狐の国のお嫁様 ~紗国の愛の物語~

真白 桐羽

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冷酷無残な国2 蘭紗視点

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  その日は朝から爽やかに晴れ気温も上がり、祭りの空気感も手伝い皆が浮足立つ楽しい一日になるはずだった。

「薫っ!!!」

我は何もない空中に手を伸ばし必死な形相で手を伸ばした。
そこに確かに薫がいたのだ。
我には見えた。
消えて行く寸前の呆然と佇む薫が。
足元に魔法陣を光らせ、立ちすくむあの姿が。

しかし我の手は空を切った。

もう少しで手が届くその瞬間姿は消え、我の手はむなしく宙を舞っただけだった。

「か、薫っ!! 薫!!!!くそ!」
「蘭紗! 落ち着け蘭紗」
「離せ涼鱗! 薫! かおる!」

我は瞬間魔力を練り上げそれを放つように手を差し出す。

「ダメだ、ここではだめだ! それを収めろ!蘭紗!!」

涼鱗は我の手を握り込み、そして抱きしめてきた。

「落ち着け、落ち着いてくれ頼むから、ここで魔力を出すな!!……蘭紗!!」

涼蘭が我を抱きしめ、互いの頬がこすれ合うほど密着し我の力を押さえてくる。

「か、薫が、そこにいたんだ……」

涼鱗がハッとして我の顔を見たが泣きそうな顔で苦しそうにするだけだ。
我はその涼鱗の顔を見ていたら、息ができなくなり力が抜けてしまった。

……涼鱗が我を止めなければ、力の限りの魔力を放ってしまっていたかもしれない。

そこには敵の一人もいやしないのに。
いたのはただ、何事が起きたのかもしらぬ我が国民だ。
辺りにいる民衆は近衛の制圧を受け、その場で蒼白な顔で立ち尽くしていた。
腕に抱かれた赤子でさえ、我の威圧を受け固まっていて泣いてもいない。
物音ひとつしない大通り……

恐ろしいことに我は彼らを皆殺しにするところだったのか……。

「……すまぬことした、みな、すまない」

我はその場の皆に謝り、そして涼鱗を見た。

「ありがとう」
「……いや……正気に戻ってよかった、すぐに城に戻り対策を」

我は頷くと、そのまま大通りに出て近衛に魔力の残滓を調べるとともに、怪しげな者を捕縛して連れてこいと命令した。
そして、その場から飛翔し城へ向かった。

少し遅れて涼鱗とカジャルが追いつき飛んでくる。
数人の近衛も連れていた。

行きにはこの腕の中に愛らしい笑顔の薫がいた。
自分の服装を恥ずかしがりつつ薄く化粧された顔で楽しそうに笑った。
そして口付けしたあの唇の柔らかさ。

我は知らずに自分の手をきつく握りしめていた。

空の門に降り立つとともに門兵に二人の将軍の招集命令を出した。
門兵は一瞬逡巡した後、何も言わず走り出した。

さらに奥へぐんぐん進み、侍従長に役職の長を全て集めるよう指示し、薫の部屋に向かう。

薫付きの侍女たちはゆるやかに日常業務をしていたが、我の顔を見てきれいな礼をした。

「薫が……おそらく阿羅国に攫われた。しばらくこの部屋の主はおらぬが、必ず連れて戻るゆえ、きちんと仕事をして待て、いつ帰っても薫がちゃんと休めるように。いいな」

侍女達は蒼白な面持ちで言葉を発せずただ礼をした。

「陛下!」

後から駆けてきたのは喜紗だった。

「何事でしょう!急なお呼び出しを皆にお出しになるなど」
「薫が攫われた」
「は?」

喜紗は目をこぼさんばかりにし、何も言えなくなって立ちすくむ。

「叔父上、手伝いなどではなく、宰相への復帰は正式とする、よいな。今からだ」
「はっ」
「皆が集まったら呼んでくれ」

後から涼鱗とカジャルが到着し、喜紗と並んだ。

「涼鱗、ちょっと来てくれ」
「ああ、わかった」

我は涼鱗だけを執務室に呼んだ。

「お前はこれをどう思う?我が傍にいるのに……あれだけの事ができるものだろうか?我は薄いながらも常に薫を魔力で覆っていたというのに、なぜ的確に薫のみを」

涼鱗はため息をついてソファに座った。

「私が思うに、あのよろけた女人を助けようと……2人が繋いだ手を放したあの瞬間、一瞬だけ隙が生まれたんだと思う……手練れが近くにいたとしか思えない……相当な者でないとあの隙を付くのは不可能だ、周りには近衛も私もいたのに」
「我もそう思うよ……薫の手を離すべきではなかったのだ……」
「私は店に入ってから阿羅国の臭いを感じていた。それはお前にもわかっていただろう?」
「ああ、だが祭りなんだから、城下町ならあれぐらいはと思ったんだがな……どの町にも普通に暮らすあれらはいるんだ……それらがみな間者というわけではないのだし……大抵は取りに足りぬ普通の人だ」

我は一息つくよう侍従長に促され、差し出された茶を一口飲んだ。
何の味もしない液体がのどを伝うのを感じた。
薫がそばにいないだけで、これほど世の中から色が失われるのだな。

「あれは独特なにおいだ。死体の腐りゆく匂いに似ている。……だがな、とくに濃くはなかったぞ、雑踏に少し漂うだけだった。あれほどの術を使うために手練れが近くにいたとするならばもっと濃く匂うはずだ」
「うむ……我もそう思う……でだ、あの魔法陣だが」
「魔法陣?」

涼鱗が顔を上げ、我を食い入るように見つめた。

「ああ、一瞬だけ薫の姿が見えた時に、足元に白い魔法陣が見えた。あの魔法陣はおそらく」

我は指先が震えてくるのを抑えられず、思わず両手を握りしめ、窓の外を見る。
まだまだ日が高い。

……本当ならば、今頃薫と共に祭りを満喫できていたはずであったのに。

「おそらくなんだ?」
「あれは阿羅国の独特の文字だったし、それに……あの魔法陣は」
「ちょっと待て蘭紗……転移されたのは、まあ間違いなかろうが……」
「一気に阿羅国にまで転移されたかもしれないと我は見る」
「……」

涼鱗の赤い目が光った。

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