狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

文字の大きさ
27 / 317

夢1

しおりを挟む
 その日はまだ夜が明けないうちから大変な騒ぎだった。

僕は事情がよくわからないまま、蘭紗様から補佐を頼まれた。
「千里眼を使う時に手を繋いでいてくれ」と頼んでくれたのだ。
僕がいると力が増すからと。
こうやって蘭紗様は僕が役に立ってると、必要だと、そう自覚させてくれる。
心の底から嬉しかった。
僕は彼のそんなところがとても好き。
傍にいると、僕はここにいてもいいんだって感じさせてくれるから。

2度目の空の旅はかなりの強い雨の中、緊張で押し潰されそうになりながら飛び立った。
捜索隊の顔にも余裕が無かった。
涼鱗王子も近衛部隊も。

……そういえば涼鱗王子は僕にも優しくしてくれて、とても良い人のようで安心した。

「お嫁様の研究」は彼のライフワークらしくて、王位継承権を返上してまで紗国にやって来た変わり者だと言うことだったけど(これは喜紗さんの言葉だよ!)
僕も彼の邪魔にならないように、お嫁様の研究を手伝いたいと考えている。

そして、2度目の僕の飛翔は「うまくコツが掴めている」と蘭紗様が褒めてくれて得意顔になれた。
でも、飛び上がる瞬間のタイミングが怖くて難しいのだ。
しばらくは手を引いてもらって一緒に飛び上がってもらわないと難しいと思う。

生身の体では空から落ちたら死に直結するし、恐怖感が半端ではない。
でも一旦飛び上がったらすいすいと上空に向かって飛んでいけるので、その第一歩の勇気さえなんとかなれば……とは思うけど、日本で育った僕にはなかなか難しそうだった。

こういう感覚は小さなころから慣れておくべきことなんだろうと感じる。

叩きつけるように降ってくる強い雨の中、城の上空はさらに風が強く、渦巻くように雨が襲ってきて、蘭紗様が張った防御壁を360度どの方角からも雨が激しく打ち鳴らしていた。

それに恐怖しながらも、固く握った蘭紗様の手を頼りに僕は必死に耐えた。
「手を握ってくれるだけで……」
と蘭紗様は言うけれど、一緒にいる意味は何なのだろう?
具体的に何か呪文みたいなことを唱えるわけでもなく、ほんとうに単なる付き添いみたいで、達成感はまるでなかった。

後から侍従長や侍女達、そして何よりも涼鱗王子や近衛の皆から「なんという素晴らしい魔力でしょう!」と興奮気味に絶賛されて僕の頬は赤くなった。

実際に千里眼を使ったのは蘭紗様だし、僕なんていなくても同じなのでは?……と思わないわけではないけど、術を使った直後、蘭紗様自ら驚いた顔をしていたので、僕の力が役立ったことは確かなのだろう。

……ていうか、千里眼だなんて……

それって超能力すぎませんか!

僕の美形王様はほんとにすごくすごーくかっこよくて有能で、そしてファンタジーです!

実際に魔力の波動を体で感じて、ギン!と揺れた時は、あっけに取られた。
眩暈が起こったのかと勘違いして焦ったけど、揺れたのは僕ではなく空気と防御壁だった。

一瞬、雨も止まり無音になった。
あれほど激しい雨さえもストップモーションがかかったようになって、丸い雨粒が見えた。
映画の1シーンみたいだった。

……すごい……と、ぼんやりとそれに見惚れてしまった。

でもこれは行方不明者を探すためなんだから、気を引き締めないと……僕は唇をかみしめた。
そして、なんと千里眼で敵が侵入していることがわかったのだから、血の気が引いた。

「蘭紗様……敵がいるんですか?ということは……これは誘拐なんですか?」
「……ああ、そのようだ、薫、もう一度範囲を広めて他に隠れているかもしれない協力者をあぶり出すので、もう少し付き合ってくれ」
「はい」

蘭紗様はもう一度僕の左手をぐっと握りしめ、全身に力を漲らせた。
まばゆい光が蘭紗様を覆う、そしてもう一度空気が「ギィーン」と前よりも激しく揺れた。
そして今度は僕たちの更に上空から、空気の塊が落ちてきたみたいに「ドン!」と衝撃が来た。

何が起こっているのかまるで理解ができなくて、怖かったけれど、蘭紗様がいるのだから絶対に大丈夫って心で唱えて踏ん張った。

繋いだ蘭紗様の大きくて暖かい右手。
僕の左手からスーっと体のぬくもりみたいなものが蘭紗様に吸い取られるのを感じた。
それは不愉快ではなく、逆に気持ちがよくて……体の力が抜けていくようでもあり、空中にゆらゆらと漂うみたいな不思議な感覚を味わった。

「薫、ありがとう。大丈夫か?何か体に異常を感じないか? 異常事態なので千里眼と共に結界の強化も行った、衝撃があっただろう、すまなかったな」

心配そうに僕の顔を覗き込んでくる蘭紗様に「大丈夫」と答えて微笑んだ。
そして、僕は一旦空の門まで送ってもらった。

蘭紗様は僕に優しいキスを落として、さきほどはいなかったはずの黒装束の一群を連れ、すぐさま空へ飛んで行ってしまった。
それは文字通り「飛んでいく!」という表現がぴったりの速さだった。

