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お見舞い
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あれからすぐ、婚儀の日取りが決まったと告げられた。
今、季節は春なのだけど、夏の終わりに国を挙げてお祭りがあるそうで、その時期に同時にするんだって。
夏の終わりということで僕の花嫁衣裳は(呼び方なんとかならないのかな!)透けた絹を何枚も重ねた美しいお花のようなデザインになる予定だ。
色を青のグラデーションにしてくれるし、袴の刺繍の図案も花ではなくて文様にしたりと、意見を出し合って納得のいく素敵なものになった。
僕の中ではリンドウのお花みたいな感じで、すっきりしていて凛とした感じだ。
ちなみに衣装係さんとはたくさんお話をして、仲良くなれた。
城下町のことを教えてくれたり、街で売っている今流行のお菓子も買って来てくれるし、本当に優しくて素敵な女性達なのだ。
それから僕が毎回露天風呂で泳ぐものだから、蘭紗様は60階にプールを作ってくれるみたい!
自然の池を模したプールにする予定で、建築担当の役人さんが色んな絵図を見せてくれた。
その中で僕は木が周りにあって足元にはお花が咲いている池を選んだ。
……北海道の別荘を思い出すから。
それにしても、蘭紗様は甘やかしが過ぎますよね!
この調子だと僕は傾国のお嫁様とかそんなことになりませんかね?
そして今、カジャルさんのお見舞いを兼ねて初めて城を出て(といっても城の敷地内だけど)研究所の涼鱗王子を訪ねるところなのだ。
涼鱗王子はあの事件から、どういう経緯かわからないけど、カジャルさんと一緒に生活し始めたと聞かされていた。
空の門が開いて、そこから飛翔して研究所に降りていくのだけど。
今回もまた目を瞑って蘭紗様に手を引いてもらってようやく飛びたてた。
それからゆっくりと着物をハタハタしながら研究所に降りていく。
「薫は、魔力の使い方がうまいな」
「そうですか?使っているという感覚があまりないのですけど」
見ると研究所の前に護衛と侍女が並び、真ん中に涼鱗王子が立っていた。
「来ましたね、オシドリ夫婦さん」
「ああ、来てやった」
「涼鱗王子、お久しぶりです!」
僕は着地で少し失敗して足を挫きそうになったけど、すかさず蘭紗様に抱きとめられて、恥ずかしさで真っ赤になった。
「……ほんとにこの方は、かわいらしいですねぇ」
「涼鱗、余計なことを言わんでもいい」
「はいはい」
僕たちは案内されて研究所の応接間に入った。
そこのソファーには不満顔のカジャルさんが座っていて、じろりとこちらを睨んでいる。
……えと、なんで睨んでいるのでしょうか!
「カジャル、そんな顔をしないでくださいな、お客様なんですよ」
「……あぁ」
「あの、カジャルさん、お怪我はどうですか?これは、お見舞いのお花と僕の好きなお菓子なんですが」
今朝摘んだ小さな花束と、街から取り寄せたカップケーキの詰め合わせを侍女に渡す。
衣装係さんたちがおススメしてくれたお店のもので、話題の新商品だ。
「……ありがとうございます」
不機嫌な様子で一応礼を言われた。
「わあ、おいしそうですねぇ、私はこれをいただきたいです」
箱を覗き込んで喜ぶ涼鱗王子に微笑んだ。
「フルーツとクリームがたっぷりなんですよ」
「うん、いいね、君とは気が合いそう」
涼鱗王子もにこにこしている、やっぱりいい人そうだ。
やがてワゴンを押した侍女たちがやってきて、ラハーム王国名産の紅茶を淹れ、スコーンにクッキー、飾り切りしたフルーツ、そして先ほどのケーキも出された。
これはあれですね……アフタヌーンティー!
