抵抗もできない。
そもそも魔術で体の動きは封じられている。

ニヤリと綺麗な顔に似合わない笑みを浮かべてきた。

「こういうことしてたのか?」

耳元で静かに低音で囁かれて血の気が引く。

やめてくれ
下品な言葉で蘭紗様を侮辱するのは……やめてくれ……

そう言いたいのに声もでない体も動かない。

……やがて、もう一人男がやってきて横に座った。

「ケナ、お前なにやってんの」
「ん……かわいくて」
「ふーん……なるほど可愛い顔してやがる。しかも、まだ若いな」
「資料では22だったなぁ?もっと若く見えるが」
「てか、こいつなんで自分で俺らの前に現れたんだ?なんか聞いたか?」
「あぁ……」

ケナは俺の目をじっと見た。

「まあ、逃げてきたんだろうさ」
「へ?」
「こいつがここにいることで裏が取れたようなもんだ」
「お嫁様ってのがほんとに来たってのか?」
「ああ、こいつは逃げ出してきたんだろ?お払い箱だってんで放り出されたのさ」
「なるほどかわいそうにねえ……」

男はケナを押しのけて、俺の顔を意地悪そうに覗き込んだ。
思わず唾を飲み込む。

「なあ、どうやって嫁さんをあっちの世界から呼ぶの? お狐さん独特のなんか儀式でもあるわけ?」

ヒヒっと俺を嘲笑うその男は、心の底から紗国人を馬鹿にしているのが手に取るようにわかった。

「てかなにこいつ、細い尾しやがって、ほんとに狐か?」

俺の尾と耳を乱暴に引っ張る。
ケナはその男の手を止め、俺に毛布をかけた。

「もういいだろ、まあ休ませてやるさ、取りあえず駒は手に入れたんだ作戦会議な」

チっと嫌そうに舌打ちしたそいつと共に、ケナも俺を置いて部屋の真ん中のテーブルに移動していった。

俺は回らない頭で必死に考えた。
ここに俺がいることなど、他の誰も知らない。
どうやってこの事を伝えようか?

……いや、何で伝える必要がある
俺は自嘲して目を瞑る。

俺はこの国に見切りを付けて外へ出ようとした人間だ。
関係ないではないか、今更この国がどうなろうが。
しかも薫が狙われているのなら、もしかして薫亡き後、俺の必要がまた大きくなるんじゃないのか?

……ちがう。
俺はそんなことを、そんな恐ろしいことをなぜ考える?
はじめは……薫さえいなければと思った、あいつが死ねばなどと……
だが、そんなこと考えてはダメだ。

涼鱗から話を聞いて今はわかっている。
お嫁様のもたらす蘭紗様への恩恵は計り知れない、悔しくて悲しいがそのことを今は十分に理解しているのだ。

これから……蘭紗様は長い日々を生きていく。
薫が傍にいれば寿命が延びるのだから。

……俺が死んだ後も、ずっとずっと明日が来るんだ。
……あの方の元に朝日はずっと登り続けるんだ。

俺は苦しむ蘭紗様のそばにいるだけだったが、あいつは違う、あいつは確かに蘭紗様を生かしていく、これから長い長い日々を。
だから、蘭紗様の為にあいつを殺すわけにはいかないんだ。

何とかここから抜け出して……伝えなければ

でもどうすれば、俺の足は両方とも脛が折られている。
なぜか今は痛みがないが……

そういえば……あのケナという男……あいつが俺の足に触れたときから徐々に痛みが引いた。
痛みを和らげる魔術を施したのだろうか。

俺は掛けられた毛布の隙間から、そっと部屋の隅の一群を見る。
やはりどう見ても、阿羅人のようだ。

阿羅国は、謎に包まれた国だ、まともに国交を持つ国はない。

阿羅彦あらひこ」という建国の父が、4000年以上経った今もなお健在で国を治めているという……そんなとんでもない噂があるのだ。
だから阿羅国あらこくという国名ではなく、阿羅彦の国と呼ばれることも多い。

しかし実際は、今現在の王はもちろん伝説の阿羅彦などではなく、波羽彦なわひこという男だ。

俺とそう年の違わない細く小さな男だ。
実はアオアイ留学時代、2つ上の学年にその波羽彦がいた。

学年違いでそれほど触れ合う事もなかったが、時折見せる蘭紗様への視線を俺は許せなかった。
なぜだか嫌な予感を感じさせたからだ。

卒業した後に王になった波羽彦は、国際的な会議の場にも時折姿を現すようになり、俺の耳にも様々な噂が聞こえてきたものだ。
詳しくはわからないが、その不遜な態度に周りはいつも嫌な気にさせられているという、いかにもな悪い噂だ。

俺はやつらを観察しようと、静かに耳を傾けた。

だが、近いのに声は聞こえない、防音壁を魔術で構築しているようだ。
人数はここにいるだけで4人、……それにしてもケナという男はなぜ俺に興味を持った?
足の痛みを取って、そしてあんなことまで。

俺の顔と名を知っていた。

初めから俺が狙いだったのか?伴侶が他国に狙われるのはよくあることだと幼い頃から繰り返し注意されてきた。
だからそれなりに体も鍛え備えてきたのだが……

何の意味もなかったな……
俺は愚かで弱くて、存在しているだけでお荷物だ。

体の向きを変えようとしたのだが、いまだに体は動かせず、呪縛の魔術が強烈に効いていることに絶望する。

俺は頭痛を感じ、目を閉じた。
今自由になるのは取りあえず瞼の動きと口の動きのみだ。

……俺は本当に何のために生まれてきたんだろうな……

涙がまた流れた。
今はチロチロ舐めてくれるアイツもいない。
手も動かず拭くこともできない、流れるままに頬を伝う涙が生ぬるい。
情けなくて死にたくなる。

……もしかして、今が死ぬには良い時なのかもしれないな。

ザアザアと勢いの増した雨の音が響いてきた。


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