えーっとあの黒装束の人たちは……もしかして喜紗さんたちに習った暗殺部隊の人たちなのでは……
忍者……っぽかった……

「薫様、侍女達がお世話しますので、お部屋でお休みください」

侍従長は静かに穏やかに僕に話しかけてくれたので、素直に頷いて自室に戻った。

今はもう、僕の役目は終わったらしい。

でも、不審者を取り締まりに行ったのだから、不安だ、蘭紗様のことが心配で仕方ない。
もちろん、話の発端となったらしいカジャルさんも心配だし、そして涼鱗王子も、近衛の皆のことも……

無事の知らせが来るまでは起きていないと、侍女にお茶をいれてもらったのだけど。




疲れからか、僕はつい寝てしまったらしい。





こんな時に一人だけのんびり寝るなんて、本当に情けないよね。

でもたぶん、僕なりに一生懸命だったんだ。
全部が初めてのことだったからね。

なんか色々と限界だったみたい。
環境も変わって、覚えることも考えることも多くて、更には大好きな人もできて。



そしてその人が一国の王様で……



ほんとに何もかも……夢みたいだね……


しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

牛獣人の僕のお乳で育った子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!!

ほじにほじほじ
BL
牛獣人のモノアの一族は代々牛乳売りの仕事を生業としてきた。 牛乳には2種類ある、家畜の牛から出る牛乳と牛獣人から出る牛乳だ。 牛獣人の女性は一定の年齢になると自らの意思てお乳を出すことが出来る。 そして、僕たち家族普段は家畜の牛の牛乳を売っているが母と姉達の牛乳は濃厚で喉越しや舌触りが良いお貴族様に高値で売っていた。 ある日僕たち一家を呼んだお貴族様のご子息様がお乳を呑まないと相談を受けたのが全ての始まりー 母や姉達の牛乳を詰めた哺乳瓶を与えてみても、母や姉達のお乳を直接与えてみても飲んでくれない赤子。 そんな時ふと赤子と目が合うと僕を見て何かを訴えてくるー 「え?僕のお乳が飲みたいの?」 「僕はまだ子供でしかも男だからでないよ。」 「え?何言ってるの姉さん達!僕のお乳に牛乳を垂らして飲ませてみろだなんて!そんなの上手くいくわけ…え、飲んでるよ?え?」 そんなこんなで、お乳を呑まない赤子が飲んだ噂は広がり他のお貴族様達にもうちの子がお乳を飲んでくれないの!と言う相談を受けて、他のほとんどの子は母や姉達のお乳で飲んでくれる子だったけど何故か数人には僕のお乳がお気に召したようでー 昔お乳をあたえた子達が僕のお乳が忘れられないと迫ってきます!! 「僕はお乳を貸しただけで牛乳は母さんと姉さん達のなのに!どうしてこうなった!?」 * 総受けで、固定カプを決めるかはまだまだ不明です。 いいね♡やお気に入り登録☆をしてくださいますと励みになります(><) 誤字脱字、言葉使いが変な所がありましたら脳内変換して頂けますと幸いです。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

この世界は僕に甘すぎる 〜ちんまい僕(もふもふぬいぐるみ付き)が溺愛される物語〜

COCO
BL
「ミミルがいないの……?」 涙目でそうつぶやいた僕を見て、 騎士団も、魔法団も、王宮も──全員が本気を出した。 前世は政治家の家に生まれたけど、 愛されるどころか、身体目当ての大人ばかり。 最後はストーカーの担任に殺された。 でも今世では…… 「ルカは、僕らの宝物だよ」 目を覚ました僕は、 最強の父と美しい母に全力で愛されていた。 全員190cm超えの“男しかいない世界”で、 小柄で可愛い僕(とウサギのぬいぐるみ)は、今日も溺愛されてます。 魔法全属性持ち? 知識チート? でも一番すごいのは── 「ルカ様、可愛すぎて息ができません……!!」 これは、世界一ちんまい天使が、世界一愛されるお話。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

助けたドS皇子がヤンデレになって俺を追いかけてきます!

夜刀神さつき
BL
医者である内藤 賢吾は、過労死した。しかし、死んだことに気がつかないまま異世界転生する。転生先で、急性虫垂炎のセドリック皇子を見つけた彼は、手術をしたくてたまらなくなる。「彼を解剖させてください」と告げ、周囲をドン引きさせる。その後、賢吾はセドリックを手術して助ける。命を助けられたセドリックは、賢吾に惹かれていく。賢吾は、セドリックの告白を断るが、セドリックは、諦めの悪いヤンデレ腹黒男だった。セドリックは、賢吾に助ける代わりに何でも言うことを聞くという約束をする。しかし、賢吾は約束を破り逃げ出し……。ほとんどコメディです。  ヤンデレ腹黒ドS皇子×頭のおかしい主人公

あなたの隣で初めての恋を知る

彩矢
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

処理中です...