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夏祭り4
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その時、トンタンと祭りばやしがかなり近くなってきた。
首から下げた太鼓を叩きながら練り歩く小さい幼女たちが、僕たちのすぐ下を歩いていく。
「いやあ!かわいい!」
「あの子らは今年5才女子だ。この国では5才になると女の子はこの行列に参加するんだよ」
カジャルさんはとにかくちゃんと説明してくれる、本当に優しい人。
「小さいけどちゃんと今流行の着物じゃないのー」
「ああ、みやの小型がたくさんいるようで、よいな」
蘭紗様もハハっと笑う。
「ええ小型ってなんですかぁ、しかも僕と同じ水色率多くないです?」
「まあ、涼しげな色だから夏の晴れ着はこの色が人気だよ?」
「なるほど」
その時、僕以外の3人がピクっと動いた。
「なんだあれ」
「ああ」
「まあ、普通に祭りを楽しんでいる風ではありましたよねえ」
僕は3人が何を言ってるのかさっぱりわからずに、クッキーとフルーツを小皿に取った。
「しかし区別がつかん、いつも思うがなぜあいつらは皆似た顔をしている」
「それはほんとに謎だよねえ」
「波羽彦だって従者と兄弟みたいに似てたからな」
「しかもあの匂いだ」
「私には無理ぃ……近寄れない」
ん?と首を傾げて3人を見る。
「えと、なに?その名前は確か……えーっと」
すると、やけに焦った涼鱗王子が口に指を当て、シーっと息を吐いた。
「その下今通ったんだよ。5,6人がまとまっていたから目立ってたけど、人間自体はここらでも普通に暮らして普通に働いてるんだから、気にすることないと思うよ、どこの国でにも何割かいるんだからね」
「いやでも、さっきのやつら」
「俺にはあいつらはそれなりに鍛えた集団に見えたがな」
蘭紗様の表情が緊張していた。
「え?」
僕は手に持ったブドウを掴んだままどうしていいかわからず固まった。
「まあちょっと落ち着いて、近衛もいるんだし、私らもいるじゃない」
涼鱗王子は声を潜めて蘭紗様に囁いた。
「ああ」とは言ったが納得しかねる様子の蘭紗様を見て、僕は困った。
「あの……お祭りの様子わかりましたし、目的の新作カップケーキを買ってみんなで帰りましょう!こんな混んでない日にならもっと、安全に街に繰り出せるでしょ?また改めましょうよ、街は今日は混みすぎていて……その危険なのでは……」
3人は悲しそうな顔をして僕を見て同時にため息をついた。
「みやはここにきてから、ほぼどこにも出かけておらぬのだ、これくらいはと思ったのだがな」
「そんなことありませんよ、毎日楽しいですし、湖も行ったじゃないですか」
カチャっと小さい音を立てて、近衛の3人が紅茶のカップを皿においてこちらを見た。
それから緊迫した顔で蘭紗様の方を見た。
僕以外の人たちは何事かに気づいた様子でしばらく周囲を見渡していた。
「出るぞ」
がたりと立った蘭紗様は僕の手をそっと取ると、安心させてくれるように笑みをくれた。
不安だった心が少し楽になる。
「ここから近いのか?例の店」
「ああ、もうすぐそこだ」
涼鱗王子とカジャルさんが先に様子を近衛に見てくるようお願いしている。
一人がひらりと階下に降り、そしてまもなくテラスから一階にいた近衛が店を探して人ごみを歩くのが見えた。
彼らは僕たちの目的の店を見つけたようで、魔石の通信で返事をくれたようだ。
蘭紗様はしっかりと僕の手を握り、その手をもう片方の手でぽんぽんと軽く叩いた。
下に行くと近衛が支払いを城へ回してくれと店主に伝えていて、店主が目を白黒していた。
見ると、この店は立地条件の良さからか人気店なようで、先ほどより更に混んでいて長い列ができていた。
「え、いつの間にこんなに混んでたの?!」
「ああ、ほんとだな」
「人が増えてくる時間だからねえ」
僕はその時、毬を持った5歳ぐらいの幼児に気づいた。
母だろう人に手をひかれ、幼いのにじっと列に並び待っている姿に、ふっと頬がゆるむ。
かわいい男の子だなと思ってじっと見ていると、男の子もこっちを見てきてニコっと笑ってくれたので、僕も微笑み返した。
蘭紗様は僕の手を握って大通りに出ようとしたのだが、すぐ横で赤ちゃんを抱いた若い女性がヨロっと倒れかけるのが見えた。
僕は咄嗟に赤ちゃんが床に落ちないよう腕を差し出した。
蘭紗様も咄嗟にその女の人を支えようとした。
……つまり、僕たちの手が離れてしまったんだ。
瞬間僕の足元に白い文字の羅列が表れ、それが丸く円を描きだし、そして一気に光った。
……あれ?これ魔法陣なの?