「蘭紗、あいつらへの取調はどうなってるの?」
「……ふん、なかなかなあ。何しろ足の付くものを持っていないのだ。このままでは阿羅との関係も証明できぬ……衣服も得物もそこらで売っている紗国のもので、阿羅国とはまるで関係ない」
「なるほどねえ」
涼鱗王子は指から白い霧を出して紅茶に当てながら、うんうんと頷いて聞いていた。
そしてティーカップを手に持ってなにやら確かめてから、チロチロと紅茶を舐めだした。
「……こいつは熱いものが飲めないんだ。いちいちこうやって冷ましてから飲むんだ」
カジャルさんが、ツンツンしながらも丁寧に解説してくれたので、白い霧が冷気だったのかな?と推測できた。
この人はあれですか?ツンデレとかいうあの……
「蘭紗様、最後まで俺を担いで逃げてたヤツなんですけど」
「カジャルを担いで逃げた者は……かなりの重症でまだ話ができていないが、なんだ?」
「……」
え?あれから1週間ですけど、まだ話ができないんですか?
「涼鱗お前、やりすぎだ……」
「えー……そんなことありませんよ、あの時はああでもしないとカジャルが危なかったし、ひ弱な私も精一杯だったんですから」
「ひ弱なヤツが敵を圧死寸前にするか?」
圧死ですって?!
ふふっと笑いながらカップケーキをつつく涼鱗王子はスレンダーで長身、さらさらした艶のある白い髪をポニーテールにし、素敵な飾りを付けた妖しい魅力を放つ美男子だ。
その姿だけを見たら、確かに「ひ弱」な感じがないでもないのだけど、話を聞いたところによると、かなり強いらしい。
「で、カジャル、その者がどうした?」
「いえ、俺はアイツと話がしたいんです、意識を取り戻したら一度合わせてください」
蘭紗様をまっすぐ見て話すカジャルさんを見ていると、なんだか胸の奥がツンと痛んだ。
この人は僕が来る前まで、蘭紗様の伴侶だった人だ。
確か……5才とか6才とかそのあたりから一緒にいて、片時も離れず蘭紗様を支えた人。
僕の知らない蘭紗様を知っていて、その時間を共有した人。
僕が来なければずっとそうしているはずだった人。
カジャルさんの目を見ているとわかるのだ。
僕は今恋をしているから……わかるんだ、カジャルさんも蘭紗様に恋していたんだなってことが。
自分の立ち位置を奪われて、悲しさと絶望を味わって、今回の騒ぎに繋がってしまった。
元凶は僕ともいえるのだ。
でもね、僕はもうその立場を誰かに譲るなんてできないんだ。
蘭紗様が大好きだから。
「いやいや、2人で何話すっていうの?とんでもないよカジャル、行くんなら私も一緒だからね」
「は?」
涼鱗王子はケーキの二個めをつまんでいる。
そんな涼鱗王子を心底嫌そうに見てから、遠慮無い話し方でじゃれている。
うん、これは……
じゃれている。
あら?
ここに来てから初めて会った時のカジャルさんとかなり違う……と今気づいた。
正式に一緒に暮らし始めたという意味がなんとなく理解できた。
たぶん今でも、カジャルさんは蘭紗様のことが好きだろう……でも、自分を受け入れてくれて、命がけで助けてくれる人がいたのなら。
心は救われるのかもしれない。
カジャルさんがどう心の整理を付けたのかは、一生わかりそうにないけれど。
涼鱗王子がいるのなら、そのあたりの心配はしなくてもいいのかな……
僕はそう理解した。
……きっと涼鱗王子に癒されたんだね。
「っ!なんでお前もくるんだよ!俺は二人きりで話したいんだ」
「だから、2人でってなんでなのさ内緒の話でもあるみたいに聞こえるねえ」
涼鱗王子はすねた顔で紅茶をチロチロ飲んでいる。
「それなのだが、お前は捕まっていた際に、何か聞いていないか?」
「近衛に全て話しましたけど、僕を人質のコマとして使うと話していましたよ、本当のねらいは……」
カジャルさんが横目で僕を見つめてきた。
へ?
