狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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大蛇3 涼鱗視点

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 なんの躊躇もなく最高速で飛んだ。

木の梢ぎりぎりに飛ぶ、上空すぎると発見されるかもしれないからだ。

枝の先が時々体にあたりピシッと音が鳴るが気にしてはいられない。

いつもなら、衣装を気にするのだが。
近衛達はそんな私に遅れを一切取らずピタリと付いてくる。

……歴史的に見ても、王の伴侶がよく狙われるのを私は知っている。

そして主に狙ってくる国も。
なぜかしつこく紗国を狙い続ける阿羅彦の国
他国も口を揃えてそれに対して疑問を投げかける。

「良いか、私の遠透視が効く範囲まで行って様子を見る、その上で指示を出すので印がある所で待機せよ」
「ハッ」

蛇族独特の遠透視は建物の壁も擦り抜け目的のモノを狙うことができる。
しかし、蘭紗の千里眼のように範囲は広くない。
いや違う、あいつの能力は……ちょっと異常だ……

木々の中にやがて蘭紗の付けた薄く光る菱形の印が見えてきた。

私はそれに指先で触れ印を消した。
一度振り返って近衛隊長に頷くと、一人で隠密の術を使った。

唇からヒュウと息を細く吐きそれを指で絡め取りその指に魔力を集中させる。
一瞬ふわっと体が浮きうっすらと魔力が体を覆う。
これで私の体は闇に紛れた。

蘭紗の付けた印から少し先に、木こりや狩人が使う山小屋があるのが見えた。

……あれか。

私の遠透視でもこの距離なら見えるはずだ。
集中力を高め、視力を強化する。
薄い壁の向こうに男が4人いて、バタバタと動きを見せている。
そして縛られて転がされてるカジャルの姿もはっきり見えた。

先程の蘭紗の千里眼で気取られたか……

あの時はまさか敵がいるとは思ってなかったので、蘭紗もそれを使ったのだが。
あの強さの魔力波動はさすがに相手にも感じ取れるだろう……それゆえ今移動しようとしているところか……

『涼鱗、遠透視を使っているか?我が見た所、小屋に部屋は一つしかない。そこに4人とカジャルがいる。4人の武装は弓と剣、4人とも人間だ恐らく全員が魔術に長けておる』
『ああ、見えてるよ、阿羅人で間違いないようだな……しかしもうこちらに気付いているようだな』
『あぁ、千里眼の波動を感じたのだろう。しかし近くにお前らがいることまではわかるまい』
『カジャルは動けないのか……意識はあるようだが』
『そちら任せられそうか?実は東にも何人か見えるのだ。我はそちらへ向かう』
『なんだって?!何人いる?』
『四人だ』
『近衛を半分そちらに向かわせる』
『いや、必要ない。暗殺部隊が到着している、そちらの健闘を祈る』
『ああ、蘭紗もな』

小屋の窓に近づきつつ近衛と通信を使う。

『隊長、聞いての通りだ。私は先に小屋を探る、合図を待て』
『了解です!涼鱗様お気を付けください、阿羅国の者であるならば魔術に長けているはず、厄介です』

窓は小さくガラスも曇っているが、遠透視があるので直接見えなくても支障はない。
うっすらと明るいのは小さな蝋燭で、大きな灯りは消したようだ。

……カジャル

ふいに、バタっと音がして戸が開いた、外の様子を覗き見る男が一人いる。
やはり阿羅人のようだ。
私のことは全く見えていないようで、あたりを窺っている。
髭面の屈強な男で体が大きい、阿羅人特有の太く短い首だ。

……まったくかわいくありませんね

「おい、ケナ、そいつ動けねえだろ、お前抱えてこいや。行くぞ」
「おう」

……おや、自ら外へ?これは手間が省けます。

「……いや、ちょっと待て、戸を閉めろ」

言われた髭面はバタンと戸を閉め中に入った。
しかし小屋の壁は薄く、ここからでも会話は聞こえた、音の遮蔽もしていないようだ。

「なんかおかしい、変な気配がする」
「は?俺は何も感じないぜ?」
「いや、いる。灯りを消せ」

……ほう、ケナとやらはいくらかやれる男のようですね、私は隠密を使っているというのに、それを気取るとは。

「その坊主抱えていけるか?」
「ああ、それはいいんだが、何なのだこの気配は」
「それはどんな?」
「狐じゃねえぞ、この雰囲気は」


私はそこまで会話を聞くとスッと小屋の真上に飛翔した。
そして、空中で人化を解き大蛇となった。

一瞬ゾワっと背筋の鱗が立ち恍惚に襲われ、目を閉じて体を震わせた。

……ああ、気持ちいい……

私は墨色の空の中でブルっと大きな体を一瞬震わせた。
白いたてがみに付けた翡翠の珠も揺れている。

真っ暗だった辺りが私の体から発する光でぼんやり明るくなって、闇にとけていた木々がぼぅと浮き上がる。

目線を下にやると、先ほどまで着ていた装束がはらりと小屋の屋根に落ちていく。
蘭紗から渡された魔石は口の中に入れ保持した。

……これがやつらの手元に落ちようなら、こちらの声が丸聞こえですからねえ。

近衛隊長の慌てた声が聞こえてくる。
まあ、そうだよね……私の人化を解いた姿を見た者はそうそういないだろうから。

……私は今、白い大蛇となり空に浮かんでいるのだ。

そして、その視線の先にあるもの……あまりにも小さく脆い小屋を、冷えた視線で見降ろした。



さて、行きますか……


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