などとのん気に思いつつ、だけど足元から上に目線を上げて蘭紗様を見た。
蘭紗様は女の人を助け起こしつつこちらを振り向いたが、次の瞬間必死な形相になり僕の名前を叫んだ。
……んと、叫んだような気がした?
というか声が聞こえない……なぜ?
そしてやけにゆっくりに見える風景、まるでスロー再生にように周りがゆっくりと動くんだ。
そしてあちらからはこちらが見えていないようで、僕は目の前にいるのに、キョロキョロと僕を探している。
蘭紗様の後ろにいた涼鱗王子もカジャルさんも周りを見渡して僕の名を呼んでいるのが口の動きでわかる。
皆の動きがもどかしい、全部なぜかスローに見える。
ああ、だめじゃないの、みやちゃんじゃなくて、「薫」って呼んでるね皆。
せっかく皆で呼び名を決めたのに。
近衛部隊も周りを制圧して、人ごみをかき分けているのが見えたよ、ああ、これ。
……ぼくやっちゃったかな。
たぶん、この魔法陣の中にいるから皆から僕が見えないんだね。
でも、足を動かそうにも張り付いたように動かないし、そもそも指一本だって、そして瞼も動かせず閉じれない。
だからじっと皆を観察した。
スロー再生の光景……必死に僕の名を叫んで探す皆が見えた。
心の中で「蘭紗様」と叫んだ。
その一瞬、ふと蘭紗様と目が合った。
見たことのない恐怖を張り付けた必死な顔で、しっかりと僕の目を見た。
ああ、あなたには僕の心の叫びが聞こえたんだね。
嬉しかった。
そしてこちらに手を伸ばしてくれた。
ゆっくりゆっくりと手が伸びてきたけど、それが僕に届くことはなかった。
首から下げた太鼓を叩きながら練り歩く小さい幼女たちが、僕たちのすぐ下を歩いていく。
「いやあ!かわいい!」
「あの子らは今年5才女子だ。この国では5才になると女の子はこの行列に参加するんだよ」
カジャルさんはとにかくちゃんと説明してくれる、本当に優しい人。
「小さいけどちゃんと今流行の着物じゃないのー」
「ああ、みやの小型がたくさんいるようで、よいな」
蘭紗様もハハっと笑う。
「ええ小型ってなんですかぁ、しかも僕と同じ水色率多くないです?」
「まあ、涼しげな色だから夏の晴れ着はこの色が人気だよ?」
「なるほど」
その時、僕以外の3人がピクっと動いた。
「なんだあれ」
「ああ」
「まあ、普通に祭りを楽しんでいる風ではありましたよねえ」
僕は3人が何を言ってるのかさっぱりわからずに、クッキーとフルーツを小皿に取った。
「しかし区別がつかん、いつも思うがなぜあいつらは皆似た顔をしている」
「それはほんとに謎だよねえ」
「波羽彦だって従者と兄弟みたいに似てたからな」
「しかもあの匂いだ」
「私には無理ぃ……近寄れない」
ん?と首を傾げて3人を見る。
「えと、なに?その名前は確か……えーっと」
すると、やけに焦った涼鱗王子が口に指を当て、シーっと息を吐いた。
「その下今通ったんだよ。5,6人がまとまっていたから目立ってたけど、人間自体はここらでも普通に暮らして普通に働いてるんだから、気にすることないと思うよ、どこの国でにも何割かいるんだからね」
「いやでも、さっきのやつら」
「俺にはあいつらはそれなりに鍛えた集団に見えたがな」
蘭紗様の表情が緊張していた。
「え?」
僕は手に持ったブドウを掴んだままどうしていいかわからず固まった。
「まあちょっと落ち着いて、近衛もいるんだし、私らもいるじゃない」
涼鱗王子は声を潜めて蘭紗様に囁いた。
「ああ」とは言ったが納得しかねる様子の蘭紗様を見て、僕は困った。
「あの……お祭りの様子わかりましたし、目的の新作カップケーキを買ってみんなで帰りましょう!こんな混んでない日にならもっと、安全に街に繰り出せるでしょ?また改めましょうよ、街は今日は混みすぎていて……その危険なのでは……」