「ぼ、僕ですか?!」
蘭紗様が僕の手を握って優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ薫、この前話しただろう?」
「はい、……こういうことだったんですね」
「まあ、そういうことだ」
涼鱗王子は2杯目の紅茶をいれてもらってまたもや白い霧でほわほわと冷ましながら、僕を見つめてきた。
今、季節は春なのだけど、夏の終わりに国を挙げてお祭りがあるそうで、その時期に同時にするんだって。
夏の終わりということで僕の花嫁衣裳は(呼び方なんとかならないのかな!)透けた絹を何枚も重ねた美しいお花のようなデザインになる予定だ。
色を青のグラデーションにしてくれるし、袴の刺繍の図案も花ではなくて文様にしたりと、意見を出し合って納得のいく素敵なものになった。
僕の中ではリンドウのお花みたいな感じで、すっきりしていて凛とした感じだ。
ちなみに衣装係さんとはたくさんお話をして、仲良くなれた。
城下町のことを教えてくれたり、街で売っている今流行のお菓子も買って来てくれるし、本当に優しくて素敵な女性達なのだ。
それから僕が毎回露天風呂で泳ぐものだから、蘭紗様は60階にプールを作ってくれるみたい!
自然の池を模したプールにする予定で、建築担当の役人さんが色んな絵図を見せてくれた。
その中で僕は木が周りにあって足元にはお花が咲いている池を選んだ。
……北海道の別荘を思い出すから。
それにしても、蘭紗様は甘やかしが過ぎますよね!
この調子だと僕は傾国のお嫁様とかそんなことになりませんかね?
そして今、カジャルさんのお見舞いを兼ねて初めて城を出て(といっても城の敷地内だけど)研究所の涼鱗王子を訪ねるところなのだ。
涼鱗王子はあの事件から、どういう経緯かわからないけど、カジャルさんと一緒に生活し始めたと聞かされていた。
空の門が開いて、そこから飛翔して研究所に降りていくのだけど。
今回もまた目を瞑って蘭紗様に手を引いてもらってようやく飛びたてた。
それからゆっくりと着物をハタハタしながら研究所に降りていく。
「薫は、魔力の使い方がうまいな」
「そうですか?使っているという感覚があまりないのですけど」
見ると研究所の前に護衛と侍女が並び、真ん中に涼鱗王子が立っていた。
「来ましたね、オシドリ夫婦さん」
「ああ、来てやった」
「涼鱗王子、お久しぶりです!」
僕は着地で少し失敗して足を挫きそうになったけど、すかさず蘭紗様に抱きとめられて、恥ずかしさで真っ赤になった。
「……ほんとにこの方は、かわいらしいですねぇ」
「涼鱗、余計なことを言わんでもいい」
「はいはい」
僕たちは案内されて研究所の応接間に入った。
そこのソファーには不満顔のカジャルさんが座っていて、じろりとこちらを睨んでいる。
……えと、なんで睨んでいるのでしょうか!
「カジャル、そんな顔をしないでくださいな、お客様なんですよ」
「……あぁ」
「あの、カジャルさん、お怪我はどうですか?これは、お見舞いのお花と僕の好きなお菓子なんですが」
今朝摘んだ小さな花束と、街から取り寄せたカップケーキの詰め合わせを侍女に渡す。
衣装係さんたちがおススメしてくれたお店のもので、話題の新商品だ。
「……ありがとうございます」
不機嫌な様子で一応礼を言われた。
「わあ、おいしそうですねぇ、私はこれをいただきたいです」
箱を覗き込んで喜ぶ涼鱗王子に微笑んだ。
「フルーツとクリームがたっぷりなんですよ」
「うん、いいね、君とは気が合いそう」
涼鱗王子もにこにこしている、やっぱりいい人そうだ。
やがてワゴンを押した侍女たちがやってきて、ラハーム王国名産の紅茶を淹れ、スコーンにクッキー、飾り切りしたフルーツ、そして先ほどのケーキも出された。
これはあれですね……アフタヌーンティー!
「蘭紗、あいつらへの取調はどうなってるの?」
「……ふん、なかなかなあ。何しろ足の付くものを持っていないのだ。このままでは阿羅との関係も証明できぬ……衣服も得物もそこらで売っている紗国のもので、阿羅国とはまるで関係ない」
「なるほどねえ」
涼鱗王子は指から白い霧を出して紅茶に当てながら、うんうんと頷いて聞いていた。
そしてティーカップを手に持ってなにやら確かめてから、チロチロと紅茶を舐めだした。
「……こいつは熱いものが飲めないんだ。いちいちこうやって冷ましてから飲むんだ」
カジャルさんが、ツンツンしながらも丁寧に解説してくれたので、白い霧が冷気だったのかな?と推測できた。
この人はあれですか?ツンデレとかいうあの……
「蘭紗様、最後まで俺を担いで逃げてたヤツなんですけど」
「カジャルを担いで逃げた者は……かなりの重症でまだ話ができていないが、なんだ?」
「……」
え?あれから1週間ですけど、まだ話ができないんですか?
「涼鱗お前、やりすぎだ……」
「えー……そんなことありませんよ、あの時はああでもしないとカジャルが危なかったし、ひ弱な私も精一杯だったんですから」
「ひ弱なヤツが敵を圧死寸前にするか?」
圧死ですって?!
ふふっと笑いながらカップケーキをつつく涼鱗王子はスレンダーで長身、さらさらした艶のある白い髪をポニーテールにし、素敵な飾りを付けた妖しい魅力を放つ美男子だ。
その姿だけを見たら、確かに「ひ弱」な感じがないでもないのだけど、話を聞いたところによると、かなり強いらしい。
「で、カジャル、その者がどうした?」
「いえ、俺はアイツと話がしたいんです、意識を取り戻したら一度合わせてください」
蘭紗様をまっすぐ見て話すカジャルさんを見ていると、なんだか胸の奥がツンと痛んだ。
この人は僕が来る前まで、蘭紗様の伴侶だった人だ。
確か……5才とか6才とかそのあたりから一緒にいて、片時も離れず蘭紗様を支えた人。
僕の知らない蘭紗様を知っていて、その時間を共有した人。
僕が来なければずっとそうしているはずだった人。
カジャルさんの目を見ているとわかるのだ。
僕は今恋をしているから……わかるんだ、カジャルさんも蘭紗様に恋していたんだなってことが。
自分の立ち位置を奪われて、悲しさと絶望を味わって、今回の騒ぎに繋がってしまった。
元凶は僕ともいえるのだ。
でもね、僕はもうその立場を誰かに譲るなんてできないんだ。
蘭紗様が大好きだから。
「いやいや、2人で何話すっていうの?とんでもないよカジャル、行くんなら私も一緒だからね」
「は?」
涼鱗王子はケーキの二個めをつまんでいる。
そんな涼鱗王子を心底嫌そうに見てから、遠慮無い話し方でじゃれている。
うん、これは……
じゃれている。
あら?
ここに来てから初めて会った時のカジャルさんとかなり違う……と今気づいた。
正式に一緒に暮らし始めたという意味がなんとなく理解できた。
たぶん今でも、カジャルさんは蘭紗様のことが好きだろう……でも、自分を受け入れてくれて、命がけで助けてくれる人がいたのなら。
心は救われるのかもしれない。
カジャルさんがどう心の整理を付けたのかは、一生わかりそうにないけれど。
涼鱗王子がいるのなら、そのあたりの心配はしなくてもいいのかな……
僕はそう理解した。
……きっと涼鱗王子に癒されたんだね。
「っ!なんでお前もくるんだよ!俺は二人きりで話したいんだ」
「だから、2人でってなんでなのさ内緒の話でもあるみたいに聞こえるねえ」
涼鱗王子はすねた顔で紅茶をチロチロ飲んでいる。
「それなのだが、お前は捕まっていた際に、何か聞いていないか?」
「近衛に全て話しましたけど、僕を人質のコマとして使うと話していましたよ、本当のねらいは……」
カジャルさんが横目で僕を見つめてきた。
へ?
「ぼ、僕ですか?!」
蘭紗様が僕の手を握って優しく微笑んだ。
「大丈夫だよ薫、この前話しただろう?」
「はい、……こういうことだったんですね」
「まあ、そういうことだ」
涼鱗王子は2杯目の紅茶をいれてもらってまたもや白い霧でほわほわと冷ましながら、僕を見つめてきた。
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