狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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研究所にお勤めです! 1

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 翌々日から蘭紗様の執務の間、僕は研究所に通うことになった。
侍女達が用意してくれた動きやすい着物を着て鏡を見る。

小さい白い魚が染め抜きされた水色の着物に、藍色のデニムのような生地の袴を付けて赤い紐でできた首飾りを付けた。
髪の毛は綺麗に後に流され油で整えてくれている。
今日はおでこも全開で後をシルバーの透かし模様のバレッタで留められた。
なんというか、おしゃれな書生さんみたいな!

ふふ、この着物の下に白いシャツ着たらほんとにそんな感じ。

僕は意外にも着物スタイルが気に入ってる。
祖父は仕事を終え帰宅すると着物に着替えくつろぐ人だった。
寝るときも浴衣の寝間着だったなあと思い出す。

「では、行きましょう、みなさん」

僕は張り切っていた。
お嫁様という立場であっても……奥様みたいにずっと閉じこもるのは、どうなんだろう?と悩んでいたから、それが解消されたことも大きかったし、なにより涼鱗王子とカジャルさんと共にお嫁様研究ができることが楽しみだったのだ。

空の門には、門兵と近衛が5人いた。
この近衛は僕の為に選抜された僕の為の近衛部隊なんだって。
本当は10人いるのだけど、5人ずつローテーションらしい。

「よろしくお願いします」
「頭を下げられるなど、もったいない! 我らは幸運に恵まれて薫様の護衛に当たれるのです。誇りをもって頑張りますので、こちらこそよろしくお願いいたします」

隊長の柵は立派な体躯を90度に折り曲げて頭を下げた。
後の4人もそれに倣い、礼をしている。
僕は慌てた。

「いや、あの、頭を上げてください!」
「ハッ」

5人は揃って顔を上げ、真面目な顔で前を向いている。
ん……と

「……じゃあ、行きましょう、でも僕まだ、空を飛び立つときに補助がいるんです。慣れなくて」
「はい、伺っております、ではお手を」
「では柵、お願いするよ」
「ハッ」

仕えてくれる人を「さん付け」しちゃだめだって侍女にしつこく言われたので、僕は頑張って年上の立派な男の人を呼び捨てにしちゃったよ、ドキドキしたけどね!

柵は僕の周りを防護壁で囲い、恭しく手を取り、ゆっくりと上昇してくれた。

「上空に来ると安定なさっておいでです、魔力の使い方がお上手でいらっしゃいますね」
「蘭紗様からも同じことほめられました!」
「薫様も蘭紗様も常人にはない魔力をお持ちです、我々など足元にも及ばない力なのです。すぐに会得されるに違いありません、不安がらないでくださいませ。本来このように飛ぶことも選ばれた人だけができる技なのですよ」
「え?そうなの?」
「私も代々武官の家ですが兄は飛べません。ですので文官として仕えております」
「なるほど、個々の魔力量に関係あるのでしょうかね?」
「はい、少ない者は飛ぶことを修得できません」
「なるほど」

やがて眼下に池の水面が輝いて反射しているのが見えて、研究所の門が近づいた。
ゆっくりと降下していく。
着地は念のため柵の手を頼って降り立った。

「来たね、薫、待っていたよ、カジャルは中にいるからね」
「おはようございます!涼鱗王子、今日からよろしくお願いします」
「ああ、楽しみだね」

涼鱗王子はふふと笑うと、侍女達にお茶の用意を頼み、僕の隣を歩いて部屋に案内してくれた。
前回来たときは応接間だったけど、僕は今日はお客様ではない。
僕はここの研究所にお勤めにきたのだ!

これって就職ですよね!

「おう」

研究室の扉を開くと、不愛想にだがきちんとこちらを向いてカジャルさんが声をかけてくれた。

「おはようございます、カジャルさん、あらもうはじめてるのですね」
「ああ、俺はよくわからないから、言いなりに動いてるだけだ」
「そう捨てたもんじゃないんだよ、カジャルは文字が美しいしね、とても助かっているんだからね」

そう涼鱗王子に言われ、嬉しそうに作業に戻るカジャルさんの顔を思わずじっと観察してしまう僕。

「ねえ、まず、質問いいかな?」
「あ、はい。なんでしょう?」

僕は促されるまま、木目の美しいデスクに座った。
3人ともお揃いのデスクで、広い室内で向かい合うように、コの字に配列されている。

「これはもしや、僕専用のデスクなんですか?!」
「そうですよ、薫専用ですから、私物を置いたり作業しやすいように改造してもいいんだからね」
「わあ、ありがとうございます」
「やけに嬉しそうだね」
「はい、僕大学を卒業したら、こうしてお仕事するのを楽しみにしていたもので」
「ほう、どんな職業につく予定だったのだ?」
「父親が政治家だったので、その秘書見習いになる予定でした」
「ほう……」

2人とも手を止めてじっと見てきた。

「なるほどな……姓があると聞いていたが、国の政治に関わる家系だったのだな」
「ん、カジャルの実家と似てるじゃない」
「そうかもな」
「そうですね、カジャルさんのお父様はサヌ羅さんですものね、では、カジャルさんもいずれは政治に携わるのでしょうか?」
「いや、俺は政治になんて向いてないな。それに根白川家の跡取りは俺の姉の夫だ。その義兄はすでに文官として城で働いている」
「まあ、カジャルは母上の家系の影響が強いものねえ」
「外国の方でしたっけ?」
「ああ、母の兄は瀬国の軍師で名のある武将だ」
「えええええ!かっこいい」

瀬国は獅子の国と習ったのだ。
やばい、獅子とかかっこいい、ライオン!

「……まあ……な」
「つまり武に長けていてね、カジャルの剣はなかなかだよ」

カジャルさんは顔をくしゃっとさせて仕事に戻った。
あれはきっと照れているのだと僕は思うんだけど、どうだろう。

「ところでね、質問なんだけどね」
「あ、はい」

運ばれてきた紅茶を冷ましながら涼鱗王子は本をめくる。

「薫が元々住んでいた世界のニホンなんだけどね、そこではよく行方不明者なんてのは出ていたの?」

何とも答えにくい質問だった。


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