3人は悲しそうな顔をして僕を見て同時にため息をついた。
「みやはここにきてから、ほぼどこにも出かけておらぬのだ、これくらいはと思ったのだがな」
「そんなことありませんよ、毎日楽しいですし、湖も行ったじゃないですか」
カチャっと小さい音を立てて、近衛の3人が紅茶のカップを皿においてこちらを見た。
それから緊迫した顔で蘭紗様の方を見た。
僕以外の人たちは何事かに気づいた様子でしばらく周囲を見渡していた。
「出るぞ」
がたりと立った蘭紗様は僕の手をそっと取ると、安心させてくれるように笑みをくれた。
不安だった心が少し楽になる。
「ここから近いのか?例の店」
「ああ、もうすぐそこだ」
涼鱗王子とカジャルさんが先に様子を近衛に見てくるようお願いしている。
一人がひらりと階下に降り、そしてまもなくテラスから一階にいた近衛が店を探して人ごみを歩くのが見えた。
彼らは僕たちの目的の店を見つけたようで、魔石の通信で返事をくれたようだ。
蘭紗様はしっかりと僕の手を握り、その手をもう片方の手でぽんぽんと軽く叩いた。
下に行くと近衛が支払いを城へ回してくれと店主に伝えていて、店主が目を白黒していた。
見ると、この店は立地条件の良さからか人気店なようで、先ほどより更に混んでいて長い列ができていた。
「え、いつの間にこんなに混んでたの?!」
「ああ、ほんとだな」
「人が増えてくる時間だからねえ」
僕はその時、毬を持った5歳ぐらいの幼児に気づいた。
母だろう人に手をひかれ、幼いのにじっと列に並び待っている姿に、ふっと頬がゆるむ。
かわいい男の子だなと思ってじっと見ていると、男の子もこっちを見てきてニコっと笑ってくれたので、僕も微笑み返した。
蘭紗様は僕の手を握って大通りに出ようとしたのだが、すぐ横で赤ちゃんを抱いた若い女性がヨロっと倒れかけるのが見えた。
僕は咄嗟に赤ちゃんが床に落ちないよう腕を差し出した。
蘭紗様も咄嗟にその女の人を支えようとした。
……つまり、僕たちの手が離れてしまったんだ。
瞬間僕の足元に白い文字の羅列が表れ、それが丸く円を描きだし、そして一気に光った。
……あれ?これ魔法陣なの?
などとのん気に思いつつ、だけど足元から上に目線を上げて蘭紗様を見た。
蘭紗様は女の人を助け起こしつつこちらを振り向いたが、次の瞬間必死な形相になり僕の名前を叫んだ。
……んと、叫んだような気がした?
というか声が聞こえない……なぜ?
そしてやけにゆっくりに見える風景、まるでスロー再生にように周りがゆっくりと動くんだ。
そしてあちらからはこちらが見えていないようで、僕は目の前にいるのに、キョロキョロと僕を探している。
蘭紗様の後ろにいた涼鱗王子もカジャルさんも周りを見渡して僕の名を呼んでいるのが口の動きでわかる。
皆の動きがもどかしい、全部なぜかスローに見える。
ああ、だめじゃないの、みやちゃんじゃなくて、「薫」って呼んでるね皆。
せっかく皆で呼び名を決めたのに。
近衛部隊も周りを制圧して、人ごみをかき分けているのが見えたよ、ああ、これ。
……ぼくやっちゃったかな。
たぶん、この魔法陣の中にいるから皆から僕が見えないんだね。
でも、足を動かそうにも張り付いたように動かないし、そもそも指一本だって、そして瞼も動かせず閉じれない。
だからじっと皆を観察した。
スロー再生の光景……必死に僕の名を叫んで探す皆が見えた。
心の中で「蘭紗様」と叫んだ。
その一瞬、ふと蘭紗様と目が合った。
見たことのない恐怖を張り付けた必死な顔で、しっかりと僕の目を見た。
ああ、あなたには僕の心の叫びが聞こえたんだね。
嬉しかった。
そしてこちらに手を伸ばしてくれた